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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第2部

    蒼天剣・夢幻録 4

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    晴奈の話、第65話。
    滑り込みセーフ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
    「……あっ!」
     雪花との談話の途中、橘が式の時刻を思い出し、思わず立ち上がる。
    「店長さん、今何時!?」
    「ん、13時47分ですね」
     一人席の向こうで皿を拭いていた若い狐獣人の店主が、後ろにかけてあった時計を見て答える。確かに、針は二つとも上方を差している。
    「いっけない! 雪乃の結婚式、始まっちゃうわ!」
    「あ、やべっ」
     橘たち五人は慌てて席を立ち、店主に金を払う。
     だが、雪花は席こそ立ったものの、五人とは距離を置いている。どうやら、ここで別れるつもりらしい。
    「ねえ、行きましょうよ、雪花さん」
     柏木はまだ雪花を誘おうとするが、雪花は依然として、首を縦に振らない。
    《いいえ、わたしはここで……》
    「何でですか? 行ってあげても……」「いいよ、栄一くん。雪花さんにも、色々事情はあるんだろう」
     謙は柏木を抑え、雪花に向き直る。
    「じゃあ、俺たちは行くけど。何か伝言とか、あるかな?」
    《え……、と。そう、ですね。では……》
     雪花は少し黙り込んだ後、一言だけ伝えた。
    《幸せになって、と》

     店を出た五人は、すぐに大通りへと駆け出す。
    「式って2時からよね?」
    「ええ、確か」
    「間に合うかなぁ」
    「急ぎましょう!」
     大通りの混雑は既に引いており、走れば十分に間に合いそうだった。
    「しかし、奇遇ですよね」
    「うん?」
     走りながら、柏木がつぶやく。
    「柊先生のお母さんと、式の日に会うなんて」
    「……どうでしょうね?」
     棗は少し笑いながら、こう答える。
    「もしかしたら、雪花さんがわたくしたちを引き寄せたのかも」
    「はぁ……?」
     まだ雪花が幽霊だったとは気付いていないらしく、柏木はきょとんとしていた。



     神前式が済み、雪乃と良太は二人並んで式場へと歩いていた。
    「……ねぇ」
     式場までの付き添いたちに聞こえないような小声で、雪乃が尋ねる。
    「おじい様はどうされたの? 確か神前式は、一緒に出るはずじゃなかった?」
    「それがですね」
     良太も同じように、小声で返す。
    「あんまり嬉しかったみたいで、酔っぱらって寝ちゃったんです」
    「あら……」
     雪乃は笑いそうになるのをこらえながら、良太の様子に気付いて手を握った。
    「……ふふ、やっぱり緊張してる」
    「そりゃ、しますよ」
    「実はわたしもさっき、あんまり緊張してたものだから、晴奈に手を握ってもらっていたの」
     雪乃がそう言うと、良太は手を強く握り返してきた。
    「じゃあ、僕が震えてる場合じゃないですね」
    「あら、頼もしいわね」
    「……ダメだ。やっぱり震えてきちゃう」
     良太の言葉通り、雪乃の手に振動が伝わってくる。だが、握るのをやめようとはしない。
    「でも、式場まで絶対、放しませんよ」
    「ありがと、良太」
     雪乃も強く、握り返す。
    「じゃ、わたしも絶対、放さないから」
    「ありがとう、雪乃さん」
     手をつないだまま、二人は式場へと進んだ。

    「はー、はー」
    「今、何時?」
    「14時、ちょっと前ですね」
    「間に合ったー」
     橘たち五人はなだれ込むように、式場に到着した。
    「お、晴奈くんだ」
     謙が席に着いていた晴奈を見つけ、手を振って近寄った。
    「あ、樫原殿! お久しぶりです!」
     近寄ってきた謙に、晴奈は立ち上がって深々と頭を下げた。
    「相変わらずだなぁ。そんなにかしこまらなくても。……まだ、始まってないよな?」
    「ええ、そろそろ神前式も終わりますし、間も無く二人が来る頃かと」
    「そっか。いやー、危ない危ない」
     謙は汗を拭きつつ、晴奈の横の席を確認する。
    「お、丁度良かった。俺たちの席っぽいな」
    「あ、はい。この辺りはすべて友人席ですから」
    「そっか。……確かに、さっき会った奴の名前がズラッとあるな。それじゃ棗とか、途中で会った奴とかも呼んでくるわ」
     謙はまた立ち上がり、入口にいた橘たちを呼ぶ。
    「おーい、ここに席あるぞー」
    「はーい」
     橘も手を振りつつ、晴奈の側に寄った。
    「よいしょー、っと。……あら、晴奈ちゃん久しぶりー」
    「お久しぶりです、橘殿。棗殿も、お元気そうで」
    「ええ、お久しぶりね。ほら、桃もご挨拶なさい」
     棗に背負われていた桃が、眠たそうに頭を下げる。
    「むにゃ、こんにちは、……すー」
    「あ、眠っちゃ……、すみませんね、この子疲れているみたいで」
    「いえ、お気遣い無く。……と、柏木さんも、お久しぶりです」
     棗の後ろにいた柏木はぺこ、と頭を下げる。
    「お久しぶりです、黄さん」
    「元気そうで、なによりです。……楢崎殿は、まだ?」
    「はい、未だに行方はさっぱりで。残念ながら今回の式も、代わりに私が、と言うことで」
    「そうですか……。早く戻って来られるといいですね」
    「ええ、本当に。……ささ、湿っぽい話はこのくらいにして」
     柏木も席に着いたところで、式場が静かになる。
     雪乃と良太が、式場に現れた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.09 転載
    2016.02.21 修正
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    いよいよ始めての共同作業がv-398

     

    お祝いの言葉、ありがとうございます(*´∀`)
    作中、結婚したカップルは数組ありますが、
    結婚式をちゃんと描いたのはこのカップルだけですね。
    他のみんなも書いてあげれば良かったかな、と思ったり。

    すみません、コメント不精なもので(;´∀`)
    また近いうち、お邪魔させていただきます。

     

    おお、結婚式ですね。
    経験上、結婚式を書いたことはなかったですね。主人公が既婚者だったりすることはちょくちょくありましたけど。私も今度…いつかきっと書いてみようかな・・・と思ったりしました。おめでとう!!

    …また、ウチのサイトにコメント残してやってくださいね。
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