「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・孤王録 3
晴奈の話、第527話。
王者の矜持。
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3.
市民の暴動は日を追うごとに静まっていった。幾度にも渡る制圧・粛清の結果、暴動を指揮・扇動していた者たちが殺され、市民たちが行動の指針を失ったからである。
国内の混乱が収まった頃、ようやく「ヘブン」は北方・央中・央南の三地域同盟――通称、「西大海洋同盟」に対しての、戦闘準備を調え始めた。
「……」
フーが市街地で襲われて以降、彼の周囲は以前にも増して静かになっていた。
「……へへ……へっ……」
フーはその晩も、浴びるように酒を飲んでいた。
それ以外に、することが無いのだ。政務も、財務も、軍への指揮も、その他諸々、すべてアランと、彼が掌握した側近とがこなしている。
彼は書類一つ触らせてもらえず、また、前回のように袋叩きに遭うことを懸念された結果、ずっと城の中に閉じ込められていた。
「俺は一体、何なんだろうな……」
酒浸しになった脳みそでぼんやり考えるが、思考はまとまらない。
「あなた……、飲み過ぎよ」
と、背後からそっと声がかけられる。
「ランニャか……。何の用だ?」
そう応え、振り向いた瞬間、ランニャの平手打ちがフーの頬をえぐった。
「ぐえっ……!?」
「何の用、ですって? 私に、妃の私に向かって、何て言い方をするの? 私は兵士や側近じゃないのよ? 用がなきゃ、夫のあなたに声をかけちゃいけないって言うの?」
「お、怒るなよ、ランニャ。……俺が悪かったよ、変な言い方して」
「……ごめんなさい。私も少し、イライラとしていたから」
しゅんとなり、耳と尻尾を垂らすランニャを見て、フーの頭も冷える。
「いや、悪いのは俺だって。……そうだよ、こんな風に、お前まで縮こまらせるような目に遭わせたのは、他でも無い俺なんだから」
「あなた……」
目を赤くするランニャを見て、フーは思わず抱きしめた。
「悪い、本当に」
「……ねえ、お話があるの」
ランニャはフーから離れ、一瞬窓に目を向けた。
「何だ? 改まって」
「……もう、逃げない?」
「え……」
発言の意図が分からず、フーは硬直した。それを察して、ランニャが言葉を続ける。
「この城から逃げないかと、そう言う意味よ。
遠慮なく言ってしまえば、あなたはもう『お飾り』でしょう? あなたにはこの流れを……、戦争を止められない。かと言って、戦争に参加しようとも思っていない」
「その……、通り、だけど」
「それならいっそ、もう何もかも捨てて、私の国に戻らない?
あなたが望むなら、前大公である私の力を使って、央中で平和に暮らすことができる。いいえ、ネール公国で重要な地位に就くこともできるわ。私がもう一度、大公に復位して、その片腕となることも」
「それ、は……」
フーは答えられず、うつむく。
「……私はもう、あなたがしおれていくのを見ていたくないのよ。もうこれ以上、この『ヘブン』に未練なんて、ないでしょう?」
未練、と言われてフーの頭に、何かが瞬いた。
「未練……?」
フーは頭の中から酒を払い、深く考え込んだ。
(そうだ……俺はまだ……)
「ねえ、フー。一緒に、行きましょう?」
ランニャが呼びかけるが、フーは答えない。
(……俺は……日上風。『風』が、流されてどうするんだ?)
「フー?」
(俺が、風を流さなきゃダメだ。……少なくとも今吹いてる風は、俺の望みじゃない。
王様なんだ。俺はこの国を動かせる力がある。そう、力があるのはアランじゃない。俺なんだ!)
「どうしたの、フー?」
「……悪い、ランニャ。もう少しだけ、ここに居させてくれ」
「えっ……」
意外そうな顔をするランニャの頭を、フーは優しく撫でた。
「心配するなって。……どうしても、やっておきたいことがあるんだ」
翌朝、フーは側近とアランを集め、会議の場を開いた。
「諸君。俺は、何だ?」
「は……?」
ハインツはぽかんとする。
「王、でしょう」
「そうだ。俺は、この『ヘブン』の王なのだ。であれば、すべての選択権は俺にある。そうだな?」
「まあ、そうなりますね」
ルドルフが半ば面倒くさそうに返答する。
「だから、改めて俺は命じよう。西大海洋同盟に宣戦布告せよ、と」
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王者の矜持。
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3.
