「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・晴海録 3
晴奈の話、第561話。
侍と騎士。
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3.
「はあ、はあ……」
「どうだ、猫侍……! 前のような不覚なぞ、取りはせんぞ……!」
晴奈とハインツの戦いが始まって、既に2時間以上が経過していた。
ハインツなりに、前回の敗北から学んだらしい。無理矢理に晴奈を追いかけることはせず、長い槍で間合いを取り、晴奈を牽制している。
晴奈も背が高いため、それなりに手足のリーチはあるのだが、刀では槍の長さには対抗できない。一向に有効打を入れられず、構えたまま動けずにいた。
と言って、ハインツが優勢だったわけでもない。一瞬でも気を抜けば、晴奈は容赦なく槍を「燃える剣閃」で切り落として仕掛けてくる。そうなれば前回の繰り返しになり、ハインツの敗北は確定してしまう。
互いに牽制し合い、一向に決着は付かなかった。
「……う……」
その合間に、晴奈に倒されたデニスが目を覚ましていた。
「あ、起きた」
「峰打ちだもんね」
横には小鈴と、ストールを脱いだミールが座っていた。
「峰打ち? ……くそう、カッコよすぎるぜ」
デニスは上半身を起こし、頭を抱える。
「大丈夫、デニス?」
「ああ。肋骨が折れてるみたいだけど、それ以外は何とも」
「治療してあげなさいよ、ミールちゃん」
「んー……」
いつの間にか仲良くしている二人を見て、デニスが呆れる。
「おいおいミール、何してんだよ。敵だぞ、そいつ」
「んー……、でも、悪い人じゃない」
「んふふ、デニス君」
小鈴はニヤニヤしながら、デニスの額をつつく。
「こーんな可愛いカノジョ、心配させちゃダメでしょ」
「う……、うるせえ。敵に心配される筋合い、ねーよ」
顔を真っ赤にしたデニスに、小鈴はもう一度ニヤリと笑う。
「いーじゃん。もう戦線離脱したんだし、敵も味方もないわよ」
「……だなぁ。相手が悪すぎた」
デニスは武具を脱ぎ、ミールの治療を受ける。
「んー……、『キュア』。んー……、痛くない、デニス?」
「大丈夫、効いてるよ。……折角、300万溜まると思ったのになぁ。悪いな、ミール」
「んーん、デニスが無事ならいい」
「んなこと言ったって、これでようやく土地と家が買えるトコだったんだぜ」
「いいってば」
二人の様子を眺めていた小鈴は、ポンと手を打った。
「んじゃ、さ。アンタらもこっち来れば?」
「は?」
小鈴の提案に、デニスは目を丸くする。
「何言ってんの、アンタ?」
「ウチのリーダーはいい人だから、二つ返事で入れてくれるわよ。でっかいスポンサー付いてるから、お給料もいいし」
「給料?」
金の話になり、デニスの目の色が変わる。
「……ちなみに聞いとくけど、いくら?」
「こんくらい」
小鈴は指で、額を示す。
「う」
「あ、アンタら強そうだし、もっと行くかな? こんくらいかも」
「うっ」
デニスは小鈴から目をそらし、ミールと小声で話し合う。
「……いいよな……」「んー……」「半年くらい続くって考えたら……」「いーかも」
「あと、北方は土地安いわよ。坪当たりの単価、山間部だと央北首都圏の3分の1くらいよ。寒いけどね」
「ううっ」
「北方は軍事国だし、傭兵が食いっぱぐれる心配ゼロよ」
「……もうちょっと、話をさせてくれ」
二人は再度こそこそと話し合い、揃って小鈴にぺこりと頭を下げた。
「お話、通しておいてください」
小鈴はニヤッと笑い、承諾した。
「いーわよ」
膠着した状況に、晴奈もハインツも憔悴し始めていた。
「はぁ……はぁ……」
「ふう……ふう……」
互いに相手をにらみ、刃を向け合っている。両者にかかるストレスは、相当なものだった。
「……ぐっ」
その重圧に、先に痺れを切らしたのは、ハインツの方だった。
「でえやああああッ!」
槍をうならせ、晴奈との間合いを詰めていく。
「はッ!」
晴奈も間合いを詰め、ハインツの持つ槍の間合いから外れようとする。
「させるかああッ!」
だが、ハインツは一瞬早く、ぐりっと槍を薙いで、晴奈の胴を狙った。
「甘い!」
晴奈は刀を地面に突き刺し、くるりと半回転して空中に浮かぶ。槍は晴奈の胴を切り裂くことなく流れ、ハインツの胴ががら空きになった。
「りゃあッ!」
晴奈は飛び上がった勢いのまま、両脚を揃えてハインツの脇腹を蹴り飛ばした。
「ゲボッ……!?」
ハインツの肋骨がボキボキと音を立てて折れ、口からわずかに血が噴き出る。
晴奈は静かに着地し、刀をハインツの首に当てた。
「勝負あったな、シュトルム大尉」
「く、そっ。吾輩が二度も、同じ相手に後れを取るとは」
「……いや、お主も相当の腕前だった。ほんの少し手を打ち間違えれば、倒れ伏したのは私の方だったろうな」
そう返した晴奈の左肩は、赤く濡れていた。
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侍と騎士。
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「はあ、はあ……」
