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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第9部

    蒼天剣・傷心録 5

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    晴奈の話、第550話。
    好意のベクトル。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     10秒ほどリストの顔を見つめていたエルスは、再び口を開いた。
    「君と僕の、『好き』って感情は、違うんだ」
    「え……?」
    「君が僕のことを好きでいてくれるって言うのは、昔からずっと知ってるよ。異性として見てくれてるって言うのは、ね。
     でも、僕は君に対して、妹とか、戦友とか、そう言う目でしか見られないんだ。君のことは本当に、大事に思ってる。でも、君と付き合いたいかって言われたら、それは違うんだ。
     だって、妹だもの」
    「……っ」
     エルスの言葉に、リストの目からぽろっと涙がこぼれる。
    「……君をできるだけ傷つけたくなかったから、今まで言わないようにしてたけど。でも、僕にとってはそうなんだよ、リスト。
     僕は君を、女として見れない」
    「……うっ、……」
     リストののどから、嗚咽が漏れ始める。
    「……本当に、ごめん。長い間、君をだましていたも同然だ」
    「……なんで……ぐす……」
     リストは泣きながらも、なお話を続けようとする。
    「なんでっ、……あ、謝る、のよっ……」
    「それは……」
    「謝ら、ないでよ、ぐすっ……」
     リストはその場にしゃがみ込み、本格的に泣き出した。
    「アタシが、迷惑、ひっく、かけまくって、それで、ぐすっ、謝られ、たら、……うっ、う……、アタシ、ただ、のっ、バカじゃ、ない……、ひっく」
    「……ごめんね」
     エルスはただただその場で硬直していた小鈴の手を引き、リストの前から姿を消した。
    「……ばかっ……」

     それから2日、リストは演習に姿を見せなかった。



    「リスト、大丈夫か?」
     ずっと部屋にこもりっきりになっていたリストを心配し、晴奈が訪ねた。
    「……」
     部屋の中からは、返事が無い。
    「入ってもいいか?」
    「……」
     何度か呼びかけたが、反応は返ってこない。
    「……では、ここで話すぞ」
     晴奈はドアの前に座り、中のリストにぽつりぽつりと声をかけた。
    「その、……顛末は、聞いた。……残念だったな。まあ、その、気を落とすな、と言うのは無理だろうが、……その」
     晴奈はドアに向かって、深々と土下座した。
    「……すまぬ! 私が、お主をたきつけたりしなければ、このようなことには」「いいわよ」
     き、と音を立てて、わずかにドアが開いた。
    「セイナ、そんなに謝んないでよ。どっちにしろ、エルスがアタシを、付き合う相手って見てなかったんだから。遅かれ早かれ、こーなってたわよ」
    「リスト……」
    「ね、こっち来て?」
    「あ、うむ」
     晴奈は立ち上がり、部屋の中に入る。
     部屋の中はぐちゃぐちゃに汚れており、この2日間の荒れようが見て取れた。
    「ゴメンね、汚くしてて」
    「あ、いや」
    「……やっぱり、ショックだったわ」
     リストはベッドの上に腰かけ、クシャクシャになった髪を簡単にまとめながら話し始めた。
    「ずっと、ずーっと好きだったのに。アイツ、全然そんな風には見てくれなかったなんてね。
     ……ううん、実はちょっと前から、気付いてた。アイツは、アタシのコト、そこまで好きじゃないって。ホントのホント、妹だったんだなってさ。
     でも、実際言われると、……こたえたわ、かなり。やっぱりさ、ハッキリ言われるまでは、心のどっかで『もしかしたら』とは思ってたわけよ」
     そこでリストは立ち上がり、服を脱ぎ始めた。
    「え、おい?」
    「あ、……ちょっと、お風呂入ろうかなって。2日、泣きっぱなしだったから。……そんでさ、後でまた、一緒にスケート行かない?」
    「ああ、それはいいが」
    「よろしくね。……じゃ、お風呂入るから」
    「ああ、うむ」

     1時間後、晴奈とリストは再び、沖の方へとやって来た。
    「今日、何日?」
    「12月20日だ」
    「そっか、もう年も変わる頃ね」
    「そうだな。後10日ほどで、双月節となる」
    「来年は、どんな年になるかしらね」
    「さて、何とも言えぬな。恐らくはまた、戦いの日々になるだろう」
    「そうね」
     リストはふーっ、と白い息を吐き、座り込む。
    「どうしよっかな」
    「うん?」
    「アタシさ、央南の黄州司令官、辞めちゃったでしょ? そんで、エルスにもフラれちゃったし。戦争が終わったら、どうしようかなって」
    「ああ……」
     晴奈もリストの横に座り込み、腕組みをして考える。
    「そうだな、しばらくはうちにいればいい」
    「セイナんち?」
    「ああ。父上の手助けなどすれば、しばらくは食うに困らぬだろう」
    「そうね、ソレいいかも。……んじゃさ、よろしく言っといて」
    「ああ、承知した」
     そこで、会話が途切れる。
     二人はそのまま、真っ白な水平線を眺めていた。

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    2016.12.4 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    自分で書いておいてなんですが、
    エルスの価値観は確かに理解できますが、好みじゃないですね。
    今にして思えば、相当残酷な振り方をさせたもんです。

    ……あ、いや、当時の自分も残酷だと思ってたようですね。
    真下に書いてました。

    NoTitle 

    エルスの価値観は理解できますね。
    愛と恋が違うように、好きと愛は違うものです。
    そこで折り合いや妥協があって、結婚するのもありだとは思いますけどね。・・・
    それはそれか。

     

    自分でもかなり残酷な振られ方をさせてしまったな、と。
    生半可に優しさを見せるのは逆効果ですよね(´・ω・)

     

    きついわぁ、この振られ方。
    嫌いと言われた方が救われる。
    切ないなぁ。
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