「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・帰北録 2
晴奈の話、第542話。
駄々っ子リスト。
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2.
一方、リストもエルスとともに、北方へと戻って来ていた。
前回の央中出向の時のように、エルスはリストが央南・黄州方面の司令官であり、その職務を優先すべきだと、彼女が付いてくるのを反対していたのだが、なんとリストはその職を辞してしまったのだ。
流石のエルスも、そこまでされてしまっては反対するわけにも行かず、渋々承諾した。
もちろん、リストとしては正当な理由があっての行動である。と言っても、自分の故郷に戻りたいと思っていたわけでもなく、ましてや、軍事国である故郷が戦火にさらされるのが不安だったわけでも無い。
エルスのすぐ側に、央南でのんびり看過してはいられない「要因」がいたからである。
「……」
「……」
晴奈たちの北方での宿として、トマスの家――元々祖父のエド博士が使っていたものであり、敷地はかなり広い――が使われている。
その一室で、リストとある女性とが向かい合って座っていた。
「……にらまないでよ」
「にらむようなコトしてるからでしょ」
リストの目の前には、赤毛のエルフが座っていた。小鈴である。
「大体さ、なんでアンタ、一緒に付いてきちゃったのよ。アタシらと関係ないじゃない」
「旅できなくてヒマだし。実家にいても母さんから『アンタもそろそろ、お兄ちゃんみたいにいつまでも一人でブラブラしてないで、結婚しなさい、結婚』って言われるし。
……それにさー」
小鈴はリストの長い耳に口を寄せ、そっとつぶやいた。
「あたし、エルス狙ってんのよ。どーせ結婚すんなら、玉の輿狙いたいじゃん」
「……っ」
「アンタも、狙ってんでしょ?」
「だ、誰がっ!」
リストは顔を真っ赤にし、ぷいと横を向く。
「じゃ、あたしがココにいてもいーじゃん」
「良くないっ」
「何でよ?」
「それは、だって、……好きでも無い奴と結婚とか、倫理的に」
「ん、好きよ?」
さらりと答えられ、リストは硬直した。
「あの人もお酒強いし、色んなコト詳しいし、気が合うのよね。それに何より、腕っ節も強いし。やっぱオトコは強くなきゃダメじゃん?」
「……」
リストはフラフラと、席を立った。
「……勝手にすれば」
「うん。そーするわ」
5分後、トマスの部屋。
「痛い、痛いって」
「うるさいっ」
リストは従兄弟のトマスの背中を、ガツガツと殴っていた。
「もう、何であの女っ、エルスにっ」
「げほ、誰だよ、あの女って……」
気が強いリストに、トマスは昔から頭が上がらない。
「暴力はやめてくれって、昔から言ってるだろう」
「うるさいうるさい、うるさあああいっ」
「……あーあー」
そして昔から、こんな風に八つ当たりしてくると、やがて泣き出すことも知っている。
「うっ、エルスの、ば、バカぁ、グスっ」
「……いてて」
トマスの予想通り、リストは殴りつけるのに疲れ、うずくまって泣き出した。
「ほら、タオル」
「グス、グス……」
「それで、あの女って誰? コスズさん?」
「うん……」
「そっか、やっぱり。言ってることが途切れ途切れで分かんなかったけど、でも何で……」
話を続けようとしたトマスを、晴奈が止めた。
(トマス、それ以上はまだ、進めない方がいい)
(ん? 何で?)
