「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・無頼録 7
晴奈の話、第535話。
聖人の死と、悪魔の再臨。
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7.
巴景の襲撃から二日後、黒炎教団では宮内全体を挙げて、教主ウィリアムの葬儀が行われた。
「ああ、父上……」
「どうして、こんなことばかりが……」
ウイリアムの棺の横には、傷だらけになった教主の子供たちが並んで立ち、別れを惜しんでいた。
「私のせいだ……! 私があの鬼を取り逃がしたせいで、父上を殊更に苦しめてしまったのだ……!」
その列の真ん中に、他の兄弟たちよりも一層包帯まみれになったワニオンが立ち、他の者たちよりも一際嘆き悲しんでいた。
「……ううっ」
こらえきれなくなり、ウェンディはその場から一旦離れ、聖堂の裏でボタボタと涙を流し始めた。
「どうして……、どうしてこんなこと……」
「……」
と、顔を覆ってしゃがみ込んだ彼女は、自分の前に誰かが立っているのに気が付いた。
「誰……?」
顔を挙げるが、自分が眼鏡を外しているのと、相手が陰に紛れるような黒い服装を着ているのとで、そこにいるのが誰なのか、良く分からない。
「好人物だったな、良くも悪くも」
「え……?」
「お前の父のことだ。
とても人のいい、無欲で穏やかな男だった。そのせいで、あいつの知らないところで何かとゴタゴタは起こったが、それでも十分に教主の務めを果たしていただろう。
亡くなったのは残念だが、お前たちのせいではない。天命だろう。必要以上に嘆き悲しむ必要は無い」
「あの……、あなたは……?」
ウェンディは眼鏡をかけ、その男の姿と顔を確認する。
目の細い、鴉のように真っ黒な衣服と髪の、色黒の男がそこにいた。
「あいつの友人だ。あいつが教主になってから23年、あいつは俺の、一番の話し相手だったのだ」
「父上が、あなたの……?」
言い方がひどく尊大だと感じ、ウェンディは涙を拭いて立ち上がった。
「こんな言い方をするのは、好きではありませんが」
「うん?」
「私の父上、ウィリアム・ウィルソン4世は、この黒炎教団の頂点に立った偉大な人物、聖人と言ってもいいほどの人物です。
それを単なる話し相手、自分と同列の友人だなど、烏滸がましいとは……」「烏滸がましい?」
男はそれを聞き、クックッと鳥のような笑い方をした。
「クク……、そうか、烏滸がましいと」
男の細い目が、じわりと開く。
「……っ」
それを見たウェンディの背筋に、冷たいものが流れた。
「そう言えば、教主以外には俺のことは、単なる黒子としか伝えられていないのだったな」
「……まさか」
男の目の冷たさは、巴景の燃え盛る体を見た時よりもさらに恐ろしく、畏れ深いものをウェンディに感じさせた。
と、男は開いた目を、元通りの細さに戻す。
「もう一度聞くが、烏滸がましいことだったか?」
「……いいえ。失礼いたしました」
ウェンディはす、と頭を垂れた。
「分かればいい。
それでだ、ウェンディ。ウィリアムから、遺言を預かっている」
「遺言、ですか?」
「これだ」
男は一通の封筒をウェンディに差し出した。
「……え、えっ!?」
手紙に目を通したウェンディは、男と手紙を交互に見て驚いた。
「これは、本当に、……いいえ、あなた様が預かられたお手紙であれば、本当なのでしょうね」
「本当だとも」
「し、しかし」
ウェンディは眼鏡を直し、男に尋ねる。
「何故、私なのですか? 序列で言えば、私よりも兄のワニオンの方が適当では」
「これだけの大組織を治めるのに、単純で血気盛んな武人では役が合わんと言うことだ。
それよりも、卒なく管理のできる人間が好ましい。そう考えての、前教主の決定だろう」
「……そうですか」
ウェンディは手紙に視線を落とし、ぼそっとつぶやいた。
「しかし、私に務まるかどうか。私はまだ38歳です。とても、父上のようには……」
「ウィリアムは46歳の時に就いたが、それはワッツ……、先々代の長寿のためだ。90歳の大往生だったからな、あの女は。もし先々代が短命であれば、ウィリアムはもっと早く就いていただろう、な。
お前の働き振りであれば、十二分に役目を果たせる」
「……」
逡巡するウェンディに背を見せ、男は立ち去りながらこう言い残した。
「明日には、他の大司教にも同様の通達が出る。お前の器ならば、皆も納得するだろう。
今後はお前が俺の話し相手になれ、ウェンディ・ウィルソン教主」
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聖人の死と、悪魔の再臨。
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7.
