「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・調伏録 5
晴奈の話、第513話。
有頂天狐。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「……あ……」
気が付いた時、晴奈は右肩に鋭い痛みを覚えた。
「しま、った……」
右肩から先の感覚が無い。腕はまだ付いているが、傷は腱か神経にまで達しているらしい。
「さあ、猫女……。決着と行こうぜ……!」
天狐がゆらりと、こちらに歩を進めてくる。晴奈はギリ……、と歯を軋ませながら、左手一本で刀を持ち、立ち上がった。
「まだだ、まだ負けぬ……!」
「いい加減にしやがれってんだ……」
天狐の足取りも若干おぼつかないようだ。
二人はヨロヨロと、互いの距離を詰めていった。
「コレ……、もしかして、天狐?」
小鈴は「鈴林」で、コツンと黒水晶を叩く。だが、中の少女には何の反応も無い。
「顔は似ておりますわね」
「暗いから種族までは分からないし、黒髪だけど、着ている物と顔立ちは、確かに先程のテンコそっくりね」
「……とりあえず、ここら辺にはモンスターはいないみてーだな。ネロさんとフェリオ、休ませてやろうぜ」
皆はバートの提案に賛成し、ネロとフェリオを黒水晶の近くに寝かせた。
「もしかしたら、さっきまで、僕たちが、戦っていたのは」
と、ネロが苦しそうにしながらも、口を開いた。
「『もう一人の』、天狐なのかも、知れないね」
「もう一人の、天狐?」
「彼女はどこか、僕たちと、雰囲気が違った。それは外見とか、強さとかじゃなく、その存在自体が。
何て言うか、まるで人形と、中の綿を、二つに分けてしまったように。ここにあるのは、人形の外側。そして今、セイナが戦っているのは、中の綿なんじゃ、ないかな」
「それは魂、と言うことでしょうか?」
明奈の意見に、ネロはわずかに首を振る。
「いや……、それよりも、もっと形あるものだ。
……モンスターが、なぜこんなに、うようよと、神殿の中にいるのか。似ているのかも知れない、理屈は」
「さっぱり、分からない」
ネロの説明に、トマスが音を上げた。
と――。
「あ」
「どうした、フォルナ?」
フォルナが何かに気付き、皆から離れる。
「あちらに、エルスさんとジーナさんが!」
「何だって?」
皆も、フォルナに付いていく。
確かにフォルナの言う通り、そこには傷だらけになったエルスとジーナが寝かされていた。
「生きてる?」
「……みたいよ。目は覚まさないけれど」
ジュリアの言葉に安堵しつつ、小鈴も二人に近付こうとした。
その時だった。
「わ……っ?」
小鈴が握っていたボロボロの「鈴林」が、何かに引っ張られた。
「な、何? 何なの?」
慌てて強く握ろうとしたが、「鈴林」は小鈴の手を抜けて、どこかに飛んで行ってしまった。
「ちょっと!? 何なの……!?」
後を追おうとしたが、「鈴林」の姿はどこにも見付けられなかった。
「……は、は」
突然、天狐が笑い出した。
「……?」
いぶかしげににらむ晴奈に構わず、天狐はケタケタと高笑いする。
「ケ、ケケ、ケケケッ……! ケケケケ、何とまあ、タイミングのいい!」
「何だ……?」
「取り逃がした獲物が、自分からノコノコやってきやがった!
……搾り取ってやる……!」
次の瞬間、天狐の体が赤く光るもやのようなものに包まれる。
「……なん、……だと!?」
もやが消えると、そこには元通り九房の尻尾を生やした天狐が、ニヤリと笑って立っていた。
「これで体調は万全……! さあ、嬲り殺してやる、猫女!」
「く……!」
天狐の尻尾がバチバチと毛羽立ち、先程とは比べ物にならない莫大な量の魔力が、天狐の前に集積されていく。
「お前なんぞ食わねー……。それよりも」
やがて魔力のエネルギーは電気のそれに換わり、部屋に飛び散った血や汗が一瞬で乾くほどの稲妻へと変化した。
「跡形も無く蒸発させてやるッ! 消えやがれええええーッ!」
超高圧の電流は部屋中の空気を一瞬で熱し、爆ぜさせる。
辺りの柱すべてにヒビが入るほどの轟きを発し、稲妻は晴奈へ向かって飛んでいった。
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有頂天狐。
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5.