市民の暴動は日を追うごとに静まっていった。幾度にも渡る制圧・粛清の結果、暴動を指揮・扇動していた者たちが殺され、市民たちが行動の指針を失ったからである。
国内の混乱が収まった頃、ようやく「ヘブン」は北方・央中・央南の三地域同盟――通称、「西大海洋同盟」に対しての、戦闘準備を調え始めた。
「……」
フーが市街地で襲われて以降、彼の周囲は以前にも増して静かになっていた。
「……へへ……へっ……」
フーはその晩も、浴びるように酒を飲んでいた。
それ以外に、することが無いのだ。政務も、財務も、軍への指揮も、その他諸々、すべてアランと、彼が掌握した側近とがこなしている。
彼は書類一つ触らせてもらえず、また、前回のように袋叩きに遭うことを懸念された結果、ずっと城の中に閉じ込められていた。
「俺は一体、何なんだろうな……」
酒浸しになった脳みそでぼんやり考えるが、思考はまとまらない。
「あなた……、飲み過ぎよ」
と、背後からそっと声がかけられる。
「ランニャか……。何の用だ?」
そう応え、振り向いた瞬間、ランニャの平手打ちがフーの頬をえぐった。
「ぐえっ……!?」
「何の用、ですって? 私に、妃の私に向かって、何て言い方をするの? 私は兵士や側近じゃないのよ? 用がなきゃ、夫のあなたに声をかけちゃいけないって言うの?」
「お、怒るなよ、ランニャ。……俺が悪かったよ、変な言い方して」
「……ごめんなさい。私も少し、イライラとしていたから」
しゅんとなり、耳と尻尾を垂らすランニャを見て、フーの頭も冷える。
「いや、悪いのは俺だって。……そうだよ、こんな風に、お前まで縮こまらせるような目に遭わせたのは、他でも無い俺なんだから」
「あなた……」
目を赤くするランニャを見て、フーは思わず抱きしめた。
「悪い、本当に」
「……ねえ、お話があるの」
ランニャはフーから離れ、一瞬窓に目を向けた。
「何だ? 改まって」
「……もう、逃げない?」
「え……」
発言の意図が分からず、フーは硬直した。それを察して、ランニャが言葉を続ける。
「この城から逃げないかと、そう言う意味よ。
遠慮なく言ってしまえば、あなたはもう『お飾り』でしょう? あなたにはこの流れを……、戦争を止められない。かと言って、戦争に参加しようとも思っていない」
「その……、通り、だけど」
「それならいっそ、もう何もかも捨てて、私の国に戻らない?
あなたが望むなら、前大公である私の力を使って、央中で平和に暮らすことができる。いいえ、ネール公国で重要な地位に就くこともできるわ。私がもう一度、大公に復位して、その片腕となることも」
「それ、は……」
フーは答えられず、うつむく。
「……私はもう、あなたがしおれていくのを見ていたくないのよ。もうこれ以上、この『ヘブン』に未練なんて、ないでしょう?」
未練、と言われてフーの頭に、何かが瞬いた。
「未練……?」
フーは頭の中から酒を払い、深く考え込んだ。
(そうだ……俺はまだ……)
「ねえ、フー。一緒に、行きましょう?」
ランニャが呼びかけるが、フーは答えない。
(……俺は……日上風。『風』が、流されてどうするんだ?)
「フー?」
(俺が、風を流さなきゃダメだ。……少なくとも今吹いてる風は、俺の望みじゃない。
王様なんだ。俺はこの国を動かせる力がある。そう、力があるのはアランじゃない。俺なんだ!)
「どうしたの、フー?」
「……悪い、ランニャ。もう少しだけ、ここに居させてくれ」
「えっ……」
意外そうな顔をするランニャの頭を、フーは優しく撫でた。
「心配するなって。……どうしても、やっておきたいことがあるんだ」
翌朝、フーは側近とアランを集め、会議の場を開いた。
「諸君。俺は、何だ?」
「は……?」
ハインツはぽかんとする。
「王、でしょう」
「そうだ。俺は、この『ヘブン』の王なのだ。であれば、すべての選択権は俺にある。そうだな?」
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ルドルフが半ば面倒くさそうに返答する。
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今日の旅岡さん

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NoTitle
うん?フーが心変わりしたのですかね。
何にせよ。どのみちに行くにせよ、前を進むのはよいことだと感じます。
何にせよ。どのみちに行くにせよ、前を進むのはよいことだと感じます。
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NoTitle
フーは覚悟を決めました。