「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・帰北録 4
晴奈の話、第544話。
銃の神様。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
晴奈たちがうずくまっているところに、家の中から申し訳無さそうな声が飛んできた。
「ああ、ごめんなさい。やっぱりうるさかったかな」
家の中から、耳当てを付けた狐獣人が出てくる。
「あれ、故障しちゃってるんです。音量の調整が、どうしてもうまく行かなくって。
……えーと、あなたがセイナ・コウさん?」
その狐獣人は、うずくまった晴奈に声をかけた。
「……そう、だが」
「初めまして、セイナさん。僕の名前はディーノ・アグネリと言います。あ、北方風に言うと、デーノ・アニェッリですね」
ようやく耳が落ち着いたところで、晴奈一行はディーノの家に入った。
「それで、あぐ、……アニェッリ先生、と呼べばよろしいか?」
かしこまった態度の晴奈に、ディーノは恥ずかしそうに手を振った。
「いやいや、ディーノで結構です。先生と呼ばれるのは、どうにも尻尾がかゆくなっちゃって、あはは……」
年齢は40半ばと言うことだったが、その頼りなさげな風貌は、もっと若く見させている。
「では、ディーノ殿。私に聞きたいこととは、一体?」
「ああ、うん……。妻のことを、聞きたくて」
「妻?」
一体誰のことを指しているのかと、晴奈はいぶかしがる。
「ええ。その……」
ディーノは全員を見回し、それから晴奈にそっと耳打ちした。
「……はい?」
「だから、その……」
もう一度伝えようとしたディーノに、晴奈はぽんと手を打った。
「……ああ、なるほど」
「へ?」
「そう言われるよりも、エランの父親と言われた方が、納得が行きます」
そう返され、ディーノはきょとんとする。
「……そんなに似てるんですか?」
「はい。そっくりです」
それを聞いて、小鈴が目を丸くする。
「え、ちょっと待ってよ。エランのお父さんって、つまり、……総帥の?」
「……はは、そうなんです。……ええ、金火狐財団の現総帥、ヘレン・ゴールドマンは、僕の奥さんだった人です」
「そ、そうだったんですか」
思いもよらない話に、エルスとトマス、リストは驚いている。
「でも、僕がゴールドコーストを出た頃は、まだそんなに偉くなくって。
どうしても研究を続けたいと頼み込んだんですが、当時の妻の力じゃどうにもならなかったんです。だから軍事立国であるこの国に渡り、ナイジェル博士の協力で研究を続けることにしたんですよ。
ただ、どうしても気になるのが、やっぱり家族のことです。うわさには総帥に就任し、やり手の女ボスになったと聞きますが、遠く離れたこの街じゃ、それ以上のことはさっぱりですから。
それで、今回の西大海洋同盟が成立したのは、央南と央中の権力者と親しくしてたセイナさんのおかげだと聞きまして。それなら妻のこと、色々知ってるんじゃないかな、って」
「なるほど……」
晴奈と小鈴は、央中での出来事をディーノに語って聞かせた。ディーノは顔をほころばせ、始終嬉しそうにうなずいていた。
「そうですか、そうですか。エランが、銃をね……」
「やはり、銃がゴールドコーストでも広まったのは嬉しいんですか?」
そう尋ねたエルスに、ディーノは深々とうなずく。
「ええ。ようやく、故郷で僕の研究成果が認められたと言うことでしょうね。
……いや、広めてくれたのは間違いなく、妻のおかげでしょう。彼女は若い頃から公安に思い入れがありましたし、それを息子に持たせたと言うのも、彼女らしいと言えば、らしいです」
「その……、ディーノ殿は」
晴奈はふと、こんなことを尋ねてみた。
「今でも奥さんのことを?」
「ええ、大好きですよ。もし彼女が『戻ってきてもええよ』って言ってくれたら、即、戻ります」
「ほう……」
ディーノは顔を赤くしながら、ぽつりとこう言った。
「もうここでの銃の研究は、僕の手から離れましたからね。後は若い技術者が、頑張ってくれるでしょう」
それを聞いて、晴奈はディーノとじっくり話をしてみたいと感じた。
(この人は、既に『頂点』を過ぎた人なのだな。私も、もう数年すればこの人と同じところに行き着くのかも知れない。
今、その心境はどうなっているのだろうか? ……もっと詳しく、聞いてみたい)
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銃の神様。
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晴奈たちがうずくまっているところに、家の中から申し訳無さそうな声が飛んできた。
