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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第9部

    蒼天剣・帰北録 5

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    晴奈の話、第545話。
    高みを降りた人から、高みに達した人へ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     晴奈たちはミラーフィールドの宿に宿泊し、近くの食堂でディーノとともに夕食を取ることになった。
    「さ、もっとお話、聞かせてください。ここは僕がおごりますから」
    「ありがとうございます」
    「いただきまーすっ」
     食事が始まったところで、晴奈はディーノに旅での話をし始めた。
     ゴールドコーストで公安チームと出会い、彼らと共に央北を回り、殺刹峰と戦った話を聞き、ディーノの目はキラキラと輝く。
    「へぇ……、散弾銃、ですか。確かに公安の機動部とか制圧戦とかには、うってつけの装備ですね」
    「ええ、殺刹峰に潜入した時も、それで修羅場をしのいだとか。
     ……あの、ディーノ殿」
    「はい?」
    「その……、会って間もないあなたにこんな話をして、戸惑われるかも知れませんが」
    「何でしょう?」
     晴奈は周りの皆が食事に気を取られているのを確認し、ディーノに相談してみた。
    「私は……、その、もう27歳でして、そろそろ、……ここが、剣士としての頂点では無いかと考えているのです」
    「ふむ」
    「しかし、不安もあります。この後、剣士としては緩やかに下るだけ。今まで剣の道一本だった私は、どう生きていけばいいのかと」
    「……なるほど。僕にも、似た点はありますね」
     ディーノはコップを机に置き、真面目な、しかし優しげな顔になった。
    「僕も、研究と発明ばかりの人生でした。その道、一本だったわけです。そう考えればその点、あなたと似ていますね。
     でも最近じゃ、なかなかいいものが作れません。ただ、それはスランプってわけじゃなくて、やっぱりセイナさんが言うみたいに、頂点を過ぎてしまったんだと思います。もう昔みたいに、次から次に研究・開発を進めて成功していくことは難しいでしょうね。
     でもそのことは悔しくも、悲しくも無いんです。思うに、それは……」
     ディーノはそこで、コップに入った酒をくい、と飲み干す。
    「それは頂点の時――自分が最高の仕事ができる時に、最高の仕事をしたからだと思います。その証明と言うか、成果と言うか、……そんな感じのものは、今、この国のあちこちで見られますし。それを見ていると、本当に自分はいい仕事をしたと、そう実感できるんです。
     過去の栄光に浸っているとか、そう思われるかも知れません。でも、僕はもう、それでいいんです。自分がやるべきことを、やれる時にやりきったんですから」
    「なる、ほど……」
    「セイナさん」
     ディーノはにっこりと笑い、こう締めくくった。
    「今があなたの人生最高の時と言うのなら、是非、いい仕事ができるよう努力してください。
     そうすれば頂点を過ぎた後、悔やむことは何も無いと思います。きっとみんな、仕事をやりきったあなたを祝福してくれるはずです。
     その後の人生、きっといいものになりますよ」
    「……はい」
     晴奈は目から涙がこぼれそうになるのをこらえながら、小さくうなずいた。



     3日後、ディーノはリストのために、銃を作ってくれた。
    「ベースはGAI(ジーン王国兵器開発局)の狙撃銃、GAI‐SR(スナイパーライフル)511型です。
     それの命中精度改良版がSR511P(Prime:最上級)型と呼ばれていますが、僕はその命中精度をさらに向上させ、さらに長い銃身と特製調合の装薬とで、射程距離も大幅に伸ばしてみました。
     名付けて、GAI‐SR511PPLR(Prime of Prime and Long Range)」
    「うん、ありがと」
     リストは銃が入ったかばんを受け取り、ニコニコと笑いながら銃に向かってつぶやいた。
    「よろしくね、ポプラちゃん」
    「ポプラ?」
     尋ねたトマスに、リストは指を立てて答えた。
    「PPLRだから、語感でポプラ(Poplar)かなって」
    「なるほど、いいですね」
     作った本人も、嬉しそうにうなずいた。
     と、ここでエルスがディーノに、あることを伝えた。
    「そうだ、アニェッリ先生。奥さんに会いたがってましたが、もしかしたら近いうち、会えるかも知れませんよ」
    「と言うと?」
    「同盟が成立しはしましたが、まだそれぞれの首脳が顔を合わせてませんからね。近いうち、同盟を発案したこの国で、首脳会談の場が開かれると思います。
     となれば当然、奥さんもその場に……」
    「そうか、なるほど……。そうですか、ふむ」
     ディーノは嬉しそうに顔をほころばせた。
    「いいですね。会えるかどうかは分かりませんが、楽しみにしておきます」

     帰りの道中、晴奈はディーノから言われたことを何度も、心の中で繰り返していた。
    (『人生最高の時と言うのなら、是非、いい仕事を』か。……そう、今が私の頂点、剣士としての人生、最高の時なのだ。
     確かに私は、最早戦うことに疲れてきている。だが、ディーノ殿の言う通り、今、最高の仕事をしなければ、私はきっと後悔する。巴景やアランと戦うことを避ければきっと、終生『何故あの時、戦わなかったのだ』と悔やむだろう。
     それだけはしたくない。後々に禍根など、残してはならぬ。今ここで、きっちりと決着を付けねば)
     晴奈はこれから来る、最後の戦いを前に、決意を新たにした。

    蒼天剣・帰北録 終
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    銃火器の名称も命名規則も、現実のものに倣って付けています。
    自分のところは、何でも自分でやらないと気がすまないので……。

    NoTitle 

    おおう。銃の設定ですね。
    私は基本的に設定を作って、ストーリーはほかの人につくってもらうときもあるので、こういう銃の設定を見るとうれしいですね。
    (*^-^*)
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