「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・無頼録 5
晴奈の話、第533話。
混沌の巴景。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
槍を食らい、巴景は一言も発さず後ろに吹っ飛んだ。
「よっしゃ!」
「うまく行ったねっ!」
天狐と鈴林は両手をぺち、と合わせて大喜びする。
「なかなかいいタイミングだったぜ、鈴林」
「えへへっ……。っと、姉さんっ。ちゃんととどめ、刺したっ?」
「お、そうだった。確認しな……」
振り向いたところで、天狐の笑顔が凍りつく。
「……いねえ?」
先程まで巴景が倒れていた場所には、自分たちが放った石の槍しかない。
「ドコ行った……?」
天狐は辺りを見回すが、巴景の姿は無い。
「鈴林、ちょっと貸せ」
「あ、はいっ」
天狐は鈴林の魔力を借り、索敵術を試みた。
「『ナインアイドチャーミング』、……えっ?」
天狐の脳内に、周囲の情報が入ってくる。
その情報が、すぐ目の前に――丁度、槍がある場所に人がいると告げていた。
「どうしたの?」
「……まだ、そこにいるらしい、ぜ?」
「えっ?」
二人は無言で顔を見合わせ、恐る恐る槍へと近付く。
「……いない、よな」
「う、ん」
すぐ近くまで迫っても、誰の姿も見つけられない。それどころか、魔術で風を起こし、土ぼこりを舞わせても、素通りする。
「ドコに……?」
天狐はわけが分からず、槍に手を伸ばした。
次の瞬間――。
「アンタのおかげで、いい技思い付いたわ」
「……ッ」
天狐の目の前に突然、巴景が現れた。
「あ、が……っ」
天狐の胴に、深々と剣が突き刺さる。
「属性の変換、ね。なかなか面白いじゃない」
「て、てめ、っ、どう、やって」
天狐には、何が起きていたのか把握できない。
が、横で成り行きを見ていた鈴林には、巴景が何をしていたのか理解できた。
「そんな、まさか……、自分の体を」
「ふふ、あははは……」
巴景の足から下は、まったく目視できない。
「ありがとうね、天狐『サマ』」
巴景は自分にかけていた術を解き、そのまま天狐を剣先から振り飛ばした。
30分後。
「て、テンコちゃん! 襲われたと聞きましたが、大丈夫ですか!?」
騒ぎを聞きつけたミッドランドの主、トラムが、兵士を引き連れて屋敷へと戻ってきた。
「おう、おっちゃん。おせーよ、つつ……」
天狐は鈴林に抱きかかえられる形で、庭の中央で横になっていた。
「怪我を!? 誰か、担架を……」「いらねーよ。オレは大魔術師だぜ、……あいたた」
天狐は腹を押さえ、顔をしかめていた。
「しばらくしてりゃ治るから、心配すんなって。
……しっかしあの女、滅茶苦茶な魔術センス持ってやがる。まさか一回、二回オレの技を見ただけで、それを把握するとはな」
天狐は苦い顔をしながら、ぼそっとつぶやいた。
「うー……。トラムのおっちゃんよー」
「はい、何でしょう?」
「ゴメンな、庭こんなにしちまって」
「いえ……。庭なら、直せば済みますから」
「オレも直すの、手伝うよ」
「いえいえ、テンコちゃんはゆっくり休んでいてください。そんな体じゃ、動くのも辛いでしょう?」
トラムに諭され、天狐はポリポリと頭をかいてうなずいた。
「……うん。ホント、ゴメンな」
それから2日ほど、天狐の魔術講座は休講となった。
ミッドランドを離れた巴景は近隣の森に逗留し、天狐の術にヒントを得て編み出した技を推敲していた。
「ふふ……」
殺刹峰で得た強化術――神経の反応速度や筋力を増強させる通常の強化術とは一線を画す、肉や骨の組織そのものを鋼鉄やバネのように変質・変形させる術――をベースに、巴景は自分の腕を変換させていた。
「人間離れしちゃったわね、少し」
巴景の左腕は、煌々と燃え盛っている。自分の腕を、「火の術そのもの」に変えたのだ。
術を解くと、腕は元に戻る。火傷もしていない。
「戦った価値は、十分すぎるほどあったわね」
続いて、風の術に変換させる。腕は見えなくなったが、感覚も触感も確かにある。試しに落ちていた枝を拾うと、普通につかむことができた。
空中にふよふよと浮かぶ枝を見て、巴景はほくそ笑んだ。
「……いいわね」
巴景は見えない左腕にぐっと力を込め、枝をぽきりと折った。
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混沌の巴景。
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5.
