「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・調伏録 8
晴奈の話、第516話。
小鈴の別れ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
「ちょ」
やってきた晴奈を見て、小鈴は口から心臓が飛び出すかと思うほど驚いた。
「そ、そ、そそ、ソイツ」
「ああ。降参したから、生かしてここまで連れて来た」
そう告げた晴奈に、全員が仰天した。
「ああ。やっぱり君は、『別の人形』なんだ」
回復したネロは、天狐から詳しく話を聞いた。
「人形って、何のこった?」
「ああ、こっちの話。
ええと、つまり君が今使っているその体は、湖水や草、土、魚なんかから作った仮の体ってこと、なんだね」
「そーだよ。何しろ本物の体が、こーなんだもん」
天狐は「傾国」でひょいと、黒水晶の中に封印された自分の本体を指し示す。
「ここら辺をうろついてたモンスターは、その練習台ってわけか」
目を覚ましたエルスも、話に加わる。
「そーそー。……ま、何体か逃げ出して、迷惑かけちまったみてーだな」
「ホントだよ、もうっ」
エルスやネロと同様に、レイリンも元通りに直された。
「ま、もう増えたりしねーし、後は退治してくれりゃ大丈夫だから。オレも協力するよ」
「本当に?」
「晴奈の姉さんからも頼まれたんだ。破ったりしねーさ」
天狐はにっこり笑い、晴奈の腕に抱きついた。
「おいおい……」
照れる晴奈に構わず、天狐はニコニコと微笑んで説明する。
「倒れた奴らも、ゆっくり休んでりゃ回復するから。……だから」
そこで天狐は申し訳無さそうに、ぺろっと舌を出した。
「魔力戻すってのは、勘弁してくんね? オレ、また動けなくなっちゃうもん」
「うーむ」
「それならさー」
と、レイリンが手を挙げた。
「アタシが一緒にいようかっ? 一緒にいれば、魔力が溜まるのも早いしっ。それならちょっとくらい戻しても大丈夫だよね、姉さんっ?」
「ん、まあ、それならいーけどよ」
これを聞いて、小鈴が反論する。
「ちょっと待ってよ。あたしはどーなんのよ? ここにアンタ置いてったら、あたし旅できなくなるじゃん」
「そっか、それもそうだよね」
レイリンはしばらく小鈴を見て、やがてこう答えた。
「……でも、ゴメンね小鈴。アタシは、もっと学びたいのっ。お師匠にはただ『封印』のコトしか聞いて無いから、天狐の姉さんからもっと、色んなコトを知りたいんだ」
「じゃあ、……勝手にしなさいよ」
小鈴はぷい、とレイリンに背を向けた。
「家にはあたしから、説明するわ。多分特ダネって喜んでくれるでしょ」
「……ゴメン、ホントにゴメンね、小鈴。楽しかったよ」
「いーわよ、そんなの。あたしも楽しかったし。……いつくらいに戻ってくる?」
「多分、4年か5年くらい。……だから小鈴、いつか言ってたよね? いつか落ち着いて結婚して、子供ができたらアタシを持たせて旅させようか、って。それ、できるよ」
「大きなお世話よ、んふふ……」
小鈴は背を向けたまま、両手を振ってやれやれと返した。
「……ま、楽しみにしてなさいよ。かーわいい子に、会わせたげるからね」
こうしてミッドランド事件は収束した。
天狐の言う通り、湖周辺を跋扈していたモンスターに生殖能力は無く、増殖する恐れは無かった。また、残っていたモンスターもすべて討伐され、湖及びその周辺の安全は確保された。
大量に魔力を失い衰弱していた者たちも、天狐とレイリンから魔力を戻され、全員が1ヶ月ほどで全快した。
なお、天狐とレイリンは全員の治療を終えた後もミッドランド市街に姿を現し、普通に暮らすようになった。とは言えその魔術知識は克の名に恥じず豊富であり、それを学ぼうと訪れる者が増えた。
新たな観光資源を得て、ミッドランドは事件の以前よりも活気付いたと言う。
「ほな、さらさらー、っと」
ヘレンは同盟締結の調印文書にサインし、トマスに返した。
「ありがとうございます」
「いやいや、お礼言うのんはこっちの方ですわ。なんやセイナちゃんがテンコさんと仲良うなったおかげで、ミッドランドも景気よーなったらしいやないですか。
ホンマ、あの子はすごい子ですわ」
「ええ、そうですね。敵をただ殺さず、仲間に引き入れて活かす。それは本当に難しいことですからね」
「うんうん。……ま、ウチらもそーでけたらいいんですけどなぁ」
ヘレンの言葉の裏に気付き、トマスは真面目に返答した。
「……ええ。僕たちの敵とも、いずれは平和的な付き合いができれば、それに越したことはないですよね」
「せやね。ま、頑張りや」
ヘレンはパチ、と、トマスにウインクした。
蒼天剣・調伏録 終
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小鈴の別れ。
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8.
