「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・鈴林録 5
晴奈の話、第508話。
逆転敗北。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「……終わった、わね」
屈強な男性の脚ほどもある石の槍を背中から突き立てられ、天狐はピクリとも動かない。
「ええ……」
小鈴はもう一度、心の中でレイリンに呼びかける。
(レイリン、コレで封印できたの?)
が、杖は応えない。いや、また小鈴の手から、杖がなくなっている。
「……!」
いつの間にか、天狐のすぐ前にレイリンが立っていた。
「天狐の姉(あね)さん」
「……」
「あなたを、再封印します。それがお師匠から、アタシに与えられた仕事だから」
「……」
レイリンの周りに、ぼんやりと青白い光が集まってくる。
「本当は、もっとお話してみたかったけど……」
「……」
青白い光が、天狐に伝わっていく。
「アタシは克大火の弟子って言っても、お師匠様の詳しいコトは何も知らないの……。だからちょっと、姉さんと話してみたかった」
「……」
レイリンはふっと、寂しそうな顔を見せた。
その時だった。
「……オレから話すコトは何もねえ、お前なんか知ったコトか」
「!?」
天狐を貫いていた石の槍に、ビキビキとひびが走る。
「ケ、ケケ……ッ」
天狐の笑い声と共に、力なく揺れていた尻尾の一房がぽん、と弾けて消えた。
「この尻尾は伊達じゃねえんだよ」
「なっ……、ま、まだ息が!?」
思いもよらない事態に、レイリンは慌てている。青白い光も、その輝きを鈍らせていく。
「一房、一房が魔力結晶なんだよ、コレは……ッ! 一つ魔力に変換すりゃ……」
石の槍は粉々になり、天狐の戒めが解けた。
「肉体は完全復活できるってこった! 油断したな、鈴女!」
残った八つの尻尾が毛羽立ち、紫色の光球が悠々と立ち上がった天狐の前に形成される。
「『ナインヘッダーサーペント』!」
光球は九つの稲妻へと変化し、目の前のレイリンを撃ち抜いた。
「ひっ……」
ジャラララ、と甲高い音を立てて、レイリンは弾き飛ばされた。
音を立てたのは、彼女が体中に身に付けていた鈴の音だった。
呆然とする小鈴たちを見て、天狐は悪辣な笑みを浮かべた。
「そー言やさぁ、そこのエルフさんよぉ」
「あ……う……」
「散々オレのコト、バカにしてくれてたよなぁ?」
「ひ……」
「忘れたとは、言わせねーぜ?」
「あ……」
家宝であり、長年愛用してきた魔杖であり、かけがえのない友人のように思っていた「鈴林」を失い、小鈴の思考はとめどなく乱れていく。
天狐の問いかけに最早、まともに答えられる状態ではなかった。
「たっぷり……、落とし前付けてもらうぜ……!」
「い……、いや、いやああっ……!」
「む、……?」
自分たちの周囲の空気が変わったことに、晴奈は気付いた。
「……」
明奈たちも気付いたらしい。
「また、ワープしたようですわ」
「そうらしいな。……!」
晴奈はトマスを置いてきたことを思い出し、慌てて駆け出した。
「トマス!? どこだ、トマス!」
だが、廊下の様子は明らかに様変わりしており、トマスたちの姿はなかった。
「……しまった……!」
晴奈の脳裏に、あのトゲ虎たちに襲われ、喰われるトマスたちの様子が浮かんできた。
「何と言う不覚……!」
晴奈の顔から、血の気が引いていった。
と――。
「晴奈……、晴奈……」
どこからか、自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「誰だ……?」
女の子の声であり、トマスたちでは無さそうだった。また、明奈たちの声でもない。
「来て……早く……」
廊下の少し先から、その声はする。晴奈は一度、明奈たちに無言で顔を向ける。
「……」
明奈もフォルナも、無言でうなずいて返す。三人は、声のした方へと進んでいった。
「……お主は」
そこに倒れていたのは、レイリンだった。
「天狐の姉さんにやられちゃった、アハハ……」
「姉さん? どう言うことだ?」
「ゴメンね、説明する気力、ないの。……送るから、姉さんを何とかして」
「……天狐の元へと、行かせてくれるのか」
「うん。……いいトコまで行ったんだけど、倒せなかった。……後残ってるの、晴奈だけだから。お願い……」
「……相分かった」
そう答えた途端、晴奈の姿はそこから消えた。
「お姉さま……」
残された妹たちは、倒れたレイリンに問いかける。
「あなたは、大丈夫ですの?」
「……ギリギリ……かな……。もし晴奈が……やられちゃったら……全滅するかも……」
それだけ言って、レイリンは目を閉じた。
「あ……」
残ったのは、鈴の大半を失って黒く錆びた、「鈴林」だった。
蒼天剣・鈴林録 終
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逆転敗北。
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「……終わった、わね」
屈強な男性の脚ほどもある石の槍を背中から突き立てられ、天狐はピクリとも動かない。
「ええ……」
小鈴はもう一度、心の中でレイリンに呼びかける。
(レイリン、コレで封印できたの?)
