「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・晴海録 1
晴奈の話、第559話。
兄妹の死闘。
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1.
フーによる「トモエ作戦」が開始されてから、6時間が経過していた。
「どうなってます……?」
ディーノは周りにいた兵士たちに、戦況を尋ねていた。
「依然、膠着状態にあるとのことです」
「そうですか……」
ディーノたちは現在、交戦中であるグリーンプールの郊外に留まっていた。
元々、ディーノがミラーフィールドからこちらまで下りて来たのは、リストへある物を渡すのが目的だった。新しい銃技術を考案し、その試験と実用を兼ね、リストに使ってみてもらおうと考えていたのだ。
ところが街外れで、兵士たちに足止めされてしまった。「トモエ作戦」により日上軍がグリーンプールに現れたため、街への出入りが制限されてしまったからである。
無理矢理入るわけにも行かず、仕方なくディーノは兵士たちと共に、戦況を見守っていた。
「こう言う時にこそ、使ってほしかったんですけどねぇ」
「それが、その新兵器なんですか?」
兵士の質問に、ディーノは首をわずかにかしげる。
「あー、新兵器、と言うのとは、ちょっと違うんです。既存の武器にですね、ちょっとプラスすると言うか、補助する道具なんですよ」
「は、あ……?」
ディーノの説明が分からず、兵士は狐につままれたような顔を向けた。
と、別の兵士も狐につままれたような顔をしながら、ディーノに近付いてきた。
「あの、アニェッリ先生。『頭巾通信』が入っております」
「え? 僕にですか?」
「はあ、そうでして」
「誰でしょう……? 僕がここにいるなんて、どうやって」
「あ、それはですね、通信している間に、先生のことが話題に上りまして」
「そうなんですか。それで、誰から?」
「相手の方は、『話せば分かる』と」
「はあ……?」
ともかくディーノは頭巾を受け取り、頭に巻いた。
「……え? その声……、えっ」
途端に、ディーノの目が見開かれる。
「そんな、でも君、……そうなんですか。じゃ、……あ、そうですか。え? ……へえ。それは楽しみですね」
話しているうちに、ディーノの顔がほころんでくる。
「じゃあ今、海上に? ……なるほど。……あ、それで僕に? ……はは、ありがとう。分かりました。計算してみます」
ディーノは頭巾を巻いたまま、兵士に声をかけた。
「すみません、紙とペンを。弾道計算しなきゃいけないので」
「弾道、計算?」
「ええ。戦況を覆す、大きな一手です」
紙とペンを渡されたディーノは、楽しそうに計算式を並べていった。
同時刻、グリーンプール港と市街の境。
「君も、僕を狙ってるのかな」
エルスは目の前の、フードを被った長耳に声をかける。
「そうよ」
声を聞いたエルスの笑顔が薄れる。
「……その声。まさか、君は?」
「そうよ、兄さん」
長耳はフードを取り払う。そこには怒りに満ちた、エルスの実妹――ノーラの顔があった。
「何年ぶりかしら? 5年?」
「そのくらい、かな」
「会いたかったわ」
ノーラはコートを脱ぎ、体術の構えを取る。その構えはエルスのそれと遜色ない、達人級の気迫を放っていた。
「嬉しいことを言ってくれるね、ノーラ」
「……あなたはいつもそう」
ノーラは地面を蹴り、エルスとの間合いを詰める。
「いつも軽口ばかり。その口からは、まったく真実を出さない。薄っぺらな台詞ばかり吐く」
「そんなつもりはないよ」
ノーラの正拳突きを、エルスは後ろに退きつつ受ける。
「僕はいつも真面目さ。真面目に答えてるつもりだよ」
「どこがよッ!」
正拳突きを止められたノーラは拳を引くと同時に左脚を挙げ、エルスの頭を狙う。
「父さんが失脚した時、あなたは私に何て言った!? 『僕が付いててあげる』って言ったわよね!?」
この蹴りも、エルスは紙一重でかわす。ノーラは空振りした脚をそのまま着地させ、軸足にして右脚を挙げる。
「その後いきなり、無責任に姿を消したのは、どこのどいつよッ!? あなたでしょ!?」
「それは、まあ、うん」
「その後私がどんな目に遭ったか、知らないでしょう!?
