「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・調伏録 6
晴奈の話、第514話。
逆境下の克己心。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「ケ、ケケ……」
勝利を確信し、天狐は笑い出した。
「こうでなきゃな……! こうでなきゃ、何が『克』だってんだ、ケケッ」
天狐は深呼吸し、その場に座り込もうと屈んだ。
と――。
《愚か者》
天狐の頭の中に、最も聞きたくない男の声が響いた。
「へ……?」
《敵が死んだかどうか確認もせずに、もう終わったと安心するのか? だからお前は三流だと言うのだ。俺に負けた時も、そうして油断し、敗北したことを忘れたか?
まだ分からないのか?》
「何言ってやがる……!」
天狐は頭の中の声に、叫び返した。
「あの攻撃で、死なないワケがあるかってんだ!
テメーならともかく、ただの人間! ただの女! ただの、猫だ!
生きてるワケがねーだろーがよ!」
だが、声はもう応じない。そこで天狐はきょとんとし、口を閉じた。
(え……? 今のって、幻聴、……だったりする?
……はは、そうだよな。今アイツは、動けねーと自分でそう言ってたんだから。今は体を治すのに精一杯だろうし、オレの戦いなんか見てる余裕なんか。
……そうだよなぁ。こんな、どーでもいいコト――どっかの『猫』なんかと、オレとの戦いなんか――アイツが、わざわざ見に来る理由なんか、……ねーよな)
天狐はぼんやりと、稲妻を飛ばした方向に目をやった。
(まずい……これは……!)
真っ直ぐ向かってくる眩い光に、晴奈は目を細める。
(死ぬか? これは流石に、死ぬだろうか……?)
だが、閉じはしない。
(……いいや! いつか聞いたことがある――神器は、持つ者の力に応えてくれると。
今力を出さずして、いつ出す? 死んでからか? 馬鹿な! 今出さねば、何の意味も無いだろう!? 今奮い立ち、この電撃を跳ね返さねば、事はどうにもならぬ!
何もせず撃ち抜かれれば、私は死ぬ。私が死んだら、一体どうなる? 残った皆では、太刀打ちできぬとレイリンは言っていた。そうなれば、皆殺しだ。
小鈴も、公安の皆も、フォルナも、ネロも、ジーナも、明奈も、エルスも、トマスも。全員、天狐に殺される。
……死なせてたまるか! 皆を死なせたりはしない! そのために、私は全力を、全力以上を以って、戦わねばならぬのだ!)
死を跳ね返そうと決意したその刹那、晴奈の思考は無限に加速する。
1秒、2秒後には稲妻が到達すると言うその瞬間に、晴奈は己の心の中を一周した。
(『蒼天剣』! お前が頼りだ! 私の力の限りを、受け止めろおおおーッ!)
その決意が「蒼天」に移る。「蒼天」の青が濃くなり、輝き始めた。
「りゃ」
稲妻が晴奈の目の前にまで迫る。
「あああ」
両手で――腱を切られ、動かなかったはずの右手も挙げて――振り上げた「蒼天」が、一際眩く輝いた。
「ああああああ」
その光は、稲妻のそれをも圧倒し、押し返し、蹴散らした。
「あああああああああーッ!」
目の前が真っ暗になる。
(あ……?)
晴奈は自分が死んでしまったかと思い、歯軋りしかける。
(……いや、違う……)
次第に、視界が戻ってくる。
(……凌いだ!)
強い光で眩んでいた目が、ようやく元に戻る。
自分の体を確かめたが、腕も脚も、手も足もあり、胸にも胴にも、首の上にも異常はない。
「……ッ」
五体に再び力がみなぎる。戻ってきた視界の中に、天狐を捉えたからだ。
(今度こそ、仕留める……!)
天狐はこちらを見ていた。が、ぼんやりとした顔をしている。その気力の無い目はまるで、晴奈を捉えていないようだった。
(……?)
天狐の様子に一瞬戸惑ったが、晴奈は足を止めない。
「はああッ!」
晴奈は間合いを詰め、あらん限りの力を込めて天狐に斬りかかった。
「……いない、わなぁ」
天狐はぼんやりと、稲妻が飛んでいった方向に目をやった。その視界には、崩れ落ちた柱と焦げた床しか見えない。
「そりゃそうだよな、焦げるどころじゃねーもん、あのパワーなら。蒸発したわな、ケケッ……」
「鈴林」から魔力を搾り取ったとは言え、天狐の体には疲労が濃く残っていた。立ち上がる気力も無く、天狐は依然、その場に座ったままでいた。
次の瞬間。
「へ?」
天狐の視界が、ぽとんと落ちた。
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逆境下の克己心。
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6.
「ケ、ケケ……」
勝利を確信し、天狐は笑い出した。
「こうでなきゃな……! こうでなきゃ、何が『克』だってんだ、ケケッ」
天狐は深呼吸し、その場に座り込もうと屈んだ。
と――。
《愚か者》
天狐の頭の中に、最も聞きたくない男の声が響いた。
「へ……?」
《敵が死んだかどうか確認もせずに、もう終わったと安心するのか? だからお前は三流だと言うのだ。俺に負けた時も、そうして油断し、敗北したことを忘れたか?
