「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・共振録 1
晴奈の話、第517話。
うなだれ小鈴。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「はー……」
ゴールドコースト、赤虎亭。
「鈴林」を手放した小鈴は、ミッドランドからこちらに戻って以来ずっと、意気消沈していた。ここでも、店のカウンターに突っ伏して、ため息ばかりついている。
「ま、ウチの家宝だったもんなぁ。落ち込むのはしゃーない」
小鈴の従姉妹、朱海は小鈴の肩を優しく叩き、頭の横にトンと酒を置く。
「んでもすげー話じゃん、あの克に弟子がいて、杖の精のレイリンがその下に付いたなんて。
5年もすりゃ帰ってくるんだし、気長に待ってやれよ」
「うん……」
「ま、その間にさ」
朱海は薄桃色の封筒をパサ、と酒瓶の横に置いた。
「お見合いなんかどーよ」
「……はっ」
小鈴は顔を挙げ、鼻で笑う。
「ジョーダン。見合いなんか……」
「ま、そう言うなって。コレで男っ気つけてさ、自分で相手探すってのも手かもよ」
「普通は『会ってみたらいい人かもよ』って言わない、ソレ」
「いやー……。アタシもお見合い、気乗りしない性質だからさー」
「じゃ、何であたしに振るのよ」
朱海は困った顔になり、小鈴に耳打ちした。
「それはホラ、……母さんがうっさくってさー」
「ああ、叔母さんねぇ。『見合わせ屋』だもんね、あの人」
「そーなんだよ。アタシもそろそろ結婚しろ、結婚しろって言われるしさー、ここらで別のトコに目ぇ向けさせといたら、そっちに……」「あ」
朱海の言葉で、小鈴の頭にある閃きが走った。
「……ん? どした?」
「ゴメン、ちょっと出てくる。すぐ戻るし」
「……何でまた、お主と二人きりで買い物に来たのかな、私は」
晴奈は横にいるトマスに、そう問いかけた。
「僕じゃまずかった?」
「いや、そう言うわけでは無い。フォルナと明奈は一緒に出かけたそうだし、シリンと会おうかと思ったら『久しぶりにフェリオ帰ってきたからイチャイチャしたいねん』と臆面も無く返され、ネロとジーナの姿は見当たらない。小鈴も別に用事があると言うし。
暇だったのが、たまたま私とお主だけだったのだ」
「リロイは? 今日はずっと宿で休んでる予定だって聞いてたけど」
「……どうも、顔を合わせ辛い」
それを聞いて、トマスは口をとがらせる。
「じゃ、僕ならいいってこと? 僕に会うのは全然何とも無いってことなの?」
「む……、多少の語弊はあるが、まあ、そう言うことか」
「そんな……」
しょんぼりするトマスを見て、晴奈はクスッと笑った。
「何をうなだれてるのか……。
まあ、以前も買い物を共にしただろう? あれがなかなか楽しかった。丁度予定が開いているので、誘おうかと思ってな」
「……うん、それはどうも」
トマスは晴奈の言葉に満足しかけたが、すぐに「いやいやいやいや」と首を振った。
「やっぱりさ、セイナも無神経だと思うんだ、僕は」
「そうか。どこら辺が、かな」
そう返され、トマスは言葉に詰まった。
「え……、認めちゃうの?」
晴奈は肩をすくめ、さらにこう返した。
「私は自分が無神経と感じたことは特に無い。が、自分の欠点には気付きにくいものだし、人が無神経と言うなら、無神経に見えるのだろう。見えると言うなら結果的に、私は無神経と言うことになる。
自分の評判と言うものは結局、他人の意見を聞かねば分からぬことだ」
「大人だなあ」
そうつぶやいたトマスの額を、晴奈は苦笑しつつペチ、と叩いた。
「お主もとうに20を超えた大人だろうが。……まったく、……クスクス」
晴奈は何故か楽しくなり、クスクスと笑い出した。
「どうしたのさ……?」
「……いやいや、うん。戦いが一段落したからかな、楽しくてたまらぬ」
それを聞いて、トマスは顔をほころばせる。
「うん、そうだよね。多分央南に戻ったら忙しくなるだろうし、今くらいは楽しく過ごそっか」
「戻ったら、か。……」
晴奈はふと、心の中に何かまた、ざわめくものを感じた。
「ん? どうしたの?」
「……ああ、何でもない。そうだな、確かにまた、忙しくなるだろう。それまでは、楽しむとしようか」
そう言って晴奈は、ひょいとトマスの手を引いた。
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うなだれ小鈴。
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「はー……」
ゴールドコースト、赤虎亭。
「鈴林」を手放した小鈴は、ミッドランドからこちらに戻って以来ずっと、意気消沈していた。ここでも、店のカウンターに突っ伏して、ため息ばかりついている。
