「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・晴海録 7
晴奈の話、第565話。
総員集合。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
エルスの指示に従い、ゆっくりと茶を飲んでいたリストの元に、血まみれの伝令が駆けつけた。
「た、大変です! モンスターが!」
「モンスター……?」
「現在港南端で暴れており、敵・味方問わず死傷者が多数発生しています!
とても日上軍と交戦を続けられる状態ではなく、敵兵士は既に撤退! 残った自軍で撃退しようと、戦闘が続いています!」
「……何だか良く分かんないけど、ヤバいのね?」
「はい! 私も、攻撃を受けまし……」
と、伝令の口が止まる。
「……っ」
次の瞬間、伝令は大量の血を吐いて倒れた。
その背中には、真っ赤な爪跡が深々と付けられていた。
「怪物だと……!?」
「一体、何が?」
北端でも、この異様な報告は伝えられていた。
「敵は撤退したと言っていたな。周りに潜む気配もなし。……ならばここを離れ、南端に向かっても問題はあるまい」
「ええ。あたしは作戦続行するから、頼んだわよ」
「相分かった。皆の者、向かうぞ!」
晴奈も兵士を引き連れ、南端へと向かった。
「何なんだ、コイツはッ!?」
「ひい、いいっ……」
突如現れた真っ赤な怪物によって、港南端は修羅場と化していた。
「……ウ……アア……」
最初は辛うじて人間らしい形を残していた怪物だったが、時間が経つにつれてより獣らしい形状を帯び、その爪と牙で次々に兵士たちを惨殺していく。
「わ、わああーッ……」
「ひっ、ひ、っ、……」
ある者は体を二つに裂かれ、ある者は首から上が弾け飛び、またある者は腹を割かれ、見るも無残な姿に変えられていく。
対人戦闘に慣れた兵士たちも、この地獄絵図には呆然としていた。
「……逃げろ! 逃げるんだ!」
「しかし敵が……」
「どこにいるって言うんだ! もうあいつらも逃げた! 俺たちも……」「ダメですぅ!」
及び腰になる兵士たちを、バリーの手当てをしていたミラが一喝した。
「あの赤い怪物、このまま放っておいたら港に来ちゃいますぅ!
アタシたちがぁ、ココで止めなくてどうするんですかぁ!? グリーンプールの皆、殺されちゃいますよぅ!?」
「……そ、そうだっ」
「逃げてどうする……!」
「だ、だけど」
「どうやって倒せば……!?」
兵士たちは逃げるのをやめたが、打つ手が無く遠巻きに囲むことしかできない。
と、怪物が両手を挙げ、ぼそっとつぶやいた。
「……ウ……ウア……『ハルバード……ウイング』……」
極太の風の槍が、兵士たちに向かって飛んで行く。
「ぐはあ……ッ」
「ごばッ……」
離れていた兵士たちも、真っ赤な肉塊に変わっていく。
「ひい、ひいい……」
「だ、ダメだ……勝てない……」
兵士たちの顔に、絶望の気配が色濃く漂った。
その時だった。
「……ア……ウッ……?」
怪物のこめかみから、ほんのわずかだが血しぶきが弾けた。
「……えっ?」
きょとんとする兵士たちの目に、体中のあちこちから血しぶきを漏らす怪物の姿が映る。
「……銃撃?」
「まさか、こんな強風の中で……」
「……いや、あの人なら」
兵士たちは一斉に、港の方に顔を向ける。そこには皆の期待通りの人間が、膝立ちで銃を構えていた。
「アンタら、動くんじゃないわよ! 当たっても知らないわよ!?」
「チェ……」「チェスター指揮官!」
リストは怪物に向かって、立て続けに「ポプラ」の引き金を絞る。ルドルフが「撃てない」と諦めた強風の中、銃弾は見事に怪物の体へと飛んで行った。
「おお……」
「当たってる……!」
「……すっげ」
この攻勢に、兵士たちも戦う気力を取り戻す。
「援護するんだ!」
「チェスター指揮官を守れ!」
兵士たちは武器を怪物に向けたままそっと後退し、リストの周囲に集まる。
