「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・傷心録 2
晴奈の話、第547話。
名狙撃手。
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2.
晴奈たちがミラーフィールドから戻って、二日後のこと。
「うん、ホント美味しかった。ありがとね、ミラ」
「いえいえー」
人懐っこいミラに誘われて人気の喫茶店を訪れたリストは、すっかり上機嫌になってミラと話をしていた。
「自慢じゃありませんがぁ、アタシ、この街の甘いものは食べつくしてますから、何でも聞いてくださいねぇ」
「うん、また連れてってほしいわ」
以前のリストであれば、こんな風に誘われてもつっけんどんに断るばかりだった。
だが、央南での生活ですっかり丸くなり――と言うよりも、攻撃性が敵とエルスにのみ向けられるようになったと言うべきか――他者との人付き合いも、円滑にこなすことができるようになっていた。
「それでぇ、ちょっと聞きたいなってコト、あるんですがぁ」
「何?」
「あのぅ、リストさんって銃、うまいんですよねぇ?」
「うん、超得意よ」
「でもですねぇ、あのぉ、アタシがヒノカミ中佐の側近してた時にぃ、ブリッツェン准尉って人がぁ、『俺が一番、銃の腕はいい』って自慢されてたんですよぉ」
その名前を聞き、リストはある人物を思い出す。
「ブリッツェンって、茶髪で赤耳の狐獣人の、ルドルフ・ブリッツェン?」
「はぁい、その人ですぅ」
「はっ」
リストは鼻で笑い飛ばす。
「あんなのタダのトリガーハッピー、銃をバカスカ撃てりゃ満足ってだけのバカよ」
「そうなんですかぁ? アタシが聞いた話では、結構すごい成績出してたらしいですよぉ?」
「訓練って、『5スナイプ』の?」
「はぁい。460点出してたらしいですよぅ」
それを聞くなり、リストは立ち上がった。
「ふっ、そんならアタシの腕、見せてあげようじゃないの」
リストはミラを連れて、軍の射撃訓練場に向かった。
「で、あの乱射バカ、何使ってた? 511P?」
「えーとぉ……」
と、銃の管理をしている将校が、それに答える。
「乱射バカって、ブリッツェン准尉か? ここで最高記録出した時のだったら確か、511だったぞ。P付いてない、無印版のやつ」
「じゃ、ソレ貸して」
「おっ、挑戦する気か? ……って、そう言やお前、ナイジェル博士の孫だっけ。
ナイジェル一族の若い奴の中に銃の達人がいるとか聞いたことがあったけど、それ、お前のことか?」
「そうよ。早く貸してよ」
そう答えたリストに、将校はニヤリと笑って返した。
「面白い。何点出せるか、見せてもらおうじゃないか」
ちなみに、この射撃訓練は次のようなシステムになっている。
100メートル離れた場所にある的を狙撃し、的の中心を打ち抜けば100点。そこから15センチ離れれば、90点。さらに、5センチ離れるごとに10点ずつ減点され、中心から60センチ離れれば、無得点となる。
それを5セット行い、その総合点を命中精度として評価する。この訓練は王国軍の中では、通称「5スナイプ」と呼ばれている。
ルドルフの460点とはつまり、1発が中心に命中し、残り4発もすべて、15センチ以内に納めたと言うことである。
「ま、見てなさいよ」
狙撃銃を受け取ったリストは早速、伏射体勢を取って構える。
「じゃ、お願い。……はい!」
リストのかけ声に合わせ、的が立ち上がる。少し間を置いて、リストが狙撃した。
「どうだ? ……へぇ」
的側にいた兵士から、100点であると言う返事が返ってくる。
「まずは、満点か」「黙ってて。気が散る」「おっと」
リストににらまれ、将校は口をつぐんだ。
「次!」
リストが声をかけ、二枚目の的が立ち上がった。今度は間を置かずに、すぐに狙撃する。
「……ほう」
これも100点だと、返事が返ってくる。
「次!」
三枚目も、100点。
「……マジか」
「次!」
これも中心を撃ち抜き、100点。
これに気が付いた兵士たちが、ゾロゾロと集まってきた。
「『5スナイプ』で連続100点!?」
「どんな銃だよ……」
「511の無印だってさ」
「嘘だろ、もう型落ちだってそれ」
「でも、ブリッツェン准尉も同じ銃で460でしょ?」
「……もしかしたら」
「もしかするかも」
ざわめく兵士たちを、リストが怒鳴りつけた。
「うるさい! 邪魔!」
「……っ」
兵士たちは一斉に押し黙り、リストの挙動に注目した。
「次!」
リストの声に応じ、最後の的が立ち上がる。
最後の一枚は、先の4回よりも時間をかけて狙撃された。
「……っ」
その直後、リストが小さくうめき、床をドカドカと叩きつけて悔しがった。
「どうなった……?」
「出るぞ、結果出るぞ」
「……あ」
「90、……か」
リストは振り返り、もう一度兵士たちに怒鳴りつけた。
「アンタらがうるさいからよ、ホント邪魔っ!」
最後にケチが付いたとは言え、総合で490点となった。
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名狙撃手。
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晴奈たちがミラーフィールドから戻って、二日後のこと。
「うん、ホント美味しかった。ありがとね、ミラ」
「いえいえー」