(また癇癪を起こすぞ)
(ああ、そうかも)
トマスは言おうとしていたことを飲み込み、リストの肩をポンポンと優しく叩く。
「まあ、落ち着いたらゆっくり話そうよ。ね?」
「うぐっ、うぐっ、……うん」
しばらくして、ようやくリストは泣き止んだ。
「それでさ、何でリストはコスズさんがリロイを狙ってるからって、泣き喚いたの?」
「……トマス。分からないのか?」
呆れる晴奈に、トマスはきょとんとした顔を返す。
「何が?」
「……リスト。今、ここには私とトマスしかいない。正直に、答えてほしいのだが」
晴奈は床に座り込んだままのリストの側に屈みこみ、ゆっくりと尋ねた。
「昔からそう思っていたが、お主はエルスのことを、好きなのだな?」
「……うん」
リストは顔にタオルを当てたまま、コクリとうなずいた。
「ああ、なるほど」
「何がなるほどだ。気付かなかったのか?」
「だって、リストいっつもリロイにツンツンしてるからさ。逆に、嫌いなんだと思ってた」
「阿呆」
晴奈はそう言ってから、思い直して自分の意見を翻した。
「……いや、そう言えばエルス自身もそう言っていたな。紛らわしいと言えば、紛らわしい」
「やっぱりアタシじゃ、ダメなのかな……」
落ち込んだ口調のリストに、晴奈は優しく声をかける。
「そうは思わぬ。知っているか、リスト」
「何……?」
「かつて天玄で、篠原一派が襲ってきた時のことだ。
エルスはお主を拉致した奴らを、あっと言う間に倒したそうだ。それも、こう言いながらだ。『僕にとってリストは大事な子なんだ。彼女に手を出す奴は僕が許さない』と」
「それ……、ホント?」
「ああ、本当だ。もっとも、私も人から又聞きしたのだが。まあ、それでもだ」
晴奈は優しく、リストの肩を抱きしめた。
「エルスの方でも、お主を憎からず思っているのは確かだ。それは今までの、あいつの所作に現れている」
と、その時。トマスの部屋の戸がノックされた。
「入るよ」
エルスの声だ。
「あ、……むぐ?」
返事しかけたトマスの口を、晴奈が手でふさぐ。
(リスト、隠れていろ)
晴奈は小声で、リストに指示する。
(う、うん)
リストは慌てて、クローゼットの中に隠れた。
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駄々っ子リスト。
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2.
一方、リストもエルスとともに、北方へと戻って来ていた。
前回の央中出向の時のように、エルスはリストが央南・黄州方面の司令官であり、その職務を優先すべきだと、彼女が付いてくるのを反対していたのだが、なんとリストはその職を辞してしまったのだ。
流石のエルスも、そこまでされてしまっては反対するわけにも行かず、渋々承諾した。
もちろん、リストとしては正当な理由があっての行動である。と言っても、自分の故郷に戻りたいと思っていたわけでもなく、ましてや、軍事国である故郷が戦火にさらされるのが不安だったわけでも無い。
エルスのすぐ側に、央南でのんびり看過してはいられない「要因」がいたからである。
「……」
「……」
晴奈たちの北方での宿として、トマスの家――元々祖父のエド博士が使っていたものであり、敷地はかなり広い――が使われている。
その一室で、リストとある女性とが向かい合って座っていた。
「……にらまないでよ」
「にらむようなコトしてるからでしょ」
リストの目の前には、赤毛のエルフが座っていた。小鈴である。
「大体さ、なんでアンタ、一緒に付いてきちゃったのよ。アタシらと関係ないじゃない」
「旅できなくてヒマだし。実家にいても母さんから『アンタもそろそろ、お兄ちゃんみたいにいつまでも一人でブラブラしてないで、結婚しなさい、結婚』って言われるし。
……それにさー」
小鈴はリストの長い耳に口を寄せ、そっとつぶやいた。
「あたし、エルス狙ってんのよ。どーせ結婚すんなら、玉の輿狙いたいじゃん」
「……っ」
「アンタも、狙ってんでしょ?」
「だ、誰がっ!」
リストは顔を真っ赤にし、ぷいと横を向く。
「じゃ、あたしがココにいてもいーじゃん」
「良くないっ」
「何でよ?」
