「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・晴海録 11
晴奈の話、第569話。
王と参謀の決裂。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
11.
「ヘブン」のトモエ作戦は、失敗に終わった。
かつて巴景が実証したように、凍った海の上を歩き、北方大陸に到達することは確かに可能だった。
しかし、その重厚長大な氷を割ると言う、想定外の上に想定外を重ねた奇策により、ついに日上軍は北方の港を制圧することはできなかった。
これにより、スタリー島に駐留する日上軍の士気は、大きく下がっていた。
中でも、最もやる気を失ったのは――。
「アラン。お前にはもう、うんざりだ」
フーはアランを自室に呼びつけ、今回の凶行を糾弾していた。
「お前には人間は、ただの家畜くらいにしか見えてないみたいだな」
「……」
「皆殺しにしてもいい。自分のための糧。どうなろうと知ったこっちゃ無い。そう思ってることが、今回の戦いでハッキリした。
もうお前とは、縁を切る」
「ほう?」
怒りに燃え上がるフーに対し、アランは冷静な口調で返す。
「私と縁を切って、どうしようと言うのだ?」
「決まってる。鎖国状態を解き、断絶した各国との関係を回復するんだ。お前抜きでな。
それから反乱や戦争で荒廃した『ヘブン』を復興させる。お前抜きでな。
そしてその先のことは全部、俺が主導で行う。お前、抜きで、な」
「三度も言わずとも聞こえている」
「なら理解したよな。出てけ」
部屋の戸を指差したフーに対し、アランは微動だにしない。
「……聞こえてるんだろ?」
「ああ」
「出てけ」
「……」
「出てけって言ったろ?」
「……」
「出てけッ! 今、すぐにだッ!」
フーはアランの胸倉をつかみ、体をゆする。
「これ以上お前が関わると、何もかも滅茶苦茶になっちまうんだよ! 人は死ぬ、国は傾く、誰も彼も不幸になるッ!
もうお前に付き合ってなんかいられねーんだよ、この疫病神がッ!」
フーはアランの顔のすぐ前で叫んだが、アランに反応は無かった。
「……っ」
フーはアランの胸倉から手を離し、背を向けた。
「出てけよ、もう……!」
「いいのか?」
と、アランが立ち上がる。
「これから私が行うことを聞かずして、放逐していいのか?」
アランのその一言に、熱くなっていたフーの頭は一転、冷水をかけられたように凍りついた。
「……何をする気だ?」
振り向いたフーの目に、レンマをモンスターに変えた金属板をアランが抱えている姿が映る。
「……まさか、てめえ」
「お前が私を放逐するならば、今から私は単身グリーンプールに向かい、これを住民や兵士に使う。ここには6枚の魔法陣がある。
6体のモンスターが、敵陣を闊歩するのだ。効果的だろう?」
「……気ぃ狂ってんのか、アラン。俺の軍から放逐された後で、何故そんなことをする?」
「私はお前を王にするために存在する。であれば、お前の敵となる存在を消すことが、私にとって最優先事項だ」
「俺が、お前と縁を切っても、か」
「そうだ」
フーはこの返事に、とてつもないめまいを感じた。
(ダメだ、コイツは……! 悪魔だ、どこまでも……ッ!
俺が本当に、世界を支配する王になるまで、どこまでもコイツはついてくる。それこそ、命すらかけて。
放逐しても離れない。殺しても死なない。一体俺は、どうすればコイツから離れられるんだ……!?)
「フー」
アランが声をかける。
「もっと効果的な方法が、ウインドフォートに納められている。こんなちっぽけな魔法陣よりも、もっと効果のあるものがな」
「……あ?」
「今はまだ、氷に阻まれている。年が明け、小舟で上陸できるようになった頃に、ウインドフォートに向かい、それを発動させよう」
「……ノーと言ったら?」
「先程提示した作戦を開始する」
「……つまり、無闇にモンスターを暴れさせたくなかったら、大人しくお前に従え、と? 脅迫だな、まるで」
「脅迫? 私がお前を?」
そのまま、フーとアランは無言で向かい合う。
「……行け、ってことだな」
「私としては、それが望ましい」
「分かった」
フーはアランに背を向けたまま、ギリギリと歯軋りを立てた。
(くそっ……! くそっ……! くそっ……!
どうにかできないのかよ……っ! こいつをこのまんま、放っておいたら……! 世界がおかしくなっちまう……!
誰か、どうにかしてくれ……っ!)
