「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第2部
蒼天剣・夢幻録 2
晴奈の話、第63話。
雪乃の今後と、橘たちの邂逅。
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2.
宿場街と修行場の境にある、催事場の新婦控え室。
「夢みたい……」
白無垢の装束を羽織った雪乃が、側にいた晴奈につぶやく。
「わたしが、結婚するなんて」
「大丈夫です。夢ではありません」
晴奈も普段の道着姿とは違い、振袖を着てめかし込んでいる。
「……そうね、ふふ」
晴奈に髪をとかしてもらいながら、雪乃は幸せそうに笑う。
「ところで、……師匠」
「ん?」
「今後はどうされるのですか?」
晴奈はためらいつつも、雪乃の身の振りについて尋ねる。
「刀は置かないわ。それは確か」
「そうですか」
晴奈は内心、ほっとする。
それを鏡越しに見透かしたらしく、雪乃がクスッと笑う。
「あら、やめちゃうと思ってた?」
「えっ? あ、いや、その」
動揺する晴奈を見て、雪乃はまた笑う。
「剣士の道は、わたしの人生そのものだもの。それを捨てたら、わたしと言う人間が一気にぼやけてしまいそうだから」
「……そうですね。私も、刀を置いた師匠と言うのは想像もつきません」
「あら、わたしはそんなに無骨な女かしら?」
いじわるっぽく笑う師匠に、晴奈は苦笑しつつこう返した。
「いやいや、そんなことは。私にとって師匠は、理想の女性です」
「あら、ありがと」
身だしなみを整え終えたところで、雪乃は化粧台から立ち上がり、窓の外を見た。
「……わたしたちのために、こんなに人が集まってくれるなんて」
眼下に広がる宿場街と、そこにある人だかりに向けて、雪乃は小さく頭を下げた。
一方、良太は――。
「じゃからな、夫婦と言うものは、すべからく……」
「は、はあ」
式に浮かれ酔っ払った重蔵の、20周目に入った話を、困った顔で聞いていた。
「うーん」
路地をいくら見回しても、橘は先程の女性を見つけられなかった。
「絶対、雪乃だと思ったんだけどなー」
完全に見失ったため、諦めて大通りに戻ろうとする。
と、向かいからバタバタと人が入ってきた。
「はー、ここなら落ち着いて歩ける」
「本当に、大騒ぎになってしまいましたからね」
梶原一家と、柏木である。
「おまんじゅう、もうないの?」
指をくわえながら尋ねる桃を、棗が叱る。
「こら、指をくわえてはいけませんよ。……ごめんなさいね、あの騒ぎで落してしまったみたいなの」
「えー」
無いと言われてもなお、桃はねだる。
「たべたいー」
「無理を言っては行けませんよ、桃。もう少し騒ぎが収まってから、また買いに行きましょう」
「……たべたいのー」
ぐずる桃を見て、橘は思わず、自分が買っていたまんじゅうを差し出した。
「あの、良かったらどうぞ」
「あら、いえいえ、お構いなく」
遠慮する棗に、橘は再度勧める。
「いえ、あたしももう、お腹が一杯で。どうぞ、召し上がってください」
「そうですか? それでは、ありがたく……」
棗はまんじゅうを受け取り、桃に食べさせた。
「ありがと、おねえちゃん」
きちんと礼を言った桃に、橘はにっこり笑って返した。
「いーのいーの、美味しく食べてちょうだい」
その後、謙から大通りでの騒ぎの原因を聞かされ、橘は大通りをながめる。
「まだ思い出話に花が咲きっぱなし、って感じねー」
「桃もいるから、俺達は早々に切り上げたんだが、あの様子じゃまだまだ混みそうだ」
謙の言葉に、橘は肩をすくめる。
「んじゃ、裏路地を進んだ方が早く着きそうね」
「ああ。良ければ一緒に行くか?」
「ええ、喜んで」
橘たち五人は裏路地を進みつつ、自己紹介を交わした。
「雪乃とは俺が若い頃、一緒に修行してたんだ。で、小鈴さんはどんな関係で?」
「あたしは旅の仲間。昔から良く、あっちこっち旅してたの」
橘の話に、謙はうんうんとうなずく。
「あー、そう言やちょくちょく姿を見せなかったなー」
と、こんな風に雪乃の思い出話を語っていたところで――。
「……!」
橘はまた、雪乃に似た誰かが路地の角を曲がっていくのを、目の端にとらえた。
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雪乃の今後と、橘たちの邂逅。
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2.
