「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・晴海録 6
晴奈の話、第564話。
魔獣の呪。
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6.
「で、まーたお前は負けて戻ってきたのか。連れて行った傭兵にも裏切られて」
「……面目ありません」
ブルー島、救護所。
包帯でぐるぐる巻きにされ、横になっていたハインツの前に、フーが呆れ顔で立っていた。
「つくづく運がねーな、お前。腕はいいのになぁ」
「……うう」
「ま、じっくり休んで傷、治しといてくれや。何だかんだ言っても、お前は俺に付いてきてくれるしな。頼りにしてるんだぜ、これでも」
「ありがたき、幸せです……」
ハインツを元気付けた後も、フーは救護所を回って兵士たちに声をかけ続ける。その間にも、フーはドールに現状を確認していた。
「戦況はどうなってるんだ?」
「良くないわね。北端はさっき伝えた通り。南端も、ルドルフ君と兵士数人だけで、ボロッボロになって逃げ帰ってきたわ。
リロイを狙った『前鬼後鬼』とノーラは戻ってこないし、コッチが送った刺客は全滅でしょーね。
今は残ってる兵士を集めて、正面突破に切り替えてる最中よ」
「そっか。……参ったなぁ。奇襲作戦、うまく行くかと思ったんだけど」
「ええ。まさか『銀旋風』が裏切り、凄腕の『スティングレイ』もやられるなんてねぇ。この分じゃ、ノーラたちもやられちゃったかも」
「うーん……」
救護所を一通り回ったフーは自室に戻り、頭を抱えてうなる。
「正面突破が成功する可能性はどれくらいだ?」
「五分五分ってトコね。相手側が考えてる砕氷作戦のリミットは、日の出と海水温度の上昇を考えれば後、2時間半くらいでしょうね。それまでに港を制圧できれば、アタシたちの勝ちなんだけどね」
「2時間半か。皆の疲労を考えれば、厳しいところだな」
「どうする、ヒノカミ君?」
「……そうだな。その2時間半を、俺たちとしてもリミットとしよう。それまでに制圧の目処が立たなけりゃ、撤退しよう」
「ん、伝えとくわ」
ドールはうなずき、トテトテとした足取りでフーの部屋を離れた。
一人になったフーは机に突っ伏し、悪態をついた。
「……くそっ。やっちまったか」
頭を抱えてうなるが、失敗したことは取り消せない。
(どうすっかな……。うまく行けばそのまんま攻めてくだけだけど、負けたらかなりきついな。兵士の皆も、大きく士気を落とす。それを引き上げ直して再度戦いに行かせるってのがもう、至難の業だ。
そもそもこの戦争、負けたら大損、勝ってもうまみは少ない。そう言う戦争なんだよな。何でこんなこと、しなきゃいけねーんだ? つくづくロクなことしやがらねーな、アランは)
重たいため息をつき、フーは顔を挙げた。
「……っ」
いつの間にか目の前には、そのろくでもない男――アランが立っていた。
「フー。戦況は思わしくないようだな」
「ああ。……だから何だ? 『責任とって王様辞めろ』とか言うつもりか? だったら大歓迎だけどな」
「そんなことを言うものか。お前は純然たる王なのだ。地位として王にあるのではない」
「知るか。……で、何の用だ?」
フーの問いに、アランは懐から金属板を取り出して答えた。
「これをある傭兵に取り付けた」
「何だそれ?」
「人間を魔獣にする代物だ」
「……は?」
言っている意味が分からず、フーは聞き返す。
「人間を、魔獣に? 何言ってんだ?」
「そのままの意味だ。今頃、一匹のモンスターが戦場に現れている頃だろう」
「……モンスターに、か。元に戻せるのか?」
「いいや」
アランは何を言っているのか、と言いたげな様子で答える。
「一度モンスターになってしまえば、そのままだ。本能の赴くまま、破壊の限りを尽くすだろう」
「……それを、お前がやったってのか」
フーの頭に、ドクドクと血が昇ってくる。
「人間をモンスターにして、けしかけたってのか」
「そうだ。今頃は、絶大な効果を……」「ふざけんなあああッ!」
フーは怒りに任せ、アランを殴り飛ばした。
「何考えてんだ!? 兵士を前後見境の無い化物にして、特攻させたってのか!?」
「……そうだ。効果はあるのだぞ。何を怒る?」
「これが怒らずにいられるかッ! てめえ、自分が何をやったか分かってんのかッ!?」
「ど、どうしたのヒノカミ君!?」
フーの剣幕に驚いたドールが、部屋に入ってくる。
「こいつが、兵士をモンスターに変えて戦場に送ったって言ったんだ!」
「……マジ?」
これを聞いて、ドールの顔色が変わる。
「たった今、正体不明のモンスターが南端に現れて、敵味方構わず襲ってるって連絡、入ってきたのよ。何ソレって思ってたんだけど、……本当、なのね」
「ほら見ろ、アラン! 何が絶大な効果だ! 味方まで殺してるって言ってるんだぞ!」
「それがどうした? すべては作戦成功のためだ。多少の犠牲など、戦争には付き物だろう?」
「……何が作戦だッ」
フーは再度アランを蹴り倒し、部屋を出た。
「作戦は中止だ! 今すぐ、モンスター討伐に切り替えろ!」
「えっ? えっ?」
「そんな敵味方構わず皆殺しにするようなモノ使ってまで、成功させる意義のある作戦なんてあるわけねえッ! やめだ、やめ! それよりもケジメをつける!
