FC2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第2部

    蒼天剣・夢幻録 3

     ←蒼天剣・夢幻録 2 →蒼天剣・夢幻録 4
    晴奈の話、第64話。
    草葉の陰から。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
    「どうされたのですか、小鈴さん?」
    「今、あの角に雪乃が……」
     橘の言葉に、謙も柏木も目を丸くする。
    「何ですって?」
    「そりゃ無いだろう。雪乃は今、式の準備中だろうし」
    「でも、確かにいたのよ」
     橘は後を追いかけようと、ひょいと角を曲がったところで――。
    「おわっ!?」《きゃっ!?》
     曲がった途端にその誰かとぶつかってしまい、橘は尻餅をついた。
    「いてて……、ご、ごめんなさーい」
     謝りながら立ち上がり、橘は相手に手を差し伸べる。
    「大丈夫ですか?」
     深緑の着物を着た、その長耳の女性は、ぱたぱたと手を振りつつ謝り返してきた。
    《い、いえ、大丈夫です。あなたこそ、お怪我はありませんでした?》
     ヨタヨタと立ち上がるその女性の声を聞いて、橘は違和感を覚えた。
    (あれ? 何か今の声、……変じゃない?
     何て言うか、薄皮一枚隔ててるって言うか、ちょっと遠いトコにいますよって言うか)
     橘がいぶかしんでいる間に、女性はパタパタと着物の裾をはたきつつ、橘の方に振り返った。
    「……!? え、やっぱ雪乃?」
    《え?》
     その女性は、雪乃そっくりの顔をしていた。

     橘たち五人は突き飛ばしたおわびも兼ねて、路地の途中にあった喫茶店で女性にお茶をおごりつつ、話をすることにした。
    「それじゃ雪花さんって、雪乃の……?」
    《はい。あまり大きな声では言えないのですが、あの子の母です》
     雪花と名乗ったその女性は、うつむきがちに話す。
    《あの子が幼い頃から、わけあってこの塞で預かっていただいて》
    「それで今度雪乃が結婚するから、一目会いたい、と」
    《そうです。……今さら、会える道理は無いのですが》
     雪花は悲しげな顔でお茶をすする。謙が頭をかきながら、なだめている。
    「まあ、そう言いなさんな、雪花さん。やっぱり嬉しいぜ、自分の親が来てくれたら」
    《そうでしょうか……?》
     謙は横にいる棗の肩を抱き、自信たっぷりにうなずく。
    「ああ、間違い無い。俺と棗の結婚の時もそうだったもんな」
    「ええ、そうですね」
     棗も微笑んで同意する。
    「この人、親の前で『ありがとう、ありがとう』と言いながら号泣……」「いいから。それはいいから」
     謙は棗の肩から手をほどき、両手を合わせてやめさせた。その様子を見ていた雪花が、口元に手を当てて苦笑する。
    《ふふ、仲がいいんですね》
    「あら」
     その仕草を見た橘は、感心した声をあげる。
    「雪花さん、やっぱり似てる」
    《そう、ですか?》
    「今の笑い方、雪乃も良くやってたわ。やっぱり親子なのね」
    《そう……。それを聞くと、本当に会いたくなりますね》
     また、うつむきがちにお茶をすする。ずっと見ていた柏木が、ためらいつつも尋ねてみる。
    「あの、雪花さん。お会いになればいいのでは?」
    《……そうしたいのは、山々ですが》
     雪花はなお、ためらう。
    《先程も申し上げた通り、今更会うことなど、私には到底できないのです。
     ですからこうして、草葉の陰で見守っていることしか》
    「ちょっと、『草葉の陰』って……。まるで死んでるみたいなこと、言わないで下さいよ。こんなおめでたい日に、不謹慎ですよ」
     柏木はたちの悪い冗談と思ったらしく、雪花の返答に苦い顔を返す。
    《あっ、えっと、その……、いえ、そうですね。変なこと、言ってしまいましたね》
     だが、橘はこの女性が、まともな人間でないこと――幽霊であることを薄々察していた。
    (あー、間違い無い。この人、死んでる人だわ)
     と言ってもこの時点までは確信は無かったのだが、柏木の言葉に見せた雪花の反応で、それを確信した。
     と、向かいに座る樫原夫妻も、どうやら自分と同じことに気付いているらしく、神妙な顔を並べている。
    (やっぱり、……よね?)
     橘は隣にいる雪花に気付かれないよう、謙に目配せする。
    (ああ。多分、間違い無い)
     謙はわずかにうなずき、橘に同意する。が――。
    (つっても悪霊とかじゃ無さそうだし、このまま……)
    (ああ。指摘したり攻撃したりなんかせず、話を聞くだけのが良さそうだ)
     橘たちは花嫁の母親の幽霊を交えた、奇妙な茶会を続けることにした。



     式の手伝いをしていた門下生が、雪乃を呼びに来た。
    「柊先生、間もなく式が始まります」
     それに応じ、雪乃は晴奈を伴って部屋を出る。
    「いよいよ……、ね」
    「緊張していらっしゃいますか?」
     そう尋ねる晴奈を見て、雪乃は口に手を当ててクスクス笑う。
    「晴奈、あなたの方が緊張してるんじゃない? 目、すわってるわよ」
    「いや、……どうも、慣れなくて」
    「わたしもよ。ねえ、晴奈」
     雪乃はすっと、手を差し出す。
    「手を握ってて」
    「え?」
    「緊張してるの。いいかしら?」
     請われた晴奈は、雪乃の手を優しく握りしめる。
    「ありがと」
    「……師匠。こんな時に、何ですが」
     晴奈はわずかに目をそらし、恥ずかしそうに告白した。
    「私は師匠のことを、……その、姉のように慕っていました。その、不敬だとは思っていたのですが」
    「あら、そんなこと無いわよ。わたしも妹みたいに思ってたもの」
    「そ、そうですか」
     雪乃はまた、クスクス笑う。
    「これからはお姉ちゃんって呼んでもいいわよ」
     そう提案した雪乃に、晴奈は顔を赤くしつつ首を振る。
    「い、いやいや。……姉と思っても、やはり私には師匠です」
    「そう。……それにしても、良太はあなたを姉と慕い、あなたはわたしを姉と慕っていた。そしてわたしが、良太と結婚。
     あなたが良く言っているけれど、これこそ『何が何やら』って話よね」
    「はは……」
     他愛の無い話をするうちに雪乃の緊張はほぐれ、握っていた手が緩む。
    「そろそろ神前式の場に着くわ。ここからはわたしだけで行くから式場で待っていてね、晴奈」
    「はい」

     一方、良太は――。
    「すみません、本当に」
    「い、いえ」
    「どうかこのまま、式が始まるまで眠らせて置いてください。よろしくお願いします」
    「あ、はい」
     門下生に平謝りし、新郎控え室で酔いつぶれた重蔵の世話をお願いしていた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.09 転載
    2016.02.21 修正
    関連記事


    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【蒼天剣・夢幻録 2】へ
    • 【蒼天剣・夢幻録 4】へ

    ~ Comment ~

    NoTitle 

    その通り。「琴線録」にて人形の姿で出たあの人です。

    NoTitle 

    カーチャンだったのかv-209
    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【蒼天剣・夢幻録 2】へ
    • 【蒼天剣・夢幻録 4】へ