「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・鈴林録 3
晴奈の話、第506話。
ドS小鈴、覚醒。
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3.
「……じゃなきゃ……僕らを……分断……」
依然、ネロの意識は回復しない。ずっと、何かをうめき続けている。
「何を言いたいのだろうか……?」
「……」
晴奈の問いに、トマスは答えない。
「逆説的とか、方法論とか、わけの分からぬことをうなり続けているが、まさか錯乱したのでは」「……黙って」
珍しく、トマスの方から晴奈を制した。
「む……」
素直に、晴奈は黙る。
そのうちに、トマスの考えがまとまったらしい。トマスは小さく「ゴメンね」と前置きし、考えを話し始めた。
「ネロの意識は確かに混濁している。しているからこそ、無意識下でその混濁を落ち着かせようと、『分析』しているんだと思う」
「分析を?」
「活字中毒者は食事中、意味無く卓上の瓶や皿に書かれた文章をぼんやりと読んでいる。兵士や傭兵は休暇中でも、刃物を無意識に研いでいたりする。作家や詩人、画家のそれは、メモ帳にでたらめな文章や絵を描くことに相当する」
「は……?」
トマスの説明が思いもよらない方向に飛び、晴奈は面食らった。
「何を言いたい?」
「何かに習熟・熟練した人は、休んでいる時でもついつい、その熟練した作業を行ってしまうと言うことさ。逆に言えば、普段から慣れた作業をすることで、落ち着きを取り戻すと言うことでもある。
戦略家のネロだったら、何をすれば一番落ち着くだろうか? 無論、戦略・戦術的に今、自分たちが置かれている状況を分析すること、だろう」
「……ふむ」
もっともらしく聞こえたので、晴奈は異を唱えずにトマスの意見を聞くことにした。
「では今、ネロが何かをつぶやいているのは、この状況を合理的に説明しようと思考を巡らせているからだ、と?」
「そうなる、……かも。何度か聞いた感じでは、何となく彼の言いたいことが分かってきた、気がする」
「ほう?」
天狐はじりじりと、小鈴との距離を詰めていく。
「逃げんのか? 人にケンカ売っといて、よぉ?」
「……っ」
天狐の言う通り、小鈴は無意識のうちに後ずさっていた。
「あたしが、アンタにケンカを? 何のコトよ」
口では強がって見せたが、脚は小刻みに震えている。
「とぼけんじゃねえよ。さっきから、その杖がオレのコトを封じよう、封じようとにらんできてんだよ。持ち主サマなら、抑えるくらいしたらどーなんだ? あ?」
天狐の威圧的な態度と恐ろしげな雰囲気に、普段は強気な小鈴も圧されている。
「そ……、の」
「ハッキリしろや、お!? ナメてたら承知しねーぞ、このデカ乳!」
が、天狐のこの一言で、小鈴の中でスイッチが切り替わった。
「……あ?」
「なんだ、コラ? やっぱケンカ売ってんのか、その目はよ!?」
「……どんな怪物が出るかと思ったけどさー」
小鈴の意識が、守りから攻めへと完全に換わる。
「やっすいケンカ売ってくるクソガキとは思わなかったわねぇ」
「ク、ソ、ガキ……っ?」
天狐の額に、青筋が浮き出る。表情の変化を見て、小鈴はさらに言葉で攻める。
「良く見たらアンタ、顔以外で女って分かんないしー」
「んな、……何をッ!?」
小鈴は大きな胸を反らし、「鈴林」で天狐の体を指し示す。
「くびれもないし、ムネもオシリもちっちゃいし、顔も化粧してなかったら、ホント狐みたいな吊り目のケモノ顔でしょうねえ! あ、まさかアンタ、コンプレックスであたしに因縁付けてきた?」
「……こ……の……っ」
天狐の九尾が、バチバチと静電気を帯びて毛羽立っていく。
「あーら図星? 図星なの? ねぇねぇ図星? ねぇってばーあ?」
「……死ねッ、ババア!」
天狐は怒声を上げ、電撃を放ってきた。
「どっちがババアよ、アンタ何百年もココに沈んでたクセして! 『スプラッシュパイク』!」
小鈴は「鈴林」を床にガン、と音を響かせて立たせ、術を唱えた。
先程、天狐がジーナを叩いた時と同様に壁から水が噴き出し、水の槍を形成して天狐の電撃を飲み込み、そのまま直撃した。
