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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第9部

    蒼天剣・晴海録 8

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    晴奈の話、第566話。
    晴奈の一分。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    8.
     晴奈は確かに、その顔に見覚えがあった。

     央北を旅し、殺刹峰を探していた頃。
    ――ファンだから――
     その青年は、敵として晴奈の前に現れた。
    ――一目見た時から、いえ、あなたの伝説を聞いた時から、ずっとずっと好きでした!――
     半ば偏執的に、その青年は晴奈に告白してきた。
    ――始めまして、コウさん。僕の名前はレンマ・『マゼンタ』・アメミヤと言います――
     しかし結局、その想いに晴奈が応えることは無く、彼はそのまま投獄された。



    「……何故貴様が……」
    「……ウ……ウウ……セイナ……サン……」
     怪物となったレンマは、ヨタヨタとした足取りで晴奈に近付いてくる。
    「……」
    「……ウー……アー……」
     その醜い姿に、晴奈はめまいを覚える。
    (一体何故、奴がここにいる? そして何故、怪物と成り果てた? 何もかもが分からぬ)
     と、晴奈の横に、弾き飛ばされていたフーが戻ってきた。
    「コウ、コイツを知ってるのか?」
    「……ああ。人間だった頃の、奴はな」
    「そうか。……聞いてくれ」
     フーは小声で、晴奈に真相を告げた。
    「俺の側近のアランが、アイツをモンスターにしちまったんだ」
    「何……?」
    「アランは滅茶苦茶だ……! 味方をムチャクチャにして、敵を、……いいや、かつて俺の同僚だった奴らを皆殺しにすることを、征服することだと、王としてやるべきことだと言ってやがるんだ」
     フーは悔しそうな表情を浮かべ、晴奈に頼み込んだ。
    「これは俺の責任だ。俺に、討たせてくれ」
    「それは、……呑めぬ」
     晴奈も、小声で返す。
    「彼奴は私に討たれたがっている。そう……、感じるのだ」
    「え……?」
    「今こうして対峙している間、奴は己の体を抑え、目で訴えかけてきていた――自分を、殺してくれと」
    「……分かった」
     フーは一歩、後ろに退く。
    「すまない、コウ。よろしく頼んだ」
    「ありがとう」
     晴奈は刀を抜き、レンマに近付いた。
    「雨宮。私が……、相手、だ」
    「……ウ……ン……」
     レンマはすっと、両手を挙げる。
    「『火刃』」
     晴奈の刀に、炎が灯る。
    「……行くぞ!」

     恐らく、レンマの自我は既に消えかかっていたのだろう。戦い始めてから、二度と晴奈の名を呼ぶことは無かった。
    「グ、アアアアッ!」
     両腕を千切れんばかりに振り回し、晴奈に襲い掛かる。晴奈はそれをかいくぐり、「燃える刀」で袈裟切りにする。
    「アアア、……ガアッ!」
     だが、一太刀、二太刀程度では倒れない。依然力一杯に、腕を振り回す。
    「……りゃああッ!」
     晴奈も紙一重、紙一重で攻撃をかわし、懸命に斬り付けていく。両者の戦いを、周囲の全軍は固唾を呑んで見守っていた。
     と、フーは率いてきた軍に、静かに号令をかける。
    「……スタリー島に戻るぞ」
     戻っていくフーに、兵士たちは従う。
    「……アラン……」
     帰途に着いたフーは側近の名を、憎々しげにつぶやいた。
    「絶対許さねえ……! 今度と言う今度は、アイツに愛想が尽きた」
     横に並んで歩いていたドールは、不安げな表情でフーの顔を見ていた。

     そして、日の差し始めた頃。
    「ふっ……ふっ……」
     レンマの攻撃を何度も避け、流石の晴奈も顔や腕に、うっすらと爪痕が付き始めている。だがレンマの方はそれ以上のダメージを受けており、その体中に幾筋もの刀傷・火傷が深々と付けられている。
     後一太刀、二太刀で決着が付こうかと言う状態になり、晴奈はレンマに向かって叫んだ。
    「……雨宮! これで仕舞いだッ!」
     晴奈は「蒼天」に、あらん限りの気を込める。
    「『炎剣舞』ッ!」
     レンマの周囲が、真っ赤に燃え上がる。その炎は足元の氷を溶かし、やがて完全に液化させる。
    「グ……ウア……アア……アー……」
     レンマはそのまま、海中に沈んでいった。
    「……さらばだ、雨宮」
     晴奈はレンマが沈んでいった海に背を向け、刀を納めた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    「蒼天剣」屈指の鬱シーンです。
    晴奈にとってはこれ以上ないくらいのショックでしょう。

    NoTitle 

    ううぬ。面白い。知人がモンスターになるところというのも。。。そして、それを斬る。。。。悲しいし、泣けます。(ノД`)・゜・。
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