「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・傷心録 1
晴奈の話、第546話。
凍った海でスケート。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
双月暦520年、12月。
晴奈たち一行が北方に到着してから半月が経ち、沿岸部での軍事演習も軌道に乗り始めていた。
「それにしても」
その日、晴奈はリストとともに、グリーンプールの港に立っていた。
「見事に凍っているな」
「そうね。これから4ヶ月は、こんな感じよ」
「ほう」
試しに埠頭から身を乗り出し、刀の鞘でこつんと凍った海を突いてみる。
「来た時はまだ氷が張っていなかったから、まさかこれほどとは思っても見なかった」
「でしょうね。アニェッリ先生も、フーのおばあちゃん夫婦も、こっちに移り住んだ時はみんな驚いてたらしいわよ」
そう言って、リストはひょいと氷の上へと降りる。
「ほら。人が乗れるくらい分厚いのよ」
「なんと……。話には聞いていたが、本当に乗れるとは」
「セイナも来てみなさいよ」
リストに手招きされ、晴奈も恐る恐る氷の上に足を乗せた。
「……確かに」
「じーちゃん、グリーンプールにも別荘持っててさ。アタシ、何度かこっちに、遊びに行ったコトあったのよ。楽しかったなー……」
と、リストは埠頭に上がり、「ちょっと待っててね」と言って姿を消した。
晴奈は水平線の向こうまで凍った海を見渡し、ため息をつく。
(ウインドフォートで聞いた、巴景の話。彼奴は、この凍った海を歩いて渡ってきたと言う。考えもしなかったな、そんな手段は。
恐らく、殺刹峰で得た強化魔術があったからこそ、取った手段ではあろうが――私には、到底真似ができぬ。その術と、型破り・非常識な発想力は、私を凌駕する。それこそが、巴景の強みであり、二つと無い武器なのだろうな。
だが、私も人知を超えた経験を、いくつも重ねてきた。経験の量と深さは、負けていないはずだ。それに私にはこの『蒼天』と、十余年鍛え、高みに達した剣術が付いている。
敵わないと言うことは、無いはずだ。十分、十二分に対抗できる。……いや、勝ってみせるさ。
この因縁には、きっちりと決着を付けてみせる)
と、リストが靴を二足抱えて戻ってきた。
「お待たせー」
「それは?」
「スケート靴。サイズ合うかしら?」
「すけ、と?」
「氷の上を滑れる靴よ。……ほら、見てて」
リストはスケート靴を履き、氷の上をすいすいと走る。
「楽しいわよ、けっこー」
「ふむ」
晴奈もスケート靴を履き、氷の上に立とうとしたが――。
「わ、と、とと、……にゃっ」
バランスを崩し、べちゃりと前のめりに倒れてしまった。
「あいたた……」
「ふふ、あははっ」
「参ったな、はは……」
晴奈は埠頭にしがみつき、何とか立ち上がる。
「足は揃えて立たないと、がくっと体の軸ブレるわよ」
「ふむ。こう、か?」
「そうそう、そんな感じ。で、こーゆー風に、右脚に体重かけてー、次は左脚にかけてー」
「右、左、右、左、……こんな感じか」
「そ、そ。うまいじゃない」
運動神経のいい晴奈は、すぐにコツを飲み込む。
「なるほど、面白い」
「ね、セイナ。ちょっと、沖の方まで行こ?」
「沖に?」
聞き返したが、リストは理由を言わない。
「……ダメ?」
「いや、構わぬ。行ってみようか」
「ありがと」
リストは礼を言うと、晴奈の手をつかんですい、と滑り始めた。
「滅多に割れないから、安心して」
「ああ」
しゃ、しゃ……と、スケートの滑る音だけが聞こえる。
「わあ……、真っ白。ミラーフィールドじゃないけど、雲の中にいるみたいね」
「そうだな、白い雲の上を滑っているようだ」
「アハハ、雲ってツルツルなのね」
滑る間に他愛も無いことを話しながら、二人は街が彼方に見えるくらいのところで止まった。
「……さて、と。ココなら二人っきりで話せるよね」
「うん?」
「聞いて、セイナ。アタシの話」
「どうした、改まって」
リストはうつむき、スケート靴を脱ぎ始める。
「あのね」
脱ぎ終わるなり、リストは座り込んだ。つられて、晴奈も横に座る。
「あの、……あのね」
「……」
リストはもごもごと、言葉を詰まらせる。そこで、晴奈が尋ねてみた。
「エルスのことか?」
「……そう」
リストは顔を挙げる。やや吊り上がったその目は、今にも泣きそうに潤んでいた。
「こないだ、ミラと、話をしたの」
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凍った海でスケート。
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双月暦520年、12月。
晴奈たち一行が北方に到着してから半月が経ち、沿岸部での軍事演習も軌道に乗り始めていた。
「それにしても」
その日、晴奈はリストとともに、グリーンプールの港に立っていた。
「見事に凍っているな」
「そうね。これから4ヶ月は、こんな感じよ」
「ほう」
試しに埠頭から身を乗り出し、刀の鞘でこつんと凍った海を突いてみる。
「来た時はまだ氷が張っていなかったから、まさかこれほどとは思っても見なかった」
