「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・鈴林録 2
晴奈の話、第505話。
女の子二人でも、姦しい。
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2.
ネロとフェリオのケガは、見た目よりもひどくは無かった。だが電撃によるショックのためか、意識は朦朧としているようだ。
「う……う……」
フェリオは発見してからずっと、目を覚まさない。ネロも、半ばうわごとのように何かをつぶやくばかりだ。
「逆説的に……テンコは……可能性はある……」
「何を言っているんだ?」
「さあ……?」
つぶやきに耳を傾けてみたが、途切れ途切れのため、さっぱり意味が分からない。
「ともかくここに放っておいては、さっきの虎たちの餌食になる。
フォルナと小鈴が治療術を使えたはずだ。早い所、合流しなければ」
「はっ……、はっ……」
「早く、早く……!」
エルスが天狐に連れ去られ、残された明奈とフォルナは神殿の中を逃げ回っていた。
持っていた散弾銃の弾も残り少なく、時折近寄って来るトゲ虎を拳銃で威嚇しながら、当ても無くさまよっている状態だった。
「……追ってこないみたいです、フォルナさん」
「そ、そう、ですか。……どこかで、休みましょう」
どうにか虎を振り切った二人は、近くの部屋に逃げ込んだ。
「はぁ、はぁ……」
「それにしてもエルスさんは、どちらへ連れて行かれてしまったのでしょう?」
「分からないですね……。それよりも、フォルナさん。一刻も早く、他の皆さんと合流しなければ、わたしたちの身が危ないと思います。今、どの辺りか分かりますか?」
「ちょっと待ってください、……あちこち走ったせいで確実にここ、とは申せないかも知れませんけれど」
持っていた地図を広げ、二人で検討するが、フォルナの言った通り、正確な現在地はつかめなかった。
「どうしましょう? このままここで助けを待つか、それとも探しに行くか」
「待つと言うのは、得策では無いと思いますわ。備蓄があってこそ篭城ができるわけですし、装備に乏しいわたくしたちだけでは、いずれ力尽きてしまうでしょうね」
「それじゃ、お姉さまやジュリアさんたちを探しに向かった方がいいでしょうね」
「そういたしましょう。……でも、少し休憩してから、の方が」
「そうですね。あちこち走り回って、疲れてしまいましたし……」
そこで一旦、二人の会話が途切れた。
「……あの、フォルナさん」
沈黙を先に破ったのは、明奈だった。
「何でしょう?」
「こんな時にこんな突拍子も無い話をして、何なんですけれども」
「……?」
「お姉さまがエルスさんに告白されたと言うお話、わたしにはどうも納得行きません」
「と、言うと?」
確かに危険と隣り合わせの、この状況でするような話では無いのだが、互いに姉と慕う晴奈の話になり、フォルナは聞き入った。
「エルスさんは確かに好色で、姉と初めて出会った時には口説いていましたけど、それでもその後の付き合いは親しい友人、と言う感じでした。
その数年、まったくエルスさんには、そう言う、恋愛をほのめかすような気配は感じられませんでしたし、実際のところ、エルスさんはお姉さまをからかったのではないか、と」
「お姉さまも、なびいたご様子はございませんでしたものね」
「ええ。……そもそも、お姉さまはエルスさんみたいな、『一人で何でもできる』と言う性格の方には惹かれない気がします。
もっと、何と言うか……『手のかかる』と言うか、『放っておけない』と言うか……」
「妹キャラ、弟キャラの方に惹かれる、と?」
「……そう、そう!」
言いたいことが伝わり、明奈はにっこり微笑んでフォルナの手をつかんだ。フォルナも笑いながら、明奈の考えにうなずく。
「お姉さまですもの。あの人は、そう言う性分の方に惹かれると思いますわ。そう、どちらかと言えばあのエルフの方みたいな……」
「そう、ナイジェルさんみたいな……」
「うんうん」
意見が一致し、二人は姦(かしま)しく騒いでいた。
「……わたくしとメイナさんって、似ておりますわね」
「そうです、……ね。やっぱり、どちらも長いことお姉さまの側にいたからかしら」
「きっと、そうですわ。ねえ、この任務が終わったら、ゆっくりお話致しましょう?」
「ええ、是非。もっとじっくり、話がして……」
明奈が顔をほころばせかけた、その時だった。
急に、フォルナの顔がこわばる。
「……伏せてッ!」
「え、……ッ!」
事態を察知し、明奈は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
間髪入れず、フォルナが手にしていた散弾銃が火を噴く。
「ギャアア!」
先程から二人を執拗に追いかけていた、あのトゲ虎だった。しかしフォルナの先制攻撃が見事に眉間を撃ち抜き、その首は一瞬で消えた。
「……見ない方がよろしいですわ」
「いえ……、大丈夫です。もっとひどいもの、見たことがありますから」
「そう、ですか」
まだ安心はできないと、二人は目で確認しあった。
「……銃声だ。多分あれは」
「『ファイアスターター・タイプPS1』、公安局御用達の散弾銃の音ね。フェリオ君か、もしくは」
「フォルナ?」
「ええ」
銃声を聞きつけ、小鈴たちはその方向へと走り出した。だが――。
「……っ」
前方に、黒装束の「狐」が立っていた。
「ケッケッケ……、そこのテメー。オレに対して敵意剥き出しとは、いい度胸じゃねーか」
九尾の狐獣人は、びしりと小鈴を指差した。
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女の子二人でも、姦しい。
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2.