巴景の襲撃から二日後、黒炎教団では宮内全体を挙げて、教主ウィリアムの葬儀が行われた。
「ああ、父上……」
「どうして、こんなことばかりが……」
ウイリアムの棺の横には、傷だらけになった教主の子供たちが並んで立ち、別れを惜しんでいた。
「私のせいだ……! 私があの鬼を取り逃がしたせいで、父上を殊更に苦しめてしまったのだ……!」
その列の真ん中に、他の兄弟たちよりも一層包帯まみれになったワニオンが立ち、他の者たちよりも一際嘆き悲しんでいた。
「……ううっ」
こらえきれなくなり、ウェンディはその場から一旦離れ、聖堂の裏でボタボタと涙を流し始めた。
「どうして……、どうしてこんなこと……」
「……」
と、顔を覆ってしゃがみ込んだ彼女は、自分の前に誰かが立っているのに気が付いた。
「誰……?」
顔を挙げるが、自分が眼鏡を外しているのと、相手が陰に紛れるような黒い服装を着ているのとで、そこにいるのが誰なのか、良く分からない。
「好人物だったな、良くも悪くも」
「え……?」
「お前の父のことだ。
とても人のいい、無欲で穏やかな男だった。そのせいで、あいつの知らないところで何かとゴタゴタは起こったが、それでも十分に教主の務めを果たしていただろう。
亡くなったのは残念だが、お前たちのせいではない。天命だろう。必要以上に嘆き悲しむ必要は無い」
「あの……、あなたは……?」
ウェンディは眼鏡をかけ、その男の姿と顔を確認する。
目の細い、鴉のように真っ黒な衣服と髪の、色黒の男がそこにいた。
「あいつの友人だ。あいつが教主になってから23年、あいつは俺の、一番の話し相手だったのだ」
「父上が、あなたの……?」
言い方がひどく尊大だと感じ、ウェンディは涙を拭いて立ち上がった。
「こんな言い方をするのは、好きではありませんが」
「うん?」
「私の父上、ウィリアム・ウィルソン4世は、この黒炎教団の頂点に立った偉大な人物、聖人と言ってもいいほどの人物です。
それを単なる話し相手、自分と同列の友人だなど、烏滸がましいとは……」「烏滸がましい?」
男はそれを聞き、クックッと鳥のような笑い方をした。
「クク……、そうか、烏滸がましいと」
男の細い目が、じわりと開く。
「……っ」
それを見たウェンディの背筋に、冷たいものが流れた。
「そう言えば、教主以外には俺のことは、単なる黒子としか伝えられていないのだったな」
「……まさか」
男の目の冷たさは、巴景の燃え盛る体を見た時よりもさらに恐ろしく、畏れ深いものをウェンディに感じさせた。
と、男は開いた目を、元通りの細さに戻す。
「もう一度聞くが、烏滸がましいことだったか?」
「……いいえ。失礼いたしました」
ウェンディはす、と頭を垂れた。
「分かればいい。
それでだ、ウェンディ。ウィリアムから、遺言を預かっている」
「遺言、ですか?」
「これだ」
男は一通の封筒をウェンディに差し出した。
「……え、えっ!?」
手紙に目を通したウェンディは、男と手紙を交互に見て驚いた。
「これは、本当に、……いいえ、あなた様が預かられたお手紙であれば、本当なのでしょうね」
「本当だとも」
「し、しかし」
ウェンディは眼鏡を直し、男に尋ねる。
「何故、私なのですか? 序列で言えば、私よりも兄のワニオンの方が適当では」
「これだけの大組織を治めるのに、単純で血気盛んな武人では役が合わんと言うことだ。
それよりも、卒なく管理のできる人間が好ましい。そう考えての、前教主の決定だろう」
「……そうですか」
ウェンディは手紙に視線を落とし、ぼそっとつぶやいた。
「しかし、私に務まるかどうか。私はまだ38歳です。とても、父上のようには……」
「ウィリアムは46歳の時に就いたが、それはワッツ……、先々代の長寿のためだ。90歳の大往生だったからな、あの女は。もし先々代が短命であれば、ウィリアムはもっと早く就いていただろう、な。
お前の働き振りであれば、十二分に役目を果たせる」
「……」
逡巡するウェンディに背を見せ、男は立ち去りながらこう言い残した。
「明日には、他の大司教にも同様の通達が出る。お前の器ならば、皆も納得するだろう。
今後はお前が俺の話し相手になれ、ウェンディ・ウィルソン教主」



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今日の旅岡さん

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黒炎教団はこちらでも使わせて頂いたので、
ものすごく愛着が湧きますね。。。
悲しいな。。。ウィリアムさん。。。
あの御人はやはり生きておられたのか。。。
ものすごく愛着が湧きますね。。。
悲しいな。。。ウィリアムさん。。。
あの御人はやはり生きておられたのか。。。
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簡単に死んでしまっては、伝説になりません。