「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・孤王録 4
晴奈の話、第528話。
実権再奪取。
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4.
「ちょっ……」
フーの発言に、ドールが目を丸くして立ち上がる。
「異論があるのか?」
「あ、あるに決まってんじゃない! アンタが、コレ止めるんじゃないかって思ってたのに、アタシ」
「そうか。おい、連行しろ」
「え」
フーの命令に、会議室の前で立番していた兵士たちが応じる。
「牢に閉じ込めておけ。俺に従うまでだ。だが手荒にはするな」
「な、なに、かんがえてんのよ……」
ドールは信じられないと言う顔のまま、連行されていく。
「じゃあ」
と、ずっとうつむいていたノーラが立ち上がる。
「私も牢に行くわ。あなたには付いていく気にはなれない」
「そうか。連れて行け。ドールと同じ扱いをしろ」
続いて、別の兵士がノーラを連行する。
静まり返った場に、フーは威圧的な声を投げかける。
「他に反対する者は? いれば今すぐ言え。言わなければ同意したと考える。
どうだ? いないのか?」
「……」
誰も、何も言わず、静寂が続く。
それを確認し、フーはふたたび口を開いた。
「では、会議を再開する」
「一体どうした? 突然、乗り気になったようだが」
会議の後、アランがフーに尋ねてきた。
「思ったんだよ。『このまんまお前に任せて、俺は平然としていられるか?』ってな」
「意味が分からない。何を言いたい?」
淡々と尋ねるアランを、フーはにらみつける。
「お前に何もかもを任せれば、きっと俺の望むような結末にはならない。お前は、何もかもをやりすぎるからな。それも最悪な状況にまで」
「うん? やりすぎる、とは?」
「お前は俺や側近が必要だと思う以上に兵士を送り込んで滅茶苦茶に戦火を拡げて、敵も味方も、すべてを見殺しにするだろう。それで遺族から恨まれるのは、誰だ? お前か?」
「そうではないだろうな」
「だろう? それは間違いなく、俺になる。
お前に任せた分の責任は全部、俺が被ることになる。と言って俺が自分で命じても、その責任はお前が負うことは絶対にない。どっちみち、俺が、負うんだ。
お前に任せても、俺がやっても、結局すべての責任は俺に来る。なら最初っから俺が、全部やりゃいいんだ」
フーはそこでアランに背を向け、こう続ける。
「もうお前には何も任せない。俺が全部、指揮する。お前は黙って見てろ」
「しかし……」
「二度も言わせるのか? 黙れと言ったんだ」
「……」
アランはそれ以上何も言わず、その場を去った。
「おいおい……、御大、ノリノリだぜ」
「その様であるな」
隠れて見ていたハインツとルドルフが、フーの振る舞いに感心していた。
「ここんところずっと腑抜けになっちまってて、どうなることやらと思ってたけど」
「やる時はやる、と言うことであろうな」
「しっかし、スカッとしたなぁ。あのアランが、ぐうの音も出せなかったってのは」
ルドルフはニヤニヤしながら、その場を離れた。
「へへへ……、みんなに言いふらしてやろう。久々に御大がアランをヘコましたって」
「かっか、それは面白い」
ハインツもニヤリと笑い、ルドルフに同意した。
フーがアランを叱咤し、事実上の更迭処分を下して以降、「ヘブン」内の風向きが変化した。
理不尽な制圧・掃討を繰り返したことで軍内から忌み嫌われていたアランが消えたこと、名目上のトップであったフーが実権を取り戻し、明確に指揮を執り始めたことが好判断の材料となり、軍も、そして央北の世論も、次第に「ヘブン」を容認し始めた。
「やっぱり、やってみて正解だった」
「そう、ね」
実権を取り戻して以降、フーは一滴も酒を飲まなくなった。
フーは素面の状態で、妃と夕食を楽しんでいた。
「でも不思議ね。あなたが行動した途端、すべてが円満に動き出すなんて」
「俺は『風』だからさ。俺が動けば、風車も風見鶏も、止まっていたものは全部動くんだ」
「クス、良く分からない例えね。……でも」
ランニャはすっと、真面目な顔になる。
「あなたは、戦争をしたくないんじゃなかったの?」
