「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・帰北録 3
晴奈の話、第543話。
変人職人からの打診。
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3.
リストがクローゼットに隠れたところで、トマスは改めてエルスを招き入れた。
「あれ? お邪魔しちゃったかな」
エルスは中にいたトマスと晴奈を交互に見て、やや申し訳無さそうに笑った。
「いや、大丈夫だ。それより、どうした?」
「ああ、うん。リストのことで、ちょっとね」
それを聞いて、トマスの視線がクローゼットの方に泳ぎかける。
(お、っとと)
が、何とか視線を晴奈の方に向け、ごまかす。
「どしたの?」
「ああ、いや。リストがどうかした?」
「うん。ほら、アニェッリ先生っていたよね」
エルスの質問に、トマスはしばらく間を置いて「ああ」とうなずいた。
「北方における銃開発の第一人者、デーノ・アニェッリさんのこと?」
「そうそう、その人。彼と、コンタクトが取れたんだ」
「へぇ?」
珍しそうな声を上げるトマスに、晴奈が尋ねた。
「誰だ、そのデーノと言うのは」
「ああ、……えーと、銃が北方でも開発されてるのは知ってるよね?」
「ああ」
「元々、銃開発は央中の金火狐財団が490年末から行ってたんだけど、残念ながら財団は『銃器は刀剣類の威力、魔術の攻撃レンジに勝るものではない』と考えて、数年で開発を中断させたんだ。その責任者だったのが、狐獣人のアニェッリ先生。
でも、どうしても銃開発を諦めきれなかった先生は、奥さんと子供を置いて北方に渡り、軍の重鎮だったおじい様に銃の有用性を説いたんだ。
おじい様も、『確かに刀剣や魔術に比べれば、その威力・攻撃レンジは比べるべくもない。が、使いこなせるようになるまでに必要な訓練量は、前者二つとは比べ物にならないほど早い。優れた軍隊を作る上で、かなり有用になる』と同意して、先生を責任者に据えて銃開発を始めさせたんだ。
でも、このアニェッリ先生って、変わり者で……」
そこでトマスの説明を、エルスが次いだ。
「銃開発が一段落したところで、『銃も一通り作りきった感があるし、他の研究に移りたい』って言ってね。首都を離れて、ミラーフィールドって街にこもって毎日、変なモノを開発してるらしいよ。
そんなだから、軍からの招聘(しょうへい)も散々断ってたんだけど……」
そこでエルスは、晴奈の方を見た。
「最近になって突然、先生の方から声をかけてきたんだ。何でも、君に聞きたいことがあるんだってさ」
「私に?」
思いもよらない話に、晴奈は目を丸くした。
「そう。それで、僕は交換条件に、『リストに合う銃を作ってほしい』って頼んだんだ。これからの戦争で、必要になるだろうからね」
「なるほど……」
「ねえ、リロイ」
そこで、トマスが質問してきた。
「リロイはさ、リストのことをどう思ってるの?」
「ん?」
「いやね、以前にリストが敵にさらわれた時に、君が助けようと躍起になったって話を聞いたことがあるんだ。それで、どうなのかなーって」
「ああ……」
エルスの回答を、晴奈も、トマスも、そしてクローゼットの中に潜むリストも、じっと黙って待っていた。
「……そうだなぁ、一言で言うと」
「言うと?」
「手のかかる妹、かな」
その答えに、クローゼットの中のリストはがっくりとうなだれた。
そして、エルスも彼女に気付いていたらしい。
「二十歳超えてまだ、クローゼットの中で遊んでたりするしね、はは……」
ともかく、エルスはリストと晴奈、トマス、そして小鈴を連れて、北方山間部の観光都市、ミラーフィールドにやって来た。
「へー、流石『鏡』って言うだけあるわね」
小鈴が街の中央にある塩湖を見て、感慨深くつぶやく。
塩湖には薄く水が張り、それが鏡の役目を果たしているのだ。そしてその鏡には空が映し出されており、中に立つ人間はまるで、空に浮かんでいるように錯覚するのだと言う。
と、通りに央中でよく見かけた施設が建っているのが、晴奈の視界に入る。
「ほう……、ここにも金火狐の銀行が」
「銀行だけじゃないよ。この街は昔、まだ中央政府が世界中を支配していた時に、金火狐一族が開発したんだ。銀行やお店なんかがあるのは、その名残なんだ」
トマスが説明している間に、一行は目的の家に到着した。
「と、ここだ。ここが、アニェッリ先生の自宅兼、研究所」
研究所、と言われたものの、傍目には普通の家にしか見えない。
と――カリカリと、妙な音が聞こえてきた。
「何だ……?」
「あ、耳ふさいだ方がいいよ。キツいらしい」
「え?」
晴奈と小鈴がきょとんとしている間に、家の2階窓からにょきにょきと、何かが出てきた。
「……あっ」
その先端にあるものを見て、晴奈もそれが何だか分かった。
《ポッポー!》
「ぐあ……」
が、耳をふさぐのが一瞬遅かった。
《ポッポー!》
「う、うるさっ」
《ポッポー!》
三回鳴いたところで、家から飛び出してきた鳩は元通り、家の中に収まった。
「う、は……、耳が……」
「ば、バカじゃないの……、一軒家サイズの鳩時計とか……」
晴奈と小鈴は、耳を押さえてうずくまった。
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変人職人からの打診。
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3.