フーは心の中で、悲痛な叫びを上げていた。
蒼天剣・晴海録 終
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王と参謀の決裂。
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「ヘブン」のトモエ作戦は、失敗に終わった。
かつて巴景が実証したように、凍った海の上を歩き、北方大陸に到達することは確かに可能だった。
しかし、その重厚長大な氷を割ると言う、想定外の上に想定外を重ねた奇策により、ついに日上軍は北方の港を制圧することはできなかった。
これにより、スタリー島に駐留する日上軍の士気は、大きく下がっていた。
中でも、最もやる気を失ったのは――。
「アラン。お前にはもう、うんざりだ」
フーはアランを自室に呼びつけ、今回の凶行を糾弾していた。
「お前には人間は、ただの家畜くらいにしか見えてないみたいだな」
「……」
「皆殺しにしてもいい。自分のための糧。どうなろうと知ったこっちゃ無い。そう思ってることが、今回の戦いでハッキリした。
もうお前とは、縁を切る」
「ほう?」
怒りに燃え上がるフーに対し、アランは冷静な口調で返す。
「私と縁を切って、どうしようと言うのだ?」
「決まってる。鎖国状態を解き、断絶した各国との関係を回復するんだ。お前抜きでな。
それから反乱や戦争で荒廃した『ヘブン』を復興させる。お前抜きでな。
そしてその先のことは全部、俺が主導で行う。お前、抜きで、な」
「三度も言わずとも聞こえている」
「なら理解したよな。出てけ」
部屋の戸を指差したフーに対し、アランは微動だにしない。
「……聞こえてるんだろ?」
「ああ」
「出てけ」
「……」
「出てけって言ったろ?」
「……」
「出てけッ! 今、すぐにだッ!」
フーはアランの胸倉をつかみ、体をゆする。
「これ以上お前が関わると、何もかも滅茶苦茶になっちまうんだよ! 人は死ぬ、国は傾く、誰も彼も不幸になるッ!
もうお前に付き合ってなんかいられねーんだよ、この疫病神がッ!」
フーはアランの顔のすぐ前で叫んだが、アランに反応は無かった。
「……っ」
フーはアランの胸倉から手を離し、背を向けた。
「出てけよ、もう……!」
「いいのか?」
と、アランが立ち上がる。
「これから私が行うことを聞かずして、放逐していいのか?」
アランのその一言に、熱くなっていたフーの頭は一転、冷水をかけられたように凍りついた。
「……何をする気だ?」
振り向いたフーの目に、レンマをモンスターに変えた金属板をアランが抱えている姿が映る。
「……まさか、てめえ」
「お前が私を放逐するならば、今から私は単身グリーンプールに向かい、これを住民や兵士に使う。ここには6枚の魔法陣がある。
6体のモンスターが、敵陣を闊歩するのだ。効果的だろう?」
「……気ぃ狂ってんのか、アラン。俺の軍から放逐された後で、何故そんなことをする?」
「私はお前を王にするために存在する。であれば、お前の敵となる存在を消すことが、私にとって最優先事項だ」
「俺が、お前と縁を切っても、か」
「そうだ」
フーはこの返事に、とてつもないめまいを感じた。
(ダメだ、コイツは……! 悪魔だ、どこまでも……ッ!
俺が本当に、世界を支配する王になるまで、どこまでもコイツはついてくる。それこそ、命すらかけて。
放逐しても離れない。殺しても死なない。一体俺は、どうすればコイツから離れられるんだ……!?)
「フー」
アランが声をかける。
「もっと効果的な方法が、ウインドフォートに納められている。こんなちっぽけな魔法陣よりも、もっと効果のあるものがな」
「……あ?」
「今はまだ、氷に阻まれている。年が明け、小舟で上陸できるようになった頃に、ウインドフォートに向かい、それを発動させよう」
「……ノーと言ったら?」
「先程提示した作戦を開始する」
「……つまり、無闇にモンスターを暴れさせたくなかったら、大人しくお前に従え、と? 脅迫だな、まるで」
「脅迫? 私がお前を?」
そのまま、フーとアランは無言で向かい合う。
「……行け、ってことだな」
「私としては、それが望ましい」
「分かった」
フーはアランに背を向けたまま、ギリギリと歯軋りを立てた。
(くそっ……! くそっ……! くそっ……!
どうにかできないのかよ……っ! こいつをこのまんま、放っておいたら……! 世界がおかしくなっちまう……!
誰か、どうにかしてくれ……っ!)
フーは心の中で、悲痛な叫びを上げていた。
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2016.12.11 修正
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修羅の道をいくのか。
それが戦争。フーもセイナも苦境というか。
それでも進み続けなければいけない業がある。
・・・辛いですね。
( 一一)
それが戦争。フーもセイナも苦境というか。
それでも進み続けなければいけない業がある。
・・・辛いですね。
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続く限り、無限にモノを失い、消費し続ける行為です。
この戦争において何より辛いのは、
それが分かっていながら、止められないこと。
フーにとっては地獄以外の何物でもないでしょう。