「お守りします!」
「……ありがと!」
リストはそれに応えるように、さらに弾を放った。
そして氷海の向こう側からも、バタバタと兵士がやってきた。
「チッ……、また来やがった」
「……あれ?」
「でも、モンスターの方に向かってないか?」
「みたい、だな……?」
迫ってくる敵兵の先頭には、フーの姿があった。
「それ以上港に迫るんじゃねえッ! この俺が相手になってやる!」
これを見て、同盟軍はどよめく。
「……え」
「あれって、ヒノカミ元中佐じゃ」
「敵の総大将自らって、どう言うことなの……」
唖然とする兵士たちに構わず、フーは「バニッシャー」を振り上げて怪物に襲い掛かった。
「うりゃあッ!」
「……ア……ギッ……」
剣は怪物の胸に突き刺さり、真っ赤な血が噴き出す。
「やった、か……!?」
「……いや、まだだ!」
それでも怪物は止まらず、腕を振り上げる。
「うぐ……ッ」
フーはその腕になぎ倒され、氷原を滑る。
「あのヒノカミがぶっ飛ばされた……」
「やばいって、やっぱり」
一方、リストの方も――。
「……くっ」
「ポプラ」の銃身は真っ赤に灼け、チリチリと音を発している。これ以上弾を撃てば、暴発しかねない状態だった。
だが、それでも怪物は倒れない。状況は一向に好転せず、絶望的な空気を誰も拭えない。
「……あっ!」
と、北の方からも兵士たちと、それを率いる晴奈がやって来た。
「コウ指揮官だ!」
「すまぬ! 待たせたな、お主ら! 私が相手をするッ!」
晴奈は駆け出し、怪物の前に躍り出た。
「そこの怪物! この黄晴奈が相手だッ!」
と、怪物の体がビクッと揺れる。
「……セイナ……サン……」
「……何?
……! その顔……、まさか」
怪物の、まだ辛うじて人間の名残を残す顔を見て、晴奈はゴクリと息を呑んだ。
「……雨宮、か?」
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エルスの指示に従い、ゆっくりと茶を飲んでいたリストの元に、血まみれの伝令が駆けつけた。
「た、大変です! モンスターが!」
「モンスター……?」
「現在港南端で暴れており、敵・味方問わず死傷者が多数発生しています!
とても日上軍と交戦を続けられる状態ではなく、敵兵士は既に撤退! 残った自軍で撃退しようと、戦闘が続いています!」
「……何だか良く分かんないけど、ヤバいのね?」
「はい! 私も、攻撃を受けまし……」
と、伝令の口が止まる。
「……っ」
次の瞬間、伝令は大量の血を吐いて倒れた。
その背中には、真っ赤な爪跡が深々と付けられていた。
「怪物だと……!?」
「一体、何が?」
北端でも、この異様な報告は伝えられていた。
「敵は撤退したと言っていたな。周りに潜む気配もなし。……ならばここを離れ、南端に向かっても問題はあるまい」
「ええ。あたしは作戦続行するから、頼んだわよ」
「相分かった。皆の者、向かうぞ!」
晴奈も兵士を引き連れ、南端へと向かった。
「何なんだ、コイツはッ!?」
「ひい、いいっ……」
突如現れた真っ赤な怪物によって、港南端は修羅場と化していた。
「……ウ……アア……」
最初は辛うじて人間らしい形を残していた怪物だったが、時間が経つにつれてより獣らしい形状を帯び、その爪と牙で次々に兵士たちを惨殺していく。
「わ、わああーッ……」
「ひっ、ひ、っ、……」
ある者は体を二つに裂かれ、ある者は首から上が弾け飛び、またある者は腹を割かれ、見るも無残な姿に変えられていく。
対人戦闘に慣れた兵士たちも、この地獄絵図には呆然としていた。
「……逃げろ! 逃げるんだ!」
「しかし敵が……」
「どこにいるって言うんだ! もうあいつらも逃げた! 俺たちも……」「ダメですぅ!」
及び腰になる兵士たちを、バリーの手当てをしていたミラが一喝した。
「あの赤い怪物、このまま放っておいたら港に来ちゃいますぅ!
