「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・無頼録 3
晴奈の話、第531話。
もっと強い子に会いに行く。
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3.
「……あー」
巴景はスーツに山折れ帽を被ったフェリオを見て、公安職員だと悟ったが――。
(話がややこしくなりそうね)
状況を面倒と感じこそすれ、相手が脅威であるとは微塵も考えていない。
一方、仮面を付け、剣を佩いた、いかにも危険人物然とした巴景を目にし、フェリオはにらみつけてくる。
「誰だ、お前?」
「旅の剣士」
「ウチに何の用だ?」
「奥さんに、用事があって」
「……」
フェリオは拳銃を取り出し、巴景に向かって構えた。
「……手を、挙げろ」
「いいけど」
巴景はひょい、と両手を挙げる。フェリオは警戒しつつ、巴景が腰に佩いていた剣を取る。
「満足した?」
「……名前は」
緊張を崩さないフェリオに、巴景はため息をつく。
「トモエ・ホウドウよ。……ねえ、ミーシャさん。この人が、あなたの旦那さん?」
「うん」
シリンも緊張した目を向けつつ、茶をすする。
「私、この人の顔見た覚え無いし、私のこと知らないみたいよ。あの時、いなかったみたいだけど」
「あー。あん時、腕に大ケガしとって、屋敷ん奥で寝ててん」
「あら、そうなの」
そう聞いて、巴景はフェリオの腕をひょいと取る。
「う、動くな!」
「いい加減にしなさいよ。そんなの屋内で撃って、跳弾で子供に当たるかもって思わない?」
「……っ」
巴景の言葉に、フェリオの視線は一瞬泳ぐ。
「ほら、離しなさいよ」
巴景はその隙を狙ってフェリオの手首をつかみ、ギリギリと締め上げる。
「う、あ……っ」
たまらず、フェリオは拳銃を落とした。
「ふーん、確かにアザみたいなのがあるわね。……ああ、これってあのネイビーの?」
「うんうん」
フェリオに興味を失い、巴景はフェリオから手を離した。
「良く生きてられたわね。腕も、ちゃんと残ってるみたいだし」
「色々あってん」
手首を押さえてうずくまるフェリオを尻目に、巴景とシリンは会話を続ける。
「でも何や、トモエさんて結構度胸あるねんな。拳銃向けられて、平然としとるし」
「伊達に修羅場は潜ってないわ。拳銃向けられるよりもっと怖い体験、したことがあるもの」
「そーなんやー」
「……クス」
シリンと話しているうち、巴景は笑い出した。
「楽しい人ね、シリンさん」
「え、そお?」
「戦おうと思ってたけど、毒気抜かれちゃったわ。お茶いただいたら、帰るわね」
それを聞いて、シリンはきょとんとする。
「ええのん?」
「ええ。まあ、……こんなこと言ってしまうと気分悪くしちゃうかも知れないけど、元々から期待外れだったのよね、この街」
巴景はパタパタと手を振り、これまでの対戦を語る。
「私、武者修行と思って、エリザリーグ出場者なら骨のある人がいるだろうと思って声をかけて、手合わせしてもらってたのよ。
そしたらみんなあっけなくやられちゃうし、『剣なんか使って』とか『女のクセに』とか、泣き言をびーびー言ってくるのよ。武器なら晴奈だって、これまでの優勝者だって使ってたのに」
「あー……。それはちょっと思たなぁ。
ウチも去年のんは、子供生まれる前やったから観戦だけしとってんけど、あの519年上半期のんに比べたら、まるでママゴトやチャンバラやなーて思たわ。
そら、クラウンににらまれただけでスゴスゴ引き下がる奴らやな、てな」
「でしょうね、ふふ……」
巴景は茶を飲み干し、立ち上がって床に置かれた剣を取る。
「それじゃ私、そろそろお暇するわね」
「……あー。ウチ、まだ本調子ちゃうから、今やってもつまらへんかもやろけど」
シリンも立ち上がり、すっと右手を差し出す。
「522年からは、復帰するつもり満々やしな。そん時、やろ」
「いいわね。それじゃ、楽しみにしてるわ」
巴景はシリンの手を握り、堅く握手した。
と、すっかり意気消沈したフェリオを見て、巴景が声をかけた。
「いきなり拘束しようとした、ってことは、公安が追ってるのね。さっき言ったリーグ出場者から、被害届でも出たのかしら。
ま、これ以上被害者は増えないわ。飽きたから」
「あ……、飽きた?」
顔を上げたフェリオに、巴景は口元をわずかに曲げてこう言った。
「もっと強い人に、会いたいの。さっき言った通り、ここの人じゃ相手にならないし。
もうここには、用は無いわ」
「……そうか」
フェリオはまたうなだれ、ソファにぐったりと腰かけた。
