FC2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第2部

    蒼天剣・夢幻録 6

     ←蒼天剣・夢幻録 5 →蒼天剣・夢幻録 7
    晴奈の話、第67話。
    式もたけなわになりまして。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
    「……面妖な」
     式の合間に話を聞いた晴奈は、橘たちから聞いた雪花の話に眉をひそめていた。
    「確かに、師匠の母上は雪花と言う名前ですし、それを知る者はいないはずです。橘殿の話ですし、信じるには十分なのですが……、うーん」
     霊能関係を嫌う晴奈としては、なかなか信じられる話ではない。
    「まあ、式が済んだら、師匠に話をしてみましょうか」
    「そうね。お母さんからの祝辞も預かってるし」
     一方、話を聞いていた柏木は真っ青な顔をしている。
    「あ、あれ、幽霊だったんですか……」
    「やっぱり、気付いてなかったんだな」
     謙は今頃怯え出す柏木を見て、笑っていた。



    「はい、ただいま……、って。先生、また飲んでたね?」
     戻ってきた店主、モールが一人席でいびきをかいている重蔵を見て、呆れた声を出す。
    《珍しいわ。いつもは先生、こんなに飲む人じゃないのに。よほど嬉しいのね》
    「だろうね。人の酒、こんなに飲むなんてね。
     ……げ、これ『白狐』じゃない。たっかい酒、こんなにガブ飲みするかね、普通?」
     モールは口をとがらせつつ、重蔵が抱えていた酒瓶を取り上げ、棚にしまおうと戸を開ける。
    「うわぁ」
     棚の中にあったはずの酒が、半分ほど空にされている。
    《ごめんなさい、モール。……だいぶ、開けてしまわれて》
    「人の隠れ家、飲み放題の酒蔵か何かだと思ってるのかね、まったく。
     ……はぁ。『猫桜』も、『雪兎』も残ってない。いくらすると思ってるんだかね、もう」
     空になった酒瓶を恨めしそうに眺めるモールを見て、雪花は頭を下げる。
    《ごめんなさいね、本当に。……美味しかったわ》
    「そりゃそうだろうねぇ、秘蔵の逸品だったしねぇ。
     ……と、そろそろ戻ってもらわなきゃ。あんまり魂を引っ張ったまんまじゃ、体に悪いね」
     モールは酔い潰れた重蔵の肩を叩き、起こそうとする。
    「ほら、先生。そろそろ起きてくださいね」
    「うう……む」
    「ほら、起きて」
     何度か肩をゆすり、ようやく重蔵が頭を上げる。
    「おお、すまんのう」
    「すまんじゃないですって、先生。ほら、帰りますね」
     重蔵はフラフラと立ち上がるが、足取りがおぼつかない。見かねたモールが肩を貸す。
    「うっげ、酒臭っ。……ほら、帰りますって、ね」
    「……柊先生」
     重蔵はよたよたと歩きながらも、雪花に話しかける。
    《はい、何でしょう?》
    「また、会いましょう」
    《ええ。また、今度》
     重蔵は小さくうなずき、モールとともに店の奥へ消えた。

    「……お?」
     新郎控え室の、畳の上。重蔵はようやく目を覚ました。
    「いかん、寝てしもうた」
     周りを見ると、自分の世話をしていたらしい門下生が一人、うたた寝している。そして視界に入った時計は、既に4時を回っている。
    「……しまった!」
     慌てて立ち上がり、式場へと走ろうとして――。
    「……う、え」
     口を押さえ、反対側にある手洗い場へ逆走した。

    「いかんいかん、飲みすぎたわい。まったく、この歳にもなって酒に呑まれるとは」
     式場へと急ぎつつ、自分の悪酔いを恥じていると――。
    「あ、おじい様!」
    「おう、良太。……しまった、間に合わなんだか」
     良太と雪乃、晴奈、その他友人たちがぞろぞろと、式場から出てきた。
    「気分の方は大丈夫ですか?」
    「ああ、ちと酔いが残っておるが、まあ、悪くは無い。
     ……すまんかったのう。よりによってお前の式に行きそびれるとは。一生の不覚じゃ」
     がっくりとうなだれる重蔵を見て、棗に背負われていた桃がなぐさめの声をかける。
    「だいじょうぶ、おじいちゃん? おげんき、だして」
    「……はは、心配いらんよ桃ちゃん。式が無事済んだのなら、不満なんかありゃせんよ」
     重蔵は自分の失敗を笑い飛ばし、場を和ませようとした。
     だが、その場にいた桃を除く全員が、不気味なものを見るような目で重蔵を見ている。
    「……ん? どうかしたかの、みんな?」
    「な、何で家元、俺の娘の名をご存知なんですか? お会いするのは、初めてのはずなんですが?」
     謙が恐る恐る尋ねてくる。桃が何てこと無い、と言う感じで答えた。
    「おみせで、あったもん」
    「おう、そうじゃ。『狐』の店で、な」



     今日起こったことのすべてを聞き、雪乃と良太は目を丸くしている。
    「小鈴たちがわたしの母さんと会って」
    「おじい様と桃ちゃんが、同じ店にいた、と」
     二人は顔を見合わせ、笑い出す。
    「クスクス……、今日はみんな、大変だったのね」
    「そうみたいですねぇ、ふふ」
     橘たちもつられて笑い出す。
    「あはは……、不思議な日だったわ、ホント」
    「なかなか無い体験だった、うん」
     重蔵も嬉しそうに腕を組み、うなずいている。
    「めでたい日にこれだけ、不可思議なことが起こる。間違い無く、吉兆じゃな。
     ……これは式で言うつもりじゃったが、すっかりすっぽかしてしもうた。名誉挽回のつもりも兼ねて、ここで言うておくかの」
     重蔵は真面目な顔になり、雪乃と良太に祝辞を述べる。
    「良太。雪さん。おめでとう。相思相愛で何よりじゃが、時には……」
     重蔵の長い祝辞に、良太は心の中で辟易していた。
    (……これ、さっき何回も聞かされたのと同じ内容だ)
     その様子を察した雪乃が、片目をつぶって目配せする。
    (いいじゃない、おじい様がわたしたちを大事に思ってくれている証だから)
    (そうですね)
     良太も片目をつぶって、雪乃に応えた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.09 転載
    2016.02.21 修正
    関連記事


    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【蒼天剣・夢幻録 5】へ
    • 【蒼天剣・夢幻録 7】へ

    ~ Comment ~

    NoTitle 

    重蔵が飲んだ額、本日の売り上げに相当します。
    賢者涙目。

    NoTitle 

    賢者涙目v-408
    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【蒼天剣・夢幻録 5】へ
    • 【蒼天剣・夢幻録 7】へ