「それは、だって、……好きでも無い奴と結婚とか、倫理的に」
「ん、好きよ?」
さらりと答えられ、リストは硬直した。
「あの人もお酒強いし、色んなコト詳しいし、気が合うのよね。それに何より、腕っ節も強いし。やっぱオトコは強くなきゃダメじゃん?」
「……」
リストはフラフラと、席を立った。
「……勝手にすれば」
「うん。そーするわ」
5分後、トマスの部屋。
「痛い、痛いって」
「うるさいっ」
リストは従兄弟のトマスの背中を、ガツガツと殴っていた。
「もう、何であの女っ、エルスにっ」
「げほ、誰だよ、あの女って……」
気が強いリストに、トマスは昔から頭が上がらない。
「暴力はやめてくれって、昔から言ってるだろう」
「うるさいうるさい、うるさあああいっ」
「……あーあー」
そして昔から、こんな風に八つ当たりしてくると、やがて泣き出すことも知っている。
「うっ、エルスの、ば、バカぁ、グスっ」
「……いてて」
トマスの予想通り、リストは殴りつけるのに疲れ、うずくまって泣き出した。
「ほら、タオル」
「グス、グス……」
「それで、あの女って誰? コスズさん?」
「うん……」
「そっか、やっぱり。言ってることが途切れ途切れで分かんなかったけど、でも何で……」
話を続けようとしたトマスを、晴奈が止めた。
(トマス、それ以上はまだ、進めない方がいい)
(ん? 何で?)
(また癇癪を起こすぞ)
(ああ、そうかも)
トマスは言おうとしていたことを飲み込み、リストの肩をポンポンと優しく叩く。
「まあ、落ち着いたらゆっくり話そうよ。ね?」
「うぐっ、うぐっ、……うん」
しばらくして、ようやくリストは泣き止んだ。
「それでさ、何でリストはコスズさんがリロイを狙ってるからって、泣き喚いたの?」
「……トマス。分からないのか?」
呆れる晴奈に、トマスはきょとんとした顔を返す。
「何が?」
「……リスト。今、ここには私とトマスしかいない。正直に、答えてほしいのだが」
晴奈は床に座り込んだままのリストの側に屈みこみ、ゆっくりと尋ねた。
「昔からそう思っていたが、お主はエルスのことを、好きなのだな?」
「……うん」
リストは顔にタオルを当てたまま、コクリとうなずいた。
「ああ、なるほど」
「何がなるほどだ。気付かなかったのか?」
「だって、リストいっつもリロイにツンツンしてるからさ。逆に、嫌いなんだと思ってた」
「阿呆」
晴奈はそう言ってから、思い直して自分の意見を翻した。
「……いや、そう言えばエルス自身もそう言っていたな。紛らわしいと言えば、紛らわしい」
「やっぱりアタシじゃ、ダメなのかな……」
落ち込んだ口調のリストに、晴奈は優しく声をかける。
「そうは思わぬ。知っているか、リスト」
「何……?」
「かつて天玄で、篠原一派が襲ってきた時のことだ。
エルスはお主を拉致した奴らを、あっと言う間に倒したそうだ。それも、こう言いながらだ。『僕にとってリストは大事な子なんだ。彼女に手を出す奴は僕が許さない』と」
「それ……、ホント?」
「ああ、本当だ。もっとも、私も人から又聞きしたのだが。まあ、それでもだ」
晴奈は優しく、リストの肩を抱きしめた。
「エルスの方でも、お主を憎からず思っているのは確かだ。それは今までの、あいつの所作に現れている」
と、その時。トマスの部屋の戸がノックされた。
「入るよ」
エルスの声だ。
「あ、……むぐ?」
返事しかけたトマスの口を、晴奈が手でふさぐ。
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今日の旅岡さん

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ほんとに大戦争を間近に控えているのだろうか(笑)。
まあ愛する二人が結ばれるのはいいことであるが(^^;)
まあ愛する二人が結ばれるのはいいことであるが(^^;)
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兵士を大量投下できるような軍艦は、入ってこられません。
敵が攻めて来ようはずもないと、皆さん高をくくってる状態です。
だからどことなく、のんびりした雰囲気。
この点は第7部と状況が似ていますね。