「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・氷景録 1
晴奈の話、第552話。
トモエ作戦の始まり。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
北海の凍結海域と、そうでない海域の境となっている北海諸島第4島、スタリー島。
「相手は、油断しきってたんだな?」
「はい。しかし、離れていたのではっきりとは判断できませんが、どうやら兵士と思われる者二名に、我々の姿を見られました」
「そっか。……ま、いい。今から突っ込めば、まともに対応できねーだろ」
斥候からの報告を聞き終えたフーは、ニヤリと笑った。
「今から1時間で準備を整えろ! すぐにグリーンプールへ攻め込む!」
「はっ!」
フーの号令に、将校たちはバタバタと会議室を出て行った。
「いよいよ、か」
「そーね」
フーの横には、ドールとノーラが座っている。
本来ならば参謀のアランがそこにいるはずだが、フーは何としてもアランをこの場に居させたくなかったため、彼女らを今回、参謀扱いとしたのだ。
「ま、奇襲とか強襲、電撃戦は俺たちの得意技だ。兵隊の大半は、蹴散らせるだろう。
後は、敵主力への対策だな」
その発言に、ドールが口を開く。
「まず、リロイよね。アイツは確実に出張ってくるわ。アイツを放っておいたら、十中八九撃退されるわよ」
「それと、トマス・ナイジェル博士ですね」
ドールの所見を、ノーラが次ぐ。
「この両氏は、『知多星』エドムント・ナイジェル博士の愛弟子です。手を組まれれば、どんな奇手・奇策で翻弄されるか」
「あと、気になるのがあの『央南の猫侍』、セイナ・コウよ。実は央南抗黒戦争時代からの、リロイの腹心なんですって。当然、この場にも来てるわ。相手にするには、相当てこずるわよ」
「だな」
以前に晴奈に叩きのめされた覚えのあるフーは、短くうなる。
「てこずると言えば、リスト・チェスターも懸念すべき相手です。央南での職を辞してまで、参戦したとか。その気概と腕前、それに指揮官・狙撃手としての手腕は警戒が必要です」
「やれやれ、スター揃いだな」
首をポキポキと鳴らしながら、フーはまた短くうなる。
「それから、我々の元側近のトラックス少尉とブライアン軍曹も、リロイのそばにいるらしいわ。まさか、敵に回すコトになるなんて思いもしなかったわね」
「あいつらも、か。……真っ先に潰すべきヤツは、全部で6人か。
対策は?」
「できてるわ。『ヘブン』のアッチコッチから、いいのを揃えてるわよ。それで精鋭部隊を組織してるからね」
「そっか。……お前に任せっきりにしてたが、どんな奴らなんだ?」
聞かれたドールは、にんまりと微笑んだ。
「現在の側近であるアタシたち4名と、前政府の頃に投獄された囚人が3名、それから央北を旅してた手練の傭兵が3名。
こんだけ集めれば、どーにでもなるでしょ」
「確認したよ。確かに敵は、すぐそこまで来てた」
晴奈たちからの報告を受けたエルスは、すぐ氷海に兵士を送り、偵察させていた。
その結果、多数の軍勢がスタリー島に駐留していることが判明し、王国軍と、演習に来ていた同盟軍は騒然となった。
「どうする?」
尋ねた晴奈に、トマスが緊張した面持ちで答える。
「迎え撃つしかないよ」
「しかし、軍備はまだ整っていない。真冬で漁業や農業が閑散期にある現在、沿岸部の備蓄の半分以上は民間に供給されている。
無理矢理引き上げ、徴発するにしても、足りるとは……」
「分かってるよ、そんなことは! でも、やるしか……、っと」
トマスは顔をしかめつつ、晴奈に怒鳴りかけて、途中で頭を下げた。
「……ごめん。イライラしてた」
「ああ、いや、……確かに、事態はかなり悪い。備蓄で不利な点ひとつ取っても、このまま攻め続けられれば、押し負けるのは明白だからな」
「うん。それに『この地域』で、そして『この時期』で敗北することは、僕らにとって非常に痛手過ぎる。
『まさかこの、海が凍りついたこの時期にむざむざ攻め込まれ、北方では裕福なはずの沿岸部において、物資不足で負けた』なんて聞いたら、軍の士気は著しく下がるだろう。
そうなればこの後、僕らが勢力を盛り返すことは非常に難しくなる。折角の同盟も、無駄になってしまう」
「むう……」
晴奈とトマスは、互いに腕を組んでうなった。
と、リストがエルスに顔を向け、平然とした顔で尋ねた。
「エルス、対策は?」
うろたえたのは、エルスの方だった。
「えっ、……ああ、うん。これから検討する。……えっと、リスト?」
「何?」
「その……、この前は……」
「ああ、アレ? 今そんなコト、考えてる場合じゃないでしょ?
