「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・鈴林録 1
晴奈の話、第504話。
復活しつつある天狐。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
晴奈たちが地下神殿に入って、既に4時間が経過していた。
《ケ……、ケケっ》
狙っていた者2名を手中に納めた天狐は、ほくそ笑んでいた。
《予想通りだったぜ……! この銀髪の短耳と、緑髪の『猫』、相当な魔力を持ってやがった。こいつらをオレの『システムF7』に組み込んで、ちょちょいと魔法陣をいじくれば、あっと言う間にオレ自身の魔力を回復できる!
めんどくさかったぜ、本当に――しなびたジジイやカスみたいな魔力しか持ってない商人やら観光客からチマチマ魔力を奪ってた時は、本気で気が遠くなりそうだったが、……考えてみりゃ、オレもあいつと同じコトをすれば手っ取り早かったんだよな、うんうん。
そう、この『システム』――人間を核にして魔力を溜め込み、術者に送り込む、この大規模な魔法陣。核にするのが普段から高い魔力を秘めた人間であればあるほど、集約される魔力も大きい。
ケケケ……、見てろ、大火! お前がオレを喰い物にした『システム』で、オレは復活してやるからな!》
小鈴はじっと、掌中にある「鈴林」を見つめていた。
(『橘果杖 鈴林』……、橘家が克大火から賜った、神器。そこに込められていた杖の精、レイリンは、……)
考えていくうちに、小鈴の心の中に寒々とした恐れが広がっていく。
(レイリンは、封印された克の弟子が復活したその時、もう一度封印し直す役目を担っていると言った。そして今まさに、その封印された弟子、克天狐が復活しつつある。今が、彼女の出番。
……でも、レイリンはまだ『魔力が足りない』と言ってた。それはつまり、封印し直せる可能性が低いと言うコト。
もし封印できなかったら、レイリンは一体、どうなるの……?)
小鈴の恐れを察したように、「鈴林」がちりり……、と震えるように鳴った。
「……ふぅ」
トゲ虎が倒れるのを確認し、トマスはその場にへたり込んだ。
「死んだ?」
「見ての通りだ」
晴奈は刀に付いた血を拭いながら、倒れた虎をあごで指し示す。
「よ、良かった……」
「何が良いものか。お主、終始柱の影で震えていただけではないか」
「あ、ゴメン。でも、僕じゃどうしようもないし……」
「……はぁ。それでも男か?」
ため息をつく晴奈を見て、トマスはしゅんとする。
「……そうだよね。本当に僕は、情けない奴だ」
「ん……、まあ、そう落ち込まずとも」
晴奈がなだめようとしたが、トマスの自嘲は止まらない。
「ううん、本当にそうだもの。こんな僕じゃ、誰からも好かれないさ。きっと一生独身だよ」
「……一々、お主は考えが遠くへ飛ぶな」
晴奈は呆れ、トマスの眼鏡をひょいと取り上げた。
「あっ」
「確かにお主は頭がいい。が、良すぎて一人よがりに考えが進み、他人がまだ至ってもいないところに考えが飛び、結果、他人との間に溝ができるのだ。それだから、無神経だの何だの言われる羽目になる。
少しはその場で立ち止まれ。私や他のみんなを置いていくな」
「……うん。気を付けておくよ」
トマスは返してもらった眼鏡をかけながら、小さくうなずいた。
と――。
「そこに……いるのは」
ネロの声がする。晴奈とトマスは立ち上がり、急いで声のした方角へ進む。
「ネロ!」
声の聞こえてきた部屋の中央に、ネロが倒れていた。
「やっぱり、君たちか……」
ネロの服は焦げ、煙を上げていた。少し離れたところには、同様に煙を上げるフェリオが倒れている。
「どうしたんだ、一体?」
「テンコが……、現れた……」
「テンコ? この神殿に封印されていると言う、そのテンコか?」
「そうだ……。あいつは、ジーナをさらって……、どこかに消えてしまった。僕らは……、用無しらしい……」
晴奈はトマスに目配せして、フェリオを引っ張ってくるよう指示した。
「用無し? ジーナに用があったと言うのか、そのテンコは」
「そうだ……。テンコは、魔力を集めていたんだ。でも……、単純に吸うだけじゃないらしい。その、魔力を持つ人間を核にして……、さらなる魔力を集めるつもりなんだ」
「魔力を? 一体、何のために」
「恐らく……、封印を解くためだ。自分自身の……」
それだけ言って、ネロは気を失ってしまった。
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復活しつつある天狐。
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晴奈たちが地下神殿に入って、既に4時間が経過していた。
《ケ……、ケケっ》
狙っていた者2名を手中に納めた天狐は、ほくそ笑んでいた。
《予想通りだったぜ……! この銀髪の短耳と、緑髪の『猫』、相当な魔力を持ってやがった。こいつらをオレの『システムF7』に組み込んで、ちょちょいと魔法陣をいじくれば、あっと言う間にオレ自身の魔力を回復できる!