「じゃあ、とびっきり強いヤツが、ミッドランドにいる。そいつと会ってみたらどうだ?」
「へえ?」
「名前はテンコ。あのタイカ・カツミの弟子だそうだ。セイナさんも苦戦した相手だぜ」
「……いいわね。ありがとうね、ダンナさん」
巴景は会釈し、シリンの家を出た。
「はい?」「何言ってんだ?」
翌日、フェリオはジュリアに、公安への辞職願を提出した。
「俺……、もうダメっス」
「何があったんだ?」
「昨日、家に帰ったら……、いたんスよ、犯人」
「犯人って、リーグ出場者の傷害事件の?」
ジュリアの問いに、フェリオは力なくうなずき、経緯を説明した。
「そうか……」
「……俺、公安に向いてないみたいっス。殺刹峰ん時も、ミッドランドん時も、捜査、とことん足引っ張ってるし」
落ち込むフェリオを見て、ジュリアは煙草をくわえた。
「……あのね、フェリオ君。それを言ってしまったら、エラン君の方がひどいわよ」
「いきなり人を名指しでけなさんといてくださいよ……」
エランがむくれるが、ジュリアは構わず話を進める。
「それでもエラン君は、十分に職員の資格有りと私は思ってるわ。彼、どんなに下手を打ってもへこたれないもの」
「……」
ジュリアは手にしていたフェリオの辞職願を燃やし、それを使って煙草に火を点けた。
「あなたは良くやったわ。あなたがテンコさんのことを教え、犯人を遠ざけたおかげで、被害はこれ以上拡大しないんだから」
「あ……」
「あなたはちゃんと街を護ったわ。自信、持ちなさい」
ジュリアは灰になった辞職願をペール缶に捨て、話を切り上げた。
「テンコさんが相手なら、犯人への制裁になるでしょう。
さ、次の案件よ」
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もっと強い子に会いに行く。
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「……あー」
巴景はスーツに山折れ帽を被ったフェリオを見て、公安職員だと悟ったが――。
(話がややこしくなりそうね)
状況を面倒と感じこそすれ、相手が脅威であるとは微塵も考えていない。
一方、仮面を付け、剣を佩いた、いかにも危険人物然とした巴景を目にし、フェリオはにらみつけてくる。
「誰だ、お前?」
「旅の剣士」
「ウチに何の用だ?」
「奥さんに、用事があって」
「……」
フェリオは拳銃を取り出し、巴景に向かって構えた。
「……手を、挙げろ」
「いいけど」
巴景はひょい、と両手を挙げる。フェリオは警戒しつつ、巴景が腰に佩いていた剣を取る。
「満足した?」
「……名前は」
緊張を崩さないフェリオに、巴景はため息をつく。
「トモエ・ホウドウよ。……ねえ、ミーシャさん。この人が、あなたの旦那さん?」
「うん」
シリンも緊張した目を向けつつ、茶をすする。
「私、この人の顔見た覚え無いし、私のこと知らないみたいよ。あの時、いなかったみたいだけど」
「あー。あん時、腕に大ケガしとって、屋敷ん奥で寝ててん」
「あら、そうなの」
そう聞いて、巴景はフェリオの腕をひょいと取る。
「う、動くな!」
「いい加減にしなさいよ。そんなの屋内で撃って、跳弾で子供に当たるかもって思わない?」
「……っ」
巴景の言葉に、フェリオの視線は一瞬泳ぐ。
「ほら、離しなさいよ」
巴景はその隙を狙ってフェリオの手首をつかみ、ギリギリと締め上げる。
「う、あ……っ」
たまらず、フェリオは拳銃を落とした。
「ふーん、確かにアザみたいなのがあるわね。……ああ、これってあのネイビーの?」
「うんうん」
フェリオに興味を失い、巴景はフェリオから手を離した。
「良く生きてられたわね。腕も、ちゃんと残ってるみたいだし」
「色々あってん」
手首を押さえてうずくまるフェリオを尻目に、巴景とシリンは会話を続ける。
「でも何や、トモエさんて結構度胸あるねんな。拳銃向けられて、平然としとるし」
「伊達に修羅場は潜ってないわ。拳銃向けられるよりもっと怖い体験、したことがあるもの」
「そーなんやー」
「……クス」
シリンと話しているうち、巴景は笑い出した。
「楽しい人ね、シリンさん」
「え、そお?」
「戦おうと思ってたけど、毒気抜かれちゃったわ。お茶いただいたら、帰るわね」
それを聞いて、シリンはきょとんとする。
「ええのん?」
「ええ。まあ、……こんなこと言ってしまうと気分悪くしちゃうかも知れないけど、元々から期待外れだったのよね、この街」
巴景はパタパタと手を振り、これまでの対戦を語る。
「私、武者修行と思って、エリザリーグ出場者なら骨のある人がいるだろうと思って声をかけて、手合わせしてもらってたのよ。
