「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・共振録 3
晴奈の話、第519話。
小悪党を演じる。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
と、戸がカラカラと音を立てて開けられ、客が入ってくる。
「あ、いらっしゃ……、あれ?」
挨拶しかけた朱海が、意外そうな声を出した。
「おう、晴奈じゃないか」
「しばらくぶりです、朱海殿。……む?」
入ってきた客――晴奈とトマスが、カウンターに座っている小鈴とエルスに目を向けた。
「小鈴、……それに、エルスも。ここにいたのか」
「やあ、セイナ」
にっこりと笑いかけるエルスに対し、晴奈は逡巡する様子を見せる。と、背後にいたトマスが席に着くよう促した。
「どうしたの、セイナ? 早く座ろう」
「……あ、ああ」
仕方なく、晴奈は小鈴の横に座る。トマスも、その隣に続いて座った。
「え、と、その……」
晴奈はエルスの顔をチラチラと見たり、目を逸らしたりしている。
「何かな?」
対するエルスは、普段通りの笑顔で構える。
「……その、エルス。この前のこと、だが……」
そこでエルスと小鈴、朱海は、まだ晴奈に真実を打ち明けていないことに気付いた。
「ああ。あれ? それなら……」「それならね」
言いかけたエルスに、小鈴が割り込んだ。
「エルスさん……、エルス、あたしと付き合うコトになったし」「え」
そう答え、腕を取った小鈴に、晴奈とトマス、朱海、そして何よりエルスが驚いた。
「ちょっと、アンタ何を……」「あー、うん。そうなんだ、はは」
だが、何故かエルスもそれに乗ってしまう。
「な……っ」
当然、晴奈は呆然としている。
「……どう言うことだ」
そして次第に、晴奈の顔に険が現れ始めた。
「説明してもらおうか」
「うん。あの後ね、もう一度内省してみたんだけど、やっぱりタイプかどうかって言われたら、違うんじゃないかなってね。
それで君には悪いけど、この話は無かったことにさせてもらおうかなって考えてたんだ。そしたらコスズが、『付き合ってください』なーんて言うもんだからさ、思い切って……」
「……」
突然、晴奈は立ち上がった。
「……散々振り回しておいて、それか」
「うん」
「ふざけるなッ!」
晴奈はカウンターに置いてあった酒瓶をつかみ、エルスに投げつけた。
「ちょ……」
慌てる小鈴の目の前を飛び、酒瓶はエルスの顔面に叩きつけられた。
「……っ」
「ごめんね」
エルスは鼻からボタボタと血を流しながら、口角をわずかに上げて微笑み、短く謝罪した。
「御免で済むか、この、この……っ、……っ!」
晴奈はぐい、とトマスの腕を引っ張り、無理矢理にカウンターから立たせた。
「いてて、痛いって、セイナ」
「済まぬが朱海殿、日を改める。今日はもう、こいつの顔を見たくない」
「ああ、だろうな。またおいで」
「失礼した」
晴奈は肩を怒らせ、トマスを引きずるようにして赤虎亭を後にした。
開いたままの戸を眺めながら、エルスは苦笑した。
「……はは、そりゃ怒るよね」
「何バカなコト言ってんだ、アンタ」
朱海は呆れた目を、エルスに向けた。
「そりゃ怒るってもんだ。っつーかアタシだったら呆れちまうね。
何でまた、あんなコトを言ったんだ? しかもアンタと小鈴が付き合う? いつそんなコトになっちまったのさ?」
「方便だよ、はは。……だってさ、セイナのことだから、ずっと悩んでたと思うんだ。で、今もどう答えたらいいか、困ってたみたいだし。
変なこと言わせて後々尾を引いたり、こじれたりするのも、ね。ましてや本当に、僕のことを想うようになっちゃ本末転倒だし。それなら……」
「いっそコッチがきっぱり忘れさせられるよーな状況作ってあげようか、ってね」
二人から理由を聞いた朱海は、さらに呆れた顔になる。
「……やれやれ、とんだバカどもだな、お前ら。
少なくとも鼻血ボタボタ出してるヤツがカッコつけて言っても、欠片も説得力ねー台詞だよ」
「……そうだね。とりあえず、何か拭くものと、詰めるものを貸してもらっても? まだ止まんないや、はは……」
「……っ、……っ!」
晴奈は声にならない唸り声を上げながら、繁華街を進んでいた。
「早いよ、セイナ……」
トマスは依然、引きずられている。
「……ああ、……悪い」
ようやく我に返った晴奈は、立ち止まってトマスに振り返った。
「まあ、君が怒る理由も分かるけど……。いくらなんでも、求婚しておいて他の人と付き合うなんて、不実もいいところだ」
「ああ……」
晴奈は辺りを見回し、手ごろな椅子を見つけて座り込んだ。
「トマス、お主もこっちに来い。……何だか昼前だと言うのに、無闇に疲れてしまった」
「だろうね。……リロイ、災難だな」
そうつぶやいたトマスに、晴奈は口をとがらせた。
「災難? あれは自業自得だ。……まったく、真面目に考えた私が馬鹿だった」
「ま、そうだろうね。……気分転換でもしない?」
「うん?」
トマスは笑顔を作り、立ち上がった。
「ほら、そこに露店がある。飲み物買ってくるから、ここにいてよ。何がいい?」
「ん……。そうだな、走って喉も渇いたし。オレンジジュースを」
「分かった」
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と、戸がカラカラと音を立てて開けられ、客が入ってくる。
「あ、いらっしゃ……、あれ?」
挨拶しかけた朱海が、意外そうな声を出した。