めんどくさかったぜ、本当に――しなびたジジイやカスみたいな魔力しか持ってない商人やら観光客からチマチマ魔力を奪ってた時は、本気で気が遠くなりそうだったが、……考えてみりゃ、オレもあいつと同じコトをすれば手っ取り早かったんだよな、うんうん。
そう、この『システム』――人間を核にして魔力を溜め込み、術者に送り込む、この大規模な魔法陣。核にするのが普段から高い魔力を秘めた人間であればあるほど、集約される魔力も大きい。
ケケケ……、見てろ、大火! お前がオレを喰い物にした『システム』で、オレは復活してやるからな!》
小鈴はじっと、掌中にある「鈴林」を見つめていた。
(『橘果杖 鈴林』……、橘家が克大火から賜った、神器。そこに込められていた杖の精、レイリンは、……)
考えていくうちに、小鈴の心の中に寒々とした恐れが広がっていく。
(レイリンは、封印された克の弟子が復活したその時、もう一度封印し直す役目を担っていると言った。そして今まさに、その封印された弟子、克天狐が復活しつつある。今が、彼女の出番。
……でも、レイリンはまだ『魔力が足りない』と言ってた。それはつまり、封印し直せる可能性が低いと言うコト。
もし封印できなかったら、レイリンは一体、どうなるの……?)
小鈴の恐れを察したように、「鈴林」がちりり……、と震えるように鳴った。
「……ふぅ」
トゲ虎が倒れるのを確認し、トマスはその場にへたり込んだ。
「死んだ?」
「見ての通りだ」
晴奈は刀に付いた血を拭いながら、倒れた虎をあごで指し示す。
「よ、良かった……」
「何が良いものか。お主、終始柱の影で震えていただけではないか」
「あ、ゴメン。でも、僕じゃどうしようもないし……」
「……はぁ。それでも男か?」
ため息をつく晴奈を見て、トマスはしゅんとする。
「……そうだよね。本当に僕は、情けない奴だ」
「ん……、まあ、そう落ち込まずとも」
晴奈がなだめようとしたが、トマスの自嘲は止まらない。
「ううん、本当にそうだもの。こんな僕じゃ、誰からも好かれないさ。きっと一生独身だよ」
「……一々、お主は考えが遠くへ飛ぶな」
晴奈は呆れ、トマスの眼鏡をひょいと取り上げた。
「あっ」
「確かにお主は頭がいい。が、良すぎて一人よがりに考えが進み、他人がまだ至ってもいないところに考えが飛び、結果、他人との間に溝ができるのだ。それだから、無神経だの何だの言われる羽目になる。
少しはその場で立ち止まれ。私や他のみんなを置いていくな」
「……うん。気を付けておくよ」
トマスは返してもらった眼鏡をかけながら、小さくうなずいた。
と――。
「そこに……いるのは」
ネロの声がする。晴奈とトマスは立ち上がり、急いで声のした方角へ進む。
「ネロ!」
声の聞こえてきた部屋の中央に、ネロが倒れていた。
「やっぱり、君たちか……」
ネロの服は焦げ、煙を上げていた。少し離れたところには、同様に煙を上げるフェリオが倒れている。
「どうしたんだ、一体?」
「テンコが……、現れた……」
「テンコ? この神殿に封印されていると言う、そのテンコか?」
「そうだ……。あいつは、ジーナをさらって……、どこかに消えてしまった。僕らは……、用無しらしい……」
晴奈はトマスに目配せして、フェリオを引っ張ってくるよう指示した。
「用無し? ジーナに用があったと言うのか、そのテンコは」
「そうだ……。テンコは、魔力を集めていたんだ。でも……、単純に吸うだけじゃないらしい。その、魔力を持つ人間を核にして……、さらなる魔力を集めるつもりなんだ」
「魔力を? 一体、何のために」
「恐らく……、封印を解くためだ。自分自身の……」
それだけ言って、ネロは気を失ってしまった。



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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
封印を解くための手順は二つに分けられるのですかね。
封印を解くぐらいの膨大な魔力を必要とするのか。
術者そのものを倒すか。
・・・ん。しかし、術者そのもの倒しても
封印が解けない場合もありますよね。。。
やっぱり、手っ取り早いのは
封印を破るだけの魔力なのですね。
勉強になります。
ようやく出張から帰ってきました。
またよろしくお願いします。
(*^-^*)
封印を解くぐらいの膨大な魔力を必要とするのか。
術者そのものを倒すか。
・・・ん。しかし、術者そのもの倒しても
封印が解けない場合もありますよね。。。
やっぱり、手っ取り早いのは
封印を破るだけの魔力なのですね。
勉強になります。
ようやく出張から帰ってきました。
またよろしくお願いします。
(*^-^*)
- #1916 LandM
- URL
- 2014.06/15 13:31
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NoTitle
鍵さえかければ、あるいは鍵さえ手に入れれば、
本来の持ち主がどうなろうと……。
「封印を解くために膨大な魔力を~」と言うのは、
鍵穴に爆薬を埋め込んで爆発させるようなものです。
鍵を探したり複製したりするより、確かに手っ取り早い。
おかえりなさい。出張、お疲れ様でした。
こちらこそ、またよろしくお願いします。