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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第2部

    蒼天剣・夢幻録 1

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    晴奈の話、第62話。
    紅蓮塞の記念すべき日。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     514年、春。いつもはむさ苦しい紅蓮塞が、今日は華やかに染まっていた。
     現在の家元、焔重蔵の孫である桐村良太と、焔流の女剣士、柊雪乃の婚礼が行われるためである。

    「うっわー」
     宿場街を歩いていた橘は、普段とあまりにも違う塞内の様子に驚いていた。
    「すっご、大イベントじゃないの」
     どこを見ても、「焔家 ご成婚記念」ののぼりが立っている。
    「ご成婚記念、ねぇ。まあ言ってみりゃ、良太くんってこの街の王子サマだもんね」
     雰囲気に流され、橘は道端の露店で温泉まんじゅうを買う。
     が、食べようと包みを開いた瞬間、思わず吹き出してしまった。
    「ぷっ」
     まんじゅうすべてに良太と雪乃の顔が、焼印で押されていたからだ。
    「ココまで来るとちょっと引くわー。食べられないってば、こんなの」
     と、一人冗談をこぼしつつ、口にぽい、と放り込む。
    「はむっ。……うっわ、あっまーい」
     橘は頬を押さえながら、まんじゅうすら甘ったるい、この街の浮かれようを笑っていた。
    「二人の仲を祝って、ってコトなのかしらねー。でもこのデザインはありえないでしょ」
     そう評しつつ、先ほどの露店を振り返ると――。
    「ぶふっ」
    「これ、良太さんかしら」
     あごひげを生やした侍風の、子供を背負った短耳の男と、見るからにおしとやかな白い「狐」の女性が、まんじゅうを見て笑っていた。

    「こりゃねーよ、わはは……」
    「本当、少しお遊びが過ぎますね、ふふ……」
     謙と棗はそのまんじゅうを見つめ、大笑いしていた。
    「むぐ。……あら、とっても甘い」
    「ほう。一つくれないか」
     桃を背負って両手がふさがっているため、棗が謙の口にまんじゅうを運ぶ。
    「はい、どうぞ」
    「むしゃ。……うは、甘いなぁ」
     謙は顔をしかめつつも、まんじゅうを飲み込む。
    「おかーさーん、あたしもー」
     続いてまんじゅうをせがんだ桃にも、棗が食べさせた。
    「はいはい。ほら、あーんして」
    「あーん。……ほんとだ、あまーい」
     まんじゅうをつまみつつ、梶原夫妻は今日の主役について意見を交わす。
    「しかし雪乃があの子と結婚するとは。何度考えてもしっくり来ないんだよな」
    「そうでも無いですよ。良太さんは芯が清く、優しい方ですもの。雪乃さんには、それが良く分かっていらっしゃるのよ」
    「まあ、そうだな。頼りないところはあったが、その点は雪乃が補ってやるだろうからな。そう考えると、似合いの二人なのかも知れん」
     と、ここで桃が口を挟んでくる。
    「ねえ、おとうさん。ゆきのさんって、どんなひと?」
    「んー、そうだな。ちょっとオクテだけど、気が良くて明るい、いい子だな」
    「おくて、って?」
    「あー、と、どう言ったもんか。
     ……そうだな、例えばあっちの露店で、このまんじゅうを食べようかどうしようか、もじもじしてるような奴って感じだな」
    「あのちゃいろの『とら』さん?」

    「か、顔が。……うーん」
     買ったまんじゅうを見て、柏木は硬直した。
    「こう言うの、苦手なんだよなぁ。うぐいす餅とかひよこまんじゅうとか人形焼きとか、動物とか人っぽいお菓子。
     しかしおめでたいものだし、食べないと悪いよなぁ」
     意を決して、口にぽい、と入れる。
    「……ぐ、んがっ!?」
     が、口に投げる勢いが良すぎたために、のどに詰まらせてしまった。
    「ゲホ、ゴホ、ぐえ、ゲホ……」
     柏木はのどを押さえ、悶絶する。
     と、そこへ梶原一家が慌てて寄って来た。
    「だ、大丈夫ですか!? ……えいっ!」
     棗が柏木の背中をバシバシと叩き、まんじゅうを柏木ののどから叩き出した。
    「げっ、ゴホッ、……ハァハァ」
     顔を真っ赤にしたまま、柏木は棗に礼を言う。
    「す、すみません、お騒がせ……、ゲホ」
    「無理なさらないで。……はい、お水」
     棗の差し出した水をガブガブと飲み、柏木はようやく落ち着いた。
    「はー、はー」
    「おいおい、焔剣士ともあろう者が情けねーなぁ」
     呆れた顔でつぶやいた謙に、柏木が目を丸くする。
    「え? あ、あなたも焔の方ですか?」
    「おう。俺の名は樫原謙だ、よろしくな」
    「あ、これはどうも。私、柏木栄一と申します。青江は楢崎瞬二派の、焔流の者です」
     柏木の自己紹介を聞いた謙は目を丸くした。
    「え? 君、楢崎さんのお弟子さんか? いやー、こりゃどうもどうも」
    「先生をご存知なんですか?」
    「塞にいた時にゃ、お世話になったもんだ。っと、ちゃんと名乗らなきゃな。本家、焔流免許皆伝の身だ。よろしくな」
     道端で自己紹介を始めた途端、周り中から同じような声が沸き起こる。
    「楢崎先輩なら、私も知ってます!」
    「え、君も?」
    「じゃ、本家?」
    「わあ、私も教えてもらったんですよ!」
     ざわめく宿場街を見て、騒ぎの発端となった謙と柏木は、互いに困った顔をした。
    「はは……、雪乃に会うはずが、これじゃ同窓会だ」
    「思いがけず、ですね……」



    「何なのよー、ホント」
     急に込み始めた街路を縫うように歩きながら、橘はブツブツ文句を言う。
    「通れないっつーの。……もう、服がグチャグチャになっちゃうじゃん!」
     橘は袖を互い違いに握りしめながら、杖を懐に挟んでじりじりと進む。
    「よいしょー、よいしょっ」
     人ごみを何とか切り抜け、細道に入る。そこで巫女服の乱れを直し、杖が無事なことを確認する。
    「33、34、35……、36、と。よし、鈴は全部無事ね」
     杖に付けた鈴をシャラシャラ鳴らして、問題が無いことを確認した。
     と――視界の端に、人の顔が見えた。
    「あれ?」
     一瞬見えたその顔に、橘は見覚えがある。いや、あるどころでは無い。
    「え、雪乃?」
     橘はその人物が向かった細い路地に入ってみる。
    「おーい?」
     だが、路地には橘以外には、誰の姿も無かった。
    「……見間違い? 一瞬、雪乃がいたと思ったんだけど」

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.09 転載
    2016.02.21 修正
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    NoTitle 

    2部までのメインキャラ総集合ですからね。
    一杯出ますよ。

    NoTitle 

    兼さんだけ忘れてしまったv-407
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