「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・無頼録 1
晴奈の話、第529話。
モールの災難。
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1.
央中、ゴールドコースト。
「『フレイムドラゴン』、吹っ飛べーッ!」
人通りのない、寂れた港の一区域で、二人の女が戦っていた。
「……! ったく、身軽にも程があるってね」
一方は古ぼけたローブに身を包み、少年のように高いソプラノを発している――「旅の賢者」、モールである。
「んじゃ、コレはどうだッ! 『フォックスアロー』!」
モールの持つ杖から、ぱぱぱ……、と紫色の光線が飛び散り、もう一方の女に向かって飛んで行く。
「……ッ」
女はほとんど声を発さず、剣でその光線を受ける。
「……うっそぉ!?」
それを見たモールが、驚いた声を上げる。盤石の自信を持っていた自分の魔術が、どこの誰とも分からぬような相手に跳ね返されたからだ。
「あ、まず……」
その一部――光線の一本が、モールに戻ってくる。
(何なんだってね、ホントに……! 今日はカジノでボロ勝ちして、さー帰って寝よう寝ようって思ってたところに、こんな……こんな面倒なヤツ……!)
光線はモールの体を貫き、そのまま背後へと飛んでいった。
「ぐ、っふ」
血がパタパタと飛び散るが、モールは倒れない。瞬時に治療術を使って回復し、そのまま空き倉庫の中へ、転がるように逃げ込んだ。
(あー、痛い痛い、痛いって! すっげ痛いってね、もおっ!)
回復したとは言え、その痛みはまだ残る。モールはよろめきつつ、倉庫の床にへたり込んだ。
「はーっ、はーっ……」
モールは荒い息を整えつつ、床に魔法陣を描き始めた。
(こうなりゃ、『取って置き』しかないね)
フラフラになりながらも、どうにか完成させ、相手を待ち構える。
(この床全部、爆弾にしてやったね! さあ入って来い、仮面女……ッ)
モールは目をぎらつかせて、敵が入ってくるのを待つ。
「……?」
だが、一向に入ってくる気配は無い。
(おかしいね……? 私がここに入ってくるの、見えてたはずだけど)
と、首をかしげた次の瞬間――。
「……えっ」
モールの目の前、鼻先から数センチも離れていない空間を、何かが通り抜けた。続いて、壁から入口に向かって、一直線にヒビが走る。
「……そうだ……、思い出した」
仕掛けていた魔法陣も、そのヒビと衝撃に巻き込まれ、壊れる。
「この技……、あの仮面……」
壊れた魔法陣は暴走し、充填されていた魔力が単純なエネルギーへと変化し、爆発に変わる。
(そうだ……! 晴奈をてこずらせた、あの女……!)
爆発はモールを巻き込み、倉庫全体を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「……なかなか、てこずった方かしら」
モールと戦っていた巴景は剣を納め、跡形もなく吹き飛んだ倉庫を眺めた。
「ま、それでも10分持たないか」
ニヤリと笑い――相変わらず、口元以外は仮面で覆われているが――倉庫跡に背を向ける。
「……あら」
振り向いた先に、倉庫の瓦礫をぱたぱたとはたくモールが立っていた。
「何のつもりだね、仮面女」
「流石、賢者と名乗るだけはあるわね。どんな術を使ったのかしら?」
「言う必要ないね」
モールは恨めしそうな目を、巴景に向けてきた。
「君のおかげで、今日カジノで稼いできた50万エル、全部どっかに散らばっちゃったね。50万だよ、50万。どうしてくれるね、本当に……」
「あら、ごめんなさい」
巴景はまた、ニヤニヤと口元を歪ませる。
それを見たモールは、眉間にしわを寄せた。
「謝る気、さらっさら無いってか」
「いいえ? 多少はあるわよ。
えーと……、50万? クラム換算だと、おいくらかしら」
「は?」
「まとまったお金、クラムしか持ち合わせてないの。……3万クラムくらい?」
そう言って、巴景は背負っていたかばんから財布を取り出し、クラム金貨を3枚取り出した。
そんな対応をされるとは思っていなかったらしく、モールは一転、目を丸くしている。
「え? どう言う……?」
「あなたと勝負がしたかった。それだけよ」
そう言って巴景は、唖然とするモールの横を通り抜け、そのまま去っていこうとした。
「ちょ、待てってね」
モールは我に返り、巴景を呼び止めた。
「なに?」
「じゃ、君って、ただ私と戦うためだけに、倉庫一個、丸ごと吹っ飛ばしたっての?」
「そうよ。それがどうかした?」
「……バカじゃない、君?」
モールの言葉を鼻で笑い飛ばし、巴景は答える。
「私は私自身にとって、最も必要で、最も意義のあることをしているだけよ。それを愚かと言うなら、食べることや家を建てること、お金を稼ぐことも愚かな行為になるわ」
「……」
黙りこんだモールに再度背を向け、巴景はそのまま立ち去った。
残されたモールは、渡された金貨を眺めながら、ぼそっとつぶやいた。
「戦うために生きる。それがすべて、……か。
厄介だよ、晴奈。あの女は本気で、君を潰そうとしてるね。それ以外まるで、眼中にないって態度だ。
……楓藤巴景、か。覚えておいてやるね」
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モールの災難。
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央中、ゴールドコースト。
「『フレイムドラゴン』、吹っ飛べーッ!」
人通りのない、寂れた港の一区域で、二人の女が戦っていた。
「……! ったく、身軽にも程があるってね」
一方は古ぼけたローブに身を包み、少年のように高いソプラノを発している――「旅の賢者」、モールである。
「んじゃ、コレはどうだッ! 『フォックスアロー』!」
モールの持つ杖から、ぱぱぱ……、と紫色の光線が飛び散り、もう一方の女に向かって飛んで行く。
「……ッ」
女はほとんど声を発さず、剣でその光線を受ける。
「……うっそぉ!?」
それを見たモールが、驚いた声を上げる。盤石の自信を持っていた自分の魔術が、どこの誰とも分からぬような相手に跳ね返されたからだ。
「あ、まず……」
その一部――光線の一本が、モールに戻ってくる。
(何なんだってね、ホントに……! 今日はカジノでボロ勝ちして、さー帰って寝よう寝ようって思ってたところに、こんな……こんな面倒なヤツ……!)
