「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
公安チームの挑戦 9
スピンオフ、第9話。
金を奪い、奪われて。
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金を奪い、奪われて。
9.
すっかり気力を無くした元頭取から、ジュリアたちは事件の真相を聞いた。
「確かに、私にはかなりの額の借金がありました。事件の前には既に、家も抵当に入っている状態でした。ともかく、まとまった金が必要だったわけです。
しかし単に金塊を奪えば、捜査の手は私に向かい、いずれは逮捕される。それはもちろん嫌です。だから誰かに盗まれた、と言う形を執ることにしたんです。まあ、それでも頭取の地位から追われることにはなるでしょうが、余分にお金を盗んでおけば後の人生、悠々自適に暮らせるじゃないか、と。
そう思って、借金以上の額――8百万クラムもの金塊を持ち出したわけです。どうせ盗むなら、と思って」
「そしてスポルト氏に罪を着せた、と。何故彼に?」
「彼とは賭場で知り合ったんです。私にとっては借金を膨らませる場、彼にとっては憂さ晴らしの場でしたけれども。
まあ、どっちにしても私も彼も借金まみれでしたし、犯行動機を公安が検討するなら、持って来いの人物だなと。借金返済のために、と言うならつじつまが合いますから。
で、彼の友人を盗んできたインゴット1枚で買収して、嘘の証言をしてもらったわけです」
「なるほど……、これで状況に納得が行きました。
スポルト氏の友人が通報したことで発覚したと言うことはつまり、通報されるまで誰も気付かなかったと言うこと。あなたは発覚させるまでに、気付かれない量を少しずつ盗み出し、どこかに運び出していたんですね。
それ以外、他に方法は無いのですから――あの金庫から物を持ち出すには、頭取か、副頭取の権限が必要。破るのは不可能。となれば、持ち出せるのは2名しかいない」
「……その通りです。で、私の身の回りを調べられた、と」
「ええ。副頭取には犯行を行う理由はありませんでした。しかしあなたには、行う理由があった。
犯行が可能で、なおかつ動機があるのは、あなただけだったんです」
うなだれ、沈黙する頭取に、ジュリアは続けてこう言った。
「しかしそうなると、もう一つ疑問が浮かんできます」
ジュリアは傾いた店を一瞥し、その疑問をぶつけた。
「何故、あなたはこのような生活をなさっているんです? 2億エル相当の金を持っていたならば、とっくに市外へ脱出できたはずでしょう?
てっきり盗んだ金で悠々自適の生活をされていると思い、住所を調べてみたら、非常に驚かされましたよ」
「そうできなかったんですよ。なぜなら」
元頭取は椅子に座り込み、とんでもない事実を漏らした。
「あは、は、は……。盗まれちゃったんですよ。私の家に隠した50キロの金塊を、丸ごと」
「じゃあ、元頭取は?」
「逮捕したわ。元々あの暮らしに嫌気が差してて、ずっと自首しようかどうか迷ってたらしいけど、私たちが訪ねたことで、踏ん切りがついたみたい。素直に連行できたわ」
それを聞いて、バートは苦い顔をした。
「そこで踏ん切りってのも、ふてぶてしいっつーか、何つーか……。んでその、スポルトの友人は?」
「それが、気になることがあるのよ。事実が発覚したから、逮捕しようと彼のところに向かったの。でも彼は、姿を消してしまっていたのよ」
「……何だって?」
けげんな表情を浮かべるバートに、フォルナが応じる。
「恐らくは、わたくしたちがもう一度捜査を始めたことで、何かしら危惧されたのでしょう。そして元頭取が逮捕されたのを察知し、いち早く姿をくらました、……と」
「まだこの件、裏ありそうっスね」
「面倒臭えなぁ」
バートは顔を両手で覆い、うんざりした声を漏らした。
「でも、かなり進展したわ。
元頭取の証言によれば、彼はコツコツ盗んでいた金塊を、自分の屋敷の隠し部屋に収めていたそうよ」
「出た、隠し部屋! いかにもな隠し方だな」
バートの茶々を無視し、ジュリアは続ける。
「暖炉の奥に造っていたそうだけど、いざ市外逃亡を図ろうとして中を確かめたら、一本も残っていなかったそうよ。
犯行が行われたのは夏で、暖炉の奥に造っていた、……となれば、盗まれた手口は単純。煙突から侵入して、奪っていったんでしょうね」
「まあ、どうやったかは見当付くけど……、じゃあ誰がやったんだ?」
ジュリアは肩をすくめ、こう結論付けた。
「彼が隠し部屋を持っていて、そこに金塊があるのを知っている可能性があるのは、別れた奥さんや使用人など、何人か候補に挙げられるわ。