リストがクローゼットに隠れたところで、トマスは改めてエルスを招き入れた。
「あれ? お邪魔しちゃったかな」
エルスは中にいたトマスと晴奈を交互に見て、やや申し訳無さそうに笑った。
「いや、大丈夫だ。それより、どうした?」
「ああ、うん。リストのことで、ちょっとね」
それを聞いて、トマスの視線がクローゼットの方に泳ぎかける。
(お、っとと)
が、何とか視線を晴奈の方に向け、ごまかす。
「どしたの?」
「ああ、いや。リストがどうかした?」
「うん。ほら、アニェッリ先生っていたよね」
エルスの質問に、トマスはしばらく間を置いて「ああ」とうなずいた。
「北方における銃開発の第一人者、デーノ・アニェッリさんのこと?」
「そうそう、その人。彼と、コンタクトが取れたんだ」
「へぇ?」
珍しそうな声を上げるトマスに、晴奈が尋ねた。
「誰だ、そのデーノと言うのは」
「ああ、……えーと、銃が北方でも開発されてるのは知ってるよね?」
「ああ」
「元々、銃開発は央中の金火狐財団が490年末から行ってたんだけど、残念ながら財団は『銃器は刀剣類の威力、魔術の攻撃レンジに勝るものではない』と考えて、数年で開発を中断させたんだ。その責任者だったのが、狐獣人のアニェッリ先生。
でも、どうしても銃開発を諦めきれなかった先生は、奥さんと子供を置いて北方に渡り、軍の重鎮だったおじい様に銃の有用性を説いたんだ。
おじい様も、『確かに刀剣や魔術に比べれば、その威力・攻撃レンジは比べるべくもない。が、使いこなせるようになるまでに必要な訓練量は、前者二つとは比べ物にならないほど早い。優れた軍隊を作る上で、かなり有用になる』と同意して、先生を責任者に据えて銃開発を始めさせたんだ。
でも、このアニェッリ先生って、変わり者で……」
そこでトマスの説明を、エルスが次いだ。
「銃開発が一段落したところで、『銃も一通り作りきった感があるし、他の研究に移りたい』って言ってね。首都を離れて、ミラーフィールドって街にこもって毎日、変なモノを開発してるらしいよ。
そんなだから、軍からの招聘(しょうへい)も散々断ってたんだけど……」
そこでエルスは、晴奈の方を見た。
「最近になって突然、先生の方から声をかけてきたんだ。何でも、君に聞きたいことがあるんだってさ」
「私に?」
思いもよらない話に、晴奈は目を丸くした。
「そう。それで、僕は交換条件に、『リストに合う銃を作ってほしい』って頼んだんだ。これからの戦争で、必要になるだろうからね」
「なるほど……」
「ねえ、リロイ」
そこで、トマスが質問してきた。
「リロイはさ、リストのことをどう思ってるの?」
「ん?」
「いやね、以前にリストが敵にさらわれた時に、君が助けようと躍起になったって話を聞いたことがあるんだ。それで、どうなのかなーって」
「ああ……」
エルスの回答を、晴奈も、トマスも、そしてクローゼットの中に潜むリストも、じっと黙って待っていた。
「……そうだなぁ、一言で言うと」
「言うと?」
「手のかかる妹、かな」
その答えに、クローゼットの中のリストはがっくりとうなだれた。
そして、エルスも彼女に気付いていたらしい。
「二十歳超えてまだ、クローゼットの中で遊んでたりするしね、はは……」
ともかく、エルスはリストと晴奈、トマス、そして小鈴を連れて、北方山間部の観光都市、ミラーフィールドにやって来た。
「へー、流石『鏡』って言うだけあるわね」
小鈴が街の中央にある塩湖を見て、感慨深くつぶやく。
塩湖には薄く水が張り、それが鏡の役目を果たしているのだ。そしてその鏡には空が映し出されており、中に立つ人間はまるで、空に浮かんでいるように錯覚するのだと言う。
と、通りに央中でよく見かけた施設が建っているのが、晴奈の視界に入る。
「ほう……、ここにも金火狐の銀行が」
「銀行だけじゃないよ。この街は昔、まだ中央政府が世界中を支配していた時に、金火狐一族が開発したんだ。銀行やお店なんかがあるのは、その名残なんだ」
トマスが説明している間に、一行は目的の家に到着した。
「と、ここだ。ここが、アニェッリ先生の自宅兼、研究所」
研究所、と言われたものの、傍目には普通の家にしか見えない。
と――カリカリと、妙な音が聞こえてきた。
「何だ……?」
「あ、耳ふさいだ方がいいよ。キツいらしい」
「え?」
晴奈と小鈴がきょとんとしている間に、家の2階窓からにょきにょきと、何かが出てきた。
「……あっ」
その先端にあるものを見て、晴奈もそれが何だか分かった。
《ポッポー!》
「ぐあ……」
が、耳をふさぐのが一瞬遅かった。
《ポッポー!》
「う、うるさっ」
《ポッポー!》
三回鳴いたところで、家から飛び出してきた鳩は元通り、家の中に収まった。
「う、は……、耳が……」
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晴奈と小鈴は、耳を押さえてうずくまった。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
魔法があると、銃の概念が変わりますからね。
確かにあまり利用率が低いかもですね。
・・・このコメント、かなり前にしたような。
何はともあれ。
ファンタジーの中のリアルは好きです。
(*^-^*)
確かにあまり利用率が低いかもですね。
・・・このコメント、かなり前にしたような。
何はともあれ。
ファンタジーの中のリアルは好きです。
(*^-^*)
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現実世界よりも開発が遅れていたことと思います。
リアルを求めるにあたって、そう言う「裏」を考えるのが楽しいですね。