「そうさ。したくなんかない。……だからこそ、『やる』と公言したんだ」
「……? 分からないことばかりね」
きょとんとする妻を見て、フーはニヤッと笑った。
「すげー簡単で、単純なことなんだよ。
例えばさ、俺が兵卒の食糧運搬担当で、全部で100キロ分あるジャガイモを運ぶことになったとする。嫌だなぁと思ってそのままにしてたら、上官から『10キロずつでもいいからさっさと運べ!』って指示されて、10キロ運ばされる羽目になるだろう。
んでもそうなる前にさ、嫌々でも5キロずつ、5キロずつこまめに運んでおいたら、上官は『ちゃんと仕事してるな』と思って、文句は言わない。全体から見たら10キロを一度に運ばなくて良くなるから、楽もできる。
何が言いたいかって言うとさ、つまり、悪いことが一度に、でっかく起こる前に少しずつ、少しずつ、こまめに消化して行けば、結果は同じだったとしても、過程はちょっとくらいは楽になるだろってことだよ。
戦争は最悪の結果になるだろう。きっと、『ヘブン』は負ける。俺も無事じゃすまない。かと言って、止めさせることもできない。それならいっそ、俺がコントロールできるだけコントロールする。
んで、できるだけ傷つく人を減らしておきたいんだ。俺が痛い目に遭うのは確実としても、俺以外のヤツが少しでも、死なないようにしていきたいんだ。
俺一人が、責任を取ればいい。巻き込まないで済むヤツは、そのまま巻き込ませないようにしたいんだ」
「何だか、王様らしくなったわね、フー」
うなずくランニャを見て、フーは精悍な笑顔を作り、さらに続ける。
「ランニャ、俺がどうなろうと、お前には何も追及されないようにする。
……だからずっと、俺の側にいてほしい。お前がいれば、俺は頑張れる」
「ええ。付いていきます、あなた」
「……ありがとよ」
この後、投獄されていたドールとノーラもフーの意図に気付き、意見を翻した。フーは彼女たちを許し、改めて側近に加えた。
フーの復活により、「ヘブン」は固い決意の元、西大海洋同盟と戦うことになった。
蒼天剣・孤王録 終
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実権再奪取。
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「ちょっ……」
フーの発言に、ドールが目を丸くして立ち上がる。
「異論があるのか?」
「あ、あるに決まってんじゃない! アンタが、コレ止めるんじゃないかって思ってたのに、アタシ」
「そうか。おい、連行しろ」
「え」
フーの命令に、会議室の前で立番していた兵士たちが応じる。
「牢に閉じ込めておけ。俺に従うまでだ。だが手荒にはするな」
「な、なに、かんがえてんのよ……」
ドールは信じられないと言う顔のまま、連行されていく。
「じゃあ」
と、ずっとうつむいていたノーラが立ち上がる。
「私も牢に行くわ。あなたには付いていく気にはなれない」
「そうか。連れて行け。ドールと同じ扱いをしろ」
続いて、別の兵士がノーラを連行する。
静まり返った場に、フーは威圧的な声を投げかける。
「他に反対する者は? いれば今すぐ言え。言わなければ同意したと考える。
どうだ? いないのか?」
「……」
誰も、何も言わず、静寂が続く。
それを確認し、フーはふたたび口を開いた。
「では、会議を再開する」
「一体どうした? 突然、乗り気になったようだが」
会議の後、アランがフーに尋ねてきた。
「思ったんだよ。『このまんまお前に任せて、俺は平然としていられるか?』ってな」
「意味が分からない。何を言いたい?」
淡々と尋ねるアランを、フーはにらみつける。
「お前に何もかもを任せれば、きっと俺の望むような結末にはならない。お前は、何もかもをやりすぎるからな。それも最悪な状況にまで」
「うん? やりすぎる、とは?」
「お前は俺や側近が必要だと思う以上に兵士を送り込んで滅茶苦茶に戦火を拡げて、敵も味方も、すべてを見殺しにするだろう。それで遺族から恨まれるのは、誰だ? お前か?」
「そうではないだろうな」
「だろう? それは間違いなく、俺になる。