アタシたちがぁ、ココで止めなくてどうするんですかぁ!? グリーンプールの皆、殺されちゃいますよぅ!?」
「……そ、そうだっ」
「逃げてどうする……!」
「だ、だけど」
「どうやって倒せば……!?」
兵士たちは逃げるのをやめたが、打つ手が無く遠巻きに囲むことしかできない。
と、怪物が両手を挙げ、ぼそっとつぶやいた。
「……ウ……ウア……『ハルバード……ウイング』……」
極太の風の槍が、兵士たちに向かって飛んで行く。
「ぐはあ……ッ」
「ごばッ……」
離れていた兵士たちも、真っ赤な肉塊に変わっていく。
「ひい、ひいい……」
「だ、ダメだ……勝てない……」
兵士たちの顔に、絶望の気配が色濃く漂った。
その時だった。
「……ア……ウッ……?」
怪物のこめかみから、ほんのわずかだが血しぶきが弾けた。
「……えっ?」
きょとんとする兵士たちの目に、体中のあちこちから血しぶきを漏らす怪物の姿が映る。
「……銃撃?」
「まさか、こんな強風の中で……」
「……いや、あの人なら」
兵士たちは一斉に、港の方に顔を向ける。そこには皆の期待通りの人間が、膝立ちで銃を構えていた。
「アンタら、動くんじゃないわよ! 当たっても知らないわよ!?」
「チェ……」「チェスター指揮官!」
リストは怪物に向かって、立て続けに「ポプラ」の引き金を絞る。ルドルフが「撃てない」と諦めた強風の中、銃弾は見事に怪物の体へと飛んで行った。
「おお……」
「当たってる……!」
「……すっげ」
この攻勢に、兵士たちも戦う気力を取り戻す。
「援護するんだ!」
「チェスター指揮官を守れ!」
兵士たちは武器を怪物に向けたままそっと後退し、リストの周囲に集まる。
「お守りします!」
「……ありがと!」
リストはそれに応えるように、さらに弾を放った。
そして氷海の向こう側からも、バタバタと兵士がやってきた。
「チッ……、また来やがった」
「……あれ?」
「でも、モンスターの方に向かってないか?」
「みたい、だな……?」
迫ってくる敵兵の先頭には、フーの姿があった。
「それ以上港に迫るんじゃねえッ! この俺が相手になってやる!」
これを見て、同盟軍はどよめく。
「……え」
「あれって、ヒノカミ元中佐じゃ」
「敵の総大将自らって、どう言うことなの……」
唖然とする兵士たちに構わず、フーは「バニッシャー」を振り上げて怪物に襲い掛かった。
「うりゃあッ!」
「……ア……ギッ……」
剣は怪物の胸に突き刺さり、真っ赤な血が噴き出す。
「やった、か……!?」
「……いや、まだだ!」
それでも怪物は止まらず、腕を振り上げる。
「うぐ……ッ」
フーはその腕になぎ倒され、氷原を滑る。
「あのヒノカミがぶっ飛ばされた……」
「やばいって、やっぱり」
一方、リストの方も――。
「……くっ」
「ポプラ」の銃身は真っ赤に灼け、チリチリと音を発している。これ以上弾を撃てば、暴発しかねない状態だった。
だが、それでも怪物は倒れない。状況は一向に好転せず、絶望的な空気を誰も拭えない。
「……あっ!」
と、北の方からも兵士たちと、それを率いる晴奈がやって来た。
「コウ指揮官だ!」
「すまぬ! 待たせたな、お主ら! 私が相手をするッ!」
晴奈は駆け出し、怪物の前に躍り出た。
「そこの怪物! この黄晴奈が相手だッ!」
と、怪物の体がビクッと揺れる。
「……セイナ……サン……」
「……何?
……! その顔……、まさか」
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