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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第9部

    蒼天剣・晴海録 4

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    晴奈の話、第562話。
    氷上の赤エイ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     バリーは荒い息を立てながら、目の前に浮かぶ壮年のエルフをにらんでいた。
    「ふっ……ふっ……」
    「そんなものか、元側近とやら」
     エルフは表情をピクリとも変えず、鎖の付いた分銅を投げつける。
    「ぐっ……」
     分銅はバリーの腹に当たり、バリーは重たくうめく。
    「この『スティングレイ(赤エイ)』の敵ではないな」
     その呼び名の通り、スティングレイは体中のいたるところから、まるでトゲや触手のように分銅を投げつけ、攻撃してくる。
     さらには、己の体も鎖で吊り上げ、空中に浮かんでいた。
    (金属を操るとなるとぉ、磁気を司る土の術ですよねぇ。でもぉ……)
     バリーの背後で構えていたミラは、スティングレイの術を破ろうと画策している。
     しかし、土の術を打ち消せる雷の術を、彼女は習得していない。半ばバリーに任せるしかなく、ミラは回復に専念するしかなかった。
    「く、くそっ」
     バリーも、飛んでくる分銅をどうにかしようと奮闘していた。
     しかし分銅が飛んでくる速さは尋常ではなく、避けるのは難しい。ダメージ覚悟で、体にぶつかった分銅をつかんで引っ張ろうとしても、逆にバリーの巨体が引きずられ、振り回される。

     成り行きを見守っていたルドルフは、スティングレイの働き振りにニヤニヤしていた。
    (いやぁ、80超えてるじーさんとは言え、流石に名前の通った傭兵だなぁ。あのデカブツが、いいようにやられちまってる。こりゃ、期待大だな。
     ……それに引き換え、なんなんだコイツは?)
     ルドルフはバリーのパンチを受けて伸びている、赤毛の魔術師に舌打ちした。
    (魔力は相当なもんだって言うから連れて来たのに、役に立ちゃしねー。連れて来る間も『セイナさん』『セイナさん』ってブツブツつぶやきやがって、気持ち悪いっつーの。
     誰だよセイナって? まさか敵将の、セイナ・コウのことか? だとしたら身の程知らずのアホだな。単騎で敵うわけねーだろ)
     心の中で倒れた赤毛にケチをつけながら、ルドルフは傍観し続けていた。
     と、スティングレイが声をかけてくる。
    「ところでブリッツェン少尉」
    「んあ?」
    「貴君は戦わぬのか? わし一人に任せ切りにするな」
    「ああ、悪い悪い。でも風が強くってさ、俺の持ってる銃じゃまともに弾、飛ばねーんだ」
    「……屁理屈を」
     スティングレイは小さく鼻を鳴らし、バリーの方に向き直った。
    「わしは老体だからな。いい加減、こんな寒い中を浮いているのにも飽きた。さっさと仕事を終えさせてもらおう」
     スティングレイは体中の鎖をすべて外して着地し、バリーに向かって投げつけた。

    「……っ」
     バリーは目を見開き、腕を交差させて防御姿勢を取る。バチバチと、バリーの体中に鎖と分銅がぶつかり、みるみるうちに青アザが広がっていく。
    「ぐ、く……」
    (な、何とかしなきゃ! でもどうしたら……)
     ミラはきょろきょろと辺りを見回しながら、対抗する方法は無いか考える。
    (アタシにできるコトは、水の術と、土の術と、癒しの術くらいですよぅ。その中から、使えそうなのって……)
     だが、見渡しても視界に入るのは、バリーの傷つく姿と、氷原ばかりである。
    (氷が無ければ、海水を水の術で槍にできるんですけどぉ……。土の術も、相手さんの方が強くて、干渉できないですしぃ……。
     ああもう、どうすればいいんですかぁ~)
     と、ミラはスティングレイの鎖が、先程から火花を立てていることに気が付いた。
    (火花……。と言うコトはぁ、ちょっとずつ、ちょっとずつあの鎖、削れてるんですよねぇ? 削れた欠片は、ドコに?
     ……足元、ですよねぇ? あの人の)
     ある作戦を思いついたミラは、そっと土の術を唱える。
    「『グレイブファング』」
    「気が狂ったか、娘」
     ミラの行動に気付いたスティングレイが、馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
    「ここは氷の上ぞ? 土などどこにあると言うのだ」
    「土の術はぁ、土じゃなくてぇ、厳密には鉱物とか、金属とかを操る術ですぅ」
    「わしに魔術講義か? そんなことは百も承知だ」
    「……ですからぁ」
     突然、スティングレイの足元の氷にヒビが入った。
    「ぬおっ!?」
    「鎖が削れてできた鉄粉もぉ、操れるんですよぅ。それを小さい針にしてぇ、ヒビを入れるくらいのコトはできると思ったんですぅ」
    「うお、お、おおおっ……」
     ヒビの入った氷はあっと言う間に割れ、スティングレイを極寒の海に引きずり込んだ。
    「……やべっ」
     今だ風は強いままである。対抗手段の無いルドルフは慌てた様子で、その場から逃げ出していった。
    「ま、待て!」「いいですバリー、追わなくて!」
     追おうとしたバリーを、ミラが止めた。
    「それよりもぉ、手当ての方が先ですよぅ。それに作戦も随分、中断してしまいましたぁ。急がないと夜明けまでに間に合いませんよぅ」
    「……そう、だな」
     ミラたちは倒れたままの赤毛と、海に沈んだスティングレイを放って、持ち場へと戻っていった。

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    2016.12.11 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    ファンタジーと言うか、環境利用と言うか……。
    ともかくこれは、悩んだ末に出た妙案でした。

    NoTitle 

    磁石も土ですね。
    そういう発想がない貧困なのが私なんですよね。
    (/ω\)
    改めてファンタジーの深さを知る作品だと思います。
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