「ああ、ごめんなさい。やっぱりうるさかったかな」
家の中から、耳当てを付けた狐獣人が出てくる。
「あれ、故障しちゃってるんです。音量の調整が、どうしてもうまく行かなくって。
……えーと、あなたがセイナ・コウさん?」
その狐獣人は、うずくまった晴奈に声をかけた。
「……そう、だが」
「初めまして、セイナさん。僕の名前はディーノ・アグネリと言います。あ、北方風に言うと、デーノ・アニェッリですね」
ようやく耳が落ち着いたところで、晴奈一行はディーノの家に入った。
「それで、あぐ、……アニェッリ先生、と呼べばよろしいか?」
かしこまった態度の晴奈に、ディーノは恥ずかしそうに手を振った。
「いやいや、ディーノで結構です。先生と呼ばれるのは、どうにも尻尾がかゆくなっちゃって、あはは……」
年齢は40半ばと言うことだったが、その頼りなさげな風貌は、もっと若く見させている。
「では、ディーノ殿。私に聞きたいこととは、一体?」
「ああ、うん……。妻のことを、聞きたくて」
「妻?」
一体誰のことを指しているのかと、晴奈はいぶかしがる。
「ええ。その……」
ディーノは全員を見回し、それから晴奈にそっと耳打ちした。
「……はい?」
「だから、その……」
もう一度伝えようとしたディーノに、晴奈はぽんと手を打った。
「……ああ、なるほど」
「へ?」
「そう言われるよりも、エランの父親と言われた方が、納得が行きます」
そう返され、ディーノはきょとんとする。
「……そんなに似てるんですか?」
「はい。そっくりです」
それを聞いて、小鈴が目を丸くする。
「え、ちょっと待ってよ。エランのお父さんって、つまり、……総帥の?」
「……はは、そうなんです。……ええ、金火狐財団の現総帥、ヘレン・ゴールドマンは、僕の奥さんだった人です」
「そ、そうだったんですか」
思いもよらない話に、エルスとトマス、リストは驚いている。
「でも、僕がゴールドコーストを出た頃は、まだそんなに偉くなくって。
どうしても研究を続けたいと頼み込んだんですが、当時の妻の力じゃどうにもならなかったんです。だから軍事立国であるこの国に渡り、ナイジェル博士の協力で研究を続けることにしたんですよ。
ただ、どうしても気になるのが、やっぱり家族のことです。うわさには総帥に就任し、やり手の女ボスになったと聞きますが、遠く離れたこの街じゃ、それ以上のことはさっぱりですから。
それで、今回の西大海洋同盟が成立したのは、央南と央中の権力者と親しくしてたセイナさんのおかげだと聞きまして。それなら妻のこと、色々知ってるんじゃないかな、って」
「なるほど……」
晴奈と小鈴は、央中での出来事をディーノに語って聞かせた。ディーノは顔をほころばせ、始終嬉しそうにうなずいていた。
「そうですか、そうですか。エランが、銃をね……」
「やはり、銃がゴールドコーストでも広まったのは嬉しいんですか?」
そう尋ねたエルスに、ディーノは深々とうなずく。
「ええ。ようやく、故郷で僕の研究成果が認められたと言うことでしょうね。
……いや、広めてくれたのは間違いなく、妻のおかげでしょう。彼女は若い頃から公安に思い入れがありましたし、それを息子に持たせたと言うのも、彼女らしいと言えば、らしいです」
「その……、ディーノ殿は」
晴奈はふと、こんなことを尋ねてみた。
「今でも奥さんのことを?」
「ええ、大好きですよ。もし彼女が『戻ってきてもええよ』って言ってくれたら、即、戻ります」
「ほう……」
ディーノは顔を赤くしながら、ぽつりとこう言った。
「もうここでの銃の研究は、僕の手から離れましたからね。後は若い技術者が、頑張ってくれるでしょう」
それを聞いて、晴奈はディーノとじっくり話をしてみたいと感じた。
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今、その心境はどうなっているのだろうか? ……もっと詳しく、聞いてみたい)
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今日の旅岡さん

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NoTitle
そういえば、こっちでも銃は使ってますけど、
銃の神様はいませんでしたね。。。
そっち方面の強さも必要ですね。
流石は見識の広さですね。
銃の神様はいませんでしたね。。。
そっち方面の強さも必要ですね。
流石は見識の広さですね。
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一つの業界、一つの界隈には大抵、一人以上は達人や神様がいますしね。