槍を食らい、巴景は一言も発さず後ろに吹っ飛んだ。
「よっしゃ!」
「うまく行ったねっ!」
天狐と鈴林は両手をぺち、と合わせて大喜びする。
「なかなかいいタイミングだったぜ、鈴林」
「えへへっ……。っと、姉さんっ。ちゃんととどめ、刺したっ?」
「お、そうだった。確認しな……」
振り向いたところで、天狐の笑顔が凍りつく。
「……いねえ?」
先程まで巴景が倒れていた場所には、自分たちが放った石の槍しかない。
「ドコ行った……?」
天狐は辺りを見回すが、巴景の姿は無い。
「鈴林、ちょっと貸せ」
「あ、はいっ」
天狐は鈴林の魔力を借り、索敵術を試みた。
「『ナインアイドチャーミング』、……えっ?」
天狐の脳内に、周囲の情報が入ってくる。
その情報が、すぐ目の前に――丁度、槍がある場所に人がいると告げていた。
「どうしたの?」
「……まだ、そこにいるらしい、ぜ?」
「えっ?」
二人は無言で顔を見合わせ、恐る恐る槍へと近付く。
「……いない、よな」
「う、ん」
すぐ近くまで迫っても、誰の姿も見つけられない。それどころか、魔術で風を起こし、土ぼこりを舞わせても、素通りする。
「ドコに……?」
天狐はわけが分からず、槍に手を伸ばした。
次の瞬間――。
「アンタのおかげで、いい技思い付いたわ」
「……ッ」
天狐の目の前に突然、巴景が現れた。
「あ、が……っ」
天狐の胴に、深々と剣が突き刺さる。
「属性の変換、ね。なかなか面白いじゃない」
「て、てめ、っ、どう、やって」
天狐には、何が起きていたのか把握できない。
が、横で成り行きを見ていた鈴林には、巴景が何をしていたのか理解できた。
「そんな、まさか……、自分の体を」
「ふふ、あははは……」
巴景の足から下は、まったく目視できない。
「ありがとうね、天狐『サマ』」
巴景は自分にかけていた術を解き、そのまま天狐を剣先から振り飛ばした。
30分後。
「て、テンコちゃん! 襲われたと聞きましたが、大丈夫ですか!?」
騒ぎを聞きつけたミッドランドの主、トラムが、兵士を引き連れて屋敷へと戻ってきた。
「おう、おっちゃん。おせーよ、つつ……」
天狐は鈴林に抱きかかえられる形で、庭の中央で横になっていた。
「怪我を!? 誰か、担架を……」「いらねーよ。オレは大魔術師だぜ、……あいたた」
天狐は腹を押さえ、顔をしかめていた。
「しばらくしてりゃ治るから、心配すんなって。
……しっかしあの女、滅茶苦茶な魔術センス持ってやがる。まさか一回、二回オレの技を見ただけで、それを把握するとはな」
天狐は苦い顔をしながら、ぼそっとつぶやいた。
「うー……。トラムのおっちゃんよー」
「はい、何でしょう?」
「ゴメンな、庭こんなにしちまって」
「いえ……。庭なら、直せば済みますから」
「オレも直すの、手伝うよ」
「いえいえ、テンコちゃんはゆっくり休んでいてください。そんな体じゃ、動くのも辛いでしょう?」
トラムに諭され、天狐はポリポリと頭をかいてうなずいた。
「……うん。ホント、ゴメンな」
それから2日ほど、天狐の魔術講座は休講となった。
ミッドランドを離れた巴景は近隣の森に逗留し、天狐の術にヒントを得て編み出した技を推敲していた。
「ふふ……」
殺刹峰で得た強化術――神経の反応速度や筋力を増強させる通常の強化術とは一線を画す、肉や骨の組織そのものを鋼鉄やバネのように変質・変形させる術――をベースに、巴景は自分の腕を変換させていた。
「人間離れしちゃったわね、少し」
巴景の左腕は、煌々と燃え盛っている。自分の腕を、「火の術そのもの」に変えたのだ。
術を解くと、腕は元に戻る。火傷もしていない。
「戦った価値は、十分すぎるほどあったわね」
続いて、風の術に変換させる。腕は見えなくなったが、感覚も触感も確かにある。試しに落ちていた枝を拾うと、普通につかむことができた。
空中にふよふよと浮かぶ枝を見て、巴景はほくそ笑んだ。
「……いいわね」
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
体の属性も変えるというのは・・。
私も思いつかない発想というか、そういう魔法があってもいいですね。便利な体だ。。。
私も思いつかない発想というか、そういう魔法があってもいいですね。便利な体だ。。。
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NoTitle
巴景の飄々とした、それでいて何者にも屈しない性格を体現した術ですね。