ネロとフェリオのケガは、見た目よりもひどくは無かった。だが電撃によるショックのためか、意識は朦朧としているようだ。
「う……う……」
フェリオは発見してからずっと、目を覚まさない。ネロも、半ばうわごとのように何かをつぶやくばかりだ。
「逆説的に……テンコは……可能性はある……」
「何を言っているんだ?」
「さあ……?」
つぶやきに耳を傾けてみたが、途切れ途切れのため、さっぱり意味が分からない。
「ともかくここに放っておいては、さっきの虎たちの餌食になる。
フォルナと小鈴が治療術を使えたはずだ。早い所、合流しなければ」
「はっ……、はっ……」
「早く、早く……!」
エルスが天狐に連れ去られ、残された明奈とフォルナは神殿の中を逃げ回っていた。
持っていた散弾銃の弾も残り少なく、時折近寄って来るトゲ虎を拳銃で威嚇しながら、当ても無くさまよっている状態だった。
「……追ってこないみたいです、フォルナさん」
「そ、そう、ですか。……どこかで、休みましょう」
どうにか虎を振り切った二人は、近くの部屋に逃げ込んだ。
「はぁ、はぁ……」
「それにしてもエルスさんは、どちらへ連れて行かれてしまったのでしょう?」
「分からないですね……。それよりも、フォルナさん。一刻も早く、他の皆さんと合流しなければ、わたしたちの身が危ないと思います。今、どの辺りか分かりますか?」
「ちょっと待ってください、……あちこち走ったせいで確実にここ、とは申せないかも知れませんけれど」
持っていた地図を広げ、二人で検討するが、フォルナの言った通り、正確な現在地はつかめなかった。
「どうしましょう? このままここで助けを待つか、それとも探しに行くか」
「待つと言うのは、得策では無いと思いますわ。備蓄があってこそ篭城ができるわけですし、装備に乏しいわたくしたちだけでは、いずれ力尽きてしまうでしょうね」
「それじゃ、お姉さまやジュリアさんたちを探しに向かった方がいいでしょうね」
「そういたしましょう。……でも、少し休憩してから、の方が」
「そうですね。あちこち走り回って、疲れてしまいましたし……」
そこで一旦、二人の会話が途切れた。
「……あの、フォルナさん」
沈黙を先に破ったのは、明奈だった。
「何でしょう?」
「こんな時にこんな突拍子も無い話をして、何なんですけれども」
「……?」
「お姉さまがエルスさんに告白されたと言うお話、わたしにはどうも納得行きません」
「と、言うと?」
確かに危険と隣り合わせの、この状況でするような話では無いのだが、互いに姉と慕う晴奈の話になり、フォルナは聞き入った。
「エルスさんは確かに好色で、姉と初めて出会った時には口説いていましたけど、それでもその後の付き合いは親しい友人、と言う感じでした。
その数年、まったくエルスさんには、そう言う、恋愛をほのめかすような気配は感じられませんでしたし、実際のところ、エルスさんはお姉さまをからかったのではないか、と」
「お姉さまも、なびいたご様子はございませんでしたものね」
「ええ。……そもそも、お姉さまはエルスさんみたいな、『一人で何でもできる』と言う性格の方には惹かれない気がします。
もっと、何と言うか……『手のかかる』と言うか、『放っておけない』と言うか……」
「妹キャラ、弟キャラの方に惹かれる、と?」
「……そう、そう!」
言いたいことが伝わり、明奈はにっこり微笑んでフォルナの手をつかんだ。フォルナも笑いながら、明奈の考えにうなずく。
「お姉さまですもの。あの人は、そう言う性分の方に惹かれると思いますわ。そう、どちらかと言えばあのエルフの方みたいな……」
「そう、ナイジェルさんみたいな……」
「うんうん」
意見が一致し、二人は姦(かしま)しく騒いでいた。
「……わたくしとメイナさんって、似ておりますわね」
「そうです、……ね。やっぱり、どちらも長いことお姉さまの側にいたからかしら」
「きっと、そうですわ。ねえ、この任務が終わったら、ゆっくりお話致しましょう?」
「ええ、是非。もっとじっくり、話がして……」
明奈が顔をほころばせかけた、その時だった。
急に、フォルナの顔がこわばる。
「……伏せてッ!」
「え、……ッ!」
事態を察知し、明奈は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
間髪入れず、フォルナが手にしていた散弾銃が火を噴く。
「ギャアア!」
先程から二人を執拗に追いかけていた、あのトゲ虎だった。しかしフォルナの先制攻撃が見事に眉間を撃ち抜き、その首は一瞬で消えた。
「……見ない方がよろしいですわ」
「いえ……、大丈夫です。もっとひどいもの、見たことがありますから」
「そう、ですか」
まだ安心はできないと、二人は目で確認しあった。
「……銃声だ。多分あれは」
「『ファイアスターター・タイプPS1』、公安局御用達の散弾銃の音ね。フェリオ君か、もしくは」
「フォルナ?」
「ええ」
銃声を聞きつけ、小鈴たちはその方向へと走り出した。だが――。
「……っ」
前方に、黒装束の「狐」が立っていた。
「ケッケッケ……、そこのテメー。オレに対して敵意剥き出しとは、いい度胸じゃねーか」
九尾の狐獣人は、びしりと小鈴を指差した。



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~ Comment ~
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武器や備蓄に乏しいと籠城も悲惨なことになりますからね。
ごもっともなご意見ですね。
そういうこともあまり考えていないのが私こと才条 蓮だな~~とよくよく思います。
ごもっともなご意見ですね。
そういうこともあまり考えていないのが私こと才条 蓮だな~~とよくよく思います。
- #1918 LandM
- URL
- 2014.06/19 07:31
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傍から見れば、「そこまで気にしなくていいのに」と思われてそうですが。