そしたらみんなあっけなくやられちゃうし、『剣なんか使って』とか『女のクセに』とか、泣き言をびーびー言ってくるのよ。武器なら晴奈だって、これまでの優勝者だって使ってたのに」
「あー……。それはちょっと思たなぁ。
ウチも去年のんは、子供生まれる前やったから観戦だけしとってんけど、あの519年上半期のんに比べたら、まるでママゴトやチャンバラやなーて思たわ。
そら、クラウンににらまれただけでスゴスゴ引き下がる奴らやな、てな」
「でしょうね、ふふ……」
巴景は茶を飲み干し、立ち上がって床に置かれた剣を取る。
「それじゃ私、そろそろお暇するわね」
「……あー。ウチ、まだ本調子ちゃうから、今やってもつまらへんかもやろけど」
シリンも立ち上がり、すっと右手を差し出す。
「522年からは、復帰するつもり満々やしな。そん時、やろ」
「いいわね。それじゃ、楽しみにしてるわ」
巴景はシリンの手を握り、堅く握手した。
と、すっかり意気消沈したフェリオを見て、巴景が声をかけた。
「いきなり拘束しようとした、ってことは、公安が追ってるのね。さっき言ったリーグ出場者から、被害届でも出たのかしら。
ま、これ以上被害者は増えないわ。飽きたから」
「あ……、飽きた?」
顔を上げたフェリオに、巴景は口元をわずかに曲げてこう言った。
「もっと強い人に、会いたいの。さっき言った通り、ここの人じゃ相手にならないし。
もうここには、用は無いわ」
「……そうか」
フェリオはまたうなだれ、ソファにぐったりと腰かけた。
「じゃあ、とびっきり強いヤツが、ミッドランドにいる。そいつと会ってみたらどうだ?」
「へえ?」
「名前はテンコ。あのタイカ・カツミの弟子だそうだ。セイナさんも苦戦した相手だぜ」
「……いいわね。ありがとうね、ダンナさん」
巴景は会釈し、シリンの家を出た。
「はい?」「何言ってんだ?」
翌日、フェリオはジュリアに、公安への辞職願を提出した。
「俺……、もうダメっス」
「何があったんだ?」
「昨日、家に帰ったら……、いたんスよ、犯人」
「犯人って、リーグ出場者の傷害事件の?」
ジュリアの問いに、フェリオは力なくうなずき、経緯を説明した。
「そうか……」
「……俺、公安に向いてないみたいっス。殺刹峰ん時も、ミッドランドん時も、捜査、とことん足引っ張ってるし」
落ち込むフェリオを見て、ジュリアは煙草をくわえた。
「……あのね、フェリオ君。それを言ってしまったら、エラン君の方がひどいわよ」
「いきなり人を名指しでけなさんといてくださいよ……」
エランがむくれるが、ジュリアは構わず話を進める。
「それでもエラン君は、十分に職員の資格有りと私は思ってるわ。彼、どんなに下手を打ってもへこたれないもの」
「……」
ジュリアは手にしていたフェリオの辞職願を燃やし、それを使って煙草に火を点けた。
「あなたは良くやったわ。あなたがテンコさんのことを教え、犯人を遠ざけたおかげで、被害はこれ以上拡大しないんだから」
「あ……」
「あなたはちゃんと街を護ったわ。自信、持ちなさい」
ジュリアは灰になった辞職願をペール缶に捨て、話を切り上げた。
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双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

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双月千年世界 2;火紅狐

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双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
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雑記

もくじ
クルマのドット絵

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今日の旅岡さん

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巴景も仮面をつけているからいかにも不審人物ですからね。
ってそれは大分前のコメントでしたかね。
まあ、しかし本人は気にしてないからいいでしょうね。
ってそれは大分前のコメントでしたかね。
まあ、しかし本人は気にしてないからいいでしょうね。
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