「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・氷景録 6
晴奈の話、第557話。
狙われた司令。
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6.
グリーンプール港と市街の境、エルスたちのいる作戦本部。
「作戦完了まで残り8時間、か」
「夜も更けてきた……」
エルスとトマスの二人は高見台に昇り、港の様子を眺めていた。
「銃声が随分少なくなったね」
「最初に用意した弾が切れたらしい。まだ備蓄はあるはずだから、全滅ってことはないだろうけど」
「していたら、とっくの昔にここまで攻め込まれてるさ」
「だね」
依然不安そうに眉をひそめるトマスに対し、エルスは穏やかに見下ろしている。
「……しかめっ面だなぁ」
「そりゃ、仕方ないさ。心配性だしね」
「じゃ、いいこと教えてあげようか? 不安が一気に吹き飛ぶよ」
「え……?」
ニヤリと笑うエルスに、トマスはきょとんとした顔を見せた。
その時だった。
「……」
エルスが突然、トマスの胸倉をぐい、とつかんで引き寄せた。
「お、おい?」
突然のことで、トマスはそのまま前のめりに倒れた。
「な、なにす……」
トマスは顔を挙げ、文句を言いかけたが、途中で止める。
「……っ」
目の前にいたエルスが、ナイフを握った何者かの腕を、トマスの頭上で止めていたからだ。
「暗殺者、か。まずトマスを刺して、次に……」
エルスは敵の腕を取ったままくるりと右に半回転しつつ、空いていた左手で敵のベルトをつかみ、そのまま投げ飛ばした。
「僕も背後からさくり、……かな?」
「うわ……っ」
投げ飛ばされた敵と、エルスの背後にいた何者かが、もつれ合って高見台から落ちていった。
「た、助かったよ、リロイ」
トマスは恐る恐る立ち上がり、礼を言う。
だがエルスはトマスに応じず、そのまま高見台から飛び降りた。
着地したエルスの前に、先程エルスたちを襲った暗殺者二名が待ち構えていた。両者とも顔をフードで覆い、ナイフを構えている。
「んー、と。名前、聞いてもいいかな?」
「……」「……」
やんわりと尋ねたエルスに対し、どちらも無言でにらみつける。
「答えてくれないかな。じゃ、当ててみようか。
僕がまだスパイやってた頃、前中央政府の要人を狙って暗殺を続け、逮捕・投獄された兄弟がいるって聞いたことがある。『阿修羅』ドミニクと並んで恐れられた、凄腕の暗殺者だとか。
通称、『前鬼後鬼』のアペックス。……どうかな?」
「……正解だ」
暗殺者たちがフードを下げる。片方は猫耳、もう一方には虎耳が付いている。猫獣人の方が、先に名前を明かした。
「私が兄の、ホン・アペックス」
続いて、虎獣人の方が自己紹介する。
「俺が弟、バイ・アペックス」
二人はすっと離れ、エルスを囲んだ。
「我々に恩赦を与えた『ヘブン』に報いるため、貴様の命をもらい受ける」
「覚悟しろ、エルス・グラッド」
「……」
エルスはコキ、と首を鳴らし、トンファーを構えようとした。
だが構え切る前に、背後にいたバイが襲い掛かる。
「おっと」
エルスは事も無げに、ひょいとかわす。そこを狙って、ホンの方がナイフを投げてきた。
「参るなぁ」
これも、エルスは避けきる。
「昔っから、ナイフ使いは苦手なんだよねぇ。相性が悪いって言うか」
「それは好都合」
ホンが投げたナイフをバイが空中でキャッチし、もう一度エルスに投げつける。
「相性悪いんならさっさと死んでくれや、大将さんよぉ!」
「うーん」
が、何度投げてもエルスに当たらない。
「まだ死ぬわけには行かないなぁ」
エルスは兄弟が投げた何度目かのナイフを、トンファーで弾き飛ばした。
「戦争はこれからが本番だし、折角話とお酒の趣味の合う恋人もできたのに。ここで死ぬなんて、もったいなさ過ぎるよ」