「ちょ」
やってきた晴奈を見て、小鈴は口から心臓が飛び出すかと思うほど驚いた。
「そ、そ、そそ、ソイツ」
「ああ。降参したから、生かしてここまで連れて来た」
そう告げた晴奈に、全員が仰天した。
「ああ。やっぱり君は、『別の人形』なんだ」
回復したネロは、天狐から詳しく話を聞いた。
「人形って、何のこった?」
「ああ、こっちの話。
ええと、つまり君が今使っているその体は、湖水や草、土、魚なんかから作った仮の体ってこと、なんだね」
「そーだよ。何しろ本物の体が、こーなんだもん」
天狐は「傾国」でひょいと、黒水晶の中に封印された自分の本体を指し示す。
「ここら辺をうろついてたモンスターは、その練習台ってわけか」
目を覚ましたエルスも、話に加わる。
「そーそー。……ま、何体か逃げ出して、迷惑かけちまったみてーだな」
「ホントだよ、もうっ」
エルスやネロと同様に、レイリンも元通りに直された。
「ま、もう増えたりしねーし、後は退治してくれりゃ大丈夫だから。オレも協力するよ」
「本当に?」
「晴奈の姉さんからも頼まれたんだ。破ったりしねーさ」
天狐はにっこり笑い、晴奈の腕に抱きついた。
「おいおい……」
照れる晴奈に構わず、天狐はニコニコと微笑んで説明する。
「倒れた奴らも、ゆっくり休んでりゃ回復するから。……だから」
そこで天狐は申し訳無さそうに、ぺろっと舌を出した。
「魔力戻すってのは、勘弁してくんね? オレ、また動けなくなっちゃうもん」
「うーむ」
「それならさー」
と、レイリンが手を挙げた。
「アタシが一緒にいようかっ? 一緒にいれば、魔力が溜まるのも早いしっ。それならちょっとくらい戻しても大丈夫だよね、姉さんっ?」
「ん、まあ、それならいーけどよ」
これを聞いて、小鈴が反論する。
「ちょっと待ってよ。あたしはどーなんのよ? ここにアンタ置いてったら、あたし旅できなくなるじゃん」
「そっか、それもそうだよね」
レイリンはしばらく小鈴を見て、やがてこう答えた。
「……でも、ゴメンね小鈴。アタシは、もっと学びたいのっ。お師匠にはただ『封印』のコトしか聞いて無いから、天狐の姉さんからもっと、色んなコトを知りたいんだ」
「じゃあ、……勝手にしなさいよ」
小鈴はぷい、とレイリンに背を向けた。
「家にはあたしから、説明するわ。多分特ダネって喜んでくれるでしょ」
「……ゴメン、ホントにゴメンね、小鈴。楽しかったよ」
「いーわよ、そんなの。あたしも楽しかったし。……いつくらいに戻ってくる?」
「多分、4年か5年くらい。……だから小鈴、いつか言ってたよね? いつか落ち着いて結婚して、子供ができたらアタシを持たせて旅させようか、って。それ、できるよ」
「大きなお世話よ、んふふ……」
小鈴は背を向けたまま、両手を振ってやれやれと返した。
「……ま、楽しみにしてなさいよ。かーわいい子に、会わせたげるからね」
こうしてミッドランド事件は収束した。
天狐の言う通り、湖周辺を跋扈していたモンスターに生殖能力は無く、増殖する恐れは無かった。また、残っていたモンスターもすべて討伐され、湖及びその周辺の安全は確保された。
大量に魔力を失い衰弱していた者たちも、天狐とレイリンから魔力を戻され、全員が1ヶ月ほどで全快した。
なお、天狐とレイリンは全員の治療を終えた後もミッドランド市街に姿を現し、普通に暮らすようになった。とは言えその魔術知識は克の名に恥じず豊富であり、それを学ぼうと訪れる者が増えた。
新たな観光資源を得て、ミッドランドは事件の以前よりも活気付いたと言う。
「ほな、さらさらー、っと」
ヘレンは同盟締結の調印文書にサインし、トマスに返した。
「ありがとうございます」
「いやいや、お礼言うのんはこっちの方ですわ。なんやセイナちゃんがテンコさんと仲良うなったおかげで、ミッドランドも景気よーなったらしいやないですか。
ホンマ、あの子はすごい子ですわ」
「ええ、そうですね。敵をただ殺さず、仲間に引き入れて活かす。それは本当に難しいことですからね」
「うんうん。……ま、ウチらもそーでけたらいいんですけどなぁ」
ヘレンの言葉の裏に気付き、トマスは真面目に返答した。
「……ええ。僕たちの敵とも、いずれは平和的な付き合いができれば、それに越したことはないですよね」
「せやね。ま、頑張りや」
ヘレンはパチ、と、トマスにウインクした。
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~ Comment ~
NoTitle
勧善懲悪の終わりかた。
罪を憎んで人を憎まず。
この作品らしい終わり方で迎えつつあって良いですね。
(*^^)v
罪を憎んで人を憎まず。
この作品らしい終わり方で迎えつつあって良いですね。
(*^^)v
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NoTitle
魅力的なキャラを殺さずに済んで良かったですw