まだ分からないのか?》
「何言ってやがる……!」
天狐は頭の中の声に、叫び返した。
「あの攻撃で、死なないワケがあるかってんだ!
テメーならともかく、ただの人間! ただの女! ただの、猫だ!
生きてるワケがねーだろーがよ!」
だが、声はもう応じない。そこで天狐はきょとんとし、口を閉じた。
(え……? 今のって、幻聴、……だったりする?
……はは、そうだよな。今アイツは、動けねーと自分でそう言ってたんだから。今は体を治すのに精一杯だろうし、オレの戦いなんか見てる余裕なんか。
……そうだよなぁ。こんな、どーでもいいコト――どっかの『猫』なんかと、オレとの戦いなんか――アイツが、わざわざ見に来る理由なんか、……ねーよな)
天狐はぼんやりと、稲妻を飛ばした方向に目をやった。
(まずい……これは……!)
真っ直ぐ向かってくる眩い光に、晴奈は目を細める。
(死ぬか? これは流石に、死ぬだろうか……?)
だが、閉じはしない。
(……いいや! いつか聞いたことがある――神器は、持つ者の力に応えてくれると。
今力を出さずして、いつ出す? 死んでからか? 馬鹿な! 今出さねば、何の意味も無いだろう!? 今奮い立ち、この電撃を跳ね返さねば、事はどうにもならぬ!
何もせず撃ち抜かれれば、私は死ぬ。私が死んだら、一体どうなる? 残った皆では、太刀打ちできぬとレイリンは言っていた。そうなれば、皆殺しだ。
小鈴も、公安の皆も、フォルナも、ネロも、ジーナも、明奈も、エルスも、トマスも。全員、天狐に殺される。
……死なせてたまるか! 皆を死なせたりはしない! そのために、私は全力を、全力以上を以って、戦わねばならぬのだ!)
死を跳ね返そうと決意したその刹那、晴奈の思考は無限に加速する。
1秒、2秒後には稲妻が到達すると言うその瞬間に、晴奈は己の心の中を一周した。
(『蒼天剣』! お前が頼りだ! 私の力の限りを、受け止めろおおおーッ!)
その決意が「蒼天」に移る。「蒼天」の青が濃くなり、輝き始めた。
「りゃ」
稲妻が晴奈の目の前にまで迫る。
「あああ」
両手で――腱を切られ、動かなかったはずの右手も挙げて――振り上げた「蒼天」が、一際眩く輝いた。
「ああああああ」
その光は、稲妻のそれをも圧倒し、押し返し、蹴散らした。
「あああああああああーッ!」
目の前が真っ暗になる。
(あ……?)
晴奈は自分が死んでしまったかと思い、歯軋りしかける。
(……いや、違う……)
次第に、視界が戻ってくる。
(……凌いだ!)
強い光で眩んでいた目が、ようやく元に戻る。
自分の体を確かめたが、腕も脚も、手も足もあり、胸にも胴にも、首の上にも異常はない。
「……ッ」
五体に再び力がみなぎる。戻ってきた視界の中に、天狐を捉えたからだ。
(今度こそ、仕留める……!)
天狐はこちらを見ていた。が、ぼんやりとした顔をしている。その気力の無い目はまるで、晴奈を捉えていないようだった。
(……?)
天狐の様子に一瞬戸惑ったが、晴奈は足を止めない。
「はああッ!」
晴奈は間合いを詰め、あらん限りの力を込めて天狐に斬りかかった。
「……いない、わなぁ」
天狐はぼんやりと、稲妻が飛んでいった方向に目をやった。その視界には、崩れ落ちた柱と焦げた床しか見えない。
「そりゃそうだよな、焦げるどころじゃねーもん、あのパワーなら。蒸発したわな、ケケッ……」
「鈴林」から魔力を搾り取ったとは言え、天狐の体には疲労が濃く残っていた。立ち上がる気力も無く、天狐は依然、その場に座ったままでいた。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
確かに、敵が死んだかどうかの確認は必要ですよね。
あるいは介錯かトドメか。
そういうのもひょっとしたら、戦場の礼節かもしれませんね。
苦しみながら死ぬよりかはどうなのでしょうかね。
その辺になると騎士道になりますかね。
あるいは介錯かトドメか。
そういうのもひょっとしたら、戦場の礼節かもしれませんね。
苦しみながら死ぬよりかはどうなのでしょうかね。
その辺になると騎士道になりますかね。
- #1942 LandM
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- 2014.07/24 08:31
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NoTitle
確認しなかった側の死亡フラグですね。
潔く死を選ぶ、……と考えると、どちらかと言えば武士道になるのかも。
詳しい区別は僕にもよく分かりませんが。