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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第9部

    蒼天剣・訪黄録 2

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    晴奈の話、第538話。
    お芝居の中。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     5分後、三晴は巴景の仮面と小さめの箱を持って、巴景のところに戻ってきた。
    「お待たせしちゃってごめんなさいね」
    「早く返してよ……」
     顔を手で隠したまま、巴景は三晴に困った目を向けた。
    「ええ。でも、その前にちょっと」
     三晴はひょいと巴景の手をはがし、顔を向けさせた。
    「な、何? 何する気?」
    「あなた、お歳はおいくつ?」
    「に、27よ。それが、何?」
    「まあ、そんな年頃の娘がすっぴんだなんて」
     そう言いながら、三晴は白粉を巴景の頬に付け始めた。
    「ちょ、何よ」
    「じっとしてちょうだい」
    「だから、何するのって……」
    「じっとしてちょうだい、ね?」
     やんわり諭されてしまっては、巴景は無理矢理に撥ね付ける気になれない。
    「……」
     仕方なく、巴景は三晴にされるがままになっていた。

    「はい、できた」
     三晴がぱちん、と化粧箱の蓋を閉じ、鏡を渡す。
    「ほら、御覧なさい」
     鏡を手に取った巴景は、恐る恐る自分の顔を確認した。
    「……え」
     鏡の中の巴景には、傷が見当たらない。いや、よく確認すれば残っているのは分かるのだが、ちょっと見た程度ではあると気付かない。
    「この歳になるとシミとか、……ちょこっと、出てきますから」
     三晴は頬に手を当て、やんわりと語る。
    「お化粧品、手放せないんですよ。綺麗に隠れるでしょう?」
    「……そうね」
    「生きていたら、シミやそばかすも出ますし、ケガして消えない傷が残ることもあります。そう言うものですからね、人間って。
     それを隠したいと思うのは当然。でも、こんな綺麗な顔を、丸ごと隠すなんて。もったいないわ、可愛い女の子なのに」
     可愛い、と言われ、巴景の心臓がドキッ、と脈打った。
    「かわ、いい? 私が?」
    「ええ。どこからどう見ても、可愛い女の子。仮面を付けなければ、ね」
     そう言って、三晴は仮面を巴景に返した。が、巴景はそれを手に取ったまま、付けようとはしない。
    (可愛いって、言われた……。そんな風に呼ばれたこと、全然無かった)
     一度も言われたことのないその言葉に、巴景の思考はそこで止まる。
    「ね、ちょっとみんなに見せてあげなさい」
    「え? 皆?」
    「ちょっと、みなさーん」
     巴景が唖然としている間に、三晴は使用人たちを呼びつけた。
    「ご用でしょうか」
    「ね、ね。トモちゃん、可愛くなったでしょ?」
     やってきた使用人たちは、揃って巴景の顔を見る。
    「へえ……」
    「美人ですね」
    「ね、可愛いでしょ? こんな美人さんの顔を、仮面で隠すなんてねぇ」
    「……っ」
     巴景は恥ずかしくなり、うつむいてしまった。

     すっかり大人しくなった巴景に、三晴は依然やんわりと話を続ける。
    「わたしね、晴ちゃんが剣士さんやってるの、あんまり好きじゃないのよ。
     確かにりりしくてかっこ良くて、これはこれでと思ってた時期もあったけど、最近の晴ちゃんは辛そうにしてることが多いから」
    「辛そうにしてる……?」
     思いもよらない意見に、巴景は顔を挙げた。
    「ええ。何だか寂しそうにしてたことが、時々あったの。
     確かに、皆からは慕われてるし、『かっこいい自分』に誇りを持ってるって感じではあったけど、……そうね、何て言うか、孤独な感じだったわ」
    「孤独? 晴奈が?」
     巴景は前回晴奈と戦った時、周りにできた人だかりを思い出していた。
    (孤独だって言うなら、あの時周りに人がいたのは何で? ただの見物?)
    「こんな言い方をしてしまうと、少しどうかなって思うけど。……見物されてるような感じなのよ」
    「……っ」
     半分冗談で思った感想を真顔で口にされ、巴景は言葉を失う。
    「あの子は強いと、みんな言うけど。かっこいいと、みんな言うけど。それはみんな、演劇や舞台なんかで、人気の俳優さん、女優さんにかけられてるような言葉なの。
     あの子の間近に、人はいないのよ。周りみんな、観客席から見物してるような、そんな感じ」
    「……」
    「ねえ、トモちゃん」
     三晴は巴景の手を取り、頼み込むような口調でこう言った。
    「あの子の近くに、いてあげてね。いがみ合っていてもいいから」
    「え……」
    「もちろん、仲良くしてくれるなら、その方がいいけれど。でも、トモちゃんは晴ちゃん、そんなに好きじゃないだろうし。それは無理なお願いだって、分かってるわ。
     それでも、近くにいてあげてほしいの。でないとあの子、どんどん孤立していってしまうから」
    「……」
     三晴は巴景から手を離し、深々と頭を下げた。
    「どうかよろしく、お願いしますね」

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    2012.03.11 加筆修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    >ヒカルさん
    はじめまして。

    何があったかは存じませんが、
    またいつか、再開できることをお祈りします。

    こちらこそ、ありがとうございました。

    NoTitle 

    >LandMさん
    これはこれでb

    始めましてが 

    始めましてが悲しいことに
    ブログ「ヒカルと呼んで♪」をすべて削除することになりました(涙)
    ごめんなさい。
    ブログはまた見に来ますのでヒカルのこと忘れないでください。

    ブログ復活はしばらくの間は無理です。

    今までありがとうございました。

    やっぱり露出しすぎると
    女装という趣味は難しいです・・・

    管理人のみ閲覧できます 

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    NoTitle 

    む。巴景も可愛いですね。
    仕草が。うむむむ。(*^-^*)
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