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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第9部

    蒼天剣・傷心録 3

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    晴奈の話、第548話。
    恋焦がれて。

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    3.
     元々から、リストの銃の腕前が非常に優れていることと、ルドルフもそれに比肩する腕を持っていると言ううわさは、王国軍の間では有名だった。
     ただ、「バニッシャー」強奪事件でリストが北方を離れたことや、ルドルフが日上軍閥で要職に就いたことなどから、うわさ上での力関係はルドルフの方が上だった。

     それが、「5スナイプ」を行った、たった2分間で逆転した。
    「490って、すげえな」
    「うわさも案外、間違ってないってことか」
    「向こうじゃ、彼女に感化されて銃開発が始まったらしい」
    「それも流石、エド博士の孫って感じだな」
    「そう言えば、チェスターはアニェッリ先生に会ったらしいぞ」
    「先生に? じゃあ……」
    「らしいですよ。銃を、オーダーメイドで作ってもらったとか」
     どうも、北方人はうわさ好きな性分を持っているらしい。あっと言う間に、リストが「ポプラ」を持っていることまで伝わってしまった。



     数日が過ぎ、うわさはエルスの耳にも入った。
    「へぇ、あの子がねぇ」
    「今はもう、リストさんのことで持ちきりですよぉ」
    「馴染めたみたいで良かったよ、はは……」
     その口ぶりが、ミラの中で引っかかった。
    「……エルスさんってぇ、なんだかお兄ちゃんみたいな言い方しますねぇ?」
    「ん?」
    「リストさんのコト、どう思ってるんですかぁ?」
     そう尋ねられ、エルスは笑顔のままポリポリと頭をかき、困った様子を見せた。
    「うーん……、それも良く聞かれるんだけどねぇ。あの子、僕の周りをいっつもウロウロしてるから」
    「え……」
    「あの子は妹みたいなもんだよ。君の言ったこと、間違ってない」
    「そう、なんですかぁ」
     エルスの回答に、ミラはがっかりした。

     ミラが失望したのには、理由がある。
     リストと喫茶店で話をした時に、リストはエルスに好意を抱いていると気付いていたからだ。
    「……ですって」
    「そう」
     グリーンプールでの演習の合間に、ミラはエルスの、リストに対する感想を、本人にそのまま伝えた。
    「で?」
     だが、リストは無反応を装う。
    「えっ?」
     リストの、気の無さそうなその口ぶりを、ミラは一瞬意外に思った。しかし――。
    「それが、どうしたのよ」
    「……リストさん」
     リストの目は、小刻みに震えている。
    「何よ」
    「……好きなんでしょ?」
    「何が」
    「エルスさんのコト」
    「……んなワケっ、ないじゃないの……っ」
     そう言った途端、リストの目からボタボタと涙がこぼれる。
    「アタシがっ、……あんなっ、いっつも、ヘラヘラしてるヤツ、好きなっ、ワケ、ないじゃない……っ!」
    「あ、あのぅ」
    「そうよ、いっつも、ポカポカ殴ってっ、ひどいコトばっか言ってる、アタシのコトなんて……っ、好きで、好きでいてっ、くれるワケっ、……ない、し、っ」
     言葉とは裏腹に、リストの涙はとめどなく流れ続ける。
    「そりゃ、手のかかるっ、いも、とっ、……妹でしょ、そりゃ、ね……っ」
    「あ、あのぅ、リストさん」
    「ま、マシよね、ホント……っ! 嫌ってない、なんて、逆にっ、おかしい、くらい、じゃ、ないっ……」
    「も、もういいですからぁ」
    「なっ、何が、いいのよっ、……グス、グスっ」
     リストの声に、嗚咽が混じり出す。
    「グス、……帰ってっ」
    「え、え……」
    「帰ってよっ!」
    「……はい、あのぅ、……失礼しましたぁ」
     これ以上どうにも応えきれなくなり、ミラはそそくさとリストの前から姿を消した。



    「……そうか」
    「アタシ、さ……」
     ミラとの会話を晴奈に伝え、リストはまた泣き出しそうに、顔を歪めていた。
    「どうして、こんななのかな」
    「こんな?」
    「ちょっと、何かあると、滅茶苦茶なコト言って、みんな困らせてさ。ミラにも、怒鳴って追い返しちゃったし。
     こんなだから、エルスはアタシのコト、好きでいてくれないんだよね」
    「……そんなことは」
     晴奈は優しく、リストの肩を抱きしめる。
    「そんなことは、無いさ。嫌いなわけが無い。でなければ天玄の時、お主を助けようなどとするものか」
    「でも、アイツは、コスズと……」
    「……どうなるか、まだ分からないさ。いっそのこと、言ってみたらどうだ?」
     リストは顔を挙げ、晴奈の顔をじっと見た。
    「え?」
    「お主の胸のうちを、まだ、エルスと小鈴が結ばれないうちに」
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