光線はモールの体を貫き、そのまま背後へと飛んでいった。
「ぐ、っふ」
血がパタパタと飛び散るが、モールは倒れない。瞬時に治療術を使って回復し、そのまま空き倉庫の中へ、転がるように逃げ込んだ。
(あー、痛い痛い、痛いって! すっげ痛いってね、もおっ!)
回復したとは言え、その痛みはまだ残る。モールはよろめきつつ、倉庫の床にへたり込んだ。
「はーっ、はーっ……」
モールは荒い息を整えつつ、床に魔法陣を描き始めた。
(こうなりゃ、『取って置き』しかないね)
フラフラになりながらも、どうにか完成させ、相手を待ち構える。
(この床全部、爆弾にしてやったね! さあ入って来い、仮面女……ッ)
モールは目をぎらつかせて、敵が入ってくるのを待つ。
「……?」
だが、一向に入ってくる気配は無い。
(おかしいね……? 私がここに入ってくるの、見えてたはずだけど)
と、首をかしげた次の瞬間――。
「……えっ」
モールの目の前、鼻先から数センチも離れていない空間を、何かが通り抜けた。続いて、壁から入口に向かって、一直線にヒビが走る。
「……そうだ……、思い出した」
仕掛けていた魔法陣も、そのヒビと衝撃に巻き込まれ、壊れる。
「この技……、あの仮面……」
壊れた魔法陣は暴走し、充填されていた魔力が単純なエネルギーへと変化し、爆発に変わる。
(そうだ……! 晴奈をてこずらせた、あの女……!)
爆発はモールを巻き込み、倉庫全体を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「……なかなか、てこずった方かしら」
モールと戦っていた巴景は剣を納め、跡形もなく吹き飛んだ倉庫を眺めた。
「ま、それでも10分持たないか」
ニヤリと笑い――相変わらず、口元以外は仮面で覆われているが――倉庫跡に背を向ける。
「……あら」
振り向いた先に、倉庫の瓦礫をぱたぱたとはたくモールが立っていた。
「何のつもりだね、仮面女」
「流石、賢者と名乗るだけはあるわね。どんな術を使ったのかしら?」
「言う必要ないね」
モールは恨めしそうな目を、巴景に向けてきた。
「君のおかげで、今日カジノで稼いできた50万エル、全部どっかに散らばっちゃったね。50万だよ、50万。どうしてくれるね、本当に……」
「あら、ごめんなさい」
巴景はまた、ニヤニヤと口元を歪ませる。
それを見たモールは、眉間にしわを寄せた。
「謝る気、さらっさら無いってか」
「いいえ? 多少はあるわよ。
えーと……、50万? クラム換算だと、おいくらかしら」
「は?」
「まとまったお金、クラムしか持ち合わせてないの。……3万クラムくらい?」
そう言って、巴景は背負っていたかばんから財布を取り出し、クラム金貨を3枚取り出した。
そんな対応をされるとは思っていなかったらしく、モールは一転、目を丸くしている。
「え? どう言う……?」
「あなたと勝負がしたかった。それだけよ」
そう言って巴景は、唖然とするモールの横を通り抜け、そのまま去っていこうとした。
「ちょ、待てってね」
モールは我に返り、巴景を呼び止めた。
「なに?」
「じゃ、君って、ただ私と戦うためだけに、倉庫一個、丸ごと吹っ飛ばしたっての?」
「そうよ。それがどうかした?」
「……バカじゃない、君?」
モールの言葉を鼻で笑い飛ばし、巴景は答える。
「私は私自身にとって、最も必要で、最も意義のあることをしているだけよ。それを愚かと言うなら、食べることや家を建てること、お金を稼ぐことも愚かな行為になるわ」
「……」
黙りこんだモールに再度背を向け、巴景はそのまま立ち去った。
残されたモールは、渡された金貨を眺めながら、ぼそっとつぶやいた。
「戦うために生きる。それがすべて、……か。
厄介だよ、晴奈。あの女は本気で、君を潰そうとしてるね。それ以外まるで、眼中にないって態度だ。
……楓藤巴景、か。覚えておいてやるね」



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今日の旅岡さん

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うむ。巴景の言うことは私と一致しているので、素晴らしいですね。
自分にとって意義があれば、それでよし。それに賭けるだけの価値はある。・・・ということですね。
自分にとって意義があれば、それでよし。それに賭けるだけの価値はある。・・・ということですね。
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NoTitle
誰にとって有用かと言うことだと思います。