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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第9部

    蒼天剣・傷心録 4

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    晴奈の話、第549話。
    大人デートと、少女の抵抗。

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    4.
    「んっふふー」
     グリーンプールのレストランで、小鈴はエルスと食事を楽しんでいた。
    「気に入ってもらえたかな?」
    「もちろんよ、んふふ……。エルスって、ホントに博識よね。こーんなワインの銘柄まで、しっかり知ってるんだから」
    「そりゃまあ、女の子をいいお店に誘うんなら、これくらいは知ってないと」
    「あーら、ありがと」
     ちなみに今日の小鈴は、普段の巫女服ではなく、北方風のドレスを着ている。これも、エルスからの贈り物である。
     エルスの方も普段着ではなくスーツを着ており、二人の様子は店内の上品な雰囲気に、ぴったり合っていた。
    「ところでさ、エルスって」
    「ん?」
    「この戦争終わったら央南に永住する気らしいけど、ホント?」
     エルスはワインをくい、と呑み、小さくうなずいた。
    「うん、そのつもりだよ。もう北方に戻る気は無いし、今は央南でかなりいい仕事に就いてるからね」
    「んじゃさ、奥さんとかも向こうで探す感じ?」
    「……あー、どうなのかな」
     エルスは小鈴にワイン瓶の口を向けながら、首をわずかに傾ける。
    「まだそんな気、無いかな。今結婚しても、何だか持て余しそうだし」
    「んふふ、晴奈には『子供作ろう』とか言ったクセに」
    「はは、あれは冗談だって」
    「30超えたオジサンがそんなコト言ったら、冗談じゃすまないわよ」
     そう言われ、エルスは黙り込んだ。
    「……あれ? 何か変なコト言っちゃった?」
    「あ、いや。……確かにもうおじさんなんだよな、僕って」
     エルスはにこやかな表情のまま、自分の手をじっと見つめる。
    「若いつもりしてたけど、確かに手は、10代、20代の頃に比べて張りが無くなった気がする。アケミさんにも言われたけど、歳、取ってるんだなぁ……」
    「アハハ、何を今さら」
     と、小鈴も自分の胸に手を当てる。
    「……あたしも歳取っちゃったかなぁ。エルフだけど」
    「大丈夫、そこは歳取ったように見えないよ。全然若い」
     それを聞いて、小鈴はいたずらっぽく尋ねる。
    「あら、ドコ見て言ってるのかなー?」
    「大渓谷、だね」
    「んもう、……ぷ、ふふふっ」
    「ははは……」
     二人は楽しげに、食事と会話を楽しんでいた。

     店を出た後も、エルスと小鈴は並んで道を歩いていた。
    「はー……。美味しかったわー、ワインとご飯」
    「気に入ってもらえて何より、かな」
     エルスはニコニコと笑いながら、小鈴の手を取って歩く。小鈴もうれしそうに笑い、手を任せている。
    「……ねー、エルス」
    「ん?」
    「また連れてってね、美味しいお店とか」
    「ああ、もちろん。僕も君と、色んなところ行きたいからね」
    「……ふふ」
     小鈴はエルスの腕を、ぎゅっと抱きしめた。
    「にしてもさ、最初に会った時はそんなにエルスのコト、気にしてなかったんだけどな」
    「そうなの?」
    「うん、ふつーに『晴奈の友達』くらいにしか思ってなかったし」
    「……そうだな、僕もコスズのことは同じようにしか思ってなかったかも」
     それを聞いて、小鈴はいたずらっぽく笑う。
    「晴奈のおかげね、こうしてるのって」
    「はは、そうだね」
     そこで、エルスが立ち止まる。
    「……どしたの?」
    「ああ、うん。……うーん」
    「ん?」
    「……リスト」
     エルスは背後の物陰から見守っていたリストに声をかけた。
    「何か、用?」
    「……」
     声をかけられ、リストは仕方なく物陰から出てくる。
    「何かあったの?」
    「……」
    「黙ってちゃ分からない」
     エルスは依然ニコニコとしているが、その口ぶりはどことなく迷惑そうだった。
    「……ばか」
    「うん?」
    「どうして、アタシじゃないの」
    「……」
     今度は、エルスの方が黙る。
    「そんなに、アタシには魅力無いの?」
    「……」
    「そんなに、アタシのコト、邪魔?」
    「……」
    「ねえ、そんなに嫌いなの?」
    「……あのね」
     エルスはネクタイを緩めつつ、優しく返答した。
    「嫌ってなんか、いるわけないさ。ちょっと口は悪いけど明るい子だし、自分の好きなものにはすごく熱心になれる真面目さがある。それに、顔だって可愛い。嫌ってなんか、いない」
    「じゃあ、なんで……」
    「でもねリスト」
     エルスはそこで言葉を切り、じっとリストの顔を見つめた。
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