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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第9部

    蒼天剣・無頼録 2

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    晴奈の話、第530話。
    巴景の武者修行。

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    2.
    「今回の案件は、ゴールドマン家からも依頼を受けているわ」
     そう切り出したジュリアに、エランがきょとんとする。
    「ウチから?」
    「ええ。エラン君の、……いえ、親族関係を長々説明するよりも、九尾闘技場の主宰と言った方が分かりやすいわね」
    「ああ、ルードおじさんですか」
    「それでは、今回の調査依頼は闘技場関連、と言うことでしょうか?」
     フォルナの言葉に、ジュリアは小さくうなずいた。
    「ええ。以前の……、フォルナさんが入る前の、518下半期エリザリーグ直後と似たような事件が、発生しているのよ」
    「って言うと、また誘拐っスか」
     そう言ったフェリオに、今度は首を横に振る。
    「いいえ、傷害事件ね。エリザリーグ出場者を狙った辻斬りが、これまでに5件発生しているの。
     特に520年からは、これまで『キング』の圧力で出場できなかった人たちが多数詰め掛けてきて、闘技場側もやむなく出場枠を5名から8名に拡大したから、被害に遭うと思われる人間は多数出てくるでしょうね」
    「出場者……って」
     それを聞いて、フェリオの顔が青くなる。
    「ウチのも、狙われそうっスね」
    「そうね。帰ったら、気をつけるよう声をかけておいた方がいいわ。まだ生まれたばかりでしょう、娘さん」
    「ええ。……まあ、ウチのに限って、そのままやられちゃうなんてコトはないでしょうけどね、ハハ……」
    「お前は頭が間抜けか?」
     バートが呆れた顔で、フェリオの頭をはたいた。
    「いてっ」
    「『傷害事件の被害者はエリザリーグ出場者』っつってんだろ。逆に言えば、エリザリーグまで行った強豪が大ケガしてるってことだぞ」
    「あ……」
     それを聞いて、フェリオの顔がまた青くなった。
    「……あのー」
     申し訳無さそうに口を開いたフェリオに、バートがうなずいた。
    「いいよな、ジュリア?」
    「ええ。注意は早めに呼びかけておいた方が、効果的だもの。今日は早めに帰って、奥さんに気をつけるよう言っておきなさい」
    「あざっす!」
     フェリオはぺこぺこと頭を下げ、飛び去るように公安局を後にした。



    「こんにちは」
    「ん? こんち、……は?」
     往来で声をかけられ、シリンは振り向いて挨拶をしかけた――が、声をかけてきたのは仮面を被った、いかにも怪しげな女だったため、途中で言葉に詰まる。
    「あなた、シリン・ミーシャさんよね?」
    「……そうですけど、どちらさん?」
     シリンは相手の風体を見て露骨に怪しがり、子供をぎゅっと抱きしめて後ろに下がる。
    「ちょっと、お話を、ね。……えーと」
     仮面の女――巴景は、シリンの抱えている子供を見て、躊躇した様子を見せる。
    「……とりあえず、本当にお話からしましょうか。
     ミーシャさん、お家は近くかしら。お子さんが一緒だと、動きにくいでしょう?」
    「……? まあ、うん。……あのー」
    「単刀直入に言うと」
     シリンが巴景の意図を図りかねているのを察したらしく、巴景は剣をわずかに抜き、刀身を見せてきた。
    「『これ』のお相手を、お願いしたいの。
     私は今ここで、無理矢理にでもいいけれど、お子さんを傷つけたくないでしょう? お子さんを安全なところに置いてから、の方がいいわよね?」
    「……せやな。ついてき」

     シリンの家に通された巴景は、シリンが荷物と子供を置いて戻ってくるのを待った。
    「茶、いるかー?」
     シリンの方も、単なる暴漢の類ではないと察したらしい。まだ警戒している様子はあるが、明るく声をかけてくる。
    「ええ、いただくわ。……私の知っている情報だと、エリザリーグに2回出場し、公安に捜査協力したことがある虎獣人の格闘家、としか聞いてなかったけど」
     家の中を見回すと、あちこちに人形やぬいぐるみが置いてあるのが目に付く。
    「いつ、結婚したの?」
    「去年やな。んー、と……、一昨年にダンナと知りおうて、その後ちょっと、一緒に央北に行ってる間に仲良うなってん。その、さっきアンタが言うてた、公安の協力しとった関係で」
    「じゃ、結婚したのは殺刹峰事件の後?」
    「ふぇ?」
     カチャカチャと、茶の用意をしていたらしい音がやむ。
    「覚えてないかしら? 私、晴奈と戦ったのよ」
    「……あー、あー! なんや見た覚えあるかも思てたけど、そやったそやった!」
     少しして、シリンが茶を二人分用意して戻ってきた。
    「ウチ、忘れっぽいねん」
    「あら、そうなの。……じゃ、私が名乗ってたのも忘れた?」
    「……ゴメン」
     巴景は肩をすくめ、改めて名乗る。
    「私の名前は、トモエ・ホウドウ。ちょっと前まで色々やってたけど、旅の剣士よ、今は」
    「あいあい。ま、茶でも……」
    「いただきます」
     と、巴景が茶に口をつけようとした、その時だった。
    「ただいま、シリン! 無事……」
     居間に入ってきたフェリオが、巴景を見て硬直した。

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    2016.11.27 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    作者側としても、過去に登場させたキャラを再度登用させるのは楽しいものです。
    思い入れのあるキャラであれば、特に。

    NoTitle 

    ふむ。。。ここまで読んでいると結構感慨深いものがありますね。
    昔のキャラクターが出たりすると。
    私も巴景が出てきてうれしいです。
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