「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・調伏録 2
晴奈の話、第510話。
魔術斬り。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
晴奈に稲妻が直撃した瞬間――。
魔術や物理法則に疎い晴奈は、「電撃は直線的なものであり、避けてしまえば当たるまい」と考えていた。だが電撃には伝導性――電気が通るものに近付いていく性質――がある。
避けたはずの電撃が、くいと方向を変えて晴奈に向かってきた。
(まずい!)
そこで晴奈はとっさに、「蒼天」を構えた。
「が……ッ」
次の瞬間、びりっと言う衝撃とともに、両手の感覚が無くなる。
(ぐああ、あ、……あ、あれ?)
ところが、その衝撃が腕で止まる。そもそも衝撃自体がわざわざ叫ぶほど痛いとは、感じてもいない。
(まさか、腕が焼き切れたか!?)
しかし見てみると、腕も手も、指もちゃんと残っていた。その手は「蒼天」をしっかりと握りしめているし、握る感覚も戻っている。
(もしかすると、この刀……?)
晴奈の脳内に、一つの仮説が浮かんだ。
「ケ、ケケ……! ちょっとばかり、手を抜いちまったかぁ……!?」
天狐はまだ腑に落ちないと言う顔をしながらも、再び呪文を唱え始める。
「今度はしっかり焦がしてやるぜぇ……! 『サンダースピア』!」
先程の稲妻を一まとめにしたような、極太の電撃が晴奈に飛んで行く。
「……りゃあああッ!」
晴奈はその電撃に向かって、一直線に駆け出した。
「へ……、お、おい、バカかテメエ!?」
まさか真正面から向かってくるとは思わず、天狐は目を丸くした。
「……まさか!?」
ここでようやく、天狐も気付いた。
「はッ!」
晴奈は電撃に向かって、「蒼天」を振り下ろす。ほんのり紫色を帯びた雷の槍が青白い「蒼天」の刃先に触れた途端、真っ二つにされた。
「まずっ……、『マジックシールド』!」
電撃を割って進んだ晴奈を見て、天狐は慌てて魔術で防御する。が、この魔術の盾も、ガリガリと音を立てて引き裂かれていく。
「もしかして、……いや、もしかしなくても、それは……ッ!」
「いかにも!」
完全に魔術が破られ、刀の切っ先が天狐の額を掠めた。
「う……っ」
血が勢い良く噴き出し、天狐の顔は見る見るうちに真っ赤になる。
「それを作ったのはもしかしなくても、大火だな……!」
「そうだ。『晴空刀 蒼天』、紛れも無く克大火の作だ」
「……ケ、ケケ、あの黒子め、……ケケッ」
天狐は顔の血を拭いながら、ケタケタと笑っている。
「その刀、魔術まで切り裂ける。……そう、だな?」
「どうやら、そのようだな」
血を拭い終えた天狐はひょいと後ろに跳び、晴奈と距離を取る。
「最初の一撃も、大部分が斬られてテメエ自身にほとんど届かなかったってワケか。
……半端な攻撃魔術じゃ、無意味ってワケだ」
そう言って、天狐はパン、と胸の前で手を合わせた。
「でもな、神器造りは大火の専売特許じゃねーぞ! 出でよ、『混世扇 傾国』!」
合わせた手を離すと、そこには金色に輝く鉄扇が現れた。
天狐は鉄扇を振り上げ、晴奈に襲い掛かってきた。
「なんのッ!」
晴奈は刀を上段に構え、鉄扇を受ける。
金色の鉄扇と蒼色の刀がぶつかり合い、晴奈と天狐の間にその二色が瞬いた。
晴奈と天狐が戦っている間に、小鈴たちは神殿内を急いで回っていた。
天狐が戦闘中で余裕を失っているならばループも起こらず、エルスたちを助け出せるかもと考えてのことである。
「やっぱ、あの天狐が原因だったのね。どこも、ループしない」
「ああ。……飛ばされた他の奴らも、同じことしてたみたいだな」
各所の柱には血や刃物で付けたらしい印が付けられており、ここでようやく、小鈴たちは神殿内の全体像を把握することができた。
「結局、教授の地図通りだったのね」
「そうらしいわね。地下2階部分も、1階とほぼ造りは同じ。違うのは……」
自分たちでマッピングした2階地図には、中央部分がぽっかりと抜けている。ここへ進む道は、地下1階・2階には無かったのだ。
「と言うコトは……」
「ここが、この神殿の『核』のようね」
「2階からさらに下へ行く階段もあったし、3階か、それより下階層から入れるかも知れないな」
「そーね。……それよりも、まずは」
小鈴は後ろを振り返る。
その目には横になったネロとフェリオ、困惑している明奈とフォルナ、そして黒ずんだ「鈴林」が映っていた。
「……まずは、応急処置よね」
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2.
晴奈に稲妻が直撃した瞬間――。
魔術や物理法則に疎い晴奈は、「電撃は直線的なものであり、避けてしまえば当たるまい」と考えていた。だが電撃には伝導性――電気が通るものに近付いていく性質――がある。
避けたはずの電撃が、くいと方向を変えて晴奈に向かってきた。
(まずい!)