「でしょうね。アニェッリ先生も、フーのおばあちゃん夫婦も、こっちに移り住んだ時はみんな驚いてたらしいわよ」
そう言って、リストはひょいと氷の上へと降りる。
「ほら。人が乗れるくらい分厚いのよ」
「なんと……。話には聞いていたが、本当に乗れるとは」
「セイナも来てみなさいよ」
リストに手招きされ、晴奈も恐る恐る氷の上に足を乗せた。
「……確かに」
「じーちゃん、グリーンプールにも別荘持っててさ。アタシ、何度かこっちに、遊びに行ったコトあったのよ。楽しかったなー……」
と、リストは埠頭に上がり、「ちょっと待っててね」と言って姿を消した。
晴奈は水平線の向こうまで凍った海を見渡し、ため息をつく。
(ウインドフォートで聞いた、巴景の話。彼奴は、この凍った海を歩いて渡ってきたと言う。考えもしなかったな、そんな手段は。
恐らく、殺刹峰で得た強化魔術があったからこそ、取った手段ではあろうが――私には、到底真似ができぬ。その術と、型破り・非常識な発想力は、私を凌駕する。それこそが、巴景の強みであり、二つと無い武器なのだろうな。
だが、私も人知を超えた経験を、いくつも重ねてきた。経験の量と深さは、負けていないはずだ。それに私にはこの『蒼天』と、十余年鍛え、高みに達した剣術が付いている。
敵わないと言うことは、無いはずだ。十分、十二分に対抗できる。……いや、勝ってみせるさ。
この因縁には、きっちりと決着を付けてみせる)
と、リストが靴を二足抱えて戻ってきた。
「お待たせー」
「それは?」
「スケート靴。サイズ合うかしら?」
「すけ、と?」
「氷の上を滑れる靴よ。……ほら、見てて」
リストはスケート靴を履き、氷の上をすいすいと走る。
「楽しいわよ、けっこー」
「ふむ」
晴奈もスケート靴を履き、氷の上に立とうとしたが――。
「わ、と、とと、……にゃっ」
バランスを崩し、べちゃりと前のめりに倒れてしまった。
「あいたた……」
「ふふ、あははっ」
「参ったな、はは……」
晴奈は埠頭にしがみつき、何とか立ち上がる。
「足は揃えて立たないと、がくっと体の軸ブレるわよ」
「ふむ。こう、か?」
「そうそう、そんな感じ。で、こーゆー風に、右脚に体重かけてー、次は左脚にかけてー」
「右、左、右、左、……こんな感じか」
「そ、そ。うまいじゃない」
運動神経のいい晴奈は、すぐにコツを飲み込む。
「なるほど、面白い」
「ね、セイナ。ちょっと、沖の方まで行こ?」
「沖に?」
聞き返したが、リストは理由を言わない。
「……ダメ?」
「いや、構わぬ。行ってみようか」
「ありがと」
リストは礼を言うと、晴奈の手をつかんですい、と滑り始めた。
「滅多に割れないから、安心して」
「ああ」
しゃ、しゃ……と、スケートの滑る音だけが聞こえる。
「わあ……、真っ白。ミラーフィールドじゃないけど、雲の中にいるみたいね」
「そうだな、白い雲の上を滑っているようだ」
「アハハ、雲ってツルツルなのね」
滑る間に他愛も無いことを話しながら、二人は街が彼方に見えるくらいのところで止まった。
「……さて、と。ココなら二人っきりで話せるよね」
「うん?」
「聞いて、セイナ。アタシの話」
「どうした、改まって」
リストはうつむき、スケート靴を脱ぎ始める。
「あのね」
脱ぎ終わるなり、リストは座り込んだ。つられて、晴奈も横に座る。
「あの、……あのね」
「……」
リストはもごもごと、言葉を詰まらせる。そこで、晴奈が尋ねてみた。
「エルスのことか?」
「……そう」
リストは顔を挙げる。やや吊り上がったその目は、今にも泣きそうに潤んでいた。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
この話の良いところは
息抜きがあるのがいいんですよね~~。
やはり冒険小説を読んでいるな~~。
とほのぼのしてしまいます。
(*^-^*)
スケート楽しそう。
息抜きがあるのがいいんですよね~~。
やはり冒険小説を読んでいるな~~。
とほのぼのしてしまいます。
(*^-^*)
スケート楽しそう。
はじめまして、オランジュさん。
わくわくすると言っていただけて、嬉しい限りです。
総合目次から各話とあらすじに進めるので、
よろしければご利用ください。
これからもよろしく、お付き合いください。
わくわくすると言っていただけて、嬉しい限りです。
総合目次から各話とあらすじに進めるので、
よろしければご利用ください。
これからもよろしく、お付き合いください。
はじめまして
昨日もきたのですが、凄い大作で、わくわくします。
ちょっとやそっとじゃ制覇できません。
ちょっとゆっくり読んでいこうかなと思いつつ、どこからいけばいいかしら・・・・。
ゆっくり、絡ませてください。
ちょっとやそっとじゃ制覇できません。
ちょっとゆっくり読んでいこうかなと思いつつ、どこからいけばいいかしら・・・・。
ゆっくり、絡ませてください。
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NoTitle
今後もできる限り、こう言うほのぼのした「遊び」を入れていくつもりです。