こんなことが皆に知れ渡ってみろ――俺は王様どころか、世界最大の罪人だ!」
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「で、まーたお前は負けて戻ってきたのか。連れて行った傭兵にも裏切られて」
「……面目ありません」
ブルー島、救護所。
包帯でぐるぐる巻きにされ、横になっていたハインツの前に、フーが呆れ顔で立っていた。
「つくづく運がねーな、お前。腕はいいのになぁ」
「……うう」
「ま、じっくり休んで傷、治しといてくれや。何だかんだ言っても、お前は俺に付いてきてくれるしな。頼りにしてるんだぜ、これでも」
「ありがたき、幸せです……」
ハインツを元気付けた後も、フーは救護所を回って兵士たちに声をかけ続ける。その間にも、フーはドールに現状を確認していた。
「戦況はどうなってるんだ?」
「良くないわね。北端はさっき伝えた通り。南端も、ルドルフ君と兵士数人だけで、ボロッボロになって逃げ帰ってきたわ。
リロイを狙った『前鬼後鬼』とノーラは戻ってこないし、コッチが送った刺客は全滅でしょーね。
今は残ってる兵士を集めて、正面突破に切り替えてる最中よ」
「そっか。……参ったなぁ。奇襲作戦、うまく行くかと思ったんだけど」
「ええ。まさか『銀旋風』が裏切り、凄腕の『スティングレイ』もやられるなんてねぇ。この分じゃ、ノーラたちもやられちゃったかも」
「うーん……」
救護所を一通り回ったフーは自室に戻り、頭を抱えてうなる。
「正面突破が成功する可能性はどれくらいだ?」
「五分五分ってトコね。相手側が考えてる砕氷作戦のリミットは、日の出と海水温度の上昇を考えれば後、2時間半くらいでしょうね。それまでに港を制圧できれば、アタシたちの勝ちなんだけどね」
「2時間半か。皆の疲労を考えれば、厳しいところだな」
「どうする、ヒノカミ君?」
「……そうだな。その2時間半を、俺たちとしてもリミットとしよう。それまでに制圧の目処が立たなけりゃ、撤退しよう」
「ん、伝えとくわ」
ドールはうなずき、トテトテとした足取りでフーの部屋を離れた。
一人になったフーは机に突っ伏し、悪態をついた。
「……くそっ。やっちまったか」
頭を抱えてうなるが、失敗したことは取り消せない。
(どうすっかな……。うまく行けばそのまんま攻めてくだけだけど、負けたらかなりきついな。兵士の皆も、大きく士気を落とす。それを引き上げ直して再度戦いに行かせるってのがもう、至難の業だ。
そもそもこの戦争、負けたら大損、勝ってもうまみは少ない。そう言う戦争なんだよな。何でこんなこと、しなきゃいけねーんだ? つくづくロクなことしやがらねーな、アランは)
重たいため息をつき、フーは顔を挙げた。
「……っ」
いつの間にか目の前には、そのろくでもない男――アランが立っていた。
「フー。戦況は思わしくないようだな」
「ああ。……だから何だ? 『責任とって王様辞めろ』とか言うつもりか? だったら大歓迎だけどな」
「そんなことを言うものか。お前は純然たる王なのだ。地位として王にあるのではない」
「知るか。……で、何の用だ?」
フーの問いに、アランは懐から金属板を取り出して答えた。
「これをある傭兵に取り付けた」
「何だそれ?」
「人間を魔獣にする代物だ」
「……は?」
言っている意味が分からず、フーは聞き返す。
「人間を、魔獣に? 何言ってんだ?」
「そのままの意味だ。今頃、一匹のモンスターが戦場に現れている頃だろう」
「……モンスターに、か。元に戻せるのか?」
「いいや」
アランは何を言っているのか、と言いたげな様子で答える。
「一度モンスターになってしまえば、そのままだ。本能の赴くまま、破壊の限りを尽くすだろう」
「……それを、お前がやったってのか」
フーの頭に、ドクドクと血が昇ってくる。
「人間をモンスターにして、けしかけたってのか」
「そうだ。今頃は、絶大な効果を……」「ふざけんなあああッ!」
フーは怒りに任せ、アランを殴り飛ばした。
「何考えてんだ!? 兵士を前後見境の無い化物にして、特攻させたってのか!?」
「……そうだ。効果はあるのだぞ。何を怒る?」
「これが怒らずにいられるかッ! てめえ、自分が何をやったか分かってんのかッ!?」
「ど、どうしたのヒノカミ君!?」
フーの剣幕に驚いたドールが、部屋に入ってくる。
「こいつが、兵士をモンスターに変えて戦場に送ったって言ったんだ!」
「……マジ?」
これを聞いて、ドールの顔色が変わる。
「たった今、正体不明のモンスターが南端に現れて、敵味方構わず襲ってるって連絡、入ってきたのよ。何ソレって思ってたんだけど、……本当、なのね」
「ほら見ろ、アラン! 何が絶大な効果だ! 味方まで殺してるって言ってるんだぞ!」
「それがどうした? すべては作戦成功のためだ。多少の犠牲など、戦争には付き物だろう?」
「……何が作戦だッ」
フーは再度アランを蹴り倒し、部屋を出た。
「作戦は中止だ! 今すぐ、モンスター討伐に切り替えろ!」
「えっ? えっ?」
「そんな敵味方構わず皆殺しにするようなモノ使ってまで、成功させる意義のある作戦なんてあるわけねえッ! やめだ、やめ! それよりもケジメをつける!
こんなことが皆に知れ渡ってみろ――俺は王様どころか、世界最大の罪人だ!」
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モンスターで駆逐をする。
それは魔王の所業。
だけど、ヒトは魔王じゃない。ヒトである。
そういうことを教えてくれますね。
面白い展開です。
それは魔王の所業。
だけど、ヒトは魔王じゃない。ヒトである。
そういうことを教えてくれますね。
面白い展開です。
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