そこで晴奈はとっさに、「蒼天」を構えた。
「が……ッ」
次の瞬間、びりっと言う衝撃とともに、両手の感覚が無くなる。
(ぐああ、あ、……あ、あれ?)
ところが、その衝撃が腕で止まる。そもそも衝撃自体がわざわざ叫ぶほど痛いとは、感じてもいない。
(まさか、腕が焼き切れたか!?)
しかし見てみると、腕も手も、指もちゃんと残っていた。その手は「蒼天」をしっかりと握りしめているし、握る感覚も戻っている。
(もしかすると、この刀……?)
晴奈の脳内に、一つの仮説が浮かんだ。
「ケ、ケケ……! ちょっとばかり、手を抜いちまったかぁ……!?」
天狐はまだ腑に落ちないと言う顔をしながらも、再び呪文を唱え始める。
「今度はしっかり焦がしてやるぜぇ……! 『サンダースピア』!」
先程の稲妻を一まとめにしたような、極太の電撃が晴奈に飛んで行く。
「……りゃあああッ!」
晴奈はその電撃に向かって、一直線に駆け出した。
「へ……、お、おい、バカかテメエ!?」
まさか真正面から向かってくるとは思わず、天狐は目を丸くした。
「……まさか!?」
ここでようやく、天狐も気付いた。
「はッ!」
晴奈は電撃に向かって、「蒼天」を振り下ろす。ほんのり紫色を帯びた雷の槍が青白い「蒼天」の刃先に触れた途端、真っ二つにされた。
「まずっ……、『マジックシールド』!」
電撃を割って進んだ晴奈を見て、天狐は慌てて魔術で防御する。が、この魔術の盾も、ガリガリと音を立てて引き裂かれていく。
「もしかして、……いや、もしかしなくても、それは……ッ!」
「いかにも!」
完全に魔術が破られ、刀の切っ先が天狐の額を掠めた。
「う……っ」
血が勢い良く噴き出し、天狐の顔は見る見るうちに真っ赤になる。
「それを作ったのはもしかしなくても、大火だな……!」
「そうだ。『晴空刀 蒼天』、紛れも無く克大火の作だ」
「……ケ、ケケ、あの黒子め、……ケケッ」
天狐は顔の血を拭いながら、ケタケタと笑っている。
「その刀、魔術まで切り裂ける。……そう、だな?」
「どうやら、そのようだな」
血を拭い終えた天狐はひょいと後ろに跳び、晴奈と距離を取る。
「最初の一撃も、大部分が斬られてテメエ自身にほとんど届かなかったってワケか。
……半端な攻撃魔術じゃ、無意味ってワケだ」
そう言って、天狐はパン、と胸の前で手を合わせた。
「でもな、神器造りは大火の専売特許じゃねーぞ! 出でよ、『混世扇 傾国』!」
合わせた手を離すと、そこには金色に輝く鉄扇が現れた。
天狐は鉄扇を振り上げ、晴奈に襲い掛かってきた。
「なんのッ!」
晴奈は刀を上段に構え、鉄扇を受ける。
金色の鉄扇と蒼色の刀がぶつかり合い、晴奈と天狐の間にその二色が瞬いた。
晴奈と天狐が戦っている間に、小鈴たちは神殿内を急いで回っていた。
天狐が戦闘中で余裕を失っているならばループも起こらず、エルスたちを助け出せるかもと考えてのことである。
「やっぱ、あの天狐が原因だったのね。どこも、ループしない」
「ああ。……飛ばされた他の奴らも、同じことしてたみたいだな」
各所の柱には血や刃物で付けたらしい印が付けられており、ここでようやく、小鈴たちは神殿内の全体像を把握することができた。
「結局、教授の地図通りだったのね」
「そうらしいわね。地下2階部分も、1階とほぼ造りは同じ。違うのは……」
自分たちでマッピングした2階地図には、中央部分がぽっかりと抜けている。ここへ進む道は、地下1階・2階には無かったのだ。
「と言うコトは……」
「ここが、この神殿の『核』のようね」
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「そーね。……それよりも、まずは」
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
ふうむ。
伝導性か。。。
ここまで計算できる戦闘が私も書けると良いのですがね。
戦闘はグッゲンハイムでも花形なので、読んでいてとても勉強になります。
伝導性か。。。
ここまで計算できる戦闘が私も書けると良いのですがね。
戦闘はグッゲンハイムでも花形なので、読んでいてとても勉強になります。
おはようございます。
天狐の憎たらしいのとセイナの男らしい(ちゃうだろ)
戦いにわくわくしたり、方や小鈴たちと一緒になってハラハラしてる自分がいる。
さすがの蒼天剣だと思いました。
また来ます。
天狐の憎たらしいのとセイナの男らしい(ちゃうだろ)
戦いにわくわくしたり、方や小鈴たちと一緒になってハラハラしてる自分がいる。
さすがの蒼天剣だと思いました。
また来ます。
- #88 のくにぴゆう
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- 2010.03/14 07:10
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NoTitle
何かしら描写をする度に細かく考えています。
立ち回りのシーンなんかも、実際に自分の部屋の中でポーズを取っていたり。