が、杖は応えない。いや、また小鈴の手から、杖がなくなっている。
「……!」
いつの間にか、天狐のすぐ前にレイリンが立っていた。
「天狐の姉(あね)さん」
「……」
「あなたを、再封印します。それがお師匠から、アタシに与えられた仕事だから」
「……」
レイリンの周りに、ぼんやりと青白い光が集まってくる。
「本当は、もっとお話してみたかったけど……」
「……」
青白い光が、天狐に伝わっていく。
「アタシは克大火の弟子って言っても、お師匠様の詳しいコトは何も知らないの……。だからちょっと、姉さんと話してみたかった」
「……」
レイリンはふっと、寂しそうな顔を見せた。
その時だった。
「……オレから話すコトは何もねえ、お前なんか知ったコトか」
「!?」
天狐を貫いていた石の槍に、ビキビキとひびが走る。
「ケ、ケケ……ッ」
天狐の笑い声と共に、力なく揺れていた尻尾の一房がぽん、と弾けて消えた。
「この尻尾は伊達じゃねえんだよ」
「なっ……、ま、まだ息が!?」
思いもよらない事態に、レイリンは慌てている。青白い光も、その輝きを鈍らせていく。
「一房、一房が魔力結晶なんだよ、コレは……ッ! 一つ魔力に変換すりゃ……」
石の槍は粉々になり、天狐の戒めが解けた。
「肉体は完全復活できるってこった! 油断したな、鈴女!」
残った八つの尻尾が毛羽立ち、紫色の光球が悠々と立ち上がった天狐の前に形成される。
「『ナインヘッダーサーペント』!」
光球は九つの稲妻へと変化し、目の前のレイリンを撃ち抜いた。
「ひっ……」
ジャラララ、と甲高い音を立てて、レイリンは弾き飛ばされた。
音を立てたのは、彼女が体中に身に付けていた鈴の音だった。
呆然とする小鈴たちを見て、天狐は悪辣な笑みを浮かべた。
「そー言やさぁ、そこのエルフさんよぉ」
「あ……う……」
「散々オレのコト、バカにしてくれてたよなぁ?」
「ひ……」
「忘れたとは、言わせねーぜ?」
「あ……」
家宝であり、長年愛用してきた魔杖であり、かけがえのない友人のように思っていた「鈴林」を失い、小鈴の思考はとめどなく乱れていく。
天狐の問いかけに最早、まともに答えられる状態ではなかった。
「たっぷり……、落とし前付けてもらうぜ……!」
「い……、いや、いやああっ……!」
「む、……?」
自分たちの周囲の空気が変わったことに、晴奈は気付いた。
「……」
明奈たちも気付いたらしい。
「また、ワープしたようですわ」
「そうらしいな。……!」
晴奈はトマスを置いてきたことを思い出し、慌てて駆け出した。
「トマス!? どこだ、トマス!」
だが、廊下の様子は明らかに様変わりしており、トマスたちの姿はなかった。
「……しまった……!」
晴奈の脳裏に、あのトゲ虎たちに襲われ、喰われるトマスたちの様子が浮かんできた。
「何と言う不覚……!」
晴奈の顔から、血の気が引いていった。
と――。
「晴奈……、晴奈……」
どこからか、自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「誰だ……?」
女の子の声であり、トマスたちでは無さそうだった。また、明奈たちの声でもない。
「来て……早く……」
廊下の少し先から、その声はする。晴奈は一度、明奈たちに無言で顔を向ける。
「……」
明奈もフォルナも、無言でうなずいて返す。三人は、声のした方へと進んでいった。
「……お主は」
そこに倒れていたのは、レイリンだった。
「天狐の姉さんにやられちゃった、アハハ……」
「姉さん? どう言うことだ?」
「ゴメンね、説明する気力、ないの。……送るから、姉さんを何とかして」
「……天狐の元へと、行かせてくれるのか」
「うん。……いいトコまで行ったんだけど、倒せなかった。……後残ってるの、晴奈だけだから。お願い……」
「……相分かった」
そう答えた途端、晴奈の姿はそこから消えた。
「お姉さま……」
残された妹たちは、倒れたレイリンに問いかける。
「あなたは、大丈夫ですの?」
「……ギリギリ……かな……。もし晴奈が……やられちゃったら……全滅するかも……」
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
馬鹿でも偶然にも力を掘り当てた・・・というのが正しいのですかね。この類は。自らの努力で真なる力を手に入れた…わけではなさそうですね。そういう力は大体暴走して自滅するものですが。
- #1924 LandM
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- 2014.06/28 22:22
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NoTitle
単にこの場合、他者を舐めてかかっています。
驕るのは克一門の特色なのかも。