「……あ……」
気が付いた時、晴奈は右肩に鋭い痛みを覚えた。
「しま、った……」
右肩から先の感覚が無い。腕はまだ付いているが、傷は腱か神経にまで達しているらしい。
「さあ、猫女……。決着と行こうぜ……!」
天狐がゆらりと、こちらに歩を進めてくる。晴奈はギリ……、と歯を軋ませながら、左手一本で刀を持ち、立ち上がった。
「まだだ、まだ負けぬ……!」
「いい加減にしやがれってんだ……」
天狐の足取りも若干おぼつかないようだ。
二人はヨロヨロと、互いの距離を詰めていった。
「コレ……、もしかして、天狐?」
小鈴は「鈴林」で、コツンと黒水晶を叩く。だが、中の少女には何の反応も無い。
「顔は似ておりますわね」
「暗いから種族までは分からないし、黒髪だけど、着ている物と顔立ちは、確かに先程のテンコそっくりね」
「……とりあえず、ここら辺にはモンスターはいないみてーだな。ネロさんとフェリオ、休ませてやろうぜ」
皆はバートの提案に賛成し、ネロとフェリオを黒水晶の近くに寝かせた。
「もしかしたら、さっきまで、僕たちが、戦っていたのは」
と、ネロが苦しそうにしながらも、口を開いた。
「『もう一人の』、天狐なのかも、知れないね」
「もう一人の、天狐?」
「彼女はどこか、僕たちと、雰囲気が違った。それは外見とか、強さとかじゃなく、その存在自体が。
何て言うか、まるで人形と、中の綿を、二つに分けてしまったように。ここにあるのは、人形の外側。そして今、セイナが戦っているのは、中の綿なんじゃ、ないかな」
「それは魂、と言うことでしょうか?」
明奈の意見に、ネロはわずかに首を振る。
「いや……、それよりも、もっと形あるものだ。
……モンスターが、なぜこんなに、うようよと、神殿の中にいるのか。似ているのかも知れない、理屈は」
「さっぱり、分からない」
ネロの説明に、トマスが音を上げた。
と――。
「あ」
「どうした、フォルナ?」
フォルナが何かに気付き、皆から離れる。
「あちらに、エルスさんとジーナさんが!」
「何だって?」
皆も、フォルナに付いていく。
確かにフォルナの言う通り、そこには傷だらけになったエルスとジーナが寝かされていた。
「生きてる?」
「……みたいよ。目は覚まさないけれど」
ジュリアの言葉に安堵しつつ、小鈴も二人に近付こうとした。
その時だった。
「わ……っ?」
小鈴が握っていたボロボロの「鈴林」が、何かに引っ張られた。
「な、何? 何なの?」
慌てて強く握ろうとしたが、「鈴林」は小鈴の手を抜けて、どこかに飛んで行ってしまった。
「ちょっと!? 何なの……!?」
後を追おうとしたが、「鈴林」の姿はどこにも見付けられなかった。
「……は、は」
突然、天狐が笑い出した。
「……?」
いぶかしげににらむ晴奈に構わず、天狐はケタケタと高笑いする。
「ケ、ケケ、ケケケッ……! ケケケケ、何とまあ、タイミングのいい!」
「何だ……?」
「取り逃がした獲物が、自分からノコノコやってきやがった!
……搾り取ってやる……!」
次の瞬間、天狐の体が赤く光るもやのようなものに包まれる。
「……なん、……だと!?」
もやが消えると、そこには元通り九房の尻尾を生やした天狐が、ニヤリと笑って立っていた。
「これで体調は万全……! さあ、嬲り殺してやる、猫女!」
「く……!」
天狐の尻尾がバチバチと毛羽立ち、先程とは比べ物にならない莫大な量の魔力が、天狐の前に集積されていく。
「お前なんぞ食わねー……。それよりも」
やがて魔力のエネルギーは電気のそれに換わり、部屋に飛び散った血や汗が一瞬で乾くほどの稲妻へと変化した。
「跡形も無く蒸発させてやるッ! 消えやがれええええーッ!」
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
天狐が強い、しぶとい!
セイナが尽きてしまうのではとハラハラします。
シーンの素晴らしい描写が臨場感をますます高める。
自分も爆ぜて蒸発しそうです。
- #92 のくにぴゆう
- URL
- 2010.03/17 01:36
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NoTitle
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