「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
公安チームの挑戦 10
スピンオフ、第10話。
地下世界の奥で。
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地下世界の奥で。
10.
市民の生活水準の向上のため、その場所は造られた。
地上の汚れを吸い取り、市外へと吐き出す役割を与えられ、街の成長と共に発達したその道は、物理的・物質的な汚れの他に、社会的・倫理的な汚れも請け負うようになっていた。
今では街の管理者さえも、その全貌を把握できなくなった地下世界――ゴールドコーストの下水道は、一つの魔窟、ダンジョンと化していた。
彼はその魔窟の一角に身を潜めたところで、安堵のため息を漏らした。
「……は、あ」
彼が今、身を潜めているのは、かつては地上にあった大きな宿のために造られた、下水道の側道に面する、パイプに囲まれた小さな部屋だった。
半世紀近く前に宿は閉鎖され、この地下部分の一室だけが残っていた。地上から踏み入られることは無く、やましいところのある人間が身を潜めるには、最適の場所と言えた。
(……準備しておいて正解だったよな。いつバレるか、いつバレるかって、この6年ずっと不安だったんだ。
そう。俺は準備したんだ。金塊を盗んでから、いつバレて追われてもいいようにってな。ここに金塊を隠して、いつでも来られるよう、この辺りの道は全部覚えた。外へ抜ける道も確保してある。
幸い6年も時間があったから、いつでも逃げ出せる手段も、整えられたし)
と、彼は立ち上がり、かつて偽の証言の中で述べた友の様子と同じように、その金塊の上にどすんと腰を下ろし、煙草に火を点けた。
「……ふう」
無心に一本吸い終え、続いてもう一本口にくわえる。
「……」
二本目に火を点けながら、彼はこの後のことを考え始めた。
(もう一日、二日、ここでやり過ごして、それから街を出よう。……それから、どこへ行くか。あんまり街に近いと、見つかるかも知れない。
もっと遠く、央南とか南海とか、そこら辺がいいかな。央南の方がいいかな。一度行ってみたいと思ってたし。でも言葉通じるかな。通じないと不便だよな。あ、それは南海も一緒だよな。……じゃ、央南に行こうかな)
考えるうちに、二本目の煙草も吸い終わる。
「……さて、と」
彼は煙草を足元に捨て、立ち上がった。
その時だった。
「動くな」
「……っ」
部屋の出入り口から、ぞろぞろと公安職員――ジュリアたちチームの全員が入ってきた。
「ニール・サックスだな。ドゥエ・スポルト氏の友人で、金塊盗んだのはスポルト氏だって証言した」
始めに乗り込んだバートの言葉に、彼は静かにうなずいた。
「……ああ」
「窃盗罪、及び偽証罪で逮捕します」
続いて口を開いたジュリアの言葉にも、彼は従った。
「……分かった」
彼は三本目の煙草に火を点け、一息吸ってから尋ねた。
「何でここが?」
「この半月、下水道を調べてたからな。元頭取の屋敷から50キロの荷物を運んで隠れられそうな場所なんて、そんなに数は無い。すぐ見当が付いた」
「そうか」
吸いかけていた三本目の煙草を途中で踏み消し、彼は濁った息を吐き出した。
「……逃げりゃ良かったんだよな、さっさと。遅かれ早かれ、俺も追われるってのは分かってたのにな。
でも心のどこかで、もしかしたら永遠にバレないんじゃ……、なんて思ったりもしたんだよな。……なわけないだろ、ってな」
彼の独白を、公安職員たちは黙って聞いていた。
「あーあ……、この6年、楽しくなかったぜ。何やってても、いつこのことがバレるかって、不安で不安でたまらなかった。
バカバカしいな、こうやって捕まってみたら。さっさと逃げてりゃなーんにも心配せず、大金持ちだったのになぁ」
彼がそこまで言ったところで、フォルナは彼に近寄った。
「手錠か? ほれ」
彼は両手を出したが、フォルナはそれに応じず、代わりに平手をぶつけた。
「いって……」
「勝手なことばかり! あなたたちの嘘と行動で、一体どれだけの人が迷惑を被ったと!?」
「知ったこっちゃねえな。どうでもいい。俺は自分のこと考えるので、精一杯だったし」
「てめえ……」
と、バートも声を荒げ、彼に食って掛かった。
「もっぺん言ってみろや、今のセリフをよ?