「どうだ、猫侍……! 前のような不覚なぞ、取りはせんぞ……!」
晴奈とハインツの戦いが始まって、既に2時間以上が経過していた。
ハインツなりに、前回の敗北から学んだらしい。無理矢理に晴奈を追いかけることはせず、長い槍で間合いを取り、晴奈を牽制している。
晴奈も背が高いため、それなりに手足のリーチはあるのだが、刀では槍の長さには対抗できない。一向に有効打を入れられず、構えたまま動けずにいた。
と言って、ハインツが優勢だったわけでもない。一瞬でも気を抜けば、晴奈は容赦なく槍を「燃える剣閃」で切り落として仕掛けてくる。そうなれば前回の繰り返しになり、ハインツの敗北は確定してしまう。
互いに牽制し合い、一向に決着は付かなかった。
「……う……」
その合間に、晴奈に倒されたデニスが目を覚ましていた。
「あ、起きた」
「峰打ちだもんね」
横には小鈴と、ストールを脱いだミールが座っていた。
「峰打ち? ……くそう、カッコよすぎるぜ」
デニスは上半身を起こし、頭を抱える。
「大丈夫、デニス?」
「ああ。肋骨が折れてるみたいだけど、それ以外は何とも」
「治療してあげなさいよ、ミールちゃん」
「んー……」
いつの間にか仲良くしている二人を見て、デニスが呆れる。
「おいおいミール、何してんだよ。敵だぞ、そいつ」
「んー……、でも、悪い人じゃない」
「んふふ、デニス君」
小鈴はニヤニヤしながら、デニスの額をつつく。
「こーんな可愛いカノジョ、心配させちゃダメでしょ」
「う……、うるせえ。敵に心配される筋合い、ねーよ」
顔を真っ赤にしたデニスに、小鈴はもう一度ニヤリと笑う。
「いーじゃん。もう戦線離脱したんだし、敵も味方もないわよ」
「……だなぁ。相手が悪すぎた」
デニスは武具を脱ぎ、ミールの治療を受ける。
「んー……、『キュア』。んー……、痛くない、デニス?」
「大丈夫、効いてるよ。……折角、300万溜まると思ったのになぁ。悪いな、ミール」
「んーん、デニスが無事ならいい」
「んなこと言ったって、これでようやく土地と家が買えるトコだったんだぜ」
「いいってば」
二人の様子を眺めていた小鈴は、ポンと手を打った。
「んじゃ、さ。アンタらもこっち来れば?」
「は?」
小鈴の提案に、デニスは目を丸くする。
「何言ってんの、アンタ?」
「ウチのリーダーはいい人だから、二つ返事で入れてくれるわよ。でっかいスポンサー付いてるから、お給料もいいし」
「給料?」
金の話になり、デニスの目の色が変わる。
「……ちなみに聞いとくけど、いくら?」
「こんくらい」
小鈴は指で、額を示す。
「う」
「あ、アンタら強そうだし、もっと行くかな? こんくらいかも」
「うっ」
デニスは小鈴から目をそらし、ミールと小声で話し合う。
「……いいよな……」「んー……」「半年くらい続くって考えたら……」「いーかも」
「あと、北方は土地安いわよ。坪当たりの単価、山間部だと央北首都圏の3分の1くらいよ。寒いけどね」
「ううっ」
「北方は軍事国だし、傭兵が食いっぱぐれる心配ゼロよ」
「……もうちょっと、話をさせてくれ」
二人は再度こそこそと話し合い、揃って小鈴にぺこりと頭を下げた。
「お話、通しておいてください」
小鈴はニヤッと笑い、承諾した。
「いーわよ」
膠着した状況に、晴奈もハインツも憔悴し始めていた。
「はぁ……はぁ……」
「ふう……ふう……」
互いに相手をにらみ、刃を向け合っている。両者にかかるストレスは、相当なものだった。
「……ぐっ」
その重圧に、先に痺れを切らしたのは、ハインツの方だった。
「でえやああああッ!」
槍をうならせ、晴奈との間合いを詰めていく。
「はッ!」
晴奈も間合いを詰め、ハインツの持つ槍の間合いから外れようとする。
「させるかああッ!」
だが、ハインツは一瞬早く、ぐりっと槍を薙いで、晴奈の胴を狙った。
「甘い!」
晴奈は刀を地面に突き刺し、くるりと半回転して空中に浮かぶ。槍は晴奈の胴を切り裂くことなく流れ、ハインツの胴ががら空きになった。
「りゃあッ!」
晴奈は飛び上がった勢いのまま、両脚を揃えてハインツの脇腹を蹴り飛ばした。
「ゲボッ……!?」
ハインツの肋骨がボキボキと音を立てて折れ、口からわずかに血が噴き出る。
晴奈は静かに着地し、刀をハインツの首に当てた。
「勝負あったな、シュトルム大尉」
「く、そっ。吾輩が二度も、同じ相手に後れを取るとは」
「……いや、お主も相当の腕前だった。ほんの少し手を打ち間違えれば、倒れ伏したのは私の方だったろうな」
そう返した晴奈の左肩は、赤く濡れていた。



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2時間ってなげえ。。。
って、昔の時代劇の戦いで、構えたまままる一日ずっと立ち尽くしていた・・・っていうのもありますからね。珍しくもないのか。。。しかし、戦いで2時間は神経が私ではもたない。。。
って、昔の時代劇の戦いで、構えたまままる一日ずっと立ち尽くしていた・・・っていうのもありますからね。珍しくもないのか。。。しかし、戦いで2時間は神経が私ではもたない。。。
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