「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第8部
蒼天剣・有頂録 1
晴奈の話、第521話。
高みに達する。
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1.
ゴールドコーストでの用事も一通り済み、晴奈たちは央南への帰途に就いた。
「ふう……」
船の上に備え付けてある椅子にもたれ、晴奈は夕日を眺めていた。
(色々あったな、こんな短い間に)
旅をしていた間にも様々なことはあったが、ここ数ヶ月もまた、激動の時期と言えた。
(北方へ着き、黄海へ帰り、『蒼天』を手に入れ、湖の底へ潜り、黒炎殿の弟子と戦い……)
考えていくうちに、晴奈の思考が鈍ってくる。
(ん……、眠たくなってきた。少し、眠るか……)
晴奈は目を閉じ、短い眠りに就いた。
夢の中で、晴奈は山を登っていた。
いつか弟弟子と登った、紅蓮塞の裏山のような山道だった。
「はっ……、はっ……」
道のりはさほど辛くは無いはずなのに、晴奈の息は若干上がってきていた。
「はっ……、はっ……」
夢の中であるし、歩くのをやめても、誰も咎めはしないと分かっている。だが、晴奈は黙々と道を進んでいく。
「はっ……、はぁ、はぁ」
やがて山道は、かつて小鈴と越えた屏風山脈のような、急な斜面に変わっていた。
「はぁ、はぁ」
息をするのが、段々辛くなってくる。
「はぁ、はぁ、ぜぇ、はぁ」
ふと、晴奈は空を見上げた。
「はぁ……、はぁ……」
あの、死の淵で見た墜ち行く星が、空一杯に広がっていた。
「……っ」
晴奈はまた、歩き出した。
(私は……、どこに行こうとしている?)
自分に問いかける。
(この道の先に、何がある?)
問い続ける。
(何のために……、何を求めて……)
自分の心は、答えを出してくれなかった。
やがて、ただ歩くことにだけ専念する。
「……」
荒かった呼吸も、落ち着いてくる。
「……」
墜ちていた星も、今は朝焼けに紛れて見えない。
「……」
ふと、晴奈は気付く。
「白猫……」
自分の横に、同じように山道を登る白猫がいた。
《やあ》
「久しぶりだな」
《そうだね。一緒に行こうか》
「助かる」
言ってから、晴奈は自分の言葉に疑問を持った。
(助かる? 何がだ?)
《それじゃ進もう》
「あ、ああ」
二人で山道を登る。
どうやら、この山は相当高かったようだ。
「……っ」
吐く息が白くなる。額に流れていた汗が、湯気に変わっていく。
《マントあるけど、貸そうか?》
「ああ、ありがとう」
白猫から借りた真っ白なマントを羽織り、晴奈はさらに歩き続けた。
《あ、雪だ》
「む……」
鼻先に、ちょんと雪が落ちる。
いつの間にか、周りは雪によって白く塗り潰され、夕焼けによって鮮やかな橙色に照らされていた。
「お主は大丈夫なのか?」
《うん》
「そうか」
短く言葉を交わし、また黙々と歩き続けた。
また、夜が訪れる。
《キレイな星空じゃないか》
「そうだな」
今度は先程の墜ちる星ではなく、本物の星天だった。
《星天か……。く、ふふっ》
白猫が笑う。
「どうした?」
《ううん、何でも。頂上に着いてから話すよ》
「そうか」
降ってはいないが、足元には膝の高さにまで雪が積もっていた。
《もうすぐだよ、セイナ》
「そうか」
確かに白猫の言う通り、道の先には山の頂が見えてきていた。
《もうすぐ》
「ああ」
雪に足を取られながらも、何とか足を上げて進んでいく。
《もうすぐだ》
「分かった」
やがて、二人は山の頂に到着した。
《おつかれさん》
「ありがとう」
《ああ……、いい景色じゃないか》
白猫が指し示したのは、真上だった。
《蒼い空だ。ほら、つかんでごらんよ》
「つかむ?」
《そう。ほら、手を挙げて》
白猫の言う通りに、晴奈は右手を挙げてつかむ仕草をした。
「……?」
確かに何か、感触はあった。しかし、今までに経験してきたどんな感覚を引き出しても、その感触を言い表すことができない。
《おめでとう、セイナ。キミは今、天をつかんだんだ》
「天、を?」
《そう。蒼天を握り、星天に舞う剣士、黄晴奈。キミは今、どこにいる?》
「どこに? ……!」
晴奈は足元を見て、すべてを悟った。
「頂点。……そうか、頂点なのか、ここが」
《そう。27歳のキミは今、剣士としてのピーク、頂点に到達した。タイカさんの弟子二人と戦い、勝ったコトで、キミは完成した。
ここが、ピークなんだ》
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1.
