「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・傷心録 6
晴奈の話、第551話。
女の子の友情と、現れるはずのない敵軍。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「……そ、言やさ」
不意に、リストが口を開いた。
「セイナ、どうなの?」
「うん?」
「最近、トマスと仲いいみたいだけど」
「えっ」
聞かれた晴奈は、もごもごと口ごもる。
「あー、それは、うむ、確かに、いいと言えばいい、な」
「……いーわね」
「な、何が、だ?」
「アンタ、好きなんでしょ?」
「そ、それは……」
晴奈はかけていたマフラーをいじりながら、ボソボソと答える。
「……少なくとも、憎からず思っている」
「そっか。……なんで?」
「なんで、って」
「アイツ、頭いいけどすぐ人のコトにケチつけるし、自慢したがりだし。ドコがいいの?」
「ああ、えー……、と」
なお、晴奈は口をもごもごとさせる。
「そうだな、私のことを、気にかけてくれるから、かな」
「アンタを?」
言いかけて、リストは「ああ」と納得したような声を出した。
「そうね。アンタもエルスみたいに、『何でもできますよ』って感じのヒトだもん。自信家だし、実際腕もいいし、オマケに料理もうまいしね。
でも、……そうよね。だからアンタのコト、ちゃんと見てないのかもね、みんな」
「……」
「……じゃ、さ」
リストはいたずらっぽく、こう言った。
「アタシもアンタのコト、気にかけるようにしたらさ、アンタもアタシを、好きでいてくれる?」
「へ?」
「……なんてね」
リストはクスクスと笑い、手を振る。
「他の誰よりも、トマスが一番にアンタのコト、思ってくれたからよね。他の人が『自分もあなたのコト、見てますから』ってアプローチしたって、遅いわよね」
「あ、いや、リスト」
晴奈は慌てて、リストの言葉に付け加える。
「そんなことをせずとも、お主のことは嫌ってなどいない。お主も大事な友人だ」
「……友人?」
リストは晴奈に顔を向け――笑い出した。
「……ぷっ、ちょ、セイナってば。なんで顔にそんな、マフラーぐるぐる巻きにしてんのよっ、あは、ははっ」
「あ、いや、これは、……その、恥ず、いや、……うー」
「あは、はは……、はー、何か久々に笑い転げた」
リストは笑って出た涙を拭きながら、ぽつりとこう返した。
「……友達、かぁ」
「ん?」
「そうよね、アンタはずっと、アタシの友達だった。改めて言われて、やっと実感したわ」
そう言うとリストは、突然晴奈に抱きついた。
「うわっ!? な、何だ!?」
「セイナっ」
リストは嬉しそうに、晴奈を抱きしめたままゴロゴロと氷の上を転がる。
「ずーっと、友達でいてよね」
「え? あ、ああ。もちろん」
「約束よ」
「う、うむ」
ようやく解放され、晴奈は軽く目を回しながらもうなずく。
「約束するさ。お主はずっと、私の友人だ。これまでも、そしてこれからも、な」
「……うん」
その時だった。
「……ッ!」
晴奈は自分と、横に寝転がっているリストとに、どこかから鋭く、貫くような殺意をぶつけられたのを感じ取った。
「リスト、転がれッ!」
「えっ」
言うが早いか、晴奈はリストの襟元を引っ張って、無理矢理に体を横転させた。
次の瞬間、今まで二人が寝そべっていた氷が、バシッと言う音とともに砕けた。
「え……、銃撃!?」
リストは自分たちが攻撃されていることに気付いたが、起き上がろうとはしない。
「セイナ、伏せてて!」
「ああ、分かっている」
起き上がればそのまま、格好の的になるからだ。
二人は寝そべった格好のまま、攻撃された方向を見定める。
「……まさか、そんな!?」
すぐに二人は、攻撃された方角を察知した。
それは西南西の方角――即ち、あと半年ほど後に「ヘブン」が攻めてくるであろう方角からだった。
「ウソでしょ……、歩いてきたって言うの!?」