毎日、地獄だったわ! どこへ行っても『罪人の娘』『罪人の妹』って! 一々頭に『罪人』と付けられて、嬲られて、蔑まれて、疎まれて!」
二段目の蹴りが、エルスの右手首をかする。蹴ったとは思えない、ビシッと言う鞭のような音を立てて、エルスの右手首から血が弾ける。
「……っ」
「ひどい時なんか、売女扱いよ!? 私は何も、悪いことなんかしてないのに、よ!?」
ノーラの攻勢は止まらない。
「それもこれも全部、全部、全部ッ!」
ノーラは右脚をこれでもかと強く地面に落とし、叩きつけるように踏み込む。
「アンタのせいよ! この、疫病神ッ!」
踏み込んだ勢いを背中に移し、そのままエルスに体当たりした。
「が、ッ」
エルスの肺や胃、横隔膜、内臓に強烈な圧力がかかり、口から勝手に息と胃液が漏れる。
(てっ、鉄山靠……ッ)
ノーラより二周りは重たいはずのエルスが、易々と弾き飛ばされた。
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兄妹の死闘。
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フーによる「トモエ作戦」が開始されてから、6時間が経過していた。
「どうなってます……?」
ディーノは周りにいた兵士たちに、戦況を尋ねていた。
「依然、膠着状態にあるとのことです」
「そうですか……」
ディーノたちは現在、交戦中であるグリーンプールの郊外に留まっていた。
元々、ディーノがミラーフィールドからこちらまで下りて来たのは、リストへある物を渡すのが目的だった。新しい銃技術を考案し、その試験と実用を兼ね、リストに使ってみてもらおうと考えていたのだ。
ところが街外れで、兵士たちに足止めされてしまった。「トモエ作戦」により日上軍がグリーンプールに現れたため、街への出入りが制限されてしまったからである。
無理矢理入るわけにも行かず、仕方なくディーノは兵士たちと共に、戦況を見守っていた。
「こう言う時にこそ、使ってほしかったんですけどねぇ」
「それが、その新兵器なんですか?」
兵士の質問に、ディーノは首をわずかにかしげる。
「あー、新兵器、と言うのとは、ちょっと違うんです。既存の武器にですね、ちょっとプラスすると言うか、補助する道具なんですよ」
「は、あ……?」
ディーノの説明が分からず、兵士は狐につままれたような顔を向けた。
と、別の兵士も狐につままれたような顔をしながら、ディーノに近付いてきた。
「あの、アニェッリ先生。『頭巾通信』が入っております」
「え? 僕にですか?」
「はあ、そうでして」
「誰でしょう……? 僕がここにいるなんて、どうやって」
「あ、それはですね、通信している間に、先生のことが話題に上りまして」
「そうなんですか。それで、誰から?」
「相手の方は、『話せば分かる』と」
「はあ……?」
ともかくディーノは頭巾を受け取り、頭に巻いた。
「……え? その声……、えっ」
途端に、ディーノの目が見開かれる。
「そんな、でも君、……そうなんですか。じゃ、……あ、そうですか。え? ……へえ。それは楽しみですね」
話しているうちに、ディーノの顔がほころんでくる。
「じゃあ今、海上に? ……なるほど。……あ、それで僕に? ……はは、ありがとう。分かりました。計算してみます」
ディーノは頭巾を巻いたまま、兵士に声をかけた。
「すみません、紙とペンを。弾道計算しなきゃいけないので」
「弾道、計算?」
「ええ。戦況を覆す、大きな一手です」
紙とペンを渡されたディーノは、楽しそうに計算式を並べていった。
同時刻、グリーンプール港と市街の境。
「君も、僕を狙ってるのかな」
エルスは目の前の、フードを被った長耳に声をかける。
「そうよ」
声を聞いたエルスの笑顔が薄れる。
「……その声。まさか、君は?」
「そうよ、兄さん」
長耳はフードを取り払う。そこには怒りに満ちた、エルスの実妹――ノーラの顔があった。
「何年ぶりかしら? 5年?」
「そのくらい、かな」
「会いたかったわ」
ノーラはコートを脱ぎ、体術の構えを取る。その構えはエルスのそれと遜色ない、達人級の気迫を放っていた。
「嬉しいことを言ってくれるね、ノーラ」
「……あなたはいつもそう」
ノーラは地面を蹴り、エルスとの間合いを詰める。
「いつも軽口ばかり。その口からは、まったく真実を出さない。薄っぺらな台詞ばかり吐く」
「そんなつもりはないよ」
ノーラの正拳突きを、エルスは後ろに退きつつ受ける。
「僕はいつも真面目さ。真面目に答えてるつもりだよ」
「どこがよッ!」
正拳突きを止められたノーラは拳を引くと同時に左脚を挙げ、エルスの頭を狙う。
「父さんが失脚した時、あなたは私に何て言った!? 『僕が付いててあげる』って言ったわよね!?」
この蹴りも、エルスは紙一重でかわす。ノーラは空振りした脚をそのまま着地させ、軸足にして右脚を挙げる。
「その後いきなり、無責任に姿を消したのは、どこのどいつよッ!? あなたでしょ!?」
「それは、まあ、うん」
「その後私がどんな目に遭ったか、知らないでしょう!?
毎日、地獄だったわ! どこへ行っても『罪人の娘』『罪人の妹』って! 一々頭に『罪人』と付けられて、嬲られて、蔑まれて、疎まれて!」
二段目の蹴りが、エルスの右手首をかする。蹴ったとは思えない、ビシッと言う鞭のような音を立てて、エルスの右手首から血が弾ける。
「……っ」
「ひどい時なんか、売女扱いよ!? 私は何も、悪いことなんかしてないのに、よ!?」
ノーラの攻勢は止まらない。
「それもこれも全部、全部、全部ッ!」
ノーラは右脚をこれでもかと強く地面に落とし、叩きつけるように踏み込む。
「アンタのせいよ! この、疫病神ッ!」
踏み込んだ勢いを背中に移し、そのままエルスに体当たりした。
「が、ッ」
エルスの肺や胃、横隔膜、内臓に強烈な圧力がかかり、口から勝手に息と胃液が漏れる。
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