でも今、非常にその可能性を濃くした人物は――元頭取からインゴットを受け取った、スポルト氏の友人よ」
すっかり気力を無くした元頭取から、ジュリアたちは事件の真相を聞いた。
「確かに、私にはかなりの額の借金がありました。事件の前には既に、家も抵当に入っている状態でした。ともかく、まとまった金が必要だったわけです。
しかし単に金塊を奪えば、捜査の手は私に向かい、いずれは逮捕される。それはもちろん嫌です。だから誰かに盗まれた、と言う形を執ることにしたんです。まあ、それでも頭取の地位から追われることにはなるでしょうが、余分にお金を盗んでおけば後の人生、悠々自適に暮らせるじゃないか、と。
そう思って、借金以上の額――8百万クラムもの金塊を持ち出したわけです。どうせ盗むなら、と思って」
「そしてスポルト氏に罪を着せた、と。何故彼に?」
「彼とは賭場で知り合ったんです。私にとっては借金を膨らませる場、彼にとっては憂さ晴らしの場でしたけれども。
まあ、どっちにしても私も彼も借金まみれでしたし、犯行動機を公安が検討するなら、持って来いの人物だなと。借金返済のために、と言うならつじつまが合いますから。
で、彼の友人を盗んできたインゴット1枚で買収して、嘘の証言をしてもらったわけです」
「なるほど……、これで状況に納得が行きました。
スポルト氏の友人が通報したことで発覚したと言うことはつまり、通報されるまで誰も気付かなかったと言うこと。あなたは発覚させるまでに、気付かれない量を少しずつ盗み出し、どこかに運び出していたんですね。
それ以外、他に方法は無いのですから――あの金庫から物を持ち出すには、頭取か、副頭取の権限が必要。破るのは不可能。となれば、持ち出せるのは2名しかいない」
「……その通りです。で、私の身の回りを調べられた、と」
「ええ。副頭取には犯行を行う理由はありませんでした。しかしあなたには、行う理由があった。
犯行が可能で、なおかつ動機があるのは、あなただけだったんです」
うなだれ、沈黙する頭取に、ジュリアは続けてこう言った。
「しかしそうなると、もう一つ疑問が浮かんできます」
ジュリアは傾いた店を一瞥し、その疑問をぶつけた。
「何故、あなたはこのような生活をなさっているんです? 2億エル相当の金を持っていたならば、とっくに市外へ脱出できたはずでしょう?
てっきり盗んだ金で悠々自適の生活をされていると思い、住所を調べてみたら、非常に驚かされましたよ」
「そうできなかったんですよ。なぜなら」
元頭取は椅子に座り込み、とんでもない事実を漏らした。
「あは、は、は……。盗まれちゃったんですよ。私の家に隠した50キロの金塊を、丸ごと」
「じゃあ、元頭取は?」
「逮捕したわ。元々あの暮らしに嫌気が差してて、ずっと自首しようかどうか迷ってたらしいけど、私たちが訪ねたことで、踏ん切りがついたみたい。素直に連行できたわ」
それを聞いて、バートは苦い顔をした。
「そこで踏ん切りってのも、ふてぶてしいっつーか、何つーか……。んでその、スポルトの友人は?」
「それが、気になることがあるのよ。事実が発覚したから、逮捕しようと彼のところに向かったの。でも彼は、姿を消してしまっていたのよ」
「……何だって?」
けげんな表情を浮かべるバートに、フォルナが応じる。
「恐らくは、わたくしたちがもう一度捜査を始めたことで、何かしら危惧されたのでしょう。そして元頭取が逮捕されたのを察知し、いち早く姿をくらました、……と」
「まだこの件、裏ありそうっスね」
「面倒臭えなぁ」
バートは顔を両手で覆い、うんざりした声を漏らした。
「でも、かなり進展したわ。
元頭取の証言によれば、彼はコツコツ盗んでいた金塊を、自分の屋敷の隠し部屋に収めていたそうよ」
「出た、隠し部屋! いかにもな隠し方だな」
バートの茶々を無視し、ジュリアは続ける。
「暖炉の奥に造っていたそうだけど、いざ市外逃亡を図ろうとして中を確かめたら、一本も残っていなかったそうよ。
犯行が行われたのは夏で、暖炉の奥に造っていた、……となれば、盗まれた手口は単純。煙突から侵入して、奪っていったんでしょうね」
「まあ、どうやったかは見当付くけど……、じゃあ誰がやったんだ?」
ジュリアは肩をすくめ、こう結論付けた。
「彼が隠し部屋を持っていて、そこに金塊があるのを知っている可能性があるのは、別れた奥さんや使用人など、何人か候補に挙げられるわ。
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