お前に任せた分の責任は全部、俺が被ることになる。と言って俺が自分で命じても、その責任はお前が負うことは絶対にない。どっちみち、俺が、負うんだ。
お前に任せても、俺がやっても、結局すべての責任は俺に来る。なら最初っから俺が、全部やりゃいいんだ」
フーはそこでアランに背を向け、こう続ける。
「もうお前には何も任せない。俺が全部、指揮する。お前は黙って見てろ」
「しかし……」
「二度も言わせるのか? 黙れと言ったんだ」
「……」
アランはそれ以上何も言わず、その場を去った。
「おいおい……、御大、ノリノリだぜ」
「その様であるな」
隠れて見ていたハインツとルドルフが、フーの振る舞いに感心していた。
「ここんところずっと腑抜けになっちまってて、どうなることやらと思ってたけど」
「やる時はやる、と言うことであろうな」
「しっかし、スカッとしたなぁ。あのアランが、ぐうの音も出せなかったってのは」
ルドルフはニヤニヤしながら、その場を離れた。
「へへへ……、みんなに言いふらしてやろう。久々に御大がアランをヘコましたって」
「かっか、それは面白い」
ハインツもニヤリと笑い、ルドルフに同意した。
フーがアランを叱咤し、事実上の更迭処分を下して以降、「ヘブン」内の風向きが変化した。
理不尽な制圧・掃討を繰り返したことで軍内から忌み嫌われていたアランが消えたこと、名目上のトップであったフーが実権を取り戻し、明確に指揮を執り始めたことが好判断の材料となり、軍も、そして央北の世論も、次第に「ヘブン」を容認し始めた。
「やっぱり、やってみて正解だった」
「そう、ね」
実権を取り戻して以降、フーは一滴も酒を飲まなくなった。
フーは素面の状態で、妃と夕食を楽しんでいた。
「でも不思議ね。あなたが行動した途端、すべてが円満に動き出すなんて」
「俺は『風』だからさ。俺が動けば、風車も風見鶏も、止まっていたものは全部動くんだ」
「クス、良く分からない例えね。……でも」
ランニャはすっと、真面目な顔になる。
「あなたは、戦争をしたくないんじゃなかったの?」
「そうさ。したくなんかない。……だからこそ、『やる』と公言したんだ」
「……? 分からないことばかりね」
きょとんとする妻を見て、フーはニヤッと笑った。
「すげー簡単で、単純なことなんだよ。
例えばさ、俺が兵卒の食糧運搬担当で、全部で100キロ分あるジャガイモを運ぶことになったとする。嫌だなぁと思ってそのままにしてたら、上官から『10キロずつでもいいからさっさと運べ!』って指示されて、10キロ運ばされる羽目になるだろう。
んでもそうなる前にさ、嫌々でも5キロずつ、5キロずつこまめに運んでおいたら、上官は『ちゃんと仕事してるな』と思って、文句は言わない。全体から見たら10キロを一度に運ばなくて良くなるから、楽もできる。
何が言いたいかって言うとさ、つまり、悪いことが一度に、でっかく起こる前に少しずつ、少しずつ、こまめに消化して行けば、結果は同じだったとしても、過程はちょっとくらいは楽になるだろってことだよ。
戦争は最悪の結果になるだろう。きっと、『ヘブン』は負ける。俺も無事じゃすまない。かと言って、止めさせることもできない。それならいっそ、俺がコントロールできるだけコントロールする。
んで、できるだけ傷つく人を減らしておきたいんだ。俺が痛い目に遭うのは確実としても、俺以外のヤツが少しでも、死なないようにしていきたいんだ。
俺一人が、責任を取ればいい。巻き込まないで済むヤツは、そのまま巻き込ませないようにしたいんだ」
「何だか、王様らしくなったわね、フー」
うなずくランニャを見て、フーは精悍な笑顔を作り、さらに続ける。
「ランニャ、俺がどうなろうと、お前には何も追及されないようにする。
……だからずっと、俺の側にいてほしい。お前がいれば、俺は頑張れる」
「ええ。付いていきます、あなた」
「……ありがとよ」
この後、投獄されていたドールとノーラもフーの意図に気付き、意見を翻した。フーは彼女たちを許し、改めて側近に加えた。
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フーはここでようやく、本物の王様になったんだと思います。
その挟持は後々、彼の口から語られます。