「いや、無理な話では無い。巴景が、それをやったのだ。最早、絵空事ではないのだ」
二人の目には、斥候と思われる者三名が、銃を構えてしゃがんでいるのが見えていた。
「どうしよう、セイナ?」
「……念のため、刀を佩いていて助かった」
晴奈はうつ伏せのまま、刀を抜いて火を灯す。
「『火閃』」
冷え切った周囲の空気が熱され、氷をわずかに溶かして真っ白な水蒸気を生む。
「……っ」
湯気の向こうで、斥候がたじろぐのが、ぼんやりとだが確認できた。
「今だリスト、走るぞ!」
「うんっ」
二人は立ち上がり、スケート靴で走り去った。
「あっ、くそッ!」
晴奈たちを狙撃した斥候は狙っていた相手が逃げたのを見て、舌打ちする。
「い、今ならっ」
もう一名が慌てて銃を構えたが、それを背後から止める者がいた。
「やめとけ。当たるワケねー」
「えっ」
狙撃を止めさせたのは、フーの側近である銃士――ルドルフだった。
「『ヘブン』じゃ、まともに銃を作ってねーからな。整備も適当なもんだ。そんな銃であの距離じゃ、かすりもしねーよ」
斥候たちは不満そうに、逃げていく二人を眺めている。
「しかし少尉、このまま逃がせば……」
「いいんだよ、別に」
ルドルフは肩をすくめ、ニヤリと笑う。
「もうどうしようもねーよ、この距離まで来られちゃな。後は……」
ルドルフは踵を返し、自分たちが元来た方向へと戻り始めた。
「この凍った海を大量の歩兵で渡って、ブッ潰すだけだ。『トモエ作戦』、いよいよ本番ってワケだ」
蒼天剣・傷心録 終
@au_ringさんをフォロー
女の子の友情と、現れるはずのない敵軍。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「……そ、言やさ」
不意に、リストが口を開いた。
「セイナ、どうなの?」
「うん?」
「最近、トマスと仲いいみたいだけど」
「えっ」
聞かれた晴奈は、もごもごと口ごもる。
「あー、それは、うむ、確かに、いいと言えばいい、な」
「……いーわね」
「な、何が、だ?」
「アンタ、好きなんでしょ?」
「そ、それは……」
晴奈はかけていたマフラーをいじりながら、ボソボソと答える。
「……少なくとも、憎からず思っている」
「そっか。……なんで?」
「なんで、って」
「アイツ、頭いいけどすぐ人のコトにケチつけるし、自慢したがりだし。ドコがいいの?」
「ああ、えー……、と」
なお、晴奈は口をもごもごとさせる。
「そうだな、私のことを、気にかけてくれるから、かな」
「アンタを?」
言いかけて、リストは「ああ」と納得したような声を出した。
「そうね。アンタもエルスみたいに、『何でもできますよ』って感じのヒトだもん。自信家だし、実際腕もいいし、オマケに料理もうまいしね。
でも、……そうよね。だからアンタのコト、ちゃんと見てないのかもね、みんな」
「……」
「……じゃ、さ」
リストはいたずらっぽく、こう言った。
「アタシもアンタのコト、気にかけるようにしたらさ、アンタもアタシを、好きでいてくれる?」
「へ?」
「……なんてね」
リストはクスクスと笑い、手を振る。
「他の誰よりも、トマスが一番にアンタのコト、思ってくれたからよね。他の人が『自分もあなたのコト、見てますから』ってアプローチしたって、遅いわよね」
「あ、いや、リスト」
晴奈は慌てて、リストの言葉に付け加える。
「そんなことをせずとも、お主のことは嫌ってなどいない。お主も大事な友人だ」
「……友人?」
リストは晴奈に顔を向け――笑い出した。
「……ぷっ、ちょ、セイナってば。なんで顔にそんな、マフラーぐるぐる巻きにしてんのよっ、あは、ははっ」
「あ、いや、これは、……その、恥ず、いや、……うー」
「あは、はは……、はー、何か久々に笑い転げた」
リストは笑って出た涙を拭きながら、ぽつりとこう返した。
「……友達、かぁ」
「ん?」
「そうよね、アンタはずっと、アタシの友達だった。改めて言われて、やっと実感したわ」