「叩くな、軽口を!」
「チャラチャラしてんじゃねえッ!」
アペックス兄弟は大量のナイフを取り出し、エルスの前後から滅多やたらに投げた。今度は流石に全弾弾くことはできず、エルスは体を目一杯ひねってかわす。
だが、外れたナイフは兄弟たちがそれぞれキャッチして回収し、再度投げ続ける。いつまでも止まないナイフの十字砲火に、エルスは小さくうなる。
(うーん……、流石に名の通った刺客兄弟だ。いいコンビネーションしてるし、隙が無いなぁ。避けるので精一杯って感じだ。
逆に考えれば、そのコンビネーションこそが最大の強みってことだ。それを崩せれば……)
エルスは避けながらも呪文を唱え、両目を左腕で覆って魔術を放つ。
「『ライトボール』!」
曇天の夜間に突然現れた強い光に、アペックス兄弟は幻惑される。
「う、っ……」「目、目がっ」
視界が失われ、互いの投げたナイフはキャッチされること無く四方に散乱する。
「畜生、ナイフが……! こうなりゃ肉弾戦だ!」
「早まるな、バイ! 視界が戻るまで距離を……」
ホンが止めるが、バイは虎耳でエルスの位置を察したしく、まっすぐ突っ込んできた。
「よし」
エルスはバイの拳をかわし、がら空きになった胸倉と腰布をぐいとつかんで、体をひねりながら足払いをかける。
「しまっ……」
「……で、ダブルノックアウトだ」
倒れ込んだバイの胸倉をつかんだまま、エルスはぐりんと回転し、投げ飛ばした。
「……ッ!」
ようやく視界が戻ってきたホンの眼前に、弟の顔が迫ってきた。
もつれ合って建物の壁に突っ込み、暗殺者兄弟が動かなくなったのを確認し、エルスは安堵のため息を漏らした。
「……ふう」
エルスは高見台に置いてきたトマスの無事を確認しようと振り向き――もう一度、今度はがっかりしたため息を漏らした。
「……はあ。まだ、頑張らなきゃいけないみたいだね」
エルスの前に、先程のアペックス兄弟のように、フードで顔を隠したエルフが立っていた。
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狙われた司令。
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グリーンプール港と市街の境、エルスたちのいる作戦本部。
「作戦完了まで残り8時間、か」
「夜も更けてきた……」
エルスとトマスの二人は高見台に昇り、港の様子を眺めていた。
「銃声が随分少なくなったね」
「最初に用意した弾が切れたらしい。まだ備蓄はあるはずだから、全滅ってことはないだろうけど」
「していたら、とっくの昔にここまで攻め込まれてるさ」
「だね」
依然不安そうに眉をひそめるトマスに対し、エルスは穏やかに見下ろしている。
「……しかめっ面だなぁ」
「そりゃ、仕方ないさ。心配性だしね」
「じゃ、いいこと教えてあげようか? 不安が一気に吹き飛ぶよ」
「え……?」
ニヤリと笑うエルスに、トマスはきょとんとした顔を見せた。
その時だった。
「……」
エルスが突然、トマスの胸倉をぐい、とつかんで引き寄せた。
「お、おい?」
突然のことで、トマスはそのまま前のめりに倒れた。
「な、なにす……」
トマスは顔を挙げ、文句を言いかけたが、途中で止める。
「……っ」
目の前にいたエルスが、ナイフを握った何者かの腕を、トマスの頭上で止めていたからだ。
「暗殺者、か。まずトマスを刺して、次に……」
エルスは敵の腕を取ったままくるりと右に半回転しつつ、空いていた左手で敵のベルトをつかみ、そのまま投げ飛ばした。
「僕も背後からさくり、……かな?」
「うわ……っ」
投げ飛ばされた敵と、エルスの背後にいた何者かが、もつれ合って高見台から落ちていった。
「た、助かったよ、リロイ」
トマスは恐る恐る立ち上がり、礼を言う。
だがエルスはトマスに応じず、そのまま高見台から飛び降りた。