「ま、ウチの家宝だったもんなぁ。落ち込むのはしゃーない」
小鈴の従姉妹、朱海は小鈴の肩を優しく叩き、頭の横にトンと酒を置く。
「んでもすげー話じゃん、あの克に弟子がいて、杖の精のレイリンがその下に付いたなんて。
5年もすりゃ帰ってくるんだし、気長に待ってやれよ」
「うん……」
「ま、その間にさ」
朱海は薄桃色の封筒をパサ、と酒瓶の横に置いた。
「お見合いなんかどーよ」
「……はっ」
小鈴は顔を挙げ、鼻で笑う。
「ジョーダン。見合いなんか……」
「ま、そう言うなって。コレで男っ気つけてさ、自分で相手探すってのも手かもよ」
「普通は『会ってみたらいい人かもよ』って言わない、ソレ」
「いやー……。アタシもお見合い、気乗りしない性質だからさー」
「じゃ、何であたしに振るのよ」
朱海は困った顔になり、小鈴に耳打ちした。
「それはホラ、……母さんがうっさくってさー」
「ああ、叔母さんねぇ。『見合わせ屋』だもんね、あの人」
「そーなんだよ。アタシもそろそろ結婚しろ、結婚しろって言われるしさー、ここらで別のトコに目ぇ向けさせといたら、そっちに……」「あ」
朱海の言葉で、小鈴の頭にある閃きが走った。
「……ん? どした?」
「ゴメン、ちょっと出てくる。すぐ戻るし」
「……何でまた、お主と二人きりで買い物に来たのかな、私は」
晴奈は横にいるトマスに、そう問いかけた。
「僕じゃまずかった?」
「いや、そう言うわけでは無い。フォルナと明奈は一緒に出かけたそうだし、シリンと会おうかと思ったら『久しぶりにフェリオ帰ってきたからイチャイチャしたいねん』と臆面も無く返され、ネロとジーナの姿は見当たらない。小鈴も別に用事があると言うし。
暇だったのが、たまたま私とお主だけだったのだ」
「リロイは? 今日はずっと宿で休んでる予定だって聞いてたけど」
「……どうも、顔を合わせ辛い」
それを聞いて、トマスは口をとがらせる。
「じゃ、僕ならいいってこと? 僕に会うのは全然何とも無いってことなの?」
「む……、多少の語弊はあるが、まあ、そう言うことか」
「そんな……」
しょんぼりするトマスを見て、晴奈はクスッと笑った。
「何をうなだれてるのか……。
まあ、以前も買い物を共にしただろう? あれがなかなか楽しかった。丁度予定が開いているので、誘おうかと思ってな」
「……うん、それはどうも」
トマスは晴奈の言葉に満足しかけたが、すぐに「いやいやいやいや」と首を振った。
「やっぱりさ、セイナも無神経だと思うんだ、僕は」
「そうか。どこら辺が、かな」
そう返され、トマスは言葉に詰まった。
「え……、認めちゃうの?」
晴奈は肩をすくめ、さらにこう返した。
「私は自分が無神経と感じたことは特に無い。が、自分の欠点には気付きにくいものだし、人が無神経と言うなら、無神経に見えるのだろう。見えると言うなら結果的に、私は無神経と言うことになる。
自分の評判と言うものは結局、他人の意見を聞かねば分からぬことだ」
「大人だなあ」
そうつぶやいたトマスの額を、晴奈は苦笑しつつペチ、と叩いた。
「お主もとうに20を超えた大人だろうが。……まったく、……クスクス」
晴奈は何故か楽しくなり、クスクスと笑い出した。
「どうしたのさ……?」
「……いやいや、うん。戦いが一段落したからかな、楽しくてたまらぬ」
それを聞いて、トマスは顔をほころばせる。
「うん、そうだよね。多分央南に戻ったら忙しくなるだろうし、今くらいは楽しく過ごそっか」
「戻ったら、か。……」
晴奈はふと、心の中に何かまた、ざわめくものを感じた。
「ん? どうしたの?」
「……ああ、何でもない。そうだな、確かにまた、忙しくなるだろう。それまでは、楽しむとしようか」
そう言って晴奈は、ひょいとトマスの手を引いた。



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~ Comment ~
NoTitle
うむ。私も大概な無神経さなんですが。
それを気にしても仕方ないので。
言われても、自分の性分としか言いようがないので。
セイナはどうなのかな。。。
それを気にしても仕方ないので。
言われても、自分の性分としか言いようがないので。
セイナはどうなのかな。。。
- #1948 LandM
- URL
- 2014.08/06 22:16
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NoTitle
大体、自省する感性がある人は、無神経とは呼ばないと思いますし。
言われて「そんなことはない」と憤慨するトマスは、やっぱり無神経。