「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第9部
蒼天剣・獄下録 2
晴奈の話、第571話。
両女傑、向かう。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
トマスが扉を開けると、慌てた様子の兵士数名と、信じられないと言いたげな顔をした小鈴、苦笑しているエルスの姿がそこにあった。
「お休み中、大変失礼いたします!」
「いいよ、休み中声をかけられるのには慣れてる。で、どうしたの?」
「沿岸部、ウインドフォートが襲撃を受け、ヒノカミ元中佐と思われる人物が侵入した模様です!」
「襲撃? ……おまけにフーが侵入? ……まだ、氷は割れてないはずだよね」
「はい、辛うじてグリーンプール―央南航路は巡航を再開したばかりですが、『ヘブン』から向かえる航路は依然、凍結中です。しかしウインドフォート郊外の岸に小型舟艇があったことから、恐らく少数で氷海を迂回し、襲撃したものと思われます」
「……意味が分からない。何故今になって、自分たちが捨てた拠点に? しかも小型舟艇だといいとこ、12、3名くらいしか上陸できないし、何でそんなことを……?」
「まったくもって不明、だねぇ」
エルスは肩をすくめ、苦々しく笑う。
「とにかく向かうから、セイナを呼んできてくれ。もし本当にフーが来ていたのなら、決着させられるかも知れないからね」
「分かった。呼んでくるよ」
トマスは居間に戻り、晴奈に声をかけた。
「セイナ。今……」「ああ、聞こえていた」
晴奈はすっと立ち上がり、小さくため息をついた。
「……これが最後の戦いになればいいんだが」
「そうあってほしいね。……まあ、いくらなんでも敵の総大将が単身渡るなんて、まず有り得ない話なんだけど」
「そうだな。……トマス」
晴奈は真面目な顔になり、トマスに尋ねた。
「さっき、何を言おうとしていた?」
「へ?」
「私が先生になりたいと言った、その矢先。『協力させてほしい』と、言わなかったか」
「……あ、うん。でも今、そんな話」
「いいから教えてくれ、その先に何を言おうとしていたのか」
「……僕もさ、央南に住むことにした。リロイみたいに。だからさ、君とはずっと一緒にいられる。君が央南で道場を開くなら、僕はそれを、ずっと手助けできるよ。
だからさ、だから……、ずっと、一緒にいたいんだ。戦争が終わっても、央南に戻っても、ずっと」
「それは、……求婚と、受け取っていいのか」
晴奈は自分で、自分の顔が赤くなっているのが分かった。恥ずかしさで逃げ出しそうだったが、懸命にこらえてトマスの顔を伺う。
トマスも、先程にも増して真っ赤な顔をしていた。
「……うん。きゅ、求婚だ」
「そうか。……なら、……じゃあ」
晴奈はトマスに歩み寄り、彼の体をぎゅっと抱きしめる。
「……その」
晴奈はトマスの肩に首を乗せ、つぶやいた。
「帰ってきたら、ちゃんと、言葉で返事する。だから待っていてくれよ、トマス」
「……もちろんさ。必ず帰ってきてくれよ」
晴奈には直感があった。
このウインドフォートでの戦いが、自分にとって最後の戦いになると。
即ち――アラン、そして巴景との戦いに、決着が付けられると確信していたのだ。
同日、昼。
「やっぱり、寒いですね」
「そりゃ、『雪と星の世界』だしね」
巴景と明奈は、グリーンプールに到着していた。
「戦争中のはずですけど、どう見ても平和そのものですね」
「まだ海が凍ってる時期だもの。戦争なんてやってるわけが、……と思ったけれど」
巴景は港に目を向け、フンと鼻を鳴らした。
「やったみたいね」
「えっ?」
「この時期に、港に防衛線が敷かれてるわ。来たのね、日上が。
大方、私がやったことをそのまんま真似したんでしょうね」
「どう言う意味ですか?」
「ま、昔の話だし。
それよりも、晴奈よ。まだ訓練中でしょうから、グリーンプール基地にいるわね、きっと。さっさと行って、決着付けましょ」
そう言って巴景は明奈の手を引き、基地へと向かった。
基地に着くなりすぐ、立番していた兵士が目を丸くした。
「ほ、ホウドウさん!?」
「あら? 私を知ってるの、あなた?」
「え、ええ。昨年までウインドフォートに配属されてたので。てっきり元中佐と海を渡ったものと思ってましたが」
「色々あったのよ」
「そ、そうですか。……それでホウドウさん、どうしてここに?」
「黄晴奈と果たし合いに来たのよ。どこにいるの?」
「コウ指揮官なら、フェルタイルの方に」
「首都に? 訓練中じゃないの?」
「いえ、理由は不明ですが、そちらにいるとのことです」
「ふーん」
それだけ聞いて、巴景は踵を返して立ち去ろうとした。
「あの、ホウドウさんでしたっけ」
と、別の兵士が声をかけてきた。
「何?」
「コウ指揮官ですけど、ウインドフォートの方に招集されたそうですよ。今朝方、軍本部から連絡が入りました」
「へぇ……?」
巴景はその兵士から、フーがウインドフォート砦に侵入したらしいと言う情報を入手した。
「じゃあ、晴奈は日上を討つため、そっちに向かったってことね」
「ええ」
「ありがと。……さ、急ぐわよ明奈。朝連絡が入ったってことは、もう晴奈は到着してるかも知れないし」
「あ、はい」
巴景は明奈の手を引き、ウインドフォートへの街道へと急いだ。
@au_ringさんをフォロー
両女傑、向かう。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
トマスが扉を開けると、慌てた様子の兵士数名と、信じられないと言いたげな顔をした小鈴、苦笑しているエルスの姿がそこにあった。
「お休み中、大変失礼いたします!」
「いいよ、休み中声をかけられるのには慣れてる。で、どうしたの?」
「沿岸部、ウインドフォートが襲撃を受け、ヒノカミ元中佐と思われる人物が侵入した模様です!」
「襲撃? ……おまけにフーが侵入? ……まだ、氷は割れてないはずだよね」
「はい、辛うじてグリーンプール―央南航路は巡航を再開したばかりですが、『ヘブン』から向かえる航路は依然、凍結中です。しかしウインドフォート郊外の岸に小型舟艇があったことから、恐らく少数で氷海を迂回し、襲撃したものと思われます」
「……意味が分からない。何故今になって、自分たちが捨てた拠点に? しかも小型舟艇だといいとこ、12、3名くらいしか上陸できないし、何でそんなことを……?」
「まったくもって不明、だねぇ」
エルスは肩をすくめ、苦々しく笑う。
「とにかく向かうから、セイナを呼んできてくれ。もし本当にフーが来ていたのなら、決着させられるかも知れないからね」
「分かった。呼んでくるよ」
トマスは居間に戻り、晴奈に声をかけた。
「セイナ。今……」「ああ、聞こえていた」
晴奈はすっと立ち上がり、小さくため息をついた。
「……これが最後の戦いになればいいんだが」
「そうあってほしいね。……まあ、いくらなんでも敵の総大将が単身渡るなんて、まず有り得ない話なんだけど」
「そうだな。……トマス」
晴奈は真面目な顔になり、トマスに尋ねた。
「さっき、何を言おうとしていた?」
「へ?」
「私が先生になりたいと言った、その矢先。『協力させてほしい』と、言わなかったか」
「……あ、うん。でも今、そんな話」
「いいから教えてくれ、その先に何を言おうとしていたのか」
「……僕もさ、央南に住むことにした。リロイみたいに。だからさ、君とはずっと一緒にいられる。君が央南で道場を開くなら、僕はそれを、ずっと手助けできるよ。
だからさ、だから……、ずっと、一緒にいたいんだ。戦争が終わっても、央南に戻っても、ずっと」
「それは、……求婚と、受け取っていいのか」
晴奈は自分で、自分の顔が赤くなっているのが分かった。恥ずかしさで逃げ出しそうだったが、懸命にこらえてトマスの顔を伺う。
トマスも、先程にも増して真っ赤な顔をしていた。
「……うん。きゅ、求婚だ」
「そうか。……なら、……じゃあ」
晴奈はトマスに歩み寄り、彼の体をぎゅっと抱きしめる。
「……その」
晴奈はトマスの肩に首を乗せ、つぶやいた。
「帰ってきたら、ちゃんと、言葉で返事する。だから待っていてくれよ、トマス」
「……もちろんさ。必ず帰ってきてくれよ」
晴奈には直感があった。
このウインドフォートでの戦いが、自分にとって最後の戦いになると。
即ち――アラン、そして巴景との戦いに、決着が付けられると確信していたのだ。
同日、昼。
「やっぱり、寒いですね」
「そりゃ、『雪と星の世界』だしね」
巴景と明奈は、グリーンプールに到着していた。
「戦争中のはずですけど、どう見ても平和そのものですね」
「まだ海が凍ってる時期だもの。戦争なんてやってるわけが、……と思ったけれど」
巴景は港に目を向け、フンと鼻を鳴らした。
「やったみたいね」
「えっ?」
「この時期に、港に防衛線が敷かれてるわ。来たのね、日上が。
大方、私がやったことをそのまんま真似したんでしょうね」
「どう言う意味ですか?」
「ま、昔の話だし。
それよりも、晴奈よ。まだ訓練中でしょうから、グリーンプール基地にいるわね、きっと。さっさと行って、決着付けましょ」
そう言って巴景は明奈の手を引き、基地へと向かった。
基地に着くなりすぐ、立番していた兵士が目を丸くした。
「ほ、ホウドウさん!?」
「あら? 私を知ってるの、あなた?」
「え、ええ。昨年までウインドフォートに配属されてたので。てっきり元中佐と海を渡ったものと思ってましたが」
「色々あったのよ」
「そ、そうですか。……それでホウドウさん、どうしてここに?」
「黄晴奈と果たし合いに来たのよ。どこにいるの?」
「コウ指揮官なら、フェルタイルの方に」
「首都に? 訓練中じゃないの?」
「いえ、理由は不明ですが、そちらにいるとのことです」
「ふーん」
それだけ聞いて、巴景は踵を返して立ち去ろうとした。
「あの、ホウドウさんでしたっけ」
と、別の兵士が声をかけてきた。
「何?」
「コウ指揮官ですけど、ウインドフォートの方に招集されたそうですよ。今朝方、軍本部から連絡が入りました」
「へぇ……?」
巴景はその兵士から、フーがウインドフォート砦に侵入したらしいと言う情報を入手した。
「じゃあ、晴奈は日上を討つため、そっちに向かったってことね」
「ええ」
「ありがと。……さ、急ぐわよ明奈。朝連絡が入ったってことは、もう晴奈は到着してるかも知れないし」
「あ、はい」
巴景は明奈の手を引き、ウインドフォートへの街道へと急いだ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2016.12.18 修正
2016.12.18 修正
- 関連記事
-
-
蒼天剣・獄下録 4 2010/06/09
-
蒼天剣・獄下録 3 2010/06/08
-
蒼天剣・獄下録 2 2010/06/07
-
蒼天剣・獄下録 1 2010/06/06
-
蒼天剣・晴海録 11 2010/06/04
-



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
最後の戦いか。。。
それを自分で決めれるのもある意味幸せなのかもしれませんが。
どうなのでしょうね。
現実ではなかなか難しいところもありますよね。
最後の戦いという意味の深みを知ります。
それを自分で決めれるのもある意味幸せなのかもしれませんが。
どうなのでしょうね。
現実ではなかなか難しいところもありますよね。
最後の戦いという意味の深みを知ります。
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
自分が本当に何をやりたかったのか、何になりたかったのかが分かったからでしょう。
それを考えれば、晴奈は幸せなのだと思います。