そう言うとリストは、突然晴奈に抱きついた。
「うわっ!? な、何だ!?」
「セイナっ」
リストは嬉しそうに、晴奈を抱きしめたままゴロゴロと氷の上を転がる。
「ずーっと、友達でいてよね」
「え? あ、ああ。もちろん」
「約束よ」
「う、うむ」
ようやく解放され、晴奈は軽く目を回しながらもうなずく。
「約束するさ。お主はずっと、私の友人だ。これまでも、そしてこれからも、な」
「……うん」
その時だった。
「……ッ!」
晴奈は自分と、横に寝転がっているリストとに、どこかから鋭く、貫くような殺意をぶつけられたのを感じ取った。
「リスト、転がれッ!」
「えっ」
言うが早いか、晴奈はリストの襟元を引っ張って、無理矢理に体を横転させた。
次の瞬間、今まで二人が寝そべっていた氷が、バシッと言う音とともに砕けた。
「え……、銃撃!?」
リストは自分たちが攻撃されていることに気付いたが、起き上がろうとはしない。
「セイナ、伏せてて!」
「ああ、分かっている」
起き上がればそのまま、格好の的になるからだ。
二人は寝そべった格好のまま、攻撃された方向を見定める。
「……まさか、そんな!?」
すぐに二人は、攻撃された方角を察知した。
それは西南西の方角――即ち、あと半年ほど後に「ヘブン」が攻めてくるであろう方角からだった。
「ウソでしょ……、歩いてきたって言うの!?」
「いや、無理な話では無い。巴景が、それをやったのだ。最早、絵空事ではないのだ」
二人の目には、斥候と思われる者三名が、銃を構えてしゃがんでいるのが見えていた。
「どうしよう、セイナ?」
「……念のため、刀を佩いていて助かった」
晴奈はうつ伏せのまま、刀を抜いて火を灯す。
「『火閃』」
冷え切った周囲の空気が熱され、氷をわずかに溶かして真っ白な水蒸気を生む。
「……っ」
湯気の向こうで、斥候がたじろぐのが、ぼんやりとだが確認できた。
「今だリスト、走るぞ!」
「うんっ」
二人は立ち上がり、スケート靴で走り去った。
「あっ、くそッ!」
晴奈たちを狙撃した斥候は狙っていた相手が逃げたのを見て、舌打ちする。
「い、今ならっ」
もう一名が慌てて銃を構えたが、それを背後から止める者がいた。
「やめとけ。当たるワケねー」
「えっ」
狙撃を止めさせたのは、フーの側近である銃士――ルドルフだった。
「『ヘブン』じゃ、まともに銃を作ってねーからな。整備も適当なもんだ。そんな銃であの距離じゃ、かすりもしねーよ」
斥候たちは不満そうに、逃げていく二人を眺めている。
「しかし少尉、このまま逃がせば……」
「いいんだよ、別に」
ルドルフは肩をすくめ、ニヤリと笑う。
「もうどうしようもねーよ、この距離まで来られちゃな。後は……」
ルドルフは踵を返し、自分たちが元来た方向へと戻り始めた。
「この凍った海を大量の歩兵で渡って、ブッ潰すだけだ。『トモエ作戦』、いよいよ本番ってワケだ」
蒼天剣・傷心録 終
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
この世界でも銃は便利だな~~と思います。
って、攻撃するためのものか。
扱いが難しいし、当てるのはもっと難しいですけど。
こういうリラリティのあるファンタジーだから余計に銃が便利に見える不思議ですね。
って、攻撃するためのものか。
扱いが難しいし、当てるのはもっと難しいですけど。
こういうリラリティのあるファンタジーだから余計に銃が便利に見える不思議ですね。
- #2082 LandM
- URL
- 2014.12/03 22:30
- ▲EntryTop
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
恐らく後者に対して訓練期間が短くて済むだろうなとか、威力や有効範囲で劣る部分があるのではないか、とか。
その辺りを練っていくのも、リアリティにつながるのではないかと考えています。