「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・無頼録 4
晴奈の話、第532話。
ミッドランドのアイドル。
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4.
央中中部、ミッドランド。
街の主が住むラーガ邸の丘の前に、魔術師たちが集まって座っている。
「だからよー、火の術も雷の術も、根っこは一緒なんだ。熱エネルギーを操るか、電気エネルギーを操るかの違いだけなんだよ」
「ふむ」
彼らの前に立ち、講義しているのは、あの克天狐である。
事件の後、彼女はすっかりミッドランドの名物になり、この日も魔術師たちに自分の得た秘術を教えていた。
天狐は妹弟子のレイリン――最近、天狐から「お前も克って名乗れよー、妹弟子なんだからよー」と言われたので、克鈴林と名乗るようになった――を助手に従え、講義を進めていく。
「ってワケだから、術式も互換性は高い。だから、ほれ」
天狐は空に向け、火の槍を放つ。
「えいっ」
そこに鈴林が手を加え、雷の槍へと姿を変えさせた。
「おお~……」
「な? こーゆー面白いワザもできんだよ。他にもな、氷と土は固化、水と風は流体って言う相似点があるんだ。そこら辺を色々いじくってみたら、何か発見できるかもな。
んじゃ今日はここまで。おつかれさん」
天狐の講義が終わり、魔術師たちは深々と礼をする。
「ありがとうございました、テンコ様」
「サマとかいらねーよ、照れるぜ。……呼ぶなら天狐ちゃんって呼びな、ケケ」
天狐は狐耳をコリコリかきながら、その場を後にした。
天狐は現在、鈴林と共にラーガ邸に居候している。とは言え、彼女が街にいることで入る観光収入などの間接的な利益は非常に大きいものなので、当主のトラムは彼女を厚遇していた。
「おっ、見ろよ鈴林」
「どうしたの、姉(あね)さんっ?」
「おっちゃん、今日のおやつにショコラシフォンケーキ用意してるってさ」
天狐は自分と鈴林に当てられた部屋に残されたメモを読み、九尾の尻尾をパタパタさせている。
「好きだねぇ、チョコ」
「へへっ」
天狐はニコニコと笑いながら、食堂に足を運んだ。
と――。
「……ん」
「どしたのっ?」
「なんか、感じねーか?」
天狐はどこからか鉄扇「傾国」を取り出し、警戒する。鈴林も天狐の後ろに付き、その気配を感じ取ろうと集中した。
「……っ! 窓っ!」
そして、天狐より一瞬早く鈴林がその気配の元に感づき、魔術で盾を作る。
次の瞬間、ラーガ邸の庭を見渡すことのできる、廊下一面に張られた大きな窓の一枚に、縦一直線に亀裂が走った。
「……っ、と」
続いてやって来た衝撃波が、鈴林の術で防御される。
「何だぁ……?」
鈴林が術を解いた瞬間、天狐はばっと庭先に飛び出す。
「いきなり何すんだよ、お前? 庭、メチャメチャにしやがって! トラムのおっちゃん、泣くぜ?」
「知らないわよ、そんなこと」
庭の中央に立っていた巴景が、肩をすくめる。
その周囲には兵士たちが倒れている。どうやら警備網を無理矢理に突っ切って、屋敷に侵入したようだ。
「あなたが、克天狐ちゃん?」
「そーだよ。天狐サマって呼べ」
「あら? さっき講義してた時、ちゃん付けしろって言ってなかった?」
「オレと仲良くするヤツは、な。テメーは、敵だ」
「なおさら呼びたくないわよ。なんで敵に様付けしなきゃいけないのよ」
巴景はそう言って、次の攻撃を放った。
「チッ……、話する気、ゼロか」
天狐は鉄扇で防ぎつつ、雷の術を放つ。
「『サンダースピア』!」
雷の槍が巴景に向かって飛んで行く。が、巴景は剣を構えただけで、動こうとしない。
(……っ、なんか見た覚えがある気がするぜ、こんな光景)
天狐は嫌な予感を覚え、続けてもう一発放とうと呪文を唱える。
その間に、雷の槍が巴景に到達する。だが、予想通り槍は巴景の剣に弾かれ、四散する。
「えっ」
背後で鈴林が声を上げて驚いていたが、天狐は構わず二撃目を放った。
「もいっちょ! 『サンダースピア』!」
「同じことよ」
二度目の電撃も、巴景は同じように防ごうと構えた。
「鈴林! 変換!」
と、天狐は鈴林に向かって命じる。
「え? あっ、はいっ!」
鈴林は即座に応じ、先程講義で見せたように、天狐の術に手を加える。
雷の槍はギチ、と妙な音を立てて、空中で実体に変化した。
「……!」
「ケケ、ちょっと術を組み替えさせてもらったぜ」
雷の槍は重量ある石の槍に変化し、巴景に直撃した。