着地したエルスの前に、先程エルスたちを襲った暗殺者二名が待ち構えていた。両者とも顔をフードで覆い、ナイフを構えている。
「んー、と。名前、聞いてもいいかな?」
「……」「……」
やんわりと尋ねたエルスに対し、どちらも無言でにらみつける。
「答えてくれないかな。じゃ、当ててみようか。
僕がまだスパイやってた頃、前中央政府の要人を狙って暗殺を続け、逮捕・投獄された兄弟がいるって聞いたことがある。『阿修羅』ドミニクと並んで恐れられた、凄腕の暗殺者だとか。
通称、『前鬼後鬼』のアペックス。……どうかな?」
「……正解だ」
暗殺者たちがフードを下げる。片方は猫耳、もう一方には虎耳が付いている。猫獣人の方が、先に名前を明かした。
「私が兄の、ホン・アペックス」
続いて、虎獣人の方が自己紹介する。
「俺が弟、バイ・アペックス」
二人はすっと離れ、エルスを囲んだ。
「我々に恩赦を与えた『ヘブン』に報いるため、貴様の命をもらい受ける」
「覚悟しろ、エルス・グラッド」
「……」
エルスはコキ、と首を鳴らし、トンファーを構えようとした。
だが構え切る前に、背後にいたバイが襲い掛かる。
「おっと」
エルスは事も無げに、ひょいとかわす。そこを狙って、ホンの方がナイフを投げてきた。
「参るなぁ」
これも、エルスは避けきる。
「昔っから、ナイフ使いは苦手なんだよねぇ。相性が悪いって言うか」
「それは好都合」
ホンが投げたナイフをバイが空中でキャッチし、もう一度エルスに投げつける。
「相性悪いんならさっさと死んでくれや、大将さんよぉ!」
「うーん」
が、何度投げてもエルスに当たらない。
「まだ死ぬわけには行かないなぁ」
エルスは兄弟が投げた何度目かのナイフを、トンファーで弾き飛ばした。
「戦争はこれからが本番だし、折角話とお酒の趣味の合う恋人もできたのに。ここで死ぬなんて、もったいなさ過ぎるよ」
「叩くな、軽口を!」
「チャラチャラしてんじゃねえッ!」
アペックス兄弟は大量のナイフを取り出し、エルスの前後から滅多やたらに投げた。今度は流石に全弾弾くことはできず、エルスは体を目一杯ひねってかわす。
だが、外れたナイフは兄弟たちがそれぞれキャッチして回収し、再度投げ続ける。いつまでも止まないナイフの十字砲火に、エルスは小さくうなる。
(うーん……、流石に名の通った刺客兄弟だ。いいコンビネーションしてるし、隙が無いなぁ。避けるので精一杯って感じだ。
逆に考えれば、そのコンビネーションこそが最大の強みってことだ。それを崩せれば……)
エルスは避けながらも呪文を唱え、両目を左腕で覆って魔術を放つ。
「『ライトボール』!」
曇天の夜間に突然現れた強い光に、アペックス兄弟は幻惑される。
「う、っ……」「目、目がっ」
視界が失われ、互いの投げたナイフはキャッチされること無く四方に散乱する。
「畜生、ナイフが……! こうなりゃ肉弾戦だ!」
「早まるな、バイ! 視界が戻るまで距離を……」
ホンが止めるが、バイは虎耳でエルスの位置を察したしく、まっすぐ突っ込んできた。
「よし」
エルスはバイの拳をかわし、がら空きになった胸倉と腰布をぐいとつかんで、体をひねりながら足払いをかける。
「しまっ……」
「……で、ダブルノックアウトだ」
倒れ込んだバイの胸倉をつかんだまま、エルスはぐりんと回転し、投げ飛ばした。
「……ッ!」
ようやく視界が戻ってきたホンの眼前に、弟の顔が迫ってきた。
もつれ合って建物の壁に突っ込み、暗殺者兄弟が動かなくなったのを確認し、エルスは安堵のため息を漏らした。
「……ふう」
エルスは高見台に置いてきたトマスの無事を確認しようと振り向き――もう一度、今度はがっかりしたため息を漏らした。
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