「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・氷景録 7
晴奈の話、第558話。
王とは何か?
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
戦いが始まって、6時間が経過した。
北海第4島、スタリー島。
「どうだ、戦況は」
「依然、正面突破はできていないわ。北端・南端からも返事は返ってこない。市街地に送ったリロイ暗殺班も、戻ってないわ」
ドールの報告に、フーは腕を組んでうつむいた。
「そうか。目処は立ちそうなのか?」
「目処?」
「グリーンプールを落とせそうなのか、って意味だ」
「何でそんなコト……」
ドールの問いに、フーは静かな眼差しで答える。
「もし成功しない、無駄に終わったってんなら、全員が犬死にするってことだ。それは、いいことか?」
「……そりゃ、よかないケド」
「ドール。俺がなんで、戦いを主導してるか分かってるよな?」
「ええ、まあ。アランに好き勝手させたくないんでしょ?」
「そう、あの悪魔にこれ以上、皆を嬲り者にされたくないんだ」
フーの言い回しに、ドールは首をかしげた。
「嬲り者?」
「考えてもみろ。あいつが参謀に復帰して以降、『ヘブン』では何が起こってた?」
「……ま、確かに。アンタが頑張り出すまで、反乱と粛清の繰り返しだったわね」
「だろ? それで結局戦争は始まらないし、国内の混乱は収まらない、憎まれるのは俺ばっかり。……誰にも、何にも、いいことなんか起こってなかった。
あいつは目的と、それを達成するための手段とが食い違って、滅茶苦茶なんだ。きっとこの戦いにあいつが出張ったら結局、皆殺しになっちまうだろうな」
「敵だけじゃなく、味方まで、ね」
「そうだ。俺はな、ドール」
フーは真剣な眼差しで、己の信念を説いた。
「元はどうあれ、今は王様なんだ。
上に立つ王様が、自分の国のために頑張ってくれてる奴らを見捨てて、見殺しにしてどうする? それが国のため、皆のためになるってのか? 俺は違うと思う。
王様は皆がいてくれるから王様なんだ。俺を王様でいさせてくれる皆を見殺しにしたら、俺はもう王様じゃない」
「……テツガク的ねぇ」
ドールはクスクス笑いながらも、フーの意見にうなずいてくれた。
「ま、言いたいコトはよぉく分かるわ。それじゃ、状況が悪化し始めたらまた伝えるわ。
アンタの大事な皆を、少しでも生かすために、ね」
「……頼んだ」
北海第5島、フロスト島。
「……」
灯りのない、真っ暗な森の中に、アランが立っていた。
「……ぬるい。あまりにぬるすぎる」
アランの目には、はるか十数キロ先で戦う同盟軍と日上軍の姿が映っていた。
「私を差し置いて、己自身で軍を率いての行動が、この体たらくか。
……だめだ。まだ、あいつには『王』が何であるか、欠片も理解できてはいないようだ」
アランはのそりと、森の中から姿を表した。
「王とは一人であるべきなのだ……!
一人であるからこそ、貴く。一人であるからこそ、尊ばれる。
ただ一人であるから、どんなに我侭でも許される。ただ一人であるから、どんなに貪欲でも許される。
その一人のために民の皆が汗を流し、涙を流し、血を流すのだ。
その民のことなど、ただ一人の存在たる王が気にかけて、どうすると言うのだ。
民を愛する王など、民を気遣う王など、あってはならない……!」
アランは懐から、一枚の金属板を取り出した。
「民こそは王の玉座である。民こそは王の道具である」
アランは金属板を手に、氷原へと歩き出した。
「民こそは王の――食糧である」
蒼天剣・氷景録 終
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王とは何か?
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7.
戦いが始まって、6時間が経過した。
北海第4島、スタリー島。
「どうだ、戦況は」
「依然、正面突破はできていないわ。北端・南端からも返事は返ってこない。市街地に送ったリロイ暗殺班も、戻ってないわ」
ドールの報告に、フーは腕を組んでうつむいた。
「そうか。目処は立ちそうなのか?」
「目処?」
「グリーンプールを落とせそうなのか、って意味だ」
「何でそんなコト……」
ドールの問いに、フーは静かな眼差しで答える。
「もし成功しない、無駄に終わったってんなら、全員が犬死にするってことだ。それは、いいことか?」
「……そりゃ、よかないケド」
「ドール。俺がなんで、戦いを主導してるか分かってるよな?」
「ええ、まあ。アランに好き勝手させたくないんでしょ?」
「そう、あの悪魔にこれ以上、皆を嬲り者にされたくないんだ」
フーの言い回しに、ドールは首をかしげた。
「嬲り者?」
「考えてもみろ。あいつが参謀に復帰して以降、『ヘブン』では何が起こってた?」
「……ま、確かに。アンタが頑張り出すまで、反乱と粛清の繰り返しだったわね」
「だろ? それで結局戦争は始まらないし、国内の混乱は収まらない、憎まれるのは俺ばっかり。……誰にも、何にも、いいことなんか起こってなかった。
あいつは目的と、それを達成するための手段とが食い違って、滅茶苦茶なんだ。きっとこの戦いにあいつが出張ったら結局、皆殺しになっちまうだろうな」
「敵だけじゃなく、味方まで、ね」
「そうだ。俺はな、ドール」
フーは真剣な眼差しで、己の信念を説いた。
「元はどうあれ、今は王様なんだ。
上に立つ王様が、自分の国のために頑張ってくれてる奴らを見捨てて、見殺しにしてどうする? それが国のため、皆のためになるってのか? 俺は違うと思う。
王様は皆がいてくれるから王様なんだ。俺を王様でいさせてくれる皆を見殺しにしたら、俺はもう王様じゃない」
「……テツガク的ねぇ」
ドールはクスクス笑いながらも、フーの意見にうなずいてくれた。
「ま、言いたいコトはよぉく分かるわ。それじゃ、状況が悪化し始めたらまた伝えるわ。
アンタの大事な皆を、少しでも生かすために、ね」
「……頼んだ」
北海第5島、フロスト島。
「……」
灯りのない、真っ暗な森の中に、アランが立っていた。
「……ぬるい。あまりにぬるすぎる」
アランの目には、はるか十数キロ先で戦う同盟軍と日上軍の姿が映っていた。
「私を差し置いて、己自身で軍を率いての行動が、この体たらくか。
……だめだ。まだ、あいつには『王』が何であるか、欠片も理解できてはいないようだ」
アランはのそりと、森の中から姿を表した。
「王とは一人であるべきなのだ……!
一人であるからこそ、貴く。一人であるからこそ、尊ばれる。
ただ一人であるから、どんなに我侭でも許される。ただ一人であるから、どんなに貪欲でも許される。
その一人のために民の皆が汗を流し、涙を流し、血を流すのだ。
その民のことなど、ただ一人の存在たる王が気にかけて、どうすると言うのだ。
民を愛する王など、民を気遣う王など、あってはならない……!」
アランは懐から、一枚の金属板を取り出した。
「民こそは王の玉座である。民こそは王の道具である」
アランは金属板を手に、氷原へと歩き出した。
「民こそは王の――食糧である」
蒼天剣・氷景録 終
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2012.03.11 加筆修正
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NoTitle
「民こそは王の――食糧である」
斬新ですが、的を射てますね。
王も民がいないと生きていけないですからね。
そこは重要です。
斬新ですが、的を射てますね。
王も民がいないと生きていけないですからね。
そこは重要です。
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国民がいてこその国王です。