「おう、晴奈じゃないか」
「しばらくぶりです、朱海殿。……む?」
入ってきた客――晴奈とトマスが、カウンターに座っている小鈴とエルスに目を向けた。
「小鈴、……それに、エルスも。ここにいたのか」
「やあ、セイナ」
にっこりと笑いかけるエルスに対し、晴奈は逡巡する様子を見せる。と、背後にいたトマスが席に着くよう促した。
「どうしたの、セイナ? 早く座ろう」
「……あ、ああ」
仕方なく、晴奈は小鈴の横に座る。トマスも、その隣に続いて座った。
「え、と、その……」
晴奈はエルスの顔をチラチラと見たり、目を逸らしたりしている。
「何かな?」
対するエルスは、普段通りの笑顔で構える。
「……その、エルス。この前のこと、だが……」
そこでエルスと小鈴、朱海は、まだ晴奈に真実を打ち明けていないことに気付いた。
「ああ。あれ? それなら……」「それならね」
言いかけたエルスに、小鈴が割り込んだ。
「エルスさん……、エルス、あたしと付き合うコトになったし」「え」
そう答え、腕を取った小鈴に、晴奈とトマス、朱海、そして何よりエルスが驚いた。
「ちょっと、アンタ何を……」「あー、うん。そうなんだ、はは」
だが、何故かエルスもそれに乗ってしまう。
「な……っ」
当然、晴奈は呆然としている。
「……どう言うことだ」
そして次第に、晴奈の顔に険が現れ始めた。
「説明してもらおうか」
「うん。あの後ね、もう一度内省してみたんだけど、やっぱりタイプかどうかって言われたら、違うんじゃないかなってね。
それで君には悪いけど、この話は無かったことにさせてもらおうかなって考えてたんだ。そしたらコスズが、『付き合ってください』なーんて言うもんだからさ、思い切って……」
「……」
突然、晴奈は立ち上がった。
「……散々振り回しておいて、それか」
「うん」
「ふざけるなッ!」
晴奈はカウンターに置いてあった酒瓶をつかみ、エルスに投げつけた。
「ちょ……」
慌てる小鈴の目の前を飛び、酒瓶はエルスの顔面に叩きつけられた。
「……っ」
「ごめんね」
エルスは鼻からボタボタと血を流しながら、口角をわずかに上げて微笑み、短く謝罪した。
「御免で済むか、この、この……っ、……っ!」
晴奈はぐい、とトマスの腕を引っ張り、無理矢理にカウンターから立たせた。
「いてて、痛いって、セイナ」
「済まぬが朱海殿、日を改める。今日はもう、こいつの顔を見たくない」
「ああ、だろうな。またおいで」
「失礼した」
晴奈は肩を怒らせ、トマスを引きずるようにして赤虎亭を後にした。
開いたままの戸を眺めながら、エルスは苦笑した。
「……はは、そりゃ怒るよね」
「何バカなコト言ってんだ、アンタ」
朱海は呆れた目を、エルスに向けた。
「そりゃ怒るってもんだ。っつーかアタシだったら呆れちまうね。
何でまた、あんなコトを言ったんだ? しかもアンタと小鈴が付き合う? いつそんなコトになっちまったのさ?」
「方便だよ、はは。……だってさ、セイナのことだから、ずっと悩んでたと思うんだ。で、今もどう答えたらいいか、困ってたみたいだし。
変なこと言わせて後々尾を引いたり、こじれたりするのも、ね。ましてや本当に、僕のことを想うようになっちゃ本末転倒だし。それなら……」
「いっそコッチがきっぱり忘れさせられるよーな状況作ってあげようか、ってね」
二人から理由を聞いた朱海は、さらに呆れた顔になる。
「……やれやれ、とんだバカどもだな、お前ら。
少なくとも鼻血ボタボタ出してるヤツがカッコつけて言っても、欠片も説得力ねー台詞だよ」
「……そうだね。とりあえず、何か拭くものと、詰めるものを貸してもらっても? まだ止まんないや、はは……」
「……っ、……っ!」
晴奈は声にならない唸り声を上げながら、繁華街を進んでいた。
「早いよ、セイナ……」
トマスは依然、引きずられている。
「……ああ、……悪い」
ようやく我に返った晴奈は、立ち止まってトマスに振り返った。
「まあ、君が怒る理由も分かるけど……。いくらなんでも、求婚しておいて他の人と付き合うなんて、不実もいいところだ」
「ああ……」
晴奈は辺りを見回し、手ごろな椅子を見つけて座り込んだ。
「トマス、お主もこっちに来い。……何だか昼前だと言うのに、無闇に疲れてしまった」
「だろうね。……リロイ、災難だな」
そうつぶやいたトマスに、晴奈は口をとがらせた。
「災難? あれは自業自得だ。……まったく、真面目に考えた私が馬鹿だった」
「ま、そうだろうね。……気分転換でもしない?」
「うん?」
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
毎度戦闘シーン、緊張したシーンばかりでは息苦しいですからね。
こんな風にのんびり、ゆるゆる過ごさせたりもしないとw
こんな風にのんびり、ゆるゆる過ごさせたりもしないとw
あ~いいなぁ、こんな何気ない日常場面があるとホッとする。
普段の強いセイナが逡巡している姿なんて想像するだけで楽しい。
普段の強いセイナが逡巡している姿なんて想像するだけで楽しい。
- #110 のくにぴゆう
- URL
- 2010.03/24 19:09
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NoTitle
晴奈とエルス、という組み合わせも有りと言えば有りだったので。
ただやはり、どこかしっくり来ない気持ちもあったので、
エルスには道化になってもらいました。