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央中中部、ミッドランド。
街の主が住むラーガ邸の丘の前に、魔術師たちが集まって座っている。
「だからよー、火の術も雷の術も、根っこは一緒なんだ。熱エネルギーを操るか、電気エネルギーを操るかの違いだけなんだよ」
「ふむ」
彼らの前に立ち、講義しているのは、あの克天狐である。
事件の後、彼女はすっかりミッドランドの名物になり、この日も魔術師たちに自分の得た秘術を教えていた。
天狐は妹弟子のレイリン――最近、天狐から「お前も克って名乗れよー、妹弟子なんだからよー」と言われたので、克鈴林と名乗るようになった――を助手に従え、講義を進めていく。
「ってワケだから、術式も互換性は高い。だから、ほれ」
天狐は空に向け、火の槍を放つ。
「えいっ」
そこに鈴林が手を加え、雷の槍へと姿を変えさせた。
「おお~……」
「な? こーゆー面白いワザもできんだよ。他にもな、氷と土は固化、水と風は流体って言う相似点があるんだ。そこら辺を色々いじくってみたら、何か発見できるかもな。
んじゃ今日はここまで。おつかれさん」
天狐の講義が終わり、魔術師たちは深々と礼をする。
「ありがとうございました、テンコ様」
「サマとかいらねーよ、照れるぜ。……呼ぶなら天狐ちゃんって呼びな、ケケ」
天狐は狐耳をコリコリかきながら、その場を後にした。
天狐は現在、鈴林と共にラーガ邸に居候している。とは言え、彼女が街にいることで入る観光収入などの間接的な利益は非常に大きいものなので、当主のトラムは彼女を厚遇していた。
「おっ、見ろよ鈴林」
「どうしたの、姉(あね)さんっ?」
「おっちゃん、今日のおやつにショコラシフォンケーキ用意してるってさ」
天狐は自分と鈴林に当てられた部屋に残されたメモを読み、九尾の尻尾をパタパタさせている。
「好きだねぇ、チョコ」
「へへっ」
天狐はニコニコと笑いながら、食堂に足を運んだ。
と――。
「……ん」
「どしたのっ?」
「なんか、感じねーか?」
天狐はどこからか鉄扇「傾国」を取り出し、警戒する。鈴林も天狐の後ろに付き、その気配を感じ取ろうと集中した。
「……っ! 窓っ!」
そして、天狐より一瞬早く鈴林がその気配の元に感づき、魔術で盾を作る。
次の瞬間、ラーガ邸の庭を見渡すことのできる、廊下一面に張られた大きな窓の一枚に、縦一直線に亀裂が走った。
「……っ、と」
続いてやって来た衝撃波が、鈴林の術で防御される。
「何だぁ……?」
鈴林が術を解いた瞬間、天狐はばっと庭先に飛び出す。
「いきなり何すんだよ、お前? 庭、メチャメチャにしやがって! トラムのおっちゃん、泣くぜ?」
「知らないわよ、そんなこと」
庭の中央に立っていた巴景が、肩をすくめる。
その周囲には兵士たちが倒れている。どうやら警備網を無理矢理に突っ切って、屋敷に侵入したようだ。
「あなたが、克天狐ちゃん?」
「そーだよ。天狐サマって呼べ」
「あら? さっき講義してた時、ちゃん付けしろって言ってなかった?」
「オレと仲良くするヤツは、な。テメーは、敵だ」
「なおさら呼びたくないわよ。なんで敵に様付けしなきゃいけないのよ」
巴景はそう言って、次の攻撃を放った。
「チッ……、話する気、ゼロか」
天狐は鉄扇で防ぎつつ、雷の術を放つ。
「『サンダースピア』!」
雷の槍が巴景に向かって飛んで行く。が、巴景は剣を構えただけで、動こうとしない。
(……っ、なんか見た覚えがある気がするぜ、こんな光景)
天狐は嫌な予感を覚え、続けてもう一発放とうと呪文を唱える。
その間に、雷の槍が巴景に到達する。だが、予想通り槍は巴景の剣に弾かれ、四散する。
「えっ」
背後で鈴林が声を上げて驚いていたが、天狐は構わず二撃目を放った。
「もいっちょ! 『サンダースピア』!」
「同じことよ」
二度目の電撃も、巴景は同じように防ごうと構えた。
「鈴林! 変換!」
と、天狐は鈴林に向かって命じる。
「え? あっ、はいっ!」
鈴林は即座に応じ、先程講義で見せたように、天狐の術に手を加える。
雷の槍はギチ、と妙な音を立てて、空中で実体に変化した。
「……!」
「ケケ、ちょっと術を組み替えさせてもらったぜ」
雷の槍は重量ある石の槍に変化し、巴景に直撃した。
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NoTitle
元素を扱いが出来れば性質を変えることはできますからね。
元素を使った良いギミックの魔法だと思います。