ソレともこの大銃士、リスト・チェスターに、この切羽詰った状況でまだ、引きこもっててほしかった?」
「あ、いや。……分かった。よろしく頼んだよ、リスト」
リストは小さくうなずき、エルスに背を向けてこうつぶやいた。
「アンタ、ココで負けて死んだりしたら、承知しないわよ。アタシも、コスズもね」
「……もちろんさ。負けたりしない」
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トモエ作戦の始まり。
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北海の凍結海域と、そうでない海域の境となっている北海諸島第4島、スタリー島。
「相手は、油断しきってたんだな?」
「はい。しかし、離れていたのではっきりとは判断できませんが、どうやら兵士と思われる者二名に、我々の姿を見られました」
「そっか。……ま、いい。今から突っ込めば、まともに対応できねーだろ」
斥候からの報告を聞き終えたフーは、ニヤリと笑った。
「今から1時間で準備を整えろ! すぐにグリーンプールへ攻め込む!」
「はっ!」
フーの号令に、将校たちはバタバタと会議室を出て行った。
「いよいよ、か」
「そーね」
フーの横には、ドールとノーラが座っている。
本来ならば参謀のアランがそこにいるはずだが、フーは何としてもアランをこの場に居させたくなかったため、彼女らを今回、参謀扱いとしたのだ。
「ま、奇襲とか強襲、電撃戦は俺たちの得意技だ。兵隊の大半は、蹴散らせるだろう。
後は、敵主力への対策だな」
その発言に、ドールが口を開く。
「まず、リロイよね。アイツは確実に出張ってくるわ。アイツを放っておいたら、十中八九撃退されるわよ」
「それと、トマス・ナイジェル博士ですね」
ドールの所見を、ノーラが次ぐ。
「この両氏は、『知多星』エドムント・ナイジェル博士の愛弟子です。手を組まれれば、どんな奇手・奇策で翻弄されるか」
「あと、気になるのがあの『央南の猫侍』、セイナ・コウよ。実は央南抗黒戦争時代からの、リロイの腹心なんですって。当然、この場にも来てるわ。相手にするには、相当てこずるわよ」
「だな」
以前に晴奈に叩きのめされた覚えのあるフーは、短くうなる。
「てこずると言えば、リスト・チェスターも懸念すべき相手です。央南での職を辞してまで、参戦したとか。その気概と腕前、それに指揮官・狙撃手としての手腕は警戒が必要です」
「やれやれ、スター揃いだな」
首をポキポキと鳴らしながら、フーはまた短くうなる。
「それから、我々の元側近のトラックス少尉とブライアン軍曹も、リロイのそばにいるらしいわ。まさか、敵に回すコトになるなんて思いもしなかったわね」
「あいつらも、か。……真っ先に潰すべきヤツは、全部で6人か。
対策は?」
「できてるわ。『ヘブン』のアッチコッチから、いいのを揃えてるわよ。それで精鋭部隊を組織してるからね」
「そっか。……お前に任せっきりにしてたが、どんな奴らなんだ?」
聞かれたドールは、にんまりと微笑んだ。
「現在の側近であるアタシたち4名と、前政府の頃に投獄された囚人が3名、それから央北を旅してた手練の傭兵が3名。
こんだけ集めれば、どーにでもなるでしょ」
「確認したよ。確かに敵は、すぐそこまで来てた」
晴奈たちからの報告を受けたエルスは、すぐ氷海に兵士を送り、偵察させていた。
その結果、多数の軍勢がスタリー島に駐留していることが判明し、王国軍と、演習に来ていた同盟軍は騒然となった。
「どうする?」
尋ねた晴奈に、トマスが緊張した面持ちで答える。
「迎え撃つしかないよ」
「しかし、軍備はまだ整っていない。真冬で漁業や農業が閑散期にある現在、沿岸部の備蓄の半分以上は民間に供給されている。
無理矢理引き上げ、徴発するにしても、足りるとは……」
「分かってるよ、そんなことは! でも、やるしか……、っと」
トマスは顔をしかめつつ、晴奈に怒鳴りかけて、途中で頭を下げた。
「……ごめん。イライラしてた」
「ああ、いや、……確かに、事態はかなり悪い。備蓄で不利な点ひとつ取っても、このまま攻め続けられれば、押し負けるのは明白だからな」
「うん。それに『この地域』で、そして『この時期』で敗北することは、僕らにとって非常に痛手過ぎる。
『まさかこの、海が凍りついたこの時期にむざむざ攻め込まれ、北方では裕福なはずの沿岸部において、物資不足で負けた』なんて聞いたら、軍の士気は著しく下がるだろう。
そうなればこの後、僕らが勢力を盛り返すことは非常に難しくなる。折角の同盟も、無駄になってしまう」
「むう……」
晴奈とトマスは、互いに腕を組んでうなった。
と、リストがエルスに顔を向け、平然とした顔で尋ねた。
「エルス、対策は?」
うろたえたのは、エルスの方だった。
「えっ、……ああ、うん。これから検討する。……えっと、リスト?」
「何?」
「その……、この前は……」
「ああ、アレ? 今そんなコト、考えてる場合じゃないでしょ?
ソレともこの大銃士、リスト・チェスターに、この切羽詰った状況でまだ、引きこもっててほしかった?」
「あ、いや。……分かった。よろしく頼んだよ、リスト」
リストは小さくうなずき、エルスに背を向けてこうつぶやいた。
「アンタ、ココで負けて死んだりしたら、承知しないわよ。アタシも、コスズもね」
「……もちろんさ。負けたりしない」



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戦略が問われる戦乱が始まる雰囲気ですね。
ドキドキするところが面白いですね。
ファンタジーの戦乱は好きなので、これから楽しく読ませていただきます。(/・ω・)/
ドキドキするところが面白いですね。
ファンタジーの戦乱は好きなので、これから楽しく読ませていただきます。(/・ω・)/
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色々見どころがあるので、楽しく読んでいただければ幸いです。