「グ、ギャ……ッ」
「あーら、アンタお馬鹿さーん? 雷の術は水の術に弱いって、お師匠さんの克大火御大からちゃあああんと習わなかったのー?」
「テ、メ、エ……!」
天狐は槍の直撃を受け、のけぞりながらも、倒れない。なおも怒りの声を吐き出しつつ、魔術を放つ。
「殺す! ぜってー殺すぞッ! 『ナインアームドスラッシャー』!」
天狐の尻尾がバチバチと毛羽立ち、続いて床や壁、天井が変形して剣の形を帯びていく。
「細切れのサイコロにしてやらああああッ!」
形成された九振りの剣が、小鈴へと向かって飛んで行く。
「そうはさせっかよ! 『スパークウィップ』!」
が、バートの魔術で石の剣はただの砂へと化す。
「邪魔するな、狐野郎がッ!」
「てめーもじゃねーか、奇形!」
「今よ、畳み掛けましょう!」
バートとジュリアも小鈴の勢いに乗じようと、散弾銃を立て続けに撃ち込んだ。
怒りで頭に血が昇った天狐の防御は、決定的に遅れを見せる。
「ガ、ハ……ッ」
天狐の胸や腹、顔に、散弾の細かい銃創がビシビシと刻み込まれた。
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ドS小鈴、覚醒。
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「……じゃなきゃ……僕らを……分断……」
依然、ネロの意識は回復しない。ずっと、何かをうめき続けている。
「何を言いたいのだろうか……?」
「……」
晴奈の問いに、トマスは答えない。
「逆説的とか、方法論とか、わけの分からぬことをうなり続けているが、まさか錯乱したのでは」「……黙って」
珍しく、トマスの方から晴奈を制した。
「む……」
素直に、晴奈は黙る。
そのうちに、トマスの考えがまとまったらしい。トマスは小さく「ゴメンね」と前置きし、考えを話し始めた。
「ネロの意識は確かに混濁している。しているからこそ、無意識下でその混濁を落ち着かせようと、『分析』しているんだと思う」
「分析を?」
「活字中毒者は食事中、意味無く卓上の瓶や皿に書かれた文章をぼんやりと読んでいる。兵士や傭兵は休暇中でも、刃物を無意識に研いでいたりする。作家や詩人、画家のそれは、メモ帳にでたらめな文章や絵を描くことに相当する」
「は……?」
トマスの説明が思いもよらない方向に飛び、晴奈は面食らった。
「何を言いたい?」
「何かに習熟・熟練した人は、休んでいる時でもついつい、その熟練した作業を行ってしまうと言うことさ。逆に言えば、普段から慣れた作業をすることで、落ち着きを取り戻すと言うことでもある。
戦略家のネロだったら、何をすれば一番落ち着くだろうか? 無論、戦略・戦術的に今、自分たちが置かれている状況を分析すること、だろう」
「……ふむ」
もっともらしく聞こえたので、晴奈は異を唱えずにトマスの意見を聞くことにした。
「では今、ネロが何かをつぶやいているのは、この状況を合理的に説明しようと思考を巡らせているからだ、と?」
「そうなる、……かも。何度か聞いた感じでは、何となく彼の言いたいことが分かってきた、気がする」
「ほう?」
天狐はじりじりと、小鈴との距離を詰めていく。
「逃げんのか? 人にケンカ売っといて、よぉ?」
「……っ」
天狐の言う通り、小鈴は無意識のうちに後ずさっていた。
「あたしが、アンタにケンカを? 何のコトよ」
口では強がって見せたが、脚は小刻みに震えている。
「とぼけんじゃねえよ。さっきから、その杖がオレのコトを封じよう、封じようとにらんできてんだよ。持ち主サマなら、抑えるくらいしたらどーなんだ? あ?」
天狐の威圧的な態度と恐ろしげな雰囲気に、普段は強気な小鈴も圧されている。
「そ……、の」
「ハッキリしろや、お!? ナメてたら承知しねーぞ、このデカ乳!」
が、天狐のこの一言で、小鈴の中でスイッチが切り替わった。
「……あ?」
「なんだ、コラ? やっぱケンカ売ってんのか、その目はよ!?」
「……どんな怪物が出るかと思ったけどさー」
小鈴の意識が、守りから攻めへと完全に換わる。
「やっすいケンカ売ってくるクソガキとは思わなかったわねぇ」
「ク、ソ、ガキ……っ?」
天狐の額に、青筋が浮き出る。表情の変化を見て、小鈴はさらに言葉で攻める。
「良く見たらアンタ、顔以外で女って分かんないしー」
「んな、……何をッ!?」
小鈴は大きな胸を反らし、「鈴林」で天狐の体を指し示す。
「くびれもないし、ムネもオシリもちっちゃいし、顔も化粧してなかったら、ホント狐みたいな吊り目のケモノ顔でしょうねえ! あ、まさかアンタ、コンプレックスであたしに因縁付けてきた?」
「……こ……の……っ」
天狐の九尾が、バチバチと静電気を帯びて毛羽立っていく。
「あーら図星? 図星なの? ねぇねぇ図星? ねぇってばーあ?」
「……死ねッ、ババア!」
天狐は怒声を上げ、電撃を放ってきた。
「どっちがババアよ、アンタ何百年もココに沈んでたクセして! 『スプラッシュパイク』!」
小鈴は「鈴林」を床にガン、と音を響かせて立たせ、術を唱えた。
先程、天狐がジーナを叩いた時と同様に壁から水が噴き出し、水の槍を形成して天狐の電撃を飲み込み、そのまま直撃した。
「グ、ギャ……ッ」
「あーら、アンタお馬鹿さーん? 雷の術は水の術に弱いって、お師匠さんの克大火御大からちゃあああんと習わなかったのー?」
「テ、メ、エ……!」
天狐は槍の直撃を受け、のけぞりながらも、倒れない。なおも怒りの声を吐き出しつつ、魔術を放つ。
「殺す! ぜってー殺すぞッ! 『ナインアームドスラッシャー』!」
天狐の尻尾がバチバチと毛羽立ち、続いて床や壁、天井が変形して剣の形を帯びていく。
「細切れのサイコロにしてやらああああッ!」
形成された九振りの剣が、小鈴へと向かって飛んで行く。
「そうはさせっかよ! 『スパークウィップ』!」
が、バートの魔術で石の剣はただの砂へと化す。
「邪魔するな、狐野郎がッ!」
「てめーもじゃねーか、奇形!」
「今よ、畳み掛けましょう!」
バートとジュリアも小鈴の勢いに乗じようと、散弾銃を立て続けに撃ち込んだ。
怒りで頭に血が昇った天狐の防御は、決定的に遅れを見せる。
「ガ、ハ……ッ」
天狐の胸や腹、顔に、散弾の細かい銃創がビシビシと刻み込まれた。
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癇に障る話し方シリーズ。
相手が十分知ってることを――特にその道で経験豊富な人に対して――偉そうに、かつ、バカにしつつ説明する。
これもかなりカチンと来るはず。
小鈴は確信犯的にやってます。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2016.11.20 修正
癇に障る話し方シリーズ。
相手が十分知ってることを――特にその道で経験豊富な人に対して――偉そうに、かつ、バカにしつつ説明する。
これもかなりカチンと来るはず。
小鈴は確信犯的にやってます。
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2016.11.20 修正



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今日の旅岡さん

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安価な挑発にのってくるのは強者でもあることですからね。
そのあたりは自信と紙一重な部分はありますね。
強者であればあるほどプライドは高いでしょうし。
まあ、自惚れもあるのかもしれませんが。
そのあたりは自信と紙一重な部分はありますね。
強者であればあるほどプライドは高いでしょうし。
まあ、自惚れもあるのかもしれませんが。
- #1920 LandM
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- 2014.06/21 20:03
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挑発にひょいひょい乗ってきます、皆さん。