ゴールドコーストでの用事も一通り済み、晴奈たちは央南への帰途に就いた。
「ふう……」
船の上に備え付けてある椅子にもたれ、晴奈は夕日を眺めていた。
(色々あったな、こんな短い間に)
旅をしていた間にも様々なことはあったが、ここ数ヶ月もまた、激動の時期と言えた。
(北方へ着き、黄海へ帰り、『蒼天』を手に入れ、湖の底へ潜り、黒炎殿の弟子と戦い……)
考えていくうちに、晴奈の思考が鈍ってくる。
(ん……、眠たくなってきた。少し、眠るか……)
晴奈は目を閉じ、短い眠りに就いた。
夢の中で、晴奈は山を登っていた。
いつか弟弟子と登った、紅蓮塞の裏山のような山道だった。
「はっ……、はっ……」
道のりはさほど辛くは無いはずなのに、晴奈の息は若干上がってきていた。
「はっ……、はっ……」
夢の中であるし、歩くのをやめても、誰も咎めはしないと分かっている。だが、晴奈は黙々と道を進んでいく。
「はっ……、はぁ、はぁ」
やがて山道は、かつて小鈴と越えた屏風山脈のような、急な斜面に変わっていた。
「はぁ、はぁ」
息をするのが、段々辛くなってくる。
「はぁ、はぁ、ぜぇ、はぁ」
ふと、晴奈は空を見上げた。
「はぁ……、はぁ……」
あの、死の淵で見た墜ち行く星が、空一杯に広がっていた。
「……っ」
晴奈はまた、歩き出した。
(私は……、どこに行こうとしている?)
自分に問いかける。
(この道の先に、何がある?)
問い続ける。
(何のために……、何を求めて……)
自分の心は、答えを出してくれなかった。
やがて、ただ歩くことにだけ専念する。
「……」
荒かった呼吸も、落ち着いてくる。
「……」
墜ちていた星も、今は朝焼けに紛れて見えない。
「……」
ふと、晴奈は気付く。
「白猫……」
自分の横に、同じように山道を登る白猫がいた。
《やあ》
「久しぶりだな」
《そうだね。一緒に行こうか》
「助かる」
言ってから、晴奈は自分の言葉に疑問を持った。
(助かる? 何がだ?)
《それじゃ進もう》
「あ、ああ」
二人で山道を登る。
どうやら、この山は相当高かったようだ。
「……っ」
吐く息が白くなる。額に流れていた汗が、湯気に変わっていく。
《マントあるけど、貸そうか?》
「ああ、ありがとう」
白猫から借りた真っ白なマントを羽織り、晴奈はさらに歩き続けた。
《あ、雪だ》
「む……」
鼻先に、ちょんと雪が落ちる。
いつの間にか、周りは雪によって白く塗り潰され、夕焼けによって鮮やかな橙色に照らされていた。
「お主は大丈夫なのか?」
《うん》
「そうか」
短く言葉を交わし、また黙々と歩き続けた。
また、夜が訪れる。
《キレイな星空じゃないか》
「そうだな」
今度は先程の墜ちる星ではなく、本物の星天だった。
《星天か……。く、ふふっ》
白猫が笑う。
「どうした?」
《ううん、何でも。頂上に着いてから話すよ》
「そうか」
降ってはいないが、足元には膝の高さにまで雪が積もっていた。
《もうすぐだよ、セイナ》
「そうか」
確かに白猫の言う通り、道の先には山の頂が見えてきていた。
《もうすぐ》
「ああ」
雪に足を取られながらも、何とか足を上げて進んでいく。
《もうすぐだ》
「分かった」
やがて、二人は山の頂に到着した。
《おつかれさん》
「ありがとう」
《ああ……、いい景色じゃないか》
白猫が指し示したのは、真上だった。
《蒼い空だ。ほら、つかんでごらんよ》
「つかむ?」
《そう。ほら、手を挙げて》
白猫の言う通りに、晴奈は右手を挙げてつかむ仕草をした。
「……?」
確かに何か、感触はあった。しかし、今までに経験してきたどんな感覚を引き出しても、その感触を言い表すことができない。
《おめでとう、セイナ。キミは今、天をつかんだんだ》
「天、を?」
《そう。蒼天を握り、星天に舞う剣士、黄晴奈。キミは今、どこにいる?》
「どこに? ……!」
晴奈は足元を見て、すべてを悟った。
「頂点。……そうか、頂点なのか、ここが」
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双月千年世界 3;白猫夢

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ピークがやってきた。
それでも人生が続く。
人生とは奥深いものです。
ピークとはもっともうれしい時期であり、もっとも悲しい時期なのかもしれませんね。
それでも人生が続く。
人生とは奥深いものです。
ピークとはもっともうれしい時期であり、もっとも悲しい時期なのかもしれませんね。
- #1956 LandM
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- 2014.08/18 22:40
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NoTitle
己の頂点が人生の最後ではなく、その半ばで来ることだと思います。
一度高みに登れば、後は延々と下りが待つだけ。
ただ、登った山が高ければ高かったほど、
下りの絶景を楽しむ時間と余裕がある、と言う気もします。
まだ下りに差し掛かった覚えは無いので、
本当にそうなのかは断言しかねますが。