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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第9部

    蒼天剣・孤王録 2

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    晴奈の話、第526話。
    襲われた王。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     城内におけるフーの影響力は、既に無いも同然だった。アランにも、側近たちにもまともに相手にされず、毎日を無為に過ごしていた。
     そんな日々が続き、ついに居ても立ってもいられなくなったフーは、一兵卒に変装して城を抜け出し、自分の目で現状を見て回ろうと考えた。
    「おい、そこの!」
    「あ、……何、でしょうか」
     門に差し掛かってすぐ、門番に呼び止められるが――。
    「現在、城の出入りは制限されている! 城から出る用件を述べよ!」
    「あ? ……あー、はい、ああ。(よし、全然バレてねーな。まあ、まさか王様がノコノコ門前に来たりするなんて思わねーよなぁ)
     日上陛下より市街の様子を見てきてほしいとの、直々の命令を受けた次第であります」
     元々一兵卒の身であるフーにとっては、これくらいの対応は事前に予測できていたし、応対に関しても、何の問題も無かった。
     フーの答えに納得したらしく、門番は軽く敬礼しつつ応じてくれた。
    「そうか。……まあ、気を付けろ。言うまでもないことだが、城外は危険だからな」
     フーもぴしっと敬礼し返し、門番に礼を述べる。
    「はっ、ご配意いただき、恐縮であります。では、行って参ります」
     こうして難なく、フーは城から出ることができた。

    (ははっ……。ひでー荒れよう)
     自分たちが攻め落とした直後はそれなりに整備・清掃されていたはずの町並みは、今はぐちゃぐちゃに踏み潰されたビラと、あちこちで粛清された者たちの血で汚されていた。
    (これが、俺が王になった結果か。なんて情けねえ)
     市民たちは幾度にも渡る暴動と粛清の繰り返しで、兵士に恐れと、少なからぬ敵意を抱いているのは明らかだった。
     兵卒姿のフーが通り過ぎるのを、誰も彼もが店の奥や窓の裏、裏路地の陰で遠巻きに見つめながら、じっと待っていたからだ。
    (やめときゃ良かったんだ――カツミを倒した時点で戻っておけば、俺は祖国の英雄でいられたんだ。それかトモを更迭するってアランが言い出した時、俺がきっぱりそれを拒否しとけば、戦争やろうなんて話にならなかったはずだ。
     俺は、こんなひでー目に遭わせるために戦ったんじゃない。ましてや、王様になんて)
     フーは道の真ん中で立ち止まり、自責の念に震えた。

     と――。
    「……!?」
     がつっ、と言う音がフーの被っていた軍帽から響き、続いて鋭い痛みが走る。
    「が、……っ」
     ぐらりと視界が歪み、フーの姿勢は崩れた。
    「今だ! 畳み掛けろ!」
    「おうッ!」
     あちこちに隠れていた市民たちが一斉に飛び出し、棒やレンガを手に襲ってきた。
    (ま、まずい……っ)
     頭からボタボタと血を流しながらも、フーは彼らから逃げ出した。
     だが、暴徒の動きは止まらない。
    「逃がすなーッ!」
    「追え! 殺せ!」
    「我々の仇だ、絶対に逃がさないぞ!」
     聞こえてきた怒号に、フーは愕然とする。
    (か、仇だと? 俺が? い、いや、軍か。軍全体、ひいては『ヘブン』が、敵と見られてるのか……。
     わけが分からない。俺たちはこの国を、政争でドロドロになってたこの央北一帯を救うために来たってのに。
     ……違う)
     フーははた、と気付かされる。
    (俺は何のために戦った?
     世界を救うとか、そんなのはアランのたわごと。権力を手に入れるとか、それも俺が望んだことじゃない。
     俺は……、俺は、まったく)
     また、頭にレンガがぶつけられる。
    「う、ぐっ」
     後頭部に命中し、フーの意識は飛び散った。
    (俺は……まったく……俺自身の目的なく……他人の言いなりで……戦った……だけ……)



    「気が付いたか」
    「……!」
     フーが目を覚ますと、そこは城の医務室だった。
    「お、俺は」
    「城下町で教われ、倒れていた。暴動に気付いた軍が鎮圧に向かった際、お前がいるのに気付き、ここまで搬送した。
     何故外にいた? こうなると、分かっていただろうに」
    「分かるもんかよ」
     フーは後頭部をさすりながら、ぼそっと答えた。
    「様子が分からないから、俺は外に出たんだ。お前らだけで、話が進んでたからな。
     それで、……市民はどうなった?」
    「制圧した」
    「……殺したのか」
    「必要なだけは」
    「必要って何だよ?」
     フーは目を剥き、叫んだ。
    「何だよ、『必要』って!?
     殺すなよ! あいつらは本来なら、俺たちが護る相手だろ!? 何で殺す必要がある!? 護ってもらう奴に殺されるって、意味が分かんねーよ!」
    「我々に刃向かったからだ。完全に統制するためには、しかるべき威圧も必要だ」
    「……へっ、『統制』かよ。そうだよな、お前は何から何でも自分の思う通りコントロールしなきゃ気が済まないんだよな」
     フーはベッドから抜け出し、医務室を後にする。
    「軍も、『ヘブン』も、そして俺までも、何もかもを自分の思い通りに動かして、お前は何がしたいんだ?」
     フーは医務室の扉の前で振り向き、アランに尋ねる。
    「お前を王にする。それが私の意志だ」
    「王にして、それから?」
    「……」
     それ以上、アランは答えなかった。

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    2016.11.27 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    元々強引で自分勝手な方法で興った国ですから、
    余計に諸問題が足を引っ張っています。
    平和は今のところ、望むべくもありません。

    NoTitle 

    ううむ。難しい問題ですね。
    当然のことながら、国が変わると社会が荒れますからね。
    問題なく進めばよいのですが。
    そういうかないのも世の常ですね。
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