宿場街と修行場の境にある、催事場の新婦控え室。
「夢みたい……」
白無垢の装束を羽織った雪乃が、側にいた晴奈につぶやく。
「わたしが、結婚するなんて」
「大丈夫です。夢ではありません」
晴奈も普段の道着姿とは違い、振袖を着てめかし込んでいる。
「……そうね、ふふ」
晴奈に髪をとかしてもらいながら、雪乃は幸せそうに笑う。
「ところで、……師匠」
「ん?」
「今後はどうされるのですか?」
晴奈はためらいつつも、雪乃の身の振りについて尋ねる。
「刀は置かないわ。それは確か」
「そうですか」
晴奈は内心、ほっとする。
それを鏡越しに見透かしたらしく、雪乃がクスッと笑う。
「あら、やめちゃうと思ってた?」
「えっ? あ、いや、その」
動揺する晴奈を見て、雪乃はまた笑う。
「剣士の道は、わたしの人生そのものだもの。それを捨てたら、わたしと言う人間が一気にぼやけてしまいそうだから」
「……そうですね。私も、刀を置いた師匠と言うのは想像もつきません」
「あら、わたしはそんなに無骨な女かしら?」
いじわるっぽく笑う師匠に、晴奈は苦笑しつつこう返した。
「いやいや、そんなことは。私にとって師匠は、理想の女性です」
「あら、ありがと」
身だしなみを整え終えたところで、雪乃は化粧台から立ち上がり、窓の外を見た。
「……わたしたちのために、こんなに人が集まってくれるなんて」
眼下に広がる宿場街と、そこにある人だかりに向けて、雪乃は小さく頭を下げた。
一方、良太は――。
「じゃからな、夫婦と言うものは、すべからく……」
「は、はあ」
式に浮かれ酔っ払った重蔵の、20周目に入った話を、困った顔で聞いていた。
「うーん」
路地をいくら見回しても、橘は先程の女性を見つけられなかった。
「絶対、雪乃だと思ったんだけどなー」
完全に見失ったため、諦めて大通りに戻ろうとする。
と、向かいからバタバタと人が入ってきた。
「はー、ここなら落ち着いて歩ける」
「本当に、大騒ぎになってしまいましたからね」
梶原一家と、柏木である。
「おまんじゅう、もうないの?」
指をくわえながら尋ねる桃を、棗が叱る。
「こら、指をくわえてはいけませんよ。……ごめんなさいね、あの騒ぎで落してしまったみたいなの」
「えー」
無いと言われてもなお、桃はねだる。
「たべたいー」
「無理を言っては行けませんよ、桃。もう少し騒ぎが収まってから、また買いに行きましょう」
「……たべたいのー」
ぐずる桃を見て、橘は思わず、自分が買っていたまんじゅうを差し出した。
「あの、良かったらどうぞ」
「あら、いえいえ、お構いなく」
遠慮する棗に、橘は再度勧める。
「いえ、あたしももう、お腹が一杯で。どうぞ、召し上がってください」
「そうですか? それでは、ありがたく……」
棗はまんじゅうを受け取り、桃に食べさせた。
「ありがと、おねえちゃん」
きちんと礼を言った桃に、橘はにっこり笑って返した。
「いーのいーの、美味しく食べてちょうだい」
その後、謙から大通りでの騒ぎの原因を聞かされ、橘は大通りをながめる。
「まだ思い出話に花が咲きっぱなし、って感じねー」
「桃もいるから、俺達は早々に切り上げたんだが、あの様子じゃまだまだ混みそうだ」
謙の言葉に、橘は肩をすくめる。
「んじゃ、裏路地を進んだ方が早く着きそうね」
「ああ。良ければ一緒に行くか?」
「ええ、喜んで」
橘たち五人は裏路地を進みつつ、自己紹介を交わした。
「雪乃とは俺が若い頃、一緒に修行してたんだ。で、小鈴さんはどんな関係で?」
「あたしは旅の仲間。昔から良く、あっちこっち旅してたの」
橘の話に、謙はうんうんとうなずく。
「あー、そう言やちょくちょく姿を見せなかったなー」
と、こんな風に雪乃の思い出話を語っていたところで――。
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橘はまた、雪乃に似た誰かが路地の角を曲がっていくのを、目の端にとらえた。



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