てめーがハメて街から追い払った、てめーのダチの前で」
「……」
彼は挙げていた両手をだらりと下げ、ぼそりとつぶやいた。
「……とことんクズだな、本当に俺は」
彼は力なく笑い、肩をすくめた。
市民の生活水準の向上のため、その場所は造られた。
地上の汚れを吸い取り、市外へと吐き出す役割を与えられ、街の成長と共に発達したその道は、物理的・物質的な汚れの他に、社会的・倫理的な汚れも請け負うようになっていた。
今では街の管理者さえも、その全貌を把握できなくなった地下世界――ゴールドコーストの下水道は、一つの魔窟、ダンジョンと化していた。
彼はその魔窟の一角に身を潜めたところで、安堵のため息を漏らした。
「……は、あ」
彼が今、身を潜めているのは、かつては地上にあった大きな宿のために造られた、下水道の側道に面する、パイプに囲まれた小さな部屋だった。
半世紀近く前に宿は閉鎖され、この地下部分の一室だけが残っていた。地上から踏み入られることは無く、やましいところのある人間が身を潜めるには、最適の場所と言えた。
(……準備しておいて正解だったよな。いつバレるか、いつバレるかって、この6年ずっと不安だったんだ。
そう。俺は準備したんだ。金塊を盗んでから、いつバレて追われてもいいようにってな。ここに金塊を隠して、いつでも来られるよう、この辺りの道は全部覚えた。外へ抜ける道も確保してある。
幸い6年も時間があったから、いつでも逃げ出せる手段も、整えられたし)
と、彼は立ち上がり、かつて偽の証言の中で述べた友の様子と同じように、その金塊の上にどすんと腰を下ろし、煙草に火を点けた。
「……ふう」
無心に一本吸い終え、続いてもう一本口にくわえる。
「……」
二本目に火を点けながら、彼はこの後のことを考え始めた。
(もう一日、二日、ここでやり過ごして、それから街を出よう。……それから、どこへ行くか。あんまり街に近いと、見つかるかも知れない。
もっと遠く、央南とか南海とか、そこら辺がいいかな。央南の方がいいかな。一度行ってみたいと思ってたし。でも言葉通じるかな。通じないと不便だよな。あ、それは南海も一緒だよな。……じゃ、央南に行こうかな)
考えるうちに、二本目の煙草も吸い終わる。
「……さて、と」
彼は煙草を足元に捨て、立ち上がった。
その時だった。
「動くな」
「……っ」
部屋の出入り口から、ぞろぞろと公安職員――ジュリアたちチームの全員が入ってきた。
「ニール・サックスだな。ドゥエ・スポルト氏の友人で、金塊盗んだのはスポルト氏だって証言した」
始めに乗り込んだバートの言葉に、彼は静かにうなずいた。
「……ああ」
「窃盗罪、及び偽証罪で逮捕します」
続いて口を開いたジュリアの言葉にも、彼は従った。
「……分かった」
彼は三本目の煙草に火を点け、一息吸ってから尋ねた。
「何でここが?」
「この半月、下水道を調べてたからな。元頭取の屋敷から50キロの荷物を運んで隠れられそうな場所なんて、そんなに数は無い。すぐ見当が付いた」
「そうか」
吸いかけていた三本目の煙草を途中で踏み消し、彼は濁った息を吐き出した。
「……逃げりゃ良かったんだよな、さっさと。遅かれ早かれ、俺も追われるってのは分かってたのにな。
でも心のどこかで、もしかしたら永遠にバレないんじゃ……、なんて思ったりもしたんだよな。……なわけないだろ、ってな」
彼の独白を、公安職員たちは黙って聞いていた。
「あーあ……、この6年、楽しくなかったぜ。何やってても、いつこのことがバレるかって、不安で不安でたまらなかった。
バカバカしいな、こうやって捕まってみたら。さっさと逃げてりゃなーんにも心配せず、大金持ちだったのになぁ」
彼がそこまで言ったところで、フォルナは彼に近寄った。
「手錠か? ほれ」
彼は両手を出したが、フォルナはそれに応じず、代わりに平手をぶつけた。
「いって……」
「勝手なことばかり! あなたたちの嘘と行動で、一体どれだけの人が迷惑を被ったと!?」
「知ったこっちゃねえな。どうでもいい。俺は自分のこと考えるので、精一杯だったし」
「てめえ……」
と、バートも声を荒げ、彼に食って掛かった。
「もっぺん言ってみろや、今のセリフをよ?
てめーがハメて街から追い払った、てめーのダチの前で」
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彼は挙げていた両手をだらりと下げ、ぼそりとつぶやいた。
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彼は力なく笑い、肩をすくめた。
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