人懐っこいミラに誘われて人気の喫茶店を訪れたリストは、すっかり上機嫌になってミラと話をしていた。
「自慢じゃありませんがぁ、アタシ、この街の甘いものは食べつくしてますから、何でも聞いてくださいねぇ」
「うん、また連れてってほしいわ」
以前のリストであれば、こんな風に誘われてもつっけんどんに断るばかりだった。
だが、央南での生活ですっかり丸くなり――と言うよりも、攻撃性が敵とエルスにのみ向けられるようになったと言うべきか――他者との人付き合いも、円滑にこなすことができるようになっていた。
「それでぇ、ちょっと聞きたいなってコト、あるんですがぁ」
「何?」
「あのぅ、リストさんって銃、うまいんですよねぇ?」
「うん、超得意よ」
「でもですねぇ、あのぉ、アタシがヒノカミ中佐の側近してた時にぃ、ブリッツェン准尉って人がぁ、『俺が一番、銃の腕はいい』って自慢されてたんですよぉ」
その名前を聞き、リストはある人物を思い出す。
「ブリッツェンって、茶髪で赤耳の狐獣人の、ルドルフ・ブリッツェン?」
「はぁい、その人ですぅ」
「はっ」
リストは鼻で笑い飛ばす。
「あんなのタダのトリガーハッピー、銃をバカスカ撃てりゃ満足ってだけのバカよ」
「そうなんですかぁ? アタシが聞いた話では、結構すごい成績出してたらしいですよぉ?」
「訓練って、『5スナイプ』の?」
「はぁい。460点出してたらしいですよぅ」
それを聞くなり、リストは立ち上がった。
「ふっ、そんならアタシの腕、見せてあげようじゃないの」
リストはミラを連れて、軍の射撃訓練場に向かった。
「で、あの乱射バカ、何使ってた? 511P?」
「えーとぉ……」
と、銃の管理をしている将校が、それに答える。
「乱射バカって、ブリッツェン准尉か? ここで最高記録出した時のだったら確か、511だったぞ。P付いてない、無印版のやつ」
「じゃ、ソレ貸して」
「おっ、挑戦する気か? ……って、そう言やお前、ナイジェル博士の孫だっけ。
ナイジェル一族の若い奴の中に銃の達人がいるとか聞いたことがあったけど、それ、お前のことか?」
「そうよ。早く貸してよ」
そう答えたリストに、将校はニヤリと笑って返した。
「面白い。何点出せるか、見せてもらおうじゃないか」
ちなみに、この射撃訓練は次のようなシステムになっている。
100メートル離れた場所にある的を狙撃し、的の中心を打ち抜けば100点。そこから15センチ離れれば、90点。さらに、5センチ離れるごとに10点ずつ減点され、中心から60センチ離れれば、無得点となる。
それを5セット行い、その総合点を命中精度として評価する。この訓練は王国軍の中では、通称「5スナイプ」と呼ばれている。
ルドルフの460点とはつまり、1発が中心に命中し、残り4発もすべて、15センチ以内に納めたと言うことである。
「ま、見てなさいよ」
狙撃銃を受け取ったリストは早速、伏射体勢を取って構える。
「じゃ、お願い。……はい!」
リストのかけ声に合わせ、的が立ち上がる。少し間を置いて、リストが狙撃した。
「どうだ? ……へぇ」
的側にいた兵士から、100点であると言う返事が返ってくる。
「まずは、満点か」「黙ってて。気が散る」「おっと」
リストににらまれ、将校は口をつぐんだ。
「次!」
リストが声をかけ、二枚目の的が立ち上がった。今度は間を置かずに、すぐに狙撃する。
「……ほう」
これも100点だと、返事が返ってくる。
「次!」
三枚目も、100点。
「……マジか」
「次!」
これも中心を撃ち抜き、100点。
これに気が付いた兵士たちが、ゾロゾロと集まってきた。
「『5スナイプ』で連続100点!?」
「どんな銃だよ……」
「511の無印だってさ」
「嘘だろ、もう型落ちだってそれ」
「でも、ブリッツェン准尉も同じ銃で460でしょ?」
「……もしかしたら」
「もしかするかも」
ざわめく兵士たちを、リストが怒鳴りつけた。
「うるさい! 邪魔!」
「……っ」
兵士たちは一斉に押し黙り、リストの挙動に注目した。
「次!」
リストの声に応じ、最後の的が立ち上がる。
最後の一枚は、先の4回よりも時間をかけて狙撃された。
「……っ」
その直後、リストが小さくうめき、床をドカドカと叩きつけて悔しがった。
「どうなった……?」
「出るぞ、結果出るぞ」
「……あ」
「90、……か」
リストは振り返り、もう一度兵士たちに怒鳴りつけた。
「アンタらがうるさいからよ、ホント邪魔っ!」
最後にケチが付いたとは言え、総合で490点となった。



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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
ちょっと余談ですが。
リストの
超得意。
人生で一度でいいから言ってみたいですねえ。。。
( 一一)
そんな誇れるものがない自分が悲しい。。。
リストの
超得意。
人生で一度でいいから言ってみたいですねえ。。。
( 一一)
そんな誇れるものがない自分が悲しい。。。
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NoTitle
それでも内心上には上がいることを常々痛感しています。
掛け値なしに、「自分はこの分野において間違いなく一番の腕前だ」
と言えるだけの技量がほしいものです。