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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第8部

    蒼天剣・鈴林録 4

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    晴奈の話、第507話。
    イケイケ攻勢。

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    4.
    「恐らくは、ネロはこう言いたいと思うんだ」
     トマスは――自信なさげな口調ながらも――自分の仮説を晴奈に聞かせた。
    「何故わざわざ、僕たち11人を分断したのか? 本当に、誰も敵わないような敵だと仮定した場合――例えば、タイカ・カツミをモデルとして――そんな、自分から手間を増やすようなことを、わざわざする理由が無い」
    「なるほど。確かに黒炎殿であったならば、11人を一気に潰す方を選ぶだろうな」
     うなずく晴奈を見て、トマスは自分の説に自信を持った。
    「だろ? 逆に考えれば、11人を小分けにしないと相手ができない、ってことさ。
     僕らの消え方を考えると、恐らく2~3人ずつのグループに分かれたはずだ。つまり、テンコは一度に2人、3人相手が限界と言うことになる。
     そこからもっと突き詰めて考えれば、テンコの実力は――魔力や魔術知識だけじゃなく、経験とか戦闘技術とかもひっくるめての、総合的な実力は――実は、セイナやリロイと、そう変わりないんじゃないだろうか?
     もしそうなら、僕らが集まれるだけ集まり、テンコを囲んで攻撃すれば、容易に倒し得る可能性は十分にある」



    「ハッ……ハッ……」
     勢いに乗り、戦いの主導権を握った小鈴たちの猛攻により、天狐は一目で劣勢と分かるほどに深いダメージを負っていた。
     顔に空いた数個の点からはボタボタと血が流れ、また、黒装束も袖や裾が破け、そこからも血が滴っていた。
    (幽霊みたいなもんだと思ってたけど、血も出んのね)
     小鈴は妙なところに目を付けつつも、依然攻撃の手を緩めない。
    「ホラ、へたるには早いわよ!? 『アシッドレイン』!」
     先程放った水の槍が弾けてできた各所の水溜りが、赤黒く濁っていく。そこからぼんやりと霞や霧じみたものが発生し、天井へと上っていく。
    「う、う……ッ」
     天狐の頭上に溜まった霧は雲になり、そこからパラパラと雨が降り出した。
    「う、あ……ッ! あつ、熱い……ッ」
     強酸性の赤い雨が、天狐の体全体に降り注ぐ。傷口にも深く染み込み、天狐は悶え苦しんでいる。
    「や、やめろ、くそ、あっ、う、熱、あつい、よ……っ」
     とうとう立っていられなくなったのか、天狐は膝を付いた。
    「やった……、か!?」
     バートとジュリアは散弾銃を構えつつ、天狐との距離を詰める。小鈴も「鈴林」を構えながら、注意深く天狐に近付いていった。
    (レイリン、どうなの? もう、封印とかできそう?)
     小鈴は心の中で、「鈴林」に問いかける。だが、返事は返ってこない。
    (まだ?)
     すると今度は、ちり……、と鳴り出した。
    「……まだ油断しないで! ダメ押しでもう一発、撃ち込むわ!」
    「おう!」「分かったわ」
     小鈴の指示を受け、ジュリアたちはもう一度距離を取った。
    「とどめよ! 『グレイブファング』!」
     小鈴と「鈴林」の前方に、図太い石の槍が形成される。
    「撃ち抜けえーッ!」
     放たれた石の槍はうなりを上げて飛んで行き――。
    「うぐ、……ッ、……」
     前屈みになった天狐の、背中から下腹部にかけてを貫いた。



    「……む」
     わずかに聞こえた足音に反応し、晴奈が立ち上がった。
    「どうしたの?」
    「誰かが、こちらに近付いてくる」
    「え……」
     晴奈は「蒼天」を抜き、警戒しつつ音のした方角へ足を進める。
    「トマス、お主はそこにいろ」
    「分かった」
     と、足音がはっきりと分かる程度に響き、誰かがすぐ側までやってきているのがトマスにも分かった。
    「……うん?」
     その足音は、やけに軽い。どうやら、女性が二人で走っているようだ。そして、それを追うように、ずしずしと重たく機動性のある足音も聞こえてくる。
    「追われている……。行ってくる!」
    「う、うん」
     晴奈は部屋を抜け、柱の並ぶ廊下を走る。すぐに、足音の正体は判明した。
    「明奈! フォルナ!」
    「お姉さま!」「助けてください!」
     明奈たちが、あのトゲ虎に追われている。晴奈は構えながら、二人に叫んだ。
    「端に寄れ! 壁に張り付いていろ!」
    「は、はい!」
     言われた通りに、明奈とフォルナは左右に分かれ、壁に張り付く。
    「グル、ル……」
     追っていたトゲ虎は二手に分かれた獲物のどちらを狩ろうかと、足を止める。
    「『火射』!」
     そこですかさず、晴奈が剣閃を飛ばす。飛んで行った「燃える剣閃」はトゲ虎に吠えさせる間も与えず、首を切り落とした。
     晴奈は刀を納め、避けていた二人に声をかける。
    「……ふう。大丈夫だったか、明奈、フォルナ?」
    「ありがとうございます、お姉さま」
    「おかげで、助かりました」
     妹二人が側に寄り、それぞれ晴奈の右手と左手を握り締めてきた。
    「飛ばされたのは、お主たちだけか?」
    「いえ、エルスさんも一緒、……だったのですけれど」
    「エルスが……?」
     二人の沈んだ表情に、晴奈は嫌な予感を覚えた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    強い敵を如何にして弱くするか。
    確かに、戦いにおいて重要なポイントですね。

    NoTitle 

    分断させるのは戦の妙ですからね。
    どれだけ分断させるか、どれだけ密集させて罠を仕掛けるか。
    戦国時代はでその妙が戦争の采配を変